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権能を限界づける統制

ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 45-48)

2 英国憲法下の地方自治と法人たる地方公共団体

2.3 法人と地方自治

2.3.4 権能を限界づける統制

37 求められることになったといえよう143

個別法律の制度自体の根拠は英米の立法観の伝統に求めざるを得ないという田中の見解 は、行政の活動一般と権限踰越の法理間の関係の分析に資する。行政の活動一般の分野に 関わる権限踰越の法理は個別法律の制定が相次いだ19世紀中に確立している。個別法律が 制定されはじめた時点では国会主権の原理は成立していなかった一方で、権限踰越の法理 が成立した時は、国会主権の原理が普及している144。個別法律が法の支配のみに由来する ならば、行政の活動一般に関連する権限踰越の法理の根拠は、国会主権の原理と法の支配 の概念の双方に求められると考えられる。

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使は法律という形式によって行われる。授権する国家機関が統治構造上何らかの制約に服 するのであれば、その授権権限の行使の適法性が問われることとなるが、イギリスの国会 はそうした制約に服さずに立法権限を伝統的に行使してきた。

第二は授権される者である。本研究においてはこの授権される者とは主としてイギリス の地方公共団体を指す。授権する国家機関から授権される者に授権がなされるためには、

まず、授権する国家機関が授権される者の法的地位(権利能力)を認めなければならない。

授権する国家機関は通例、授権される者を設立すると同時に授権される者の権利能力の範 囲を定める。授権する国家機関が授権される者の法的地位を定めることで、授権する国家 機関から授権された者への授権の法的内容が確定する。もしも授権する国家機関の存在な くして、法人の権限が歴史的理由等により認められるとするならば、それは歴史という事 実を授権の根拠とし、その事実自体に法人設立の法的理由を求めることだといえる。イギ リスでは歴史的な現実という事実のみに基づき法人の権利能力を法的に認めるということ はなく、授権する国家機関からの権限付与によって他の者に授権がなされる。

第三は、授権する国家機関が授権される者に授権したその権限が、授権される者によっ て授権の範囲内で行使されているか否かを審査する国家機関である。次章で見るように、

イギリスにおいてこの審査は裁判所が担当することになる。もしも、この授権範囲の審査 機関が存在しない状況で授権の範囲外で権限の行使が行われるならば、授権される者の活 動を問題視する授権する国家機関は、過去の活動を違法とする立法を行い、またはそのよ うな活動を将来的に抑制するよう授権された者から権限を剥奪する対応策を個別具体的に とらざるを得ない。このように、授権範囲の審査を行う国家機関が存在しなければ、授権 する国家機関が授権される者の活動を常に監視し続けねばならないことを含意する。別の 観点から言い換えると、授権範囲の審査機関が存在すれば、授権する国家機関と授権範囲 の審査機関が提携して、授権される者の活動を弾力的に規律することが可能となる。

この意味での権限踰越の具体的な概念は、3章で論じるが、当初地方公共団体の権限をめ ぐる文脈で展開されたのではなく、19 世紀中頃の個別法律により授権された鉄道会社によ る権限行使の逸脱の事例から判例法理として形成されたものである。やがて権限踰越の法 理は都市法人や地方公共団体の他の類型にも適用されるようになり147、ついには国王王冠

(政府)と公務員、審判所等の下位裁判所に関しても適用されるようになった148。本研究

147 Janet McLean, Searching for the State in British Legal Thought: Competing Conceptions of the Public Sphere (OUP 2012) 92-93によると、イギリス法の特徴は、国 家と市民社会が伝統的に根本的に区別されていないことに求められる。See, Jose Harris, 'Introduction: Civil Society in British History: Paradigm or Peculiarity?' in Jose Harris (ed), Civil Society in British History: Ideas, Identities, Institutions (OUP 2003) 5-8.また、

McLeanは私法と公法の区分が次第に明確化されるようになったと論じている。McLean

の論述をふまえると、権限踰越の法理は、私法と公法が分化されていない時代に法人の領 域で成立し、現在では公法分野において確立している原則だといえる。

148 Harry Woolf, Jeffrey Jowell, Andrew Le Sueur, Catherine Donnelly, Ivan Hare (eds), de Smith’s Judicial Review (7th edn, Sweet & Maxwell 2013) para 4-013. Woolf らによれ

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では地方公共団体に対する権限踰越の法理の適用のみを論じる。

制定法以外の方法によって設立された法人がイギリスには歴史的に存在したが、その法 人に対して権限踰越の法理は限定的にしか適用されないといわれる149。そうした法人は、

制定法によって規律される領域では権限踰越の法理に服する一方で、権能の内容は自然人 と同様の取引行為(契約の締結、土地の取得や新たなサービスの提供といった行為)をな しうるものと把握され、制定法によって授権された法人と比較して、より広い範囲で活動 しうる150。そのため、権限踰越の法理によって権限が制約される領域は限られている。た だし、そのような法人であっても、法人設立の特許状に抵触する活動をすることは認めら れず、また具体的な法的権限を有さずに個人の権利を直接侵害することは認められない151。 そして、権限踰越の法理は法人の権利能力全般の統制に関わる法理であるから、法人が 救済の義務を負う場面においてもこの法理が問題となる152。金銭のみが関わる一方当事者 の権限踰越の契約から生じる不当利得については、控訴院がその支払いを認めている153。 近年では、5章で論じるように、権限踰越の法理と行政法上の私人を救済する法理との間の 緊張関係が問題となっている。

ば、この権限踰越の法理の主たる特徴はコモン・ローの法人の権限に関連して長きにわた り既に形成されてきたものだという。

149 Woolf, Jowell, Le Sueur, Donnelly, Hare (n 148) para 4-014.

150 ただし、法人が法による統制から逃れて自由に行動できたということを意味しない。See, W Ivor Jennings, ‘Central Control’ in in Harold J Laski, W Ivor Jennings, William A Robson (eds), A Century of Municipal Progress 1835-1935 (Greenwood Press 1978, reprint of the 1935 edition published by Allen & Unwin) 417-418.

151 Woolf, Jowell, Le Sueur, Donnelly, Hare (n 148) para 4-014.

152 Sharland (n 160) paras 6.45-6.51. 権限踰越の行為に対する救済の展開について、See, W Ivor Jennings, ‘Central Control’ in in Harold J Laski, W Ivor Jennings, William A Robson (eds), A Century of Municipal Progress 1835-1935 (Greenwood Press 1978, reprint of the 1935 edition published by Allen & Unwin) 425-427.

153 Westdeutsche Landesbank Girozentrale v Islington LBC [1994] 1 WLR 938 (CA). 本 事件は4章で論じる、地方公共団体の金利スワップ取引の法的権限が問題となった Hazell 事件最高裁判決で権限踰越の法理が適用された判断を受け、権限を踰越した契約の事後処 理の方法が問題になった判例である。なお、控訴院から上訴された貴族院では金利スワッ プ取引の利子の計算方法が単利か複利かをめぐる論点のみが上訴されることとなり、権限 踰越の銀行業務の故に生じた金銭をエクイティ上の財産として位置づけた旧来の判例の位 置づけのみならずエクイティの体系に影響を及ぼす判断が示された。Westdeutsche Landesbank Girozentrale v Islington LBC [1996] AC 669 (HL). 溜箭将之「イギリスのト ラストはなぜわからないか ケース・スタディーとして Westdeutsche Landesbank Girozentrale v Islington」『外から見た信託法(トラスト60研究叢書)』(トラスト60、2010)

は本事件の貴族院判決の議論に着想を得て信託法制の動向を総合的に捉え、「アメリカでは、

私法的な問題は公法と手続法に収斂」し、「イギリスでは、公法や手続法上の問題は私法に 収斂する」という視点を提示し、本判決が公法上の救済に関わる問題をエクイティの法理 を利用して結論を導いた様子に「私法のテクニカリティーを操って解決を導く法律家の手 腕」を看取している(14-15頁)。本研究で取り扱う権限踰越の法理は、3章で論じるその 法理の形成過程を重視するならば「私法のテクニカリティーを操って解決を導く法律家の 手腕」が発揮される一例といいうるかもしれない。

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ドキュメント内 権限踰越の法理の下で の英国地方自治 (ページ 45-48)