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2 英国憲法下の地方自治と法人たる地方公共団体

2.4 小括

本章では地方自治が憲法典によって明示的に保障されていないものの、民主制推進等の 観点から地方自治の意義が認められていることと、地方公共団体の権能が権限踰越の法理 によって規律されることを説明した。

ダイシー以来、国会主権と法の支配がイギリスの憲法原理として伝統的に論じられてき た。両原理はさまざまな変革によって修正の必要性が主張されてきたが、今でも重要な憲 法原理として存在している。

国会主権と法の支配の両原理と地方自治の関係からは、地方公共団体が国会と裁判所に よって規律されるなかで、いかにして自治を獲得するかが課題となる。ダイシーはかつて

199 Woolf, Jowell, Le Sueur, Donnelly, Hare (n 148) para 4-012.

200 Arden, Baker, Manning (n 41) Ch 2.

201 John Laws, 'Law and democracy' [1995] PL 72, 79.

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地方自治を十分に評価していなかったが、現在の学説は民主制の地方自治に一定の評価を 与えている。

イギリスの地方自治の特徴はイギリス国内外で見られる分権化推進の影響をあまりうけ ていないことである。スコットランド等への権限委譲やヨーロッパ地方自治憲章批准とい った動向によっても地方自治において変化の徴候はあまり見いだし得ない。

そして、地方公共団体の権能は法人一般の権能と同様に取り扱われてきたので、法人の 権限とその限界について論じた。

法人が、国会制定法による授権の範囲外の活動を行う場合には、法人の行為は裁判所の 判断により違法であると評価され、法的には無効となる202。法人の行為が授権の範囲外で あることを理由にして違法であるとの判断を下す法理が、本研究で考察の対象とする権限 踰越の法理である203

法人が国会制定法により制定が認められた byelaw(規則・条例) に基づかずに活動をす る場合にも、法人の行動は違法であり無効と判断される。権限踰越の法理と地方が備える 代表制の観点からは、地方公共団体の条例に対する裁判所の緩やかな審査が注目される。

判例上、株式会社の規則とは対照的に地方公共団体の条例には適法性が推定される204。地 方公共団体の条例制定権限は国会の制定法で付与され、そして条例制定の過程で所管大臣 の監督に服する。換言すると、地方公共団体の条例制定には、中央の立法と行政による統 制が及ぶ。裁判所は、中央の立法によって授権された権限を地方公共団体の機関が行使す る場合において、特定地域の民主体制を反映していない株式会社の条例制定の適法性より も、地方の民主体制を反映した地方公共団体による条例制定の適法性を緩やかに審査して いる。他方で 3 章以後において論じる権限踰越の法理は、地方公共団体の権能の限界に関 わる原則であり、中央の立法が授権していない行動が問題になるから、条例制定の権限が 既に授権されており代表制が考慮されて条例の適法性が推定されることとは異なる。

さらに、地方公共団体の機関は権限を行使する際に、裁判所が下位裁判所の審査を通じ て発展させた司法審査全般の統制に服するが、その司法審査の一般的法原理も権限踰越の 法理と呼ばれる205。行政法分野で権限踰越の法理が扱われる場合には、この一般法原理が 主として論じられる。イギリス地方自治法研究において権限踰越の法理が考察される場合、

授権の範囲をめぐる論点に焦点が当てられるのが通例である206。本研究も権能の範囲に関 わる論点を中心に権限踰越の法理を分析する。4章で見るように、地方公共団体の権能の規 律に関わる権限踰越の法理と、行政統制全般の権限行使の規律に関わる権限踰越の法理は 1980年代以後の判例で違った傾向を示すので、両者を区別することは重要である。

202 Halsbury's Laws (5th edn, 2010) vol 24 para 387.

203 See, Street (n 145) 1-4.

204 Kruse v Johnson [1898] 2 QB 91 (Divisional Court).

205 岡本・前掲注(168)。

206 See, S H Bailey, 'The Structure, Powers, and Accountability of Local Government' in David Feldman (ed), English Public Law (2nd edn, OUP 2009) para 4.41.

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続く3章から5 章において、権限踰越の法理の形成および展開を、社会的背景に照らし ながら時間の流れに沿って論じ、権限踰越の法理の地方自治への影響を明らかにする。3章 は19世紀中葉から20世紀前半までの時期に注目し、権限踰越の法理と、権限踰越の法理 による規律を緩和する副次的権限の成立を取り扱う。4章は20世紀後半の中央・地方間の 関係に緊張が高まる時期を中心として、司法審査の高まりのなかで権限踰越の法理が果た す機能を論じる。5 章では、21 世紀になり地方への授権が推進される一方で、ヨーロッパ の影響を受けて裁判所による行政統制が強化される状況において、権限踰越の法理の行方 を考察する。

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ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 56-59)