第 3 章 経済概況
3. 貿易構造
タイの貿易構造は、国際分業体制の中に組み込まれており、原材料、資本財を輸入して、
それをタイ国内において加工、製品化し、あるいは、中間財として他国に輸出している。
通貨・経済危機に伴う輸入の減少とバーツの切り下げに伴い、1998年以降、貿易収支は概 ね黒字で推移しているが、原油価格が急激に上昇した2005年や2008年には貿易赤字に陥 った。2011年の貿易収支は3億ドルの黒字。
図表 3‑7 タイの輸出入の推移
371
584 545 585
698 652 682 800
965
1,778 1,524
1,953
1,539
1,297 1,109
560 567 454
2,288
1,829 1,337 1,792 1,400 1,288 1,182 750 940
618 642 499 622
633 424 707 722
460 543
2,285
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
輸出総額 輸入総額
(億ドル)
(注)通関ベース
(出所)BOT資料より作成
(1) 輸出入の品目別構成
主な輸出品目は、コンピュータ・同部品、集積回路、自動車・同部品、電気製品・同部 品等。工業製品関連が全体の8割を占め(2011年、84%)、その他に天然ゴム等がある。
一方、主な輸入品目としては、自動車部品、化学製品、鉄・鉄鋼等の中間財及び原材料
(同、40.0%)、燃料等(同18.8%)、産業用機械等の資本財(同17.2%)の占める比率が 高い。燃料等については、原油価格の変動の影響を大いに受けている。
図表 3‑8 タイの主要輸出品
12.4%
10.5%
12.6%
11.4%
19.3%
31.3%
10.2%
5.1%
7.4%
5.5%
13.7%
7.5%
28.6%
24.4%
0 500 1,000 1,500 2,000
2001 2011
(億ドル)
その他(工業製品、鉱産物等)
工業製品(化学・石油製品)
工業製品(機械)
工業製品(自動車)
工業製品(電気・電子機器)
工業製品(農産物加工)
農林水産物
2,288
652
(注)通関ベース
(出所)BOT資料より作成
図表 3‑9 タイの主要輸入品
8.2%
7.4%
12.1%
18.8%
49.1%
40.0%
19.8%
17.2%
4.6%
4.0%
6.3%
12.4%
0 500 1,000 1,500 2,000
2001 2011
(億ドル)
その他
資本財(その他)
資本財(機械・設備など)
原材料・中間財(その他)
原材料・中間財(燃料)
消費財
2,285
618
(注)通関ベース
(2) 輸出入の国別動向
2010年、タイの輸出相手国に大きな変化があった。10年前(2000年)には輸出の4.1%
相当だった中国が、2010年には11.0%と最大の輸出相手国となった。この間、シェアを大 きく落としたのが米国である(21.3%[シェア1位]→10.3%[同3位])。2011年もこの傾向 は続き、中国のシェアは12.0%に上昇し、米国は9.6%に低下した。日本についてもシェア は徐々に低下しているが(2000年14.7%→2011年10.5%)、中国に次ぐ第2位の輸出相手 国である。
輸入相手国でも、中国の比重が高まっている。2000 年には全体の 5.5%だった比率が、
2011年には13.4%にまで高まり、日本に次ぐ第2位の輸入相手国となっている。最大の輸
入相手国は日本ではあるが、比率は低下傾向にある(24.7%→18.5%)。また、米国につい ては、輸出と同様、輸入でもシェアが半減している(11.8%→5.9%)。
ASEAN諸国の貿易シェアは、輸出では徐々に上昇しているが、輸入ではASEAN以外か
ら輸入する燃料等の価格変動が大きいため、大きな変化は見出し難い。2001 年から 2011 年の10年の間に、ASEAN 自由貿易地域(AFTA)内での関税撤廃が進んだこともあり、
輸出でのASEAN諸国の比率は4.4%ポイント(19.3%→23.7%)伸びている。一方、輸入
での比率に変化はない(16.2%→16.2%)。
図表 3‑10 タイの主要貿易相手国(2011 年)
中 国 12.0%
日本 10.5%
米 国 9.6%
香 港 7.2%
マレ ー シ ア 5.4%
そ の 他 55.3%
2011年
輸出
2,288億ドル
日 本 18.5%
中 国 13.4%
そ の 他 50.6%
米国 5.9%
UAE 6.3%
マレ ー シ ア 5.4%
2011年
輸入
2,285億ドル
(注)通関ベース
(出所)BOT資料より作成
図表 3‑11 輸出入の国別構成の推移
(%)
<輸出>
年 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 ASEAN 19.3 19.9 20.6 22.0 22.0 20.8 21.3 22.6 21.3 22.7 23.7 EU 16.7 15.5 15.3 15.0 13.6 13.9 14.1 13.2 11.9 11.2 10.6 米国 20.3 19.8 17.0 16.1 15.3 15.0 12.6 11.4 10.9 10.3 9.6 中国 4.4 5.2 7.1 7.4 8.3 9.0 9.6 9.1 10.6 11.0 12.0 日本 15.3 14.6 14.2 14.0 13.6 12.6 11.8 11.3 10.3 10.5 10.5 香港 5.1 5.4 5.4 5.1 5.6 5.5 5.7 5.7 6.2 6.7 7.2 その他 18.9 19.5 20.5 20.5 21.7 23.1 24.9 26.8 28.7 27.6 26.5 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
<輸入>
年 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 ASEAN 16.2 16.8 16.6 16.8 18.3 18.3 17.9 16.8 18.5 16.6 16.2 EU 12.7 11.3 10.3 10.0 9.1 8.7 8.5 8.0 9.0 7.6 7.8 米国 11.6 9.6 9.5 7.7 7.3 7.4 6.8 6.4 6.3 5.8 5.9 中国 6.0 7.6 8.0 8.7 9.4 10.6 11.6 11.2 12.7 13.2 13.4 日本 22.3 23.0 24.1 23.7 22.0 19.9 20.3 18.7 18.7 20.7 18.5 香港 1.3 1.4 1.4 1.4 1.3 1.2 1.0 1.1 1.3 1.0 1.0 その他 29.9 30.2 30.1 31.7 32.5 33.8 33.9 37.8 33.5 35.0 37.3 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
(出所)BOT資料より作成
図表 3‑12 タイの ASEAN・主要国との貿易(2011 年)
タイ 日本
ASEAN 中国
中東
米国
EU
240.7 421.6 218.6
241.6
543.0 103.7
305.8 133.8
178.5 369.2
304.1
274.0
(注1)2011年輸出入額、単位は億ドル (注2)矢印の太さは貿易額の大小を表す
(出所)BOT資料より作成
4.ASEAN の中でのタイ
(1) ASEAN で比較的高い位置を占めるタイ
1967年にインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポールの5ヵ国で発足
したASEANは、その後5ヵ国が加盟し1、現在、10ヵ国、総人口6.1億人、名目GDP約
2.2兆ドルの規模を誇る。ASEAN10ヵ国の中で、タイは人口では4位、名目GDP規模で は2位、1人あたりGDPでは4位に位置している。
図表 3‑13 ASEAN 諸国の比較表(2011 年)
人口 面積 名目GDP 1人あたり所得 万人 1,000 km2 億ドル ドル シンガポール 527 0.7 2,598 49,271
ブルネイ 43 6 155 36,584
マレーシア 2,873 331 2,787 9,700
タイ 6,408 513 3,456 5,394
インドネシア 24,103 1,911 8,457 3,509 フィリピン 9,586 300 2,131 2,223
ベトナム 8,932 349 1,227 1,374
ラオス 656 237 79 1,204
カンボジア 1,510 181 129 852
ミャンマー 6,242 677 519 832
合計(平均) 60,878 4,505 21,539 3,538
【参考】
日本 12,782 378 58,695 45,920
中国 134,812 9,597 72,981 5,414
インド 120,692 3,287 16,761 1,389
EU(27ヵ国) 50,056 4,326 175,777 35,116 NAFTA(3ヵ国) 46,012 21,578 179,857 39,089
(出所)IMF、外務省より作成
製造業を中心に経済成長を続けるタイは、ASEAN諸国内での貿易額も大幅に増えている。
(図表 3‑14参照)、2001年から2011年の間、ASEAN諸国内向け輸出は411億ドル、輸 入は271億ドル増加している。増加額の差分140億ドル(411億ドル−271億ドル)は、
シンガポール(585億ドル)に次いで大きい。ASEAN諸国の中で輸出の増加分が輸入の増 加分を上回っているのはシンガポールとタイのみで、その他の国々は輸出よりも輸入の増 加額が上回っている。これらから、タイがASEAN域内での貿易自由化が進む中で、競争 力を高めていると考えられよう。
1 1984年にブルネイ、1995年にベトナム、1997年にラオス、ミャンマー、1999年にカンボジ
アがそれぞれ加盟した。
図表 3‑14 ASEAN 諸国間の貿易総額の変化(2001 年→2011 年、単位 100 万ドル)
年 タイ マレーシア シンガ
ポール インド
ネシア ベトナム フィリピン カンボジア ミャンマー ラオス ブルネイ ASEAN10 増減額
01 → 11
タイ 01 2,722 5,287 1,366 797 1,156 467 355 411 37 12,597
11 12,265 11,327 9,971 6,985 4,590 2,874 2,814 2,759 136 53,722
マレーシア 01 3,360 14,913 1,563 474 1,288 60 197 2 273 22,129
11 11,703 28,831 6,806 3,819 3,579 258 560 14 544 56,115
シンガポール 01 5,304 21,122 0 2,105 3,085 370 423 26 410 32,846
11 14,100 50,019 42,832 10,232 6,772 909 1,212 35 1,593 127,705
インドネシア 01 1,064 1,779 5,364 322 815 72 69 1 22 9,507
11 5,897 10,996 18,444 2,354 3,699 260 359 9 82 42,099
ベトナム 01 323 337 1,044 264 368 146 5 64 0 2,552
11 1,792 2,832 2,286 2,359 1,535 2,407 82 274 15 13,583
フィリピン 01 1,358 1,112 2,308 133 62 4 6 0 4 4,986
11 1,904 1,099 4,278 606 718 10 14 1 6 8,635
カンボジア 01 8 10 28 1 25 4 0 1 0 76
11 160 60 173 7 391 1 0 1 0 793
ミャンマー 01 735 71 102 19 4 3 0 0 0 934
11 2,975 213 78 65 77 17 0 0 0 3,425
ラオス 01 81 0 0 0 62 0 0 0 0 144
11 1,029 1 0 1 418 0 2 0 0 1,451
ブルネイ 01 352 5 165 34 0 0 0 0 0 556
11 121 45 182 926 172 5 1 0 0 1,451
ASEAN10 01 12,585 27,157 29,211 3,379 3,851 6,719 1,119 1,056 505 746 86,328
11 39,681 77,531 65,599 63,573 25,166 20,199 6,719 5,042 3,092 2,377 308,979 増減額
01
↓ 11
+27,096 +50,373 +36,388 +60,193 +21,316 +13,480 +5,601 +3,986 +2,587 +1,631 +222,651
+14,029 ‑16,387 +58,470 ‑27,601 ‑10,285 ‑9,831 ‑4,884 ‑1,495 ‑1,280 ‑736
+1,307 +895 +222,651
輸出増−輸入増(注)
+11,031 +3,649 +717 +2,491 +41,125 +33,986 +94,858 +32,592 輸出先
輸出元
(出所)IMFより作成
ひとくちメモ (3): 1997 年のアジア通貨・経済危機の経験
1980 年代前半における社会資本の整備や公共サービスの民間開放といった政府の構造調整策の進展と、
原材料価格の低位安定や 1985 年のプラザ合意を契機に急速に進展した円高という国際環境の変化とによ って、タイには外国資本による多額の直接投資が流れ込み、それをエンジンとしてタイ経済の成長が始ま った。そして 1980 年代後半の平均成長率は 10.3%にまで上昇した。
1990 年代に入り、金融の自由化が進展し、タイ経済に膨大な資本が海外から流入した。これにより、タ イの外貨準備の増加、国内信用の拡大が生じ、内需の拡大、国内経済ブームが引き起こされた。1990 年代 前半の経済成長率は 8.6%であった。その反面、経済の拡大は、更なる輸入の増加を通じて経常収支の赤 字の拡大をもたらし、また、流入した資本の相当量が、不動産投資等、直接外貨の獲得に貢献することの 少ない産業に向けられ、不動産ブームが発生した。
しかし、このようなバブル的状況は長続きせず、行き詰まりが生じ、1996 年には景気が頭を打ち始めた。
過大な設備投資は利潤率の低下を招き、不動産価格は下落し始め、融資していた現地銀行のバランスシー トが急速に悪化し、オフショア市場を通じて、タイ国内からの外国資本の引き上げ(流出)が始まった。
国際的な投機筋の動きも加わって、米ドルとのリンクが極めて強い通貨バスケット制を維持することが困 難となり、タイ政府は、1997 年 7 月、バーツを管理フロート制に移行した。しかし、その後もバーツは下 落し続け、1996 年末に 1 ドル=25.34 バーツであったものが、1997 年末には 31.36 バーツに、そして 1998 年末には 41.36 バーツにまで減価した。このような急激なバーツ安は、外貨建てで外銀融資を受けていた 地場銀行の負債を一層膨張させた。さらに、地場銀行では、外銀からは短期の融資で借り入れを行い、地 場の企業には、長期で貸出を行っていた(いわゆる通貨と期間のミスマッチ)ため、外銀融資の引き揚げ に対応ができず、流動性不足が生じ、バランスシートが急速に悪化することとなった。このような状況が、
短期間の間に、スパイラル的な悪循環を生じさせ、経済の根幹にかかわる決済システム、銀行システムの 動揺を通じて、投資と消費を急激に減少させた。1998 年の 1 年間においてタイの内需は 23.8%減少し、こ のうち、家計消費は 11.5%の減、固定資本形成は 35.1%の減となった。
しかし、為替レートの暴落と内需の崩壊は輸入を激減させ、それまでの巨大な経常収支赤字を解消させ、
国際収支の均衡を生みだした。これに、日本および IMF の主導の下、総額 172 億ドルの公的金融支援の枠 組みの効果も加わって、終わりの見えなかったバーツの暴落に歯止めが掛かり、為替レートは安定を取り 戻し、1998 年の後半には景気回復のきっかけをつかむことができた。
JETROの投資コスト比較調査(2012年1月時点調査)によると、タイの賃金水準(ワ ーカー)は、インドネシア、ベトナムより高いが、シンガポール、マレーシア、フィリピ ンより低い水準にある。また、中国との比較では、ワーカーやエンジニアレベルでは、タ イの方が賃金水準は低い。
図表 3‑15 ASEAN 諸国・中国との賃金コスト等の比較
国名 シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン 都市 単位 シンガポール クアラルン
プール バンコク ジャカルタ マニラ 国の人口
(2011年) 100万人 5.3 28.7 64.1 241.0 95.9 1人あたりGDP
(2011年) ドル 49,271 9,700 5,394 3,509 2,223 ワーカー賃金
(月額) ドル 1,285 344 286 209 325
エンジニア賃金
(月額) ドル 2,378 973 641 414 403
中間管理職賃金
(月額) ドル 4,300 1,926 1,565 995 1,069 法定最低賃金
(月額) ドル ‑‑ ‑‑ 6.8
(日額) 167 7.67
(日額)
祝日日数 日 12 15 13 14 13
国名 ベトナム 中国
都市 単位 ホーチミン 北京 上海 深圳
国の人口
(2011年) 100万人 89.3 1,348.1 1人あたりGDP
(2011年) ドル 1,374 5,414 ワーカー賃金
(月額) ドル 130 538 439 317
エンジニア賃金
(月額) ドル 286 815 745 619
中間管理職賃金
(月額) ドル 704 1,460 1,372 1,208 法定最低賃金
(月額) ドル 95 199 203 237
祝日日数 日 13 31 31 31
(出所)IMF、JETROより作成