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法人の性質

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 35-39)

2 英国憲法下の地方自治と法人たる地方公共団体

2.3 法人と地方自治

2.3.1 法人の性質

本研究で検討するのは19世紀以後の地方公共団体を含む法人の法的権限とその限界であ るが、それらを理解するには19世紀の法人像がどのように確立したのかを歴史的に把握す る必要がある。

英米法上の法人は次のように分類されてきた77。まず法人はすべて人的法人である。構成 に着目すると社団法人 (corporation aggregate)78 と単独法人に分類され、目的によっては 世俗法人 (ley corporation) と宗教法人 (ecclesiastical corporation) に分類される。さらに 世 俗 法 人 は 営 利 法 人 (trading corporation) と 非 営 利 法 人 (non trading or profit

corporation) に分けられ、非営利法人は成文法上、地方行政権を有する法人と慈善法人

(eleemosynary or charitable corporation) に分類される79。本研究では、世俗法人中の地 方行政権を有する法人たる地方団体を中心に、営利法人にも目を向けながらその法的権限 とその限界を論じる。

このように異なる目的や性質を有する法人はイギリス法上包括して理論付けられてきた。

本研究で論じる権限踰越の法理には、3章でみるように、法人一般に適用される法理として 発展した経緯が存在するが、しかし、沿革的な背景が異なるこれらから法人の特質や権利 に関する一般的理論を導き出し、その上で共通の概念を抽出することは難しい80。そこで、

イギリスの地方公共団体が法人として位置づけられるまでの法人の歴史を概観する。

77 Daniel Greenberg (General Editor), Jowitt’s Dictionary of English Law (3rd edn, Sweet & Maxwell), Vol. 1, 558-559 (‘Corporation’). 訳語は本間輝雄「英米法における法人 理論」『英米会社法の基礎理論』1頁(有斐閣、1986)9-11頁による。

78 集合法人という訳語が当てられることもある。なお講学上公法人(public corporation)と 私法人(private corporation)との分類がなされることもあるが、この分類の基準を提示する ことは難しいといわれている。本間・前掲注(77)10-11頁。ただし、公法人と私法人の区 別の基準として第一に、その設立目的が公私いずれかにあるのか、第二に、その設立が公 私いずれかの者によって企画されたかが提唱されている。

79 本間は地方行政権を有する法人が一般にgovernment corporationと称されると論じて いるが、現在のイギリス地方行政法においてこの用語は用いられないようにみえる。

80 本間・前掲注(77)12-13頁。

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イギリスにおいては早くから集合法人という概念は存在していたが、それがコモン・ロ ー上明確な形を表したのは中世末であった81。中世末には行政上の目的を遂行するため、ま たは宗教的・慈善的・社会的目的を達成するために諸種の団体が形成されている。コモン・

ローの学者がこれらの諸団体の法的処理に関して、教会法学者の理論を応用することによ ってコモン・ロー上の法人概念が次第に普及した。

しかし中世末の法人の概念は現今の法人概念とは大きく異なる82。法人は当初、独立の権 利義務の主体としての観念よりも、むしろ古くから存在したバラに見られるような一種の 特権と同一視されていた。国王は団体に対して政治権力に服する従属的地位から解放し自 由を認める特許を与えるとともに、その対価として献金を求め財源を調達した。都市にと って国王から与えられる特許は、封建的土地所有者たる領主をはじめとする権力からの解 放や自由を獲得する重要な一手段であった83。やがて法人は国家によって与えられる特許か ら全く独立した人間の集合体として把握されるに至るが、これは商事会社の形成を待たね ばならなかった。

15 世紀に入ると法人はその構成員とは別個独立の法的人格者、すなわち権利義務の帰属 主体であると把握されるようになる84。中世末期において神人同型同性の理論を手がかりと して展開されてきた法人理論が、法人の権利能力および責任に関する判例を通して、法人 をなるべく自然人と同様に取り扱おうとする柔軟で弾力性に富む理論へと推移した。

中世的な原則をさらに発展させて新たな法人原理を集大成したと評価されているのが、

クック裁判官とイギリス法の学者であるブラックストーンである85。彼らはイギリス法上、

法人とは権利義務の主体として主体に属するとされた諸権利を有し義務を負う社団である とし、そのような法人の設立には法的権力による特許の付与行為を要求している。クック 裁判官は1613年の Sutton’s Hospital 事件において、法人とは社団の一類型であり法的人 格者であることを定めた86。ブラックストーンは『イギリス法釈義』において法人を取り上 げているが、その特質として永続性、団体としての訴訟能力、土地保有権、共通印章の保 有、自治法の制定権等を掲げて、これらは法人が正当に設立された際に暗黙裏に付与され るものであるとした87

クック裁判官やブラックストーンのいう法人とは公益のために主権者の法人格付与によ

81 岡田・前掲注(56)103頁。

82 松井秀征『株主総会制度の基礎理論――なぜ株主総会は必要なのか』(有斐閣、2010)1 章参照。

83 岡田・前掲注(56)103-104頁。

84 本間・前掲注(77)12-13頁。

85 本間・前掲注(77)13-14頁。

86 The Case of Sutton's Hospital 10 CO. REP. 23 a.; 77 Eng. Rep. 960 (1378-1865). 邦訳 は本間・前掲注(77)13頁参照。

87 William Blackstone, Commentaries on the Laws of England in Four Books, vol 1, (Lippincott Company, 1893) Ch XVIII ‘Of Corporations’ 467-476. Blackstoneの法人の解 釈については岡田・前掲注(56)105-106頁において訳出されている。

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って創出される、純粋な政治的制度というべきものだろう。当時は株式会社がほとんど存 在しておらず、法人の法的性質が商事的観点から論じられることはなかったのであった88

そして、当時の特許によって設立される会社は、その性質上自然人としての性質に基づ く権利義務を有さなくとも権利能力を一般的に有しており、法人の権能を制約する権限踰 越の理論は未だ確立していなかった89。Sutton’s Hospital 事件判決で法人が自然人と同様 一般的能力を有するものと解されていたことはその現れである90

16世紀から17世紀の間には、国家が概して政治目的を達成する経済的主体と考えられ、

法人も「国家目的に奉仕する公的・従属的な制度」にすぎないものとされた91。別言すれば、

法人は概して公的機能を遂行する法的主体であるからこそ私的な特権が付与されたといい うる92

18 世紀に入ると、法人の役割を公的手段よりもむしろ私的手段として把握する傾向があ らわれる93。多数の個人から構成される集合体は、法人化によって人為的な人という権利及 び義務の帰属主体となり、その結果、法人の構成員たる個人と法人とは法的に別個独立し た人格をそれぞれ有するようになる94。人という法人の身分について最も重要な特徴が現れ る分野は、契約上の責任と不法行為上の責任の分野である95。第一に、法人は名称を有さな ければならず、すべての法的取引はこの名称において効力を生じなければならない。法人 が名称を誤用して契約を締結し債務を負った場合には無効とされる96。第二に、法人には法 人としての継続的存続(perpetual succession)が認められる97。法人の構成員たる個人が死亡

88 本間・前掲注(77)15頁。

89 もっとも会社が特許状に記載されている目的に違反して行為した場合は、当該活動に対 する権限開示令状(quo warranto)の申立てがなされるか、あるいは特許状没収のための告知 令状(scire facias)の発行を通じ、裁判所は会社の行為を規律しえた。特許会社はこうした規 律に服するものとされたが、しかし実際にはこうした活動は法的に有効であった。本間・

前掲注(77)124-125頁。

90 Paul L Davis, Gower and Davies’ principles of Modern Company Law (7th edn, Sweet

& Maxwell 2003) 130.

91 星川長七『英国会社法序説』(勁草書房、1960)202-203頁。

92 星川(注91)203頁。星川が論じているように、法人が国家目的に奉仕する公的な制度

となる例として、国内取引について国家による規制がギルドによる規制へと変化したこと が挙げられる。

93 星川(注91)203頁。

94 Stewart Kyd, A Treatise on the law of corporations, vol 1 (Garland Publishing, 1978,

reprint of Butterworth, 1793) 13. 「法人とは、ある特別な組織体のもとで人為的形式上継

続的存続性を有すべく単一の団体へと結合され、個別の点で、とりわけ、財産権を取得な いし付与すること、債権債務関係に入ること、訴訟の原告と被告のいずれにもなり、活動 する能力が法政策によって単一の個人として付与される、多数の個人から構成される集合 体」である。

95 Encyclopedia of Local Government Law, vol 1, para 1-05 (R 72 December 2007).

96 Knight v Wells Corp (1696) 1 Ld Raym 80.

97 継続的存続に関しては田中英夫編集代表『英米法辞典』(東京大学出版会、1991)634頁 の “perpetual succession”の項目参照。

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または脱退をする場合や、新たな法人によって構成員が交代される場合のように構成員に 変動が生じるとしても、法人は法人格を損なわずに存続し続けるのである。個々人の集合 が構成員の地位を創設すると同時に負った債務は、構成員全員が変動しても法人を拘束し 続ける。第三に、法人には印章の保持が認められるようになることで、自然人の署名のよ うに印章によって法人の活動や決定には法的権限が付与される。

その後法人の設立に関する法改革が19世紀中葉に積極的に行われることとなるが、法人 の基本的な性質は踏襲されてきた98

特許会社以外の事業主体たるパートナーシップに関しては、その法人格の有無に関わら ず権限踰越の法理が問題となることはなかった99。組合員の業務行為が組合員に授権された 権限から明白に逸脱していれば、その業務行為は他の組合員を拘束するものではなかった。

そして、組合の業務を変更するためには総組合員の同意が求められていた。1844年ジョイ ント・ストック・カンパニー法 (Joint Stock Companies Act 1844) 制定前のジョイント・

ストック・カンパニーは、単に巨大なパートナーシップにすぎず100、権限踰越の問題が生 じる余地は無かった。ジョイント・ストック・カンパニーとは19世紀に入りコモン・ロー 上存在した法人格のない会社または大きな組合(パートナーシップ)であり、1844年ジョ イント・ストック・カンパニー法により法人格が付与されるにいたったものである101。こ の会社ないし組合について提起されたのは、こうしたカンパニーがその権限外の行為をな したかという問題よりも、その取締役が与えられた権限の範囲を超えて行為をなしたかと いう業務執行機関の権限の問題であった。

1844年ジョイント・ストック・カンパニー法により法人格を有する会社が登記によって 設立されるようになるが、ここでもなお権限踰越は現実的な問題として提起されなかった。

その理由として、当時の会社の設立定款(deed of settlement)の形式が一定化され、その根 本的な変更には総社員の同意を要するとされていたこと、第二に、社員の責任が人的無限 とされていたことから投資家および会社債権者の保護にかけるところがなかったことが指 摘されている102

以下で見るように、現代では地方公共団体が法人として成立するには大別して二つの根 拠が存在する103。一つは国会の制定法であり、もう一つは主権者によって付与される法人 化の特許状(charter of incorporation)である。国会制定法の中には、地方公共団体としての

98 本間・前掲注(77)3章と4章を参照。

99 Davis (n 90) 130.

100 1844年ジョイント・ストック・カンパニー法においては、ジョイント・ストック・カ

ンパニーは法人であり、他方パートナーシップは単なる契約関係として区別している。た だ両方ともその構成員は無限責任を負うこととされていたので、ジョイント・ストック・

カンパニーとは会社の規模がより大きい特殊なパートナーシップであると理解できる。本 間・前掲注(77)120頁参照。

101 田中(注97)477頁の “joint stock company”の項目参照。

102 本間・前掲注(77)174頁。

103 Encyclopedia of Local Government Law, vol 1, para 1-057 (R 72 December 2007).

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 35-39)