2 英国憲法下の地方自治と法人たる地方公共団体
2.3 法人と地方自治
2.3.5 領域内の規律を行う byelaw の統制
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160。条例に類するものとして、国会の両院の立法手続を経て制定されるいわゆる地方的法 律(local legislation) がある161。条例は当該地方公共団体の地域内においてのみ適用される ものであり、これに対して、地方的法律はある地方公共団体が複数の地方公共団体のいわ ば代表者として発案することができ、その条項を受け入れた地方公共団体すべてに適用さ れるものである。
また、条例とは個別の地方公共団体の地域内に関して適用される法律を通例指すが、地 方公共団体内の特定の公園や住宅地といったより具体的な地区にのみ適用される法律を指 す場合もある162。
条例に関するイギリスのリーディング・ケースは、19世紀末のKruse 事件であり、この 事件においてLord Russell 首席裁判官は条例を以下の通り定義づけた163。
「公衆全般または一部分に影響を及ぼす地方公共団体の自主法 (ordinance)と考えら れるものであり、作為または不作為を命じ、地方公共団体が制定法上の権限に基づき不 服従に対して制裁や刑罰を課すものである。条例が施行されなければ作為・不作為を自 由になしうる活動が規律され、その活動に規律の影響が及ぶことで、個人の活動の自由 は必然的に制約される。この条例は、有効に制定されたのであれば、適法である限りに おいて法としての効力を有するものである。」
条例を制定する地方公共団体の権限は、個別の制定法に由来する権限と、1972年地方自 治法235条に由来する権限がある164。1972年地方自治法235条に由来する権限は、地方公 共団体の地域の全部または一部分の「善良な統治」(good rule and government)のため、お よび生活妨害を防止し排除するために条例を制定する一般的権限を規定している。「善良な 統治」という文言はきわめて広範囲にわたるものであり、一定の事項に関する立法する権 限が地方公共団体に付与されていると考えられている。
しかし、1972年地方自治法 235 条に由来する条例制定権限には重大な制約が存在する。
条例を制定するにあたり大臣の確認を受けなければならず、さらに、実務上は、条例を用 いるのに適切であると政府が認める問題を地方公共団体が処理する場合に限り、条例の制 定が認められる。くわえて、通例は行政の一貫性が求められるために中央政府が定める雛 形に沿って条例が制定されなければならない165。また、地方公共団体が負う義務の範囲を 拡大すべく条例を制定することは認められず、既存の制定法上地方公共団体が義務を負わ
160 John Sharland, A practical approach to Local Government Law, (7th edn, OUP 2006) para 8.02.
161 Sharland (n 160) para 8.02. Sharland は地域的個別法律を local legislation と呼んで いる。
162 Sharland (n 160) para 8.03.
163 Kruse v Johnson [1898] 2 QB 91 (Divisional Court).
164 Local Government Act 1972, s 235. Sharland (n 160) para 8.05.
165 地方公共団体が従うよう求められる条例はModel bye-law と呼ばれることもある。
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ない領域に地方公共団体の権限を拡張するならば、そのような条例は権限踰越だとされる。
また1972年地方自治法235条3項によれば、制定法による規律が存在していない領域に 限り、地方公共団体は条例を制定できる。これは適切な条例制定権限が他に存在しない場 合に限り 235 条が用いられうることと、条例による規律対象となる害悪に対処しうる制定 法の規定が他に存在していれば、条例を制定する権限が認められないことを意味する166。 例えば、制定法の規定上、特定の行為を不法とする刑事罰が設けられていなければ、地方 公共団体にはその行為を犯罪とする条例を制定することは認められない。また、制定法上 の規定によって、生活妨害を除去するために用いられ得るような規制が認められるならば、
たとえ実際には如何なる規制もなされていないとしても、地方公共団体は同様の生活妨害 に対処すべく条例を制定することができない。このように、法律が既に規律している領域 については制定法上条例の制定が認められていない。
条例が充足すべき要件としてMixnam's Properties Ltd 事件判決において次の四点が挙 げられている167。第一は合理的でなければならないこと、第二は文言が明確でなければな らないこと、第三は制定法か判例法かに関わらず、他の法と矛盾または抵触するものであ ってはならないこと、第四は条例制定の根拠となる制定法によって付与された権限内でな ければならないことである。
先に触れた条例の定義付けを行ったリーディング・ケースたるKruse 事件は、条例の合 理性について争われた事件でもあり、その合理性の解釈の文脈で権限踰越に関して言及が なされている。同事件においては、音楽活動の中止を告知された後もなお住居から50ヤー ド以内で音楽活動を行うと違法になるという条例の有効性が争われた。裁判所はこの条例 が法的に有効だと認めている。
Lord Russell 首席裁判官は、会社により規定された規則とは対照的に、国会によって委
任された権能を有する代表的性格を備える団体たる地方公共団体によって制定された条例 は一般的に支持されなければならないと判示した。裁判官はさらに続けて、合理性を審査 する際に注目する要素として、階級を意識するような運用上の偏りや不公平さが見いださ れること、明らかに正当でないこと、悪意が示されていること、合理的な人の心理におい て何ら正当化し得ない、制約に服する人々の権利に対し抑圧的で根拠の無い干渉が含まれ ることを例示的に列挙する。こうした要素の存在が認定されるときに、裁判所は、「国会は、
そうした規則の制定権限の当局への授権を決して意図していなかった。そのような条例は 合理的ではないから、権限踰越である」との判断を示す。そして裁判官がある条例は思慮 分別を備え、必要であり、便宜であるといった事項を単に充足していないと認定しうる場 合や、条例で規定されねばならぬと裁判官が思慮する留保や例外が条例で規定されていな い場合には、条例の不合理性は認められないという。このように裁判所が条例の内容に一 定の合理性を認めない場合、国会はそうした規則を制定する権限を地方公共団体に付与す
166 Sharland (n 160) para 8.06.
167 Mixnam’s Properties Ltd v Chertsey UDC [1964] 1 QB 214 (CA).
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ることを意図しなかった、別言すると条例の内容は授権規定の立法者の意思に反するもの だとして、裁判所は条例が権限踰越に該当すると判断するのである。
裁判所は本判決において、byelawを制定する主体に注目し、地方公共団体が条例を制定 する場合と会社が規則を制定する場合を区別して、規則の適法性の審査よりも条例の適法 性の審査を緩やかに行うことを初めて示したのだった。
行政の活動一般に関する権限踰越の法理は、制定法上の根拠規定が存在しない場合に行 政が活動をなしえないというものである。それに対して、条例の合理性に関する権限踰越 とは、条例の制定権限が制定法上規定されている場合に、実際にはその制定法の趣旨に沿 うよう条例が制定されなかった、すなわち制定法上の権限行使に誤りが存在したというこ とに関わる。換言すれば、権限行使に関わる制定法上の根拠が全く存在しない場合には行 政の活動一般に関する権限踰越の法理の適用が問題となり、権限行使の制定法上の根拠は 一応存在するものの権限行使が不適切だとされるのが、条例の合理性に関する権限踰越の 法理の適用の局面である。いずれも裁判所が地方公共団体の活動を統制する類型であり、
制定法上に根拠を求めながら活動を法的に無効であると導く結論は共通しているとはいえ、
国会制定法により法的根拠が認められる程度が異なる。