第 9 章 主要投資インセンティブ(奨励ゾー
3. 資本市場
1962年7月、民間人によるパートナーシップ形態でタイに初めて証券取引所が設立され た。しかし、当該取引所は政府が適切な指導を行わなったこと等から売買が少なく、1970 年代初期には閉鎖に追い込まれた。
当初、証券市場の育成に消極的だったタイ政府に政策変更を迫ったのが1969年の世銀勧 告である。世銀は開発融資の条件として国内資本市場の整備を強く勧告し、タイ政府は1975 年にタイ証券取引所(SET)を設立した。
また、1999年6月に、SETは資金調達の多様化を目的として、中小企業を対象とした証 券市場であるMAI(Market for Alternative Investment)を開設した。
現在、SETには、株式、債券、デリバティブ、ETF等が上場している。
(1) 株式市場
1975年に設立されたSETは、当初、株式14銘柄、政府証券2銘柄の計16銘柄で取引 を開始した。1980年代後半以降、海外からの直接投資の増加でタイ経済が発展したことに 加え、1993年には米国金利の低下に端を発するアジアへの資金流入の過程でタイ市場にも 大量の資金が流入し、1994年1月にSET指数は1,789.16ポイントまで上昇した(図表 17‑7)。
しかし、その後は米国や国内金利の上昇、不動産価格の下落、金融不安の拡大、アジア 通貨危機の発生、景気の低迷等で株価は急激に下落し、1998年9月には204.59 ポイント と、94年の高値から9割近い水準にまで低下した。
2003年から企業業績の回復や世界的な株高を反映し、SET指数も上昇に転じたが、2008 年のリーマン・ショックの影響で、前年末に858.10ポイントだったSET指数は同年11月
に380.05ポイントと56%下落した。しかし、国内経済の回復が早かったこともあり、2010
年12月末時点のSET指数は1,032.76ポイントと既にリーマン・ショック前の水準を上回 っている。2010年12月末時点の上場企業数475社、株式時価総額は月末ベースでの過去 最大となる8.3兆バーツである。
図表 17‑7 株価指数(SET 指数)の推移
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800
89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
(暦年)
(1975/4=100)
(注)1975年4月30日を基準日とし、その日の時価総額を 100 として算出。
(出所)SETおよびBloomberg資料より作成
(2) 債券市場
1990年代に入り、急速な経済成長を背景に、交通、電力、通信といった大型のインフラ 整備や産業発展に伴う大型の設備投資等のための資金需要が高まり、これに応えるために、
1994年に業者間の債券流通市場が開設され、売買が開始された。しかし政府は、国債の期 限前償還等による公的債務の圧縮を進めていたこともあり国債の発行残高が少なく、当初 は市場としてあまり機能していなかった。
しかし、1997年のアジア通貨危機とこれに伴う景気の悪化により税収が落ち込み、1998 年 9 月会計年度から国債の発行額が増えた。また、業者間の債券流通市場は同年に改組さ れてタイ・ボンド・ディーリング・センター(TBDC)となり、格付機関の設立等とあいま って、その後の債券市場の急成長を支えてきた。
2003年11月には、投資家が債券の売買を行う取引所(Bond Electronic Exchange:BEX)
が開設されたが、BEXでの債券売買は全体の0.001%(2008年、ThaiBMA調べ)に過ぎず、
未だに売買のほとんどが店頭取引で行われている。
2009年末の債券残高は前年末比20%増の6.1兆バーツ。主な構成比は、国債(T-Bill含
む)が39%、地方債が30%、社債が22%である。
図表 17‑8 債券残高の推移
0 1 2 3 4 5 6
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
(暦年)
(兆バーツ)
外国債 社債 地方債 国営企業債 短期国債
国債(T‑Bill除く)
(出所)ThaiBMA資料より作成
第18章 資金調達
企業の資金調達に関する規制はほとんど無い。現地でのバーツ建て借入・ドル建て借入 は制限なく自由に行え、海外からの外貨借入・親会社借入も自由である。ただし、ローン が外貨建てで且つ金額が2 万ドル以上の場合、ローン着金時より3日以内に外為フォーム を外為銀行に提出しなければならない。
日系企業の資金調達の手段としては、①親会社からの出資(増資等)、②親会社またはグ ループ会社からの借入(親子ローン、CMS)、③親会社の保証を元にした邦銀からの借入、
が多数を占めている。④タイの商業銀行からの借入については、一部の日系企業からは、「金 利面では邦銀より魅力的だが、日本の親会社の方針、取引銀行のアロケーションの観点か ら、現地商業銀行から借入をおこすことは難しい」との声も聞かれた。
なお、社債での資金調達については、一部リース会社を除けば行っておらず、株式での 資金調達についても、資本構成の観点から消極的な声が多かった。
1.商業銀行からの借入
借入金利の指標として、①当座貸越優遇金利(Minimum Overdraft Rate:MOR)、②最 優遇貸出金利(Minimum Lending Rate:MLR)、③小口貸出優遇金利(Minimum Retail
Rate:MRR)の3種類がある。日系企業が短期借入をする際には、①のMORが基準とな
り、信用力に応じてスプレッドが上乗せされる。②のMLRは、地場の銀行が提供する住宅 ローンや個人カードローンの金利として使用されている。③のMRRは、地場の銀行が地場 の企業向け等に小口の貸出を行う際の金利として使用されている。
MORの水準を邦銀3行と外国銀行支店平均(邦銀3行含む)、地場商業銀行平均と比較 すると、邦銀3行の金利水準の方が高いことが分かる(図表 18‑1)。
銀行の融資基準は各行の経営方針により異なるが、傾向として邦銀の場合はタイでの事 業計画や商流の確度、親会社保証を重視し、地場銀行の場合は物的担保価値を重視する傾 向にある。ただし、地場銀行の場合は、現地の工場・設備等を担保に入れることも可能だ が、評価基準が明確ではなく、担保徴求手続きが複雑で時間もかかるため、スタンドバイ L/C23や親会社保証を利用することが多い。
23 海外現地法人の現地での借入等に対する保証の手段として、日本の取引銀行が現地の銀行に 対して差し入れる信用状。
図表 18‑1 邦銀 3 行支店の当座貸越優遇金利(MOR)の水準(単位:%)
【参考】 【参考】
外国銀行支店 平均
地場商業銀行 平均 2010年1月 10.750 9.750 10.750 8.509 6.838 2010年2月 10.750 9.750 10.750 8.509 6.838 2010年3月 10.750 9.750 10.750 8.509 6.838 2010年4月 10.750 9.750 10.750 8.509 6.838 2010年5月 10.750 9.750 10.750 8.509 6.838 2010年6月 10.750 9.750 10.750 8.509 6.838 2010年7月 10.750 9.750 10.750 8.527 6.922 2010年8月 10.750 9.875 10.750 8.536 6.943 2010年9月 10.750 9.875 10.750 8.554 6.957 2010年10月 10.750 9.875 10.750 8.554 6.957 2010年11月 10.750 9.875 10.750 8.554 6.957 2010年12月 10.750 9.875 10.750 8.580 7.056 2011年1月 10.750 9.875 10.750 8.643 7.214
みずほコーポ レート銀行 三井住友
銀行 三菱東京
UFJ銀行
(注)シャドーは金利が上昇した月を表している
(出所)BOT資料より作成
図表 18‑2 タイの金利の期間構造(イールド・カーブ)の推移
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0
0 5 10 15 20
(年)
(%)
2011/01
2010/01
(出所)BOT資料より作成