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裁量統制の活性化

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 113-116)

4 副次的権限の成文化と権限踰越の法理の活性化

4.4 司法審査における権限踰越の法理

4.4.4 裁量統制の活性化

貴族院は、Diplock 裁判官により司法審査が定式化される前に、Tameside MBC事件で 地方公共団体の教育政策に介入する中央政府の裁量行使の適法性を審査している。貴族院

133 Council of Civil Service Unions v Minister for the Civil Service [1985] 1 AC 374 (HL).

なおLord Diplock は、比例性の原則についてヨーロッパからイギリスの行政法に導入する

ことを差し控えている。See, p 410. GCHQ事件については、岡村周一「イギリスにおける 司法審査申請の排他性(五)――『公法』と『私法』の一側面」論叢126巻2号1頁(1989)

22-23頁、岡本博史『イギリス行政訴訟法の研究』(九州大学出版会、1992)98-101頁、木

村実「イギリスにおける司法審査の範囲――C.C.S.G.事件を中心として」拓殖大学論集199 号300頁(1992)、中村民雄「判批」英米判例百選[第3版]100頁(1996)参照。

134 Council of Civil Service Unions (n 133) 410-411.

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はTameside MBC事件で、地方の教育当局が学校制度を選択する自由を有しており、大臣

の決定には地方当局の決定に介入する合理性が認められないとの判断を下した135。当時の 労働党系の中央政府は、保守党系の地方公共団体に対し、学力上位の生徒に大学進学準備 の教育をする中等学校たるグラマー・スクール(grammar school)を、知能や能力に関係な く生徒が進学する総合中等学校(comprehensive school) に切り替えるよう指示し、さらに 中央政府側はその指示を遵守するよう地方団体に命じる職務執行令状(mandamus)の発給 を裁判所に求めていた。貴族院によれば、制定法上、大臣が地方当局の決定に介入しうる のは地方当局が合理的とはいえない申請を行った場合に限られるので、大臣が地方当局の 申請を退けるだけでは大臣の介入が正当化されることにはならない。そして、地方当局が 元のスキームの実施を延期するか、または申請された学校制度選択の手続きを採択するこ とについて、地方の当局が合理的ではなく活動したことを大臣側が立証していないから、

大臣の介入は正当化されない。貴族院はこのように判断し、地方公共団体の裁量権の行使 が制定法に適合しており、中央政府の地方への介入を違法だと判示した。貴族院の判断に は地方の教育当局が民主的に選出された委員から構成されている事への言及がみられ、地 方公共団体の民主的な判断を尊重する姿勢があらわれている。こうして、地方公共団体と 中央政府が対立した本件では、中央政府の権限行使の適法性を判断し、地方公共団体の活 動の合理性が認められた。

貴族院は広域の地方公共団体とその領域内部の地方公共団体間で紛争が生じた1981年の Bromley LBC事件で、地方交通とその財源の支出に関わる、「運賃の適正」(Fares Fair)

と呼ばれる政策の適法性について判断を加えている136。労働党系の Greater London

Council (GLC) がロンドンの地下鉄の運賃を1981年に切り下げ、そしてこの切り下げに伴

う収入の減少を補填するために、ロンドンのすべての地方公共団体に対して地方税納税者 から地方税をより多く徴収するよう命じた137。Bromley LBCはGLCの決定に不服を抱き、

GLCの決定が合理性を欠いているとして、司法審査手続を用いて訴えを提起した。Bromley LBC 事件では、地下鉄の運賃削減を選挙公約として掲げた者が GLC の長として民主的に 選出され、Tameside事件と同様に民主的な判断が反映されたその政策の適法性が争われた。

貴族院はGLCの行動に不合理性の司法審査を適用し、違法との判断を下している。貴族 院によると、地方税納税者の利益と交通機関の利用者の利益間を衡平に均衡させる制定法

135 Secretary of State for Education and Science v Tameside MBC [1977] AC 1014 (HL).

本判決についてSee, David Bull, 'Tameside revisited: prospectively "reasonable":

retrospective "maladministration"’ (1987) 50 MLR 307.

136 Bromley LBC v GLC [1983] 1 AC 768 (HL). 本判決に関する論文として'Bromley Council v Greater London Council: counsel's opinion' [1991] PL 499, 'Incommensurable Values and Judicial Review: The case of local government' [2001] PL 717 がある。また、

ロッホリンは貴族院が信認義務違反の概念を不適切に用いながら地方公共団体の裁量権を 統制したと批判する。See, Loughlin (n 103) Ch 4.

137 Greater London Council から Bromley LBC への命令は地方税徴収命令(precept)の 手続きによっている。

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上の義務および信認義務に GLC が違反して政策を決定し実行したために、GLC の行動が 違法となる138。Bromley LBC事件では、広域的な地方公共団体の政策決定に起因する、他 の地方公共団体の地方税納税者への負担が考慮され、広域的な地方公共団体の政策決定が 合理的ではないので違法だと判断された。

このように労働党系の地方団体による裁量権の行使が裁判所によって違法だと判断され た本件に関し、司法部が政治を考慮した判決としてみられてきた139。そして BromleyLBC 事件における事業運営の健全性に関わる解釈は恣意的であると公法学者により批判されて いる140

Diplock 裁判官が司法審査を定式化したGCHQ事件(1985年)の8ヶ月後には、行政

による裁量権行使への司法審査が恣意的だと批判される Wheeler 事件貴族院判決が現れ る141。Leicester Rugby Clubが、労働党系の地方公共団体が所有するグラウンドの使用許 可を取得すべく裁判所に訴え、貴族院から原告勝訴の判決を得た。Rugby Clubのメンバー 数名がアパルトヘイト政策で非難されていた南アフリカへのツアーに参加したことから、

マイノリティの住民を多数擁する地方公共団体の地域内においてメンバーのツアー参加に 対して議論が生じていた。地方公共団体は人種法に基づいて反アパルトヘイト政策の姿勢 を地方公共団体として示すべく、地方公共団体がレクリエーション施設の管理に際して制 定法上の裁量を行使する際に、人種の関係に最善な利益を考慮することを認める1976年人 種関係法 (Race Relations Act 1976) 第17条に基づき、Rugby Clubに与えた使用許可を 撤回した。

控訴院判決は不合理性を適用すると地方公共団体の判断が不合理とはいえないと判断し た一方で、貴族院は手続的適正と不合理性の双方の原則を適用し、地方公共団体がグラウ ンドの使用許可を与えないことは違法であると判断した。貴族院のRoskill裁判官は地方公 共団体が人種の関係を良好にする義務を負うことを認めつつも、地方公共団体の権限行使 を違法であるとした。また貴族院のTempleman裁判官は地方公共団体が権限を違法にした 理由付けを制定法に依拠せず主張するにとどまった。

この貴族院判決は、制定法上の解釈の不存在をはじめとして理由付けが十分ではないイ ギリス公法の著名な判例だと批判されている142

こうして Tameside MBC事件から始まり、Bromley LBC事件、Wheeler 事件に至るま で、裁判所による行政の裁量統制は1970年代から1980年代の間に特に活性化し、実体的 な司法審査が活用されるに至った。これらの貴族院判例の共通点は、労働党系の中央政府

138 本件で裁判所は信認義務違反を認定したが、Loughlin (n 103) Ch4 は、地方公共団体に 裁量が与えられておりまた財源の出所が不確定である行政的な活動について信認義務違反 を論じること自体が不適切であると強く主張する。

139 See, J A G Griffith, the Politics of the Judiciary (5th edn, Fontana Press 1997) 126-133.

140 Loughlin (n 103) 229-237.

141 Wheeler v Leicester City Council [1985] AC 1054 (HL).

142 Tomkins (n 128) 180.

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や地方団体が合理的ではない活動をしたと判断されたことにある143。判決の結果を政治的 な観点から見るならば、裁判所が労働党系の行政の裁量権を規律してきたと整理すること が出来る。

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 113-116)