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福利に関する権限の解釈の定式化

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 128-131)

4 副次的権限の成文化と権限踰越の法理の活性化

4.5 小括

5.2.3 福利に関する権限の解釈の定式化

裁判所は2002年のJ事件高等法院判決で、2000年地方自治法2条の福利に関する権限 を初めて解釈した21

原告は英国に不法滞在していたガーナ出身者である。原告が英国での残留を当局に求め ると、やがて娘が生まれ、その後原告がヒト免疫不全ウイルスに感染していることが判明 した。原告が英国において住居を取得できるよう地方公共団体に扶助を求めると、地方公 共団体は審査で請求を認めなかった。地方公共団体の決定を受けて原告は2002年に訴えを 提起した。

訴訟で住居関連の扶助を求めた原告が援用したのは、1948年国家扶助法21条1項a号22 と、1989年児童福祉法17条23、そしてヨーロッパ人権条約8条である。地方公共団体は、

1948年国家扶助法21条1項a号に基づき、病気や障害のために保護を必要とする者に住 居施設を提供する義務を負っている。1989 年児童福祉法17 条では、保護が必要とされる 子供へのサービス提供を通して、家族による子供の養育の促進を地方公共団体に義務づけ ている。原告は、これらの規定によって住居関連の扶助が提供されないならば、地方公共 団体の当該活動が私生活および家庭生活の尊重の権利を定めるヨーロッパ人権条約 8 条に 違反すると主張した。さらに原告は1998年人権法3条によってヨーロッパ人権条約上の権

19 Explanatory Notes to the Local Government Act 2000, para 15.

20 Office of the Deputy Prime Minister, Power to promote or improve economic, social or environmental well-being (2002) para 7.

21 R v Enfield LBC, ex p J [2002] EWHC 432 (Admin).

22 National Assistance Act 1948, s 21(1)(a).

23 Children Act 1989, s 17.

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利を実現すべく裁判所は英国の制定法を解釈すべきであり、そうでなければ人権法 4 条が 規定する不適合宣言を判示すべきだと主張した。

被告である地方公共団体は、当該扶助を提供する自身の権限の欠如を主張した。1999年 移民及び庇護法 115 条によると在留期間を徒過した者は社会保障を受けられず、そして 1999年移民及び庇護法116条によれば、115条の該当者であり、単に困窮しているが故に 保護や治療を求めている者は、国家扶助法21条が規定している地方公共団体による住宅施 設提供の対象者には該当しない24。このように在留期間を徒過した者への扶助を否定するこ とは、国家扶助法21条1A項において明文で定められている25。1989年児童法17条に基 づく子供とその家族への住居施設については、2001年の控訴院の判例によって地方公共団 体には提供する権限が認められていなかった26。さらに人権法3条によっても地方公共団体 は原告に対して住居関連の扶助を提供しえないと被告側は主張した。

訴訟の原告と被告の双方が2000年地方自治法2条の福利に関する権限に言及しなかった こととは対照的に、訴訟の参加人である保健相の代理人は2000年地方自治法を援用し、地 方公共団体の権限が広く認められるべきであると主張した。地方公共団体は、2000年地方 自治法の福利に関する権限によって住宅施設関連の財政的扶助を提供する権限が認められ ることになるのであり、福利に関する権限の行使を制約する規定は存在しないという。権 限の存在については、2000年地方自治法2条4項b号が特に財政的扶助について規定して いることや、同条 2 項によって、当該地方公共団体の居住者に対して福利に関する権限が 行使されうる。裁判所は福利に関する権限の行使が法律によって制約される場合に、事案 に応じて当該法律を解釈しなければならず、当該法律の意図が福利に関する権限の行使を 完全に制限するものか、さもなければ当該法律の規定に抵触する場合にのみ、福利に関す る権限の行使を制約するものかを精査しなければならない。代理人はこのように主張して、

福利に関する権限を制約する法律の解釈に注意を払うよう裁判所に求めた。

高等法院女王座部管理法廷(Administrative Court. 以下、高等法院と記す)は、地方公 共団体が住居施設の財政扶助を提供する権限を認めたうえで、1948 年国家扶助法 21 条に 基づく権限が適切に行使されなかったと認定し、原告勝訴の判決を下した。高等法院は、

福利に関する権限に関する論点として、地方公共団体が1948年国家扶助法21条に基づく 権限を行使し得ないと判断したときには、地方公共団体は福利に関する権限を用いて当該 財政的扶助を提供しうると論じている。ただし、その権限を行使するにあたっては、ヨー ロッパ人権条約 8 条の権利侵害を避けねばならないとの観点から地方公共団体の裁量を限 定した。

高等法院は、授権されていない領域で活動する権限を福利に関する権限を通じて地方公 共団体に認めた。これは、地方公共団体に権限を移すことに積極的である2000年地方自治

24 Immigration and Asylum Act 1999, ss 115—116.

25 National Assistance Act 1948, s 21(1a).

26 R v Lambeth LBC, ex p A [2001] EWCA Civ 1624.

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法の立法趣旨説明書と副首相府の指針において明示されていたことでもある。これにより、

授権が何ら存在しなくとも、その領域の権限が法令上制約されていると理解することは不 適切だと判断されるようになった。

他方で高等法院は、福利に関する権限の制約に関して、その制約が法令に明確に詳述さ れねばならないとの副首相府の指針に沿って2000年地方自治法3条の意味を解釈すること には疑問を呈した。裁判所は福利に関する権限の制約について、指針のように限定的には 解釈しない一方で、2000年地方自治法3条の文面通りに2000年地方自治法とは異なる法 律に対する制約を福利に関する権限を制約するものとして一律に解釈し適用することもな いのである。福利に関する権限の行使を制約すると考えられる法律が既に存在する場合に、

高等法院は当該法律が福利に関する権限を制約する規定に該当するかを、事案に応じて個 別具体的に判断するという立場を示した。

こうして、関連する法が解釈された結果、不法滞在者に対して地方公共団体が住居を直 接的に提供することは認められないものの、2000年地方自治法3条の下では、住居のため に地方公共団体が財政的に扶助することまでは禁じられておらず、地方公共団体は住宅関 連の財政扶助であれば提供しうると裁判所は判断したのである27

本件の意義は、2000年地方自治法の立法の目的を参酌し、そして他の法律の制約が福利 に関する権限を制約するものではないとの解釈を通して、法律によって明示的に授権され ていない権限に関わる政策であっても、2000年地方自治法2条を援用して、地方公共団体 が実施しうる余地を裁判所が認めたことにある。そして、福利に関する権限を制約する2000 年地方自治法 3 条について、ある法律の条項がこの規定に該当するかについて包括的な判 断基準が存在しないと指摘されたことも意義深い。これにより福利に関する権限の範囲は 個別の法律解釈に応じてその都度判断されることとなる。

本件で特徴的なのは、被告である地方公共団体によって権限踰越の主張がなされたこと である。本件では、4章でみた副次的権限の判例のように、原告が地方公共団体に何かしら の履行を求めると、被告である地方公共団体が抗弁として権限踰越を主張し、履行を拒絶 したのである。地方公共団体は社会福祉に関わる後の事件においても地方公共団体の活動 の法的根拠は存在しないと論じることになる。

2000年地方自治法2条と3条の解釈に関し、このJ事件はリーディング・ケースと位置 づけられ、後の事件で判断枠組みが踏襲される。後の事件では福利に関する権限の制約の

27 本件で地方公共団体は2000年地方自治法3条と他の法令を援用して、住居の提供が地 方公共団体には認められていないと主張したが、裁判所はその主張を認めていない。1996 年住居法(Housing Act 1996)の190条3項と185条では、「権限に対する、禁止、制約また は制限」という文言が規定されているが、裁判所によるとこれらは2000年地方自治法3条 上の制約にはあたらないという。たとえば前者の条項は、申請者への扶助が優先的に必要 であると判断されない場合に地方公共団体の住宅関連の当局が負う義務はより制約される とのみ規定しており、地方公共団体の権限を制約するものではない。See, Enfield LBC (n 21) [53]—[57].

123 範囲が争われるようになる。

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 128-131)