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権限踰越の法理と副次的権限の成立

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 59-69)

3 権限踰越の法理と副次的権限の起源および展開

3.2 権限踰越の法理と副次的権限の成立

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活動しうる限りにおいて自然人の持つ一切の権限を有するとの判断が示されていた。コモ ン・ローにおいて、法人は自然人と同様一般的能力を有すると解されていたことからすれ ば、会社の権利能力自体が問題として考察されることは考えにくいようにみえる。そして、

権限踰越の法理は会社の取締役が株主の多数派の支持の下に少数株主の意思に反して、会 社の目的の範囲外の行為を行おうとする事例で、少数派株主がそのような行為の差し止め 命令を求めうる理論として認められる。さらに、会社と第三者との間の行為の効力に関す る場面においても権限踰越の法理が利用されるようになる。これに続き、準則主義を採る 一般会社法に基づいて設立された会社に関して、会社財産の保全を求める株主の利益を保 護するため、第三者との取引を法的に無効とする理論として機能するに至った。その後の 判例法では、権限踰越の法理が会社の権利能力ではなく会社の行為能力に関わる問題の文 脈で取り扱われることもあった5

3.2.1 権限踰越の法理の成立

権限踰越の法理が形成された当初は、まず運河建設のスキームに関わる制定法上の会社 の行動が問題となった6。19世紀になると、法人は特許によって設立された場合、従来と同 様にコモン・ロー上原則として自然人と同様の権利能力を有するが、他方で、特定の目的 を遂行する国会の制定法によって設立された法人はいかなる法的地位を有するかが問題と なる。

権限踰越の法理はコモン・ロー裁判所とエクイティの裁判所の両裁判所で適用される法 理として発展した。権限踰越の法理のリーディング・ケースは、エクイティの分野では1846 年の記録長官法廷(Rolls Court)7の判例である Coleman 事件8であり、コモン・ローの分野 では1851年の The East Anglian Rlys Co事件9 である10

まず権限踰越の法理を創造したエクイティ分野の判例をみよう。Colman事件では鉄道会 社に関し、会社は制定法上明示的に規定されている権限を拡大しえないとして、株主の出 資した資本を保証し、鉄道の終着場所にある港から汽船を運行する汽船会社の利潤を保証

5 Paul L Davis, Gower and Davies’ principles of Modern Company Law (7th edn, Sweet

& Maxwell 2003) 130-131.

6 David J Beattie, Ultra Vires in its relation to local authorities (The Solicitors’ law stationery society, 1936) 3.

7 記録長官(Master of the Rolls)が裁判官として開いた法廷は、最高法院法(Supreme Court of Judicature Acts 1873 & 1875)が制定されるまでこのように称されていた。田中英夫編集 代表『英米法辞典』(東京大学出版会、1991)739-740頁 “Rolls Court”の項目参照。

8 Colman v Eastern Counties Rly Co (1846) 50 E R 481; 10 Beav 1 (Ch).

9 The East Anglian Rlys Co v The Eastern Counties Rly Co (1851) 11 C. B. 775.

10 Brice (n 33) vii (Preface to first English edition).この文献は地方団体に適用される権限 踰越の法理の解説で特に参照されるものである。W Ivor Jennings, ‘General Control’ in Harold J Laski, W Ivor Jennings, William A Robson (eds), A Century of Municipal Progress 1835-1935 (Greenwood Press 1978, reprint of Allen & Urwin 1935) 418 n *;

William A Robson, The Development of Local Government (3rd edn, George Allen &

Urwin 1954) 261, n 2.

53 することを認めなかった11

Lord Langdale 記録長官は判例法として権限踰越の法理を認める際に、鉄道会社のよう

な「非常に広範な権限を有している」(possessing most extensive powers)会社が当時のイ ギリスに導入されたことと、立法部と司法部の双方ともそれらの会社による取引をどのよ うに把握するのか決定しかねていると指摘している12。これは、そうした会社の権限外の活 動を規律する制定法も判例法も存在していないことを意味している。

そして記録長官はジョイント・ストック・カンパニーと対照しながら鉄道会社に対する 警戒的な態度を以下のように示す13。ジョイント・ストック・カンパニーは巨大な資本を有 し、広範な権限を得ており、他者の権利や利益に実質的に影響を与える。このことからパ ートナーシップと鉄道会社は似ているものであり、鉄道会社をより警戒する必要はないと 考えるかもしれない。だがこの見解は誤っている。鉄道会社の職務および行使される権限 は、公衆のみならず私人の権利への干渉を伴うものだという。そして、公衆が利益を得る よう会社は制定法によって授権されたものと考えられるものの、個人の私的な権利を保護 することと、授権に由来する責任以上の責任を個人が負わないようにすることも公衆の利 益であるから、「それらの権限は常に慎重に監視されねばならない」(those powers must always be carefully looked to)。国会の制定法によって授権される権限とは、制定法上明示 された事項以外に及ばないものか、または、制定法が明示的に是認する事業の施行に必然 的かつ当然に求められるものである。

このように本件は事例としては出資者たる株主の利益保護が争われたものだが、裁判所 が、私人の権利に干渉を加えかねない鉄道会社の職務と権限に対して警戒感を抱きつつ、

権限踰越の法理を創造したことが本事案から明らかとなる14。「非常に広範な権限を有して いる」鉄道会社の職務と行使される権限の性質に着目したうえで、国会の制定法が授権し た権限の範囲を拡張的に是認することを拒んだ文脈において、権限踰越の法理が判例上成 立したのである。

Colman事件のあとには、コモン・ロー分野ではじめて権限踰越の法理を適用した、鉄道

会社の権限に関する The East Anglian Rlys Co事件がある15。原告が被告に対して契約の 履行を求めると、被告は、原告が権限を踰越して契約を締結したのであり、原告の訴えは

11 Beattie (n 6) 3. 本件では鉄道会社の当該活動が認められれば鉄道会社にとって利潤が

生じることは明らかではあったものの、利潤の発生は考慮の対象から除外されている。

12 Colman (n 8) 50 E R 481, 486.

13 Colman (n 8) 50 E R 481, 486.

14 私人の権利への干渉とは、鉄道事業運営のために私人の土地を収用することを指すと思 われるが、判決では明示されていない。See, Brice (n 33) viii (Preface to first English edition). A V Dicey, Lectures on the relation between law and public opinion in England during the nineteenth century (2nd edn Macmillan & Co, 1914; reissued with a Preface

by E C S Wade 1962) 246-248, A.V.ダイシー著(清水金二郎訳、菊池勇夫監修)『法律と

世論』(法律文化社、1972)250-251頁参照。

15 The East Anglian Rlys Co (n 9).

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認められないとの抗弁を提出した。裁判所は被告の主張を受け入れて、国会制定法によっ て法人化された鉄道会社はたとえ全株主の同意を得たとしても、法人の目的外の事項に資 金の一部を充当する契約を締結することは不可能であると判断し、そうした契約は権限踰 越であり違法で無効であるから、契約の履行を命じることはできないと判示した16

裁判所はコモン・ロー裁判所がエクイティ裁判所の判例を参照することを論じる文脈で、

差止命令によって個別の行為が制約された過去の事例は、信託違反を理由として導かれた ものではなく17、その行為が取締役の権限の範囲外にあたり、それは制定法によって正当化 されなかったために違法と判断されたのであると Colman 事件18を含む過去の判例を位置 づけている19

また、原告が一定額の金銭の支出については制定法上明示的な権限が存在しなくても許 容されると主張したことに対して、裁判所はこの見解を次のように退けた。いかなる株主 であれ、制定法上の諸規定の事項が実施されると期待する権利を有する。幾分先の招来に は鉄道会社の路線に多大な利益がもたらされるかもしれない事業に金銭が支出されるとい うことでは、鉄道会社の取締役は配当を期待する株主に対し、十分に回答することが出来 ないことになる。それのみならず、公衆もまた制定法によって授権された権限の適切な執 行に関心を有している。鉄道の維持のために必要であると考えられ、議会がその用途を予 定していた金銭が、法律の制定時には予想されず、立法部によって明示的に是認されてい ない他の事業に支出されてしまうと、その路線の快適性や安全性が大きく毀損される恐れ がある。裁判所はこのように制定法で規定されている活動の範囲外の活動が公衆に対して 悪影響をもたらしかねないことに注意を向けている。

裁判所はそのうえで権限踰越の法理と会社の財源からの支出を関連づけている20。会社が 制限された目的しか有していない法人であり、かつその会社による契約が認められる権限 の範囲外であるならば、その契約に対する株主の同意は、会社の権利能力を変動させるも のでないのと同時に、会社の財源からの支出の法的有効性を認めさせるものでもないこと になる。

このように、権限踰越の法理とはコモン・ローとエクイティの双方の分野において、鉄 道会社に適用される制定法の解釈を通して認められた原則である。事例の内容に着目する ならば、会社内部での争いと対外的関係での争い、具体的には多数株主と少数株主の対立 と、契約の履行を求める原告に対し被告が抗弁としてその原告の権利能力の欠缺を追求す るという両方について、権限踰越の法理の適用が認められるのである。

16 The East Anglian Rlys Co (n 9) 813.

17 Colman (n 8) の判例集掲載の要旨には、Colman側は取締役の信託違反を主張して差止 命令を求めたのだと論点が整理されている。この部分に着目したThe East Anglian Rlys Co

(n 9) 事件の当事者はColman事件を信託違反の事例として理解したのかもしれない。

18 Colman (n 8).

19 The East Anglian Rlys Co (n 9) 811-812.

20 The East Anglian Rlys Co (n 9) 812.

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 59-69)