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第 9 章  主要投資インセンティブ(奨励ゾー

11.  二重課税防止条約

  タイは、日本と二重課税の回避、脱税の防止のために、日タイ租税条約を締結している。

この条約の対象となっている租税は、日本の場合は所得税と法人税で、タイの場合は法人 所得税、個人所得税および石油収入税である。これらの租税についてどちらの国が課税す るかを明確にしている。また、二重課税排除のために、①タイにおいて課税された税額は 日本において納付すべき法人税額から控除される(直接外国税額控除制度)、②タイの子会 社から配当を得た場合は、子会社がタイで納付した税額のうち、日本企業が受け取った配

り、タイの子会社が減免された所得税額を、日本においてみなし外国税額控除することが 認められている、等の制度が設けられている。

ひとくちメモ (9):  税務調査 

  タイでは外資企業に対する当局の税務調査が厳しくなっている。特に輸入関税と法人所得税(BOI 恩典、

移転価格)は厳しくチェックされる。輸入関税では BOI で輸出製品用原材料として輸入関税免税の恩典を 受けている部品等が、最終的に本当に輸出されたかを証憑を以って立証することが求められる。間接輸出 の場合でも追跡して立証しなければならない。立証できなければ追徴課税となる。面倒であれば初めから BOI 恩典を申請しないという方法もある(関税率の低い物品等)。 

  法人所得税も通常は BOI 免税期間中は税務調査に入ってくることは稀で、期間が切れる頃にやってくる ことが多いが、極端に赤字が続いたりすると、期間内でも移転価格による損失取引の疑いがあるとして調 査に入られることがある。 

  また BOI 恩典は製品毎に与えられるため、恩典事業と非恩典事業の損益を区分経理しておくことも必要。

税務に関しては全て基本的に納税者側に立証義務があり、現場の税務調査官に強い判断権限があるため、

企業としては証憑を確保し、きちんと説明できるような経理処理を普段から行うことが求められる。BOI 恩典の下での企業経営とは、制約の下での経営であり、日本とは違うということを意識する必要がある。 

 

ひとくちメモ (10):  経理担当者が重要 

  タイでは企業会計教育が遅れているため、経理のわかる人材がそもそも不足しており、レベルも低い。

加えて言葉の問題等から日本人幹部との経理処理に関する意思の疎通が十分でないことが多く、経理部門 と製造部門、資材部門、販売部門等タイ人同士のヨコのコミュニケーションも不十分なことが多い。その ため、税務調査にきちんと対応出来ないことになる。 

  日本人幹部も技術畑、営業畑の人が多く、経理に詳しくない場合が多い。税務調査には平素から各部門 が連携し、きちんと証憑をそろえ、タイ語で対応しなければならないので、いかにしてタイ人の有能な経 理スタッフを確保するかが重要な課題となる。即戦力と言える人材はなかなかいないので、経理担当者を 一定期間日本へ送って本社の日本人が指導するといった自前で育てる対応が必要となる。 

 

第13章 用地取得 

  タイでは、土地法により、外国企業および外国人は土地を保有することが認められてい ない。すなわち、外国人の資本持分が 49%を超えている企業の場合、または外国人株主数 が全株主数の半数を超えている企業の場合には、土地の取得ができないのが原則である。

しかし、既に述べたように、BOIの認可事業の場合、あるいはタイ工業団地公社(IEAT)

認定の工業団地に入居する場合には、外国人の資本持分比率、あるいは外国人株主数にか かわらず、例外的に土地の保有が認められる。また、BOI 奨励事業の場合には、OBOI の 許可を条件に、所有が認められた土地の10%以内であれば、その一部を系列企業に使用さ せることもできる。

  なお、BOI認可事業の場合には、管理者または技能者の住宅用地として10ライ(1ライ

=1,600㎡)以下、また、事業の事務所用土地として5ライ以下の土地所有が、それぞれ許 可されている。さらに、1999年5月に土地法が改正され、4,000万バーツ以上の投資資金 を持ち込むなどの条件を満たした場合は、居住用に 1 ライ以下の土地の取得が可能になっ ている。

ひとくちメモ (11):  タイでマンションの購入は可能か? 

  タイでは、コンドミニアム法により、外国企業および外国人がマンション(コンドミニアム)を区分所 有することが認められている。ただし、所有割合に制限があって、1999 年コンドミニアム改正法では総床 面積の 49%以下(それまでは 40%以下であった)でなければならないとされている。また、購入資金につ いても、海外から導入した外貨、外貨勘定からでなければならず、その送金証明が必要で、現金を持ち込 んだ場合は認められない。 

  なお、外国企業および外国人がタイでマンションを購入する場合には、区分所有権の登記の際の手続き、

物件の管理、資産価値の下落リスク等の問題が発生する可能性があり、専門家の協力が不可欠である。特 に、不動産関係の詐欺に十分注意する必要がある。これまでも、手付金を払ったがマンション所有権者の 手に渡っていなかったとか、相場の倍で買わされたとか、抵当権の付いている物件を買わされた、といっ たトラブルに会った人が少なくないようである。 

  タイに行く場合には、最初は賃貸で生活を始める方が無難であろう。地方の工業団地の中には、団地に 入っている日系企業がマンション自体を借り上げて駐在員が住んでいる箇所もある。 

 

第14章 知的財産権 

1.知的財産権の保護  (1) 知的財産権の保護のために 

  特許権、意匠権、商標権等の工業所有権や著作権、半導体回路配置デザイン等の知的財 産権については、それを発明、考案あるいは作り出した国によって保護されるのみならず、

それらを利用して製造し、あるいは製造した製品を販売している他の国においても、広範 な国際協定等によって、同じように保護されるようになってきている。

  タイにおける知的財産権制度は近年急速に整備が進められてきているが、依然として模 倣品があとを断たないのが現状である。日本人および日系企業は、タイにおいても、相互 主義に基づいて、タイの国民および企業と同様に保護を受けることができる。しかし、タ イに直接投資を行って工業所有権等に係わる新製品を製造し、タイ国内で販売し、あるい はタイ国外に輸出しようとする場合には、模造品の横行を防止する観点から、予めタイ(あ るいは輸出先国)において工業所有権等の出願、ないしは登録を済ませておくことが望ま しい。ただ、タイにおける工業所有権等の取得には数年(特許権審査で4年から 6年位、

小特許権(日本の実用新案権に近い)で2年から3年、商標権審査で1年から1年半位)

を要することもあるため、工業所有権等の出願は早目に行うことが必要である。

(2) 知的財産権に関する法体系 

  タイは、知的財産権の保護強化に向け、ウルグアイ・ラウンドにおける協議の段階から 参加し、関連法規の整備に取り組んできた。タイにおける知的財産権保護関係の法規は、

図表 14‑1に示してあるように、著作権、商標権、植物新品種権等のように個々の権利毎の 法律により規定されているものと、特許権、小特許権、意匠権等の工業所有権のように特 許法の中で規定されているものとがある。ただ、実際に模造品が製造・流通されて知的財 産権が侵害された場合については、個別の知的財産権保護関係の法規だけでなく、刑法に より刑事制裁が規定されており、税関に関する法律により当該商品の輸入又は輸出の停止 が規定されている。 

  一方、知的財産権の保護に関する国際条約の締結状況をみると、タイは、文学・芸術作 品の保護に関するベルヌ条約には加盟しているが、工業所有権保護に関するパリ条約(た だし、2008年1月にパリ条約加盟案がタイ国会を通過)、特許協力条約(ただし、2008年 1月に特許協力条約案がタイ国会を通過。)、商標に関するマドリッド協定、植物新品種保護 条約等の国際条約には加盟していない。しかし、WTO には加盟しているので、「知的所有 権の貿易関連協定」(TRIPS協定)に準拠した知的財産権の保護に関する義務は負っており、

それを踏まえた国内法の整備を図ってきている。

図表  14‑1  タイの保護対象となっている知的財産権の概要 

知的財産権 関係法

(施行年月) 所轄官庁 保護対象 認定手続き 保護期間 備 考

著作権 1994年著作権法

(1995.3)

商務省 知的財産局

芸術的創作物(言語表現 物、音楽、映画、絵画、彫 刻等(CD、ビデオ、コン ピュータ・ソフトウエアを含 む))、実演者等の著作隣 接権

自然発生(無方式主 義、特別の登録行為 不要)。知的財産局 への記録可。

法人:発表より50年 間、

個人:存命中および死 後50年間

特許権 1999年改正特許法

(1999.9)

同上 発明権(新規性、進歩性、

産業上の利用性、方法に関 するものを含む)

出願、方式審査、公 開、(第三者による 異議申立)、実体審 査、登録、特許証の 交付

出願日から20年間 先願主義、

1年間の優先権、

差止め請求権、強 制実施権の規定あ

小特許権

(実用新案権)

同上 同上 同上(ただし、進歩性は求

めず)

出願、方式審査、登 録、公開、(第三者 による審査請求)

出願日から6年間

(2年間の延長が2回 可)

先願主義、

1年間の優先権、

差止め請求権、強 制実施権の規定あ

意匠権 同上 同上 新規の工業意匠権(デザイ

ン)および手工業意匠(デ ザイン)

出願、方式審査、公 開、(第三者による 異議申立)、実体審 査、登録、意匠登録 証の交付

出願日から10年間 先願主義、

半年間の優先権、

差止め請求権の規 定あり

商標権 2000年改正商標法

(2000.6)

同上 識別性を有する商標、サー ビスマーク、集合商標、証 明商標(王室、赤十字等の 国際機関に関係するもの等 は除外)

出願、審査、公告、

(第三者による異議 申立)、登録、商標 登録証の発行

登録日から10年間

(10年ごとの延長で半 永久的)

6ヶ月間の優先権 あり

植物新品種権 1999年植物新品種 保護法(種苗法)

(1999.11)

農業・協同組合省 農業局

新規性、区別性、独自性、

均一性、安定性、商業的新 奇性(遺伝子組み替えには 制約あり)を有するもの

出願、書類審査、品 質審査、実地栽培審 査、認定、(第三者 による異議申立)、

登録、公告

生育期間2年未満:登 録日から12年間、

生育期間2年超:登録 日から17年間、樹木:

登録日から27年間

先願主義、

1年間の優先権、

差止め請求権、強 制実施権の規定あ

半導体回路配置 デザイン権

2000年集積回路の 回線配置保護法

(2000.8)

商務省 知的財産局

集積回路の回路配置デザイ

出願、審査、(補正 命令)、登録、確認 証の発給、公告、

(撤回要求等)

出願日もしくは最初に 業として利用した日の いずれか早い日から10 年間

先願主義、

1年間の優先権、

差止め請求権、強 制実施権の規定あ

地理的表示 地理的表示法

‑2004.4 同上 特別の優位性を有する地理

的名称を付した商品 出願、審査、公告、

(第三者による異議 申立)、登録

期間限定なし 差止め請求権の規 定あり

企業秘密 2002年営業秘密法

(トレードシーク レット法)

(2002.7)

同上 企業の有する機密性を保持 する情報(情報の秘匿性、

有用性、非公知性)

自然発生(無方式主 義、特別の登録行為 不要)。知的財産局 への記録可。

同上 差止め請求権の規

定あり

(出所)JETRO資料、各法律より作成

(3) 知的財産権認定のための手続き 

  タイでは、著作権、企業秘密などを除き、特許権(小特許権)、意匠権、商標権等の工業 所有権の保護を受けるためには、商務省知的財産局への登録が要件となる。登録出願によ り認定されたものだけが、権利侵害のあった場合に、関係法律により、警察による処分(差 押さえ、立入検査、逮捕)のほか、民事上の制裁(差止め、損害賠償、没収)、あるいは刑 事上の制裁(罰金、禁固、懲役)が科せられ、保護される。所轄官庁は、植物新品種権を 所管する農業・協同組合省農業局は例外として、商務省知的財産局にほぼ一本化されてい る。

  一般的に、特許権等の工業所有権の登録出願については、厳格な先願主義を採用してお り、一旦登録されると、出願人に登録証が発行される。この登録証の存続期間(保護期間)

は知的財産権の種類によって異なる。特許権(小特許権)、意匠権、商標権、植物新品種権 等には優先権16が認められている。