4 副次的権限の成文化と権限踰越の法理の活性化
4.3 副次的権限の成文化と縮小
4.3.3 副次的権限に関する裁判所の判断
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裁判所は1972年地方自治法111条制定によって判例法理が制定法へと置き換えられたと いう見解を示した。控訴院はMcCarthy & Stone (developments) Ltd事件で、地方公共団 体が1972年地方自治法111条1項を参照せずに判例法上の副次的権限に依拠する余地は残 されていないとの判断を示している55。そして控訴院は、判例法理として形成された副次的 権限が、制定法が付与する権限よりもおそらくより広範な領域で認められる権限であり、
他の活動から「結果として生じる」活動を認めるほどの権限であることを示唆した。1972 年地方自治法 111 条で副次的権限が成文化された後においても、地方公共団体が「結果と して生じる」(consequential upon)権限を援用しうるならば、地方公共団体はより活動しや すくなるだろう56。
1972年地方自治法111条には、権限踰越の法理に関する従来の判例には現れていない「職 務」(function)という用語が規定されたため、判例では、この職務概念の解明と職務に付随 する権限の範囲が争われる。1972年地方自治法の第4部は、職務(Functions)と題するもの であり、「環境」(the environment)57、「教育、社会サービスおよび福祉サービス」(education,
social and welfare services)58、警察機能や消防機能を含む「種々雑多な職務」
(miscellaneous functions)59を規定しているが、後にみるように、111条の職務概念は本法
上規定されている職務に限定されないものである。
以下では、副次的権限に関する判例の解釈を論じる。
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職員を有給で同団体へと送り出す地方公共団体の判断が違法であり無効とされた。
高等法院は本件で職務の解釈上権限を認めたものの、職務の解釈手法について具体的に 検討しておらず、職務の解釈に資する判例とは言いにくい。
副次的権限は以下でみるように、地方公共団体の財政支出入に関わる判例で限定的に解 釈されてゆく。1980年代には地方公共団体が歳入拡大を試みて様々な財政政策を講じてい た。副次的権限の限定的な解釈は地方公共団体の活動の領域を限定していくことになる。
Hazell事件は成文化された副次的権限全般の解釈に関するリーディング・ケースであり、
職務に関する解釈の定式化を行った事件である62。
Hazell 事件では、地方団体が関与する金利スワップ取引が副次的権限によって適法とな
るかが争われている。金利スワップ取引とは利子率の変動によって利潤を最大化する取引 である。地方当局が関与していた取引は、1989年までに利子率が下落すれば利潤が発生す る一方、利子率が上昇すれば損失を被る取引であった63。地方当局が取引を数年間継続して いると、大規模な損失を計上するおそれがやがて顕在化した。利子率の上昇により地方当 局が損失を被ることが明らかとなったため、会計検査官は裁判所に当該取引が違法であり 無効であると宣言するよう訴えを提起した。当該地方団体自体が会計検査官の主張を争お うとしなかったこととは対照的に、金利スワップ取引の当事者である銀行が異議を主張し、
訴訟に参加した。裁判所が当該取引を違法と判断する場合、銀行は地方公共団体から限ら れた金額しか支払われなくなる恐れがあった。
高等法院合議法廷は会計検査官の宣言判決の訴えを認め、取引が全面的に違法であると 判示した64。地方公共団体は当該地方公共団体の法的権限が国王の特許状によって付与され たものであり、自然人と同様契約を自由に締結する権限を有するかが争われたが、裁判所 はこの主張を退けている。そこで、地方団体の法的権限が、制定法により明示的に授権さ れているか、または副次的権限により、制定法上黙示的に認められるかが問題とされた。
前者の明示的な授権については認められていない。後者の黙示的な権限についても認めら れなかった。取引中に仮に金利が低下した場合には、借入に伴う地方団体の返済の負担が 緩和される可能性はあるものの、これは地方団体による借入の助けとなるものではない。
そのため、借入という職務の処理ではなく借入の職務の結果の処理を促進するにすぎない 事項については、111条の副次的権限によって認められる権限とはいえないと裁判所は判断 を法的に有効であると認定している。
62 Hazell v Hammersmith and Fulham LBC [1992] 2 AC 1 (HL).
63 1990年代には金利スワップ取引に関わる訴訟が相次いで生じている。See, Kleinwort
Benson Ltd v South Tyneside MBC [1994] 4 All ER 972 (HC), Morgan Grenfell & Co Ltd v Welwyn Hatfield DC [1995] 1 All ER 1 (HC), South Tyneside MBC v Svenska
International Plc [1995] 1 All ER 545 (HC), Kleinwort Benson Ltd v Birmingham City Council [1997] QB 380 (CA), Westdeutsche Landesbank Girozentrale v Islington LBC [1996] AC 669 (HL), Guinness Mahon & Co Ltd v Kensington and Chelsea Royal LBC [1999] QB 215 (CA).
64 [1990] 2 QB 697 (HC).
89 した65。
控訴院は高等法院合議法廷の判断を見直し、銀行側の主張を部分的に受け入れ、取引の 一部を適法だと判示した66。控訴院は、本件で問題となっている金利のリスク管理という活 動は制定法上認められている債務管理(debt management) に付随するものであり、地方当 局が有する借入と出資の権限と、地方税納税者およびサービス提供対象者の利益を十分考 慮して借入と出資を行う義務に付随しているとした。結論として、地方当局が損失の圧縮 に着手する前の投機目的の金利スワップ取引は違法であり、他方で、地方当局が損失の圧 縮に着手した後は、地方税納税者の損失を緩和するという適法な目的が追究されているの で適法であるとされた。高等法院が地方公共団体の権限に着目して取引の違法を判示した ことに対し、控訴院は地方公共団体の活動の目的に注目し一部の取引の適法性を認めてい る67。
会計検査官と地方当局側の双方は控訴院判決に不服であるとして、貴族院に上訴した。
貴族院は会計検査官側の主張を認めて控訴院判決を覆し、取引は地方当局の権限にとって 副次的なものとはいえず、地方当局による借入の職務に付随する取引を促進するよう目論 まれたものでもないとし、当該取引は権限踰越にあたり違法であると判示した。利潤獲得 目的で投機的な取引を行うことは制定法上認められておらず、地方当局のスワップ取引は 借入の職務に付随するものとはいえない。そして、控訴院ではスワップ取引が債務管理に 付随するものだと認められたが、債務管理は地方公共団体の職務ではないため、金利スワ ップ取引が債務管理に付随するとの主張も認めらなかった。こうして貴族院は副次的権限 を認定せず、権限踰越の法理により地方公共団体の活動が違法であると判示したのである。
本判決では、副次的権限の解釈が初めて定式化されている。貴族院は1972年地方自治法 111条の職務とは地方当局が負うすべての義務と、地方当局が行使するすべての権限を含む ものと判断した。貴族院のテンプルマン裁判官は職務を「地方当局のすべての義務及び権 限――国会が地方当局に委ねた活動の総和(all the duties and powers of a local authority:
the sum total of the activities Parliament has entrusted to it)」と定義づけている68。貴族 院による職務の定義は、控訴院がHazell 事件で以下の通り示した職務の定義を踏襲したも のである69。
65 なお本件では、地方団体の取引行為自体に関して、Wednesburyの合理性基準を適用す れば不合理であると判断されるとの見解も示された。
66 Hazell v Hammersmith and Fulham LBC [1990] 2 QB 697 (CA).
67 See, John Sharland, A Practical Approach to Local Government Law (2nd edn, OUP 2006) [6.10].
68 Hazell (n 62) 29 (Lord Templeman).
69 Hazell v Hammersmith and Fulham LBC [1990] 2 QB 697 (CA). 本件の社会的背景に ついては、See, Duncan Campbell-Smith, Follow the Money: The Audit Commission, Public Money and the Management of Public Services, 1983-2008 (Allen Lane 2008) Ch 6 (Closing the Swap Shop, 1988-91).
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「何が職務に該当するかは〔111条1項の〕意味において明示的に規定されていないものの、
当裁判所が殆ど疑いを入れる余地がないと考えるのは次のことである。本項の文脈におい て「職務」とは特定の制定法上の活動の複合体(the multiplicity of specific statutory
activities)を指すのである。この複合体とは、1972 年地方自治法の他の条項や関連する法
律に基づき、カウンシルが明示的に若しくは黙示的に遂行する義務を負う活動又は遂行す る権限を有する活動である。」70
このように職務は「地方当局のすべての義務及び権限」を指すといわれるものの、実際 には制定法上の義務と権限が職務に該当するわけではなく、地方公共団体に一般的に要求 される権限や義務は111条が規定する職務には該当しないとされる71。その例として、地方 公共団体が衡平に活動する義務や、地方公共団体が地方税納税者から徴収した金銭を慎重 に取扱う義務が挙げられる72。
これらを総合して考えると、地方公共団体の職務として認められるのは制定法上明示的 に若しくは黙示的に規定されている義務や権限であり、かつ地方公共団体に一般的に要求 されていない義務や権限である。
そして、副次的権限が認定されるためには、地方公共団体の職務が存在することが示さ れねばならず、かつその職務が適法でなければならない73。職務の存在が全く認められない 場合、または職務が違法とされる場合には、地方公共団体の活動は、副次的権限が認めら れないために権限踰越の法理が適用されて、違法であり無効と判断される。
職務に該当する義務や権利の範囲は後の判例によって限定されることとなる。
また、裁判所は活動が職務に付随するかを決するにあたり、職務を付与または制約する 制定法上の条項を考慮しなければならず、そして、望ましいまたは便利であることのみを 理由として職務に付随する活動と判定してはならない74。地方公共団体は1972年地方自治 法 111 条のみを利用して行動することはできず、他の法律によって権限または義務があら かじめ定められている場合に、副次的に行動しうるにすぎない。控訴院は副次的権限の限 界について次のように補足した。
「〔1972 年地方自治法111 条1項〕自体は、どのような活動を遂行することについても、
他の条項に依拠せずに権限を付与するものではない。111条の見だしが示唆しているように、
〔111条1項〕は副次的な権限のみを付与するのである。副次的権限とは、カウンシルが他
70 Hazell (n 69)722-723 (Woolf LJ). Woolf LJは言及していないが、同様の定式化はR v District Auditor for Leicester, ex p Leicester City Council (1985) 25 RVR 191控訴院判決 にも見られる。See, Crowford (n 46) 7.
71 Sharland (n 67) [6.19].
72 Sharland (n 67) [6.19].
73 Sharland (n 67) [6.19].
74 Sharland (n 67) [6.19].