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第5章 地方大学経営の基盤となる財務戦略

1 資産運用の有用性

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国の主要大学として、立命館大学、関西大学、早稲田大学、明治大学、中央大学の5大学 を選択し、2010 年度の主な収入源の割合および資産運用の運用利回りを図表 5-5 のよう に示している46

図表5-4 米国の主要大学の収入内訳割合

2011年度 学生納付金 補助金 その他 投資収入 運用利回り ペイアウト率 ハーバード大学 19.6% 22.5% 26.3% 31.6% 21.4% 4.3%

スタンフォード大学 12.2% 33.1% 33.9% 20.8% 21.9% 5.9%

エール大学 8.9% 25.0% 30.0% 36.1% 22.4% 5.7%

デューク大学 15.1% 26.2% 40.4% 18.3% 17.3% 4.1%

ノースウエスタン大学 27.5% 27.0% 26.3% 19.1% 24.5% 5.8%

5校平均 15.9% 26.9% 31.3% 25.9% 21.5% 5.2%

(出所)小藤(2013、68頁、70頁)。同稿68頁に記載されている「図表3」より割合のみ抽

出し、同稿70頁の「図表5」に記載されている運用利回りとペイアウト率を付け加えて筆 者作成

図表5-4および図表5-5を比較すると、その収入構造の違いが明らかである。米国の投 資収入の割合は平均で約4分の1となっており、資産運用によって投資収入を得て、大学 経営を行うことが一般的であることがわかる47

このように収入構造が大きく異なる米国とわが国の大学を比較することで、小藤(2013) は、特に学生納付金収入の割合の違いをみると、米国の大学は、わが国の大学と比較して 学生納付金収入に大きく依存しておらず、学生数の一時的な減少が大学経営に及ぼす影響 は限定的である。このことが、米国の大学は卒業することが難しいといわれるような教育 の質の差に影響している可能性があると指摘している48。すなわち、わが国の大学は、学 生の確保がややもすれば最優先事項になりがちであるが、米国の大学は優秀な学生の確保 に注力し、厳しい教育によって質の高い学生を育て、社会に有為な人材として輩出し、社 会的評価の向上につながるといった好循環サイクルとなっているといった可能性があると いえるのではないだろうか。

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図表5-5 わが国の主要大学の収入内訳割合

2010年度 学生納付金 補助金 その他 投資収入 運用利回り 早稲田大学 69.7% 14.4% 14.1% 1.8% 1.0%

立命館大学 79.0% 11.9% 7.7% 1.3% ▲1.2%

明治大学 81.8% 9.5% 7.3% 1.5% 2.9%

関西大学 83.8% 10.0% 7.9% ▲1.7% 1.4%

中央大学 79.7% 10.1% 13.9% ▲3.7% ▲3.2%

5校平均 77.4% 11.7% 10.5% 0.4% 0.4%

(出所)小藤(2013、65頁、70頁)。同稿65頁に記載されている「図表1」より割合のみ抽

出し、同稿67頁の「図表2」に記載されている運用利回りを付け加えて筆者作成

また、補助金収入については、米国の大学は研究成果による競争的資金であり、わが国 の学生数に応じて分配される経常費補助と違った構造となっている49。ただし、近年はわ が国においても経常費補助から競争的資金である特別補助、「スーパーグローバル大学創 成支援」事業や「地(知)の拠点整備事業」といった国策と連動した補助金制度に移行し ている。そして、その他収入についても、日米でその割合に違いがある。米国では、施設 利用収入や出版売上などのさまざまな収入があるという50

図表5-4にある投資収入は、寄付金からなる大学基金の運用で成り立っており、その資 産運用によって収入を得る仕組みになっている。もちろん、2008年に発生したリーマン・

ショックによる金融危機などが起きれば、大きなリスクを伴うものであるが、そもそも大 学基金が寄付で積み立てられた基金であり、一時的に目減りし資産が減少したとしても、

中長期的に運用すれば、安定的な収入を確保できるという51

(2) 米国の大学の事例

小藤(2013)によると、米国における大学基金の資産運用は、一般的には大学職員が行う か投資顧問会社などに運用を委託しているという。しかしながら、ハーバード大学では、

ハーバード大学の運用子会社であるハーバード管理会社が行っており、運用資金として総 資産の半分を上回る資産を保有し、200名近いスタッフによって積極的に運用され、大学 収入の約3分の1に相当する資金を得ている52。その大学基金の構成は、株式の占める割 合が多く、国内株、外国株、新興株、プライベートエクイティといったリスクは高いが、

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リターンも高い株式も含まれている。そして、相場の影響を受けない絶対収益に加え、実 物資産として商品や不動産を含んでいる。これら全体の収益率は、2011 年度は 21.4%と 高い収益率を残している。長期運用収益率を重視したハーバード大学の 20 年間の収益率

は12.9%であり、ハーバード大学のペイアウト率は、図表5-4にあるように4.3%となっ

ており、長期運用収益がペイアウト率を上回る実績であることから、大学収入として分配 しても、大学基金は増えていくことになる53

小藤(2013)は、ハーバード大学や他の米国の主要大学のこういった運用実例から、わが 国の私立大学は、一定の資金額になるまで寄付金による積み立てを行い、運用を行って大 学経営に必要となる安定的な運用収入を繰り入れることを提言している。ただし、現在の わが国の私立大学では、一時的な余剰金を資産運用しており、米国のような寄付金によっ て成り立つ大学基金を運用しているわけではないことから、現状では資産運用を行う体制 が整備できておらず、まずは寄付金制度の充実が必要である旨付言している54

ハーバード大学のような資産運用のための管理会社を設置するといった運用の仕組みを 構築することは、わが国の大学では難しいといえるが、大学基金の運用による安定的な収 入確保については、学生納付金収入に依存するわが国私立大学の収入構造の多様化を図る 方策のひとつとしての示唆を得ることができるといえるであろう。そのためには、わが国 の大学においても、まずは寄付金を募る戦略の構築が不可欠となる。

つぎに、エール大学の資産運用について、概観しておく。エール大学もハーバード大学 と同じように機関投資家としてのエンダウンメント(大学財団)を設置し「2兆円を超える 規模の資産を積極的に運用し、過去20年前後にわたり、年率平均10%を超えるリターン をたたき出して、現代の競争力の源泉とされる財務力の飛躍的向上に貢献」している55。 エール大学の資産運用にかかる投資戦略として、つぎの4点があげられる。第1に「長期 で投資する」、第2に「分散投資を徹底する」、第3に「オルタナティブ投資を積極的に活 用する」、第4に「外部の運用会社を使う」である56

次項でわが国の大学の資産運用事例をみていくが、このような投資戦略は、資産運用規 模でははるかに及ばないものの、参考にすべき視点である。

(3) わが国の大学での資産運用事例

わが国においては、まだ積極的な資産運用をしている大学は少ない。しかしながら、わ が国を代表する私立大学であり、「スーパーグローバル大学創成支援」事業にも採択されて

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いる早稲田大学が、積極的な資産運用をはじめている。

早稲田大学では「教育・研究の質を飛躍的に向上させ、『アジアのリーディングユニバー シティ』として、世界へ貢献する大学であり続ける」として「WASEDA VISION 150」を 掲げている57。そして、その「WASEDA VISION 150」のなかに「財務体質の強化」を掲 げている。今回の積極的な資産運用の開始は、この「WASEDA VISION 150」の達成に必 要となる財政基盤を強化するためである。それら財政基盤強化の背景には、今後さらに厳 しくなるであろう「学生数減少、教員採用増、公的補助金の縮小見込み等」といった予測 がある58

2018 年8月 27 日付の日本経済新聞 59によると、積極的な資産運用を開始した背景に は、世界的な研究における競争の激化や優秀な学生の獲得競争がある。そして、そういっ た世界的な競争に伍していくためには多額の投資が必要であり、現在のわが国の 18 歳人 口を中心とする学生数の減少を考えると、その原資を授業料に依拠することは困難である との考え方があったという。その早稲田大学の資産運用の特徴はつぎのとおりである60

① 運用原資……運用原資(総額で1億ドル・約 113億円)を限定し、過去の資金運用益 の積み上げや使途非限定の寄付金に限る(この原資は資産運用総額(時価)の約1割に相 当」61

② 資産運用体制……「外部の専門家を活用し、きめ細かな運用体制を構築することで、

ミドルリスク・ミドルリターンの長期的な収益実現を目指す」62

③ コンプライアンス・内部統制……「引き続き、コンプライアンス・内部統制の徹底、

運用プロセスの透明化を図り、適切なリスク管理を徹底する」63

この早稲田大学の積極的かつ長期的な資産運用にあたっては、ミドルリスク・ミドルリ ターンを狙うことから、ガバナンスとしてリスク管理および内部統制システムの重要性を 指摘している64。そして、本運用を成功に導くために「運用戦略・方針の策定、定時のパ フォーマンス報告とリスク分析、委託先へのけん制・調査、学内権限規定の整備は必須で あり、全てのプロセスに理事会が自ら関与してPDCAサイクルを回すとともに、監事・

公認会計士・内部監査部門の三者で厳しく監査する体制を整えた」65としている。そのう えで、安全性の担保としてさらに、徹底したポートフォリオの分散化を図り、リスクシナ リオを準備して、民間企業以上の安全性を担保するようにしている。また、運用ガバナン スの確立の観点から、内部統制報告制度やESG投資を例にとり、大学において不正・不 祥事を防止する大学版内部統制システムの必要性を指摘している66