4 副次的権限の成文化と権限踰越の法理の活性化
4.5 小括
5.2.4 福利に関する権限の拡大
123 範囲が争われるようになる。
124 あたり、大臣の命令に従わねばならないことである。
高等法院は地方公共団体の主張を退けて、福利に関する権限を制約する規定が存在しな いと認定した。高等法院によると、1998年教育・高等教育法22条と23条の解釈上、金銭 の扶助は学生に対して金銭を扶助する排他的かつ包括的な方式に該当しないので、地方公 共団体が有する学生扶助の権限が制約されるとは考えられない。当該法律はこのように資 金援助に関する地方公共団体の権限を制約し、または禁じるものではない。そして高等法 院は、福利に関する権限が地方公共団体に対して認められる別個独立した権限の源である と論じて、地方公共団体が学生を金銭的に扶助する権限を有すると判示した。
本判決の特徴として、第一に福利に関する権限の適用範囲が拡大して解釈されたことが 挙げられる。裁判所は、2000年地方自治法2条1項の福利に関する権限について、2条1 項のみを援用するよりも同条4項(財政的援助を福利に関する権限に含める規定)または5 項(地域外の者に対する権限行使を福利に関する権限によって認める規定)を援用するこ とで、権限の及ぶ範囲が拡大されるとの解釈を示した。2000年地方自治法2条の複数の条 項を組み合わせて解釈することにより福利に関する権限の適用範囲が拡大されるというこ とは、本判例で初めて示された解釈である。
第二の特徴は福利に関する権限への制約を限定的に解釈したことである。裁判所はまず、
福利に関する権限関連の指針等を参照して、福利に関する権限の制約の範囲を縮小する説 に同意している。そして裁判所は、法令上、地方公共団体が財政的に扶助を提供すること を制約する規定が存在しないことと、2000年地方自治法3条に言及することで福利に関す る権限の行使を明示的に制約する条項が存在しないことを挙げ、本件では福利に関する権 限が制約されないと判示した。
それでは、福利に関する権限の行使が特定の法律により明文で制約されているときに、
法律の解釈でその行使が認められることはありうるだろうか。Grant事件控訴院判決では、
ヨーロッパ人権条約上の権利保護の観点から福利に関する権限の行使が認められるとの判 断が下されている。
原告はジャマイカ国籍の不法滞在者であり、かつ子供の母親である。原告はヨーロッパ 人権条約8条の家族が同居する権利を援用しながら、地方公共団体が住居施設等を原告に 対して次の時点まで扶助すべきであると主張した。その時点とは、原告が大臣に対し無期 限の滞在許可を申請していたのだが、大臣が原告のこの無期限滞在許可申請の決定を下し、
また原告が大臣からの退去命令に従わない時点を指す。地方公共団体は原告の主張を退け て、ジャマイカへの渡航費用を負担する代替案を提示した。地方公共団体の主張によれば、
地方公共団体は住居施設を長期間提供する等の扶助をなす権限を有していなかった。原告 は地方公共団体の決定に不服であるとして訴えを提起した。
高等法院は以下の法令の枠組みと指針を重視し、地方公共団体の行使しうる権限は住居 施設の提供に限定されており、福利に関する権限に基づいて渡航費用を扶助し得ないと判
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断した31。2002年国籍、移民及び庇護法の第3附則は扶助の不適格性について定めている32。 2002年国籍、移民及び庇護法第3附則1段1項によると、不法滞在者には1989年児童法 17条や2000年地方自治法2条をはじめとして扶助条項が適用されない。ただし、2002年 国籍、移民及び庇護法第3 附則第3段落では、ヨーロッパ人権条約上の権利を侵害されな いために必要とされるならば第3附則第 1段落は適用されないと規定している。渡航の援 助について定める第3附則第8段落では、外国籍の避難民やEU加盟国の国民が連合王国 から渡航することを可能にするための規則を大臣が規定しうると定める。一時的な住居の 提供に関して規定する第3附則第9段落では、第8段落に関する渡航手続が実施されるま で、未成年の子供がいる者に住居施設を提供する場合の規則制定権を大臣に認めている。
この条項に基づいて制定された2002年の規則3条3項によれば、退去命令に従う英国内の 不法滞在者に対して、地方公共団体が住居施設の提供を手配することが認められている。
しかし、渡航費用に関しては扶助に関する規定が何ら存在しない。ただ、この規定に関す る大臣の指針第27 段落と28段落によると、地方公共団体には不法滞在者に対して住居施 設の提供をするという限定的な権限しか認められておらず、不法滞在者に対する渡航費用 については、内務省移民・国籍局が責任を有していると明示されている。こうして高等法 院は地方公共団体の主張を認めなかった。
控訴院は高等法院の判決とは対照的に、地方公共団体には渡航費用を扶助する権限が認 められるとの判断を下した33。控訴院はまず原告が第3附則第1段落の適用対象者であるこ とと、2000年地方自治法2条が2002年国籍、移民及び庇護法第3附則第1段落において 適用が明示的に除外されていることに注目している。それらが検討された上で、2000年地 方自治法 2 条の福利に関する権限を援用して地方公共団体が渡航費用を財政的に扶助する ことは、第3附則第3段落に該当しない限り行使できないと判断された。
そして控訴院は制定法により課される制約が存在するにもかかわらず、以下の理由によ り、福利に関する権限が第3附則第 3段落の救済規定のために行使されうると論じた。地 方公共団体は、原告らに対してヨーロッパ人権条約上の権利を侵害しない他の権限の存在 を考慮する権限を有しているが、その権限が認められるのは2002年の規則に基づく住居施 設提供の権限を行使しないと地方公共団体が一度判断し、そしてヨーロッパ人権条約上の 権利を侵害しないようにする必要がある場合である。第3附則第 3段落の趣旨は、ヨーロ ッパ人権条約上の権利が侵害されないよう、地方公共団体が2000年地方自治法2条の福利 に関する権限を必要な範囲で行使できるものとして解釈される。これらにより、原告らの ヨーロッパ人権条約上の権利が侵害されない最善の方策を考慮すれば、地方公共団体が目 的を達成するために必要と考える範囲で、福利に関する権限と2002年の規則により付与さ れた権限を選択的に行使すべきでないと決定する合理的な理由を見いだしえない。こうし
31 R (on the application of Grant) v Lambeth LBC [2004] EWHC 1524 (Admin).
32 Nationality, Immigration and Asylum Act 2002, sch 3.
33 R (on the application of Grant) v Lambeth LBC (n 28)
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て裁判所は、大臣の指針では認められていない地方公共団体の活動を2000年地方自治法2 条の福利に関する権限によって認めた。
本件の特徴は、福利に関する権限を明示的に制約する法律が存在するとしても、その法 律の解釈によって福利に関する権限の行使が制限されないことがあると判断されたことで ある。控訴院は、原告のヨーロッパ人権条約上の権利を保護するにあたり、大臣の指針に とらわれずに、地方公共団体が2002年国籍、移民及び庇護法第3附則を通して福利に関す る権限を行使しうると判断した。福利に関する権限を制約する法律が個別具体的に解釈さ れない限り、福利に関する権限の限界は明らかにならないといえる。
本件は、ヨーロッパ人権条約上の権利の保護と福利に関する権限を通して、不法滞在者 への扶助の手段について地方公共団体による政策の選択の余地をより広く認めた事例とい える。