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第 9 章  主要投資インセンティブ(奨励ゾー

5.  外国為替管理と外貨交換制度

  タイでは、1990年5月にIMF8条国22に移行したのを機に、数次にわたり為替管理の自 由化を進めてきている。このため、近隣諸国へのバーツ現金持出枠、海外株式取得枠、海 外子会社への貸出枠等の拡大、外貨(ドル現金)持ち出しおよび銀行の非居住者向け貸出 の自由化等、規制緩和が進んでいる。外国為替管理法上では、受け取り、支払いとも指定 通貨の制度はなく、決済通貨に指定はない。

居住者が外貨預金口座を開設する場合には、タイ国内の外為銀行に開設することができ る。入金の原資については、外国から受領したものの他、実需取引の証明ができれば国内 で保有しているバーツを外貨に交換して充てることもできる。

非居住者は、タイでの労働の対価をバーツで受け取る等のために、非居住者口座を開設 することが出来る。非居住者預金への入金は、海外への送金と同様の取引であると解釈さ れるため、タイ国内からの入金(国内銀行からの借入等)については実需を示す書類の提 出等を行う必要がある。非居住者の外貨預金の場合、原資がタイ国外の場合は入出金や口 座残高に関する制限はない。

  外国為替管理に関する現在の規制は次の通り。

(1) 貿易取引 

  標準的決済方法としては、①前払い送金、②輸入信用状、③取立手形(D/P、D/A)、④ 後払いによる決済があり、受取り、支払いとも決済通貨は指定されていない。なお、輸入 信用状は自由に開設できる。

  輸出による受取金額が1件50万バーツを超える、あるいはその相当額以上の外貨建て輸 出を行う場合は、輸出者は税関に所定の届け出を行わなければならない。また、輸出代金 が1件5 万米ドル相当以上の外貨建て輸出決済を行う場合は、輸出者は為替へ所定の様式

(Foreign Exchange Transaction Form)で報告しなくてはならない(外為銀行は所定の様 式で BOT に報告しなくてはならない)。また、対外債務と相殺する場合、外為銀行は輸出 代金の受取の免除を承認することが出来る。ただし、輸出者は為替銀行経由でBOTに報告 を行なう必要がある。

  輸入決済についても、輸出による受取金額と同様に、1件50万バーツを超える、あるい はその相当額以上の外貨建て輸入を行う場合は、税関に通知する必要がある。輸入者は、

決済にあたり、外貨預金口座から自由に外貨を引き出すことが出来、輸入信用状も自由に 開設できる。ただし、輸入代金が 1件5万米ドルを超える外貨建て輸入決済については、

外為銀行に所定の様式を提出する必要がある(外為銀行は所定の様式でBOTに報告しなく てはならない)。また、輸入者は輸入決済時(L/Cの場合は開設時)に為替銀行にインボイ

22 IMF 8条国とは、国際通貨基金(IMF)協定第8条で規定された義務を受け入れている国。

ス等を提出する必要がある。

(2) 貿易外取引 

  被仕向送金(受取り)については、バーツでの外国からの受取に制限はない。外貨での 受取では、5,000米ドル以上の受取がある会社で、それが輸出代金の受取でない場合は、そ の会社は為替銀行経由でBOTに報告しなくてはならない。

  一方、仕向送金(支払い)は、保険、運輸など役務の提供にかかる貿易外取引について は、バーツ建て、外貨建てとも原則自由となっているが、いずれの取引も送金目的を為替 銀行に提出する必要がある。5万米ドルを超える輸入代金ではない外貨建て支払いについて は、為替銀行経由でBOTに報告される。

(3) 資本取引 

  タイへの資本流入は、バーツ建て、外貨建てとも原則自由である。ただし、外貨建てで5 万米ドルを超える場合は、為替銀行経由でBOTに報告される。

  また、2010 年 10月に外国為替取引に関する規制緩和が実施された。具体的には、①外 国為替取引申告書の報告金額の下限を5万米ドルに引き上げ(従前は2万米ドル)、②タイ 国内企業から海外グループ会社への直接投資と貸付に関する上限の撤廃(従前は年間 2 億 米ドルまで)、③グループ会社以外への年間5,000万米ドルまでの貸付について、BOTの認 可が不要(従前は全て認可必要)、④海外不動産購入に係るBOT の認可が1,000万米ドル に引き上げ(従前は500万米ドル超の場合認可が必要)、等が挙げられる。

(出所)BOT資料より作成

タイの1000バーツ札(上は表、右は裏)

見本

見本

第17章 金融制度 

1.金融機関 

2011年2月現在、タイの金融機関は、タイ中央銀行(BOT)を筆頭に、商業銀行17行、

外国銀行支店15行、ファイナンスカンパニー3社等から形成されている。2010年12月時 点、商業銀行と外国銀行支店を合わせた総資産額は11.7兆バーツ、与信残高は7.0兆バー ツ、預金残高は7.3兆バーツである。商業銀行は、総資産の 85%、与信残高と預金残高の 93%を占めている。

図表  17‑1  タイの金融機関 

タイ中央銀行(BOT)

商業銀行(17) 民間系銀行(15)

政府系銀行(2)

外国銀行支店(15) 日系銀行(3)

欧米系銀行(8)

中国系銀行(4)

ファイナンスカンパニー(3)

住宅金融会社(3)

外国銀行駐在員事務所(26)

資産管理会社(AMC)(20)

特殊金融機関(8)

タイ資産管理公社(TAMC)(1)

National Credit Bureau(1)

クレジットカード会社(11)

個人ローン会社(25)

(出所)BOTホームページより作成

(1) 中央銀行 

タイ中央銀行(BOT)は、1942年に設立され、通貨の発行、金融政策の実施、外国為替 管理、金融機関の監督業務等を行なっている。1942年制定の旧タイ中央銀行法には財務相

が成立し、従来の財務相による統合的監督権限に代わって、BOTの監督権限を強化しなが ら、各専門分野別に設立される委員会を通じて、監督機関の独立化及び権限分散化が推進 されている。

BOTは、金融政策の目的として、インフレの抑制、為替の安定、経済成長の3点を挙げ ている。これらの目的を達成するため、BOTは政策金利の変更(2001年10月以降、公定 歩合に代えて、14日物レポ金利)、預金準備率操作、公開市場操作等を行っている。

2000年4月、BOTは金融政策を協議・決定するための金融政策決定会合(Monetary Policy

Committee:MPC)を発足させ、同年7月から四半期ごとにインフレーション・レポート

を公表し、景気やインフレの見通しを示している。これらに加え、BOT はインフレ・ター ゲットも公表しており、金融市場に対して「開かれた中央銀行」の姿勢を示している。な お、2011年2月時点のインフレ・ターゲットは、生鮮食品とエネルギーを除いたコアイン

フレ率で0.5〜3.0%の範囲としている。

インフレ抑制や安定した経済成長への政策を施すと同時に、BOTは金融セクターの競争 力を高めることも進めている。2004年には中期的な金融改革の指針となる金融セクター・

マスタープランⅠを発表。同プランの目的は市場競争に基づく効率的且つ安定的な金融制 度の構築であり、金融サービスの普及促進、全ての利用者に対する公平性・中立性の強化 を目指したものである。更に、2009年には、①金融機関の業務コスト削減、②銀行間競争 の促進とタイ国民の金融サービスへのアクセス拡大、③金融インフラの整備、を目的とし た金融セクター・マスタープランⅡが政府により承認された。

(2) 商業銀行 

タイの商業銀行は、歴史的には、1888年に設立された香港上海銀行支店に始まり、外国 銀行支店が先行して設立された。地場銀行としては、1906年にタイ王室により設立された サイアム商業銀行が最初であったが、1940年代までは外国銀行が大勢を占めていた。大半 の地場商業銀行は1940年代以降に設立されたものである。このため、BOTは、1962 年制 定の銀行法で外国銀行支店の設置規制を強め、地場銀行の強化を図るようになった。約30 年間に亘り、銀行の新設は認められていなかったが、1997 年のアジア通貨危機はタイ経済 に深刻な影響を与え、金融セクターの大きな再編をもたらした。当時15 行あった商業銀行 の内、6行に国有化を含む公的資金による介入が行われた他、外資による買収が行われた。

アジア通貨危機の影響から脱し、構造調整を通じて金融業の収益性が回復する中、2004 年の金融セクター・マスタープランに基づくファイナンスカンパニーの普通銀行転換等を 経て、現在、17行の地場商業銀行が営業を行っている。

なお、金融再編の流れは続いており、2009年以降でも政府傘下ないしは政府が筆頭株主 となっている地場銀行の政府保有株式の売却により、外国銀行による買収(2009年:バン クタイ銀行→CIMBタイ銀行、2010年:ACL銀行→ICBCタイ銀行)や、他の地場銀行へ

の売却(2010年:サイアムシティー銀行)が行われている。

 

図表  17‑2  地場銀行の主要勘定残高(2010 年 12 月末) 

単位:100万バーツ

総資産 貸出 総預金 資本金

金額 市場

シェア 金額 市場

シェア 金額 市場

シェア 金額

民間銀行

1 BANGKOK BANK 1,915,986 19.1 1,140,425 17.3 1,368,493 19.9 19,088 2 KASIKORNBANK 1,454,540 14.5 1,032,122 15.7 1,102,229 16.0 23,933 3 SIAM COMMERCIAL BANK 1,465,949 14.6 1,003,483 15.3 1,090,524 15.9 33,992 4 BANK OF AYUDHYA 828,727 8.3 567,970 8.6 581,241 8.5 60,741

5 TMB BANK 589,426 5.9 342,037 5.2 413,236 6.0 41,352

6 THANACHART BANK 481,974 4.8 319,080 4.9 242,791 3.5 55,137 7 STANDARD CHARTERED BANK (THAI) 281,071 2.8 93,062 1.4 96,239 1.4 14,837 8 UNITED OVERSEAS BANK (THAI) 248,113 2.5 156,700 2.4 152,139 2.2 24,857

9 TISCO BANK 162,346 1.6 141,329 2.2 48,609 0.7 7,282

10 KIATNAKIN BANK 143,949 1.4 102,744 1.6 75,933 1.1 5,658 11 CIMB Thai Bank 139,210 1.4 89,729 1.4 93,944 1.4 8,158 12 INDUSTRIAL AND COMMERCIAL BANK OF CHINA (THAI) 72,221 0.7 50,322 0.8 27,020 0.4 15,905 13 LAND AND HOUSES RETAIL BANK 62,363 0.6 42,030 0.6 27,089 0.4 5,500 14 THE THAI CREDIT RETAIL BANK 16,824 0.2 13,720 0.2 11,427 0.2 2,000 15 MEGA  INTERNATIONAL COMMERCIAL BANK 16,390 0.2 13,213 0.2 5,780 0.1 4,000

小計 7,879,091 78.5 5,107,966 77.7 5,336,695 77.6 ‑‑

政府系銀行

16 KRUNG THAI BANK 1,756,064 17.5 1,205,868 18.3 1,248,192 18.2 57,604 17 THE SIAM CITY BANK 400,482 4.0 259,540 3.9 290,183 4.2 21,128

小計 2,156,546 21.5 1,465,407 22.3 1,538,375 22.4 ‑‑

合計 10,035,637 100.0 6,573,373 100.0 6,875,069 100.0 ‑‑

地場銀行17行

(出所)BOTホームページより作成

 

ひとくちメモ (12):  タイの金融再編 

日本の 1990 年代初頭のバブル崩壊後と同様、1996 年のバンコク商業銀行の経営破綻を契機に、タイで もファイナンスカンパニー(FC)の経営不安が表面化し、更に 1997 年のアジア通貨危機で財務状況の悪化 した金融機関の不良債権処理、資本注入、整理・統合等の金融制度改革が避けて通れない状況となった。 

タイにおける公的な金融支援の枠組みは、国際通貨基金(IMF)と日本の主導によって構築され、金融シ ステム改革もその支援条件に沿って推進されてきた。 

まず、1997 年 10 月に、FC の再編・不良債権処理を担う金融再生庁(FRA)を設立するとともに、金融機 関に対する増資計画の提出を義務付け、不動産融資で経営破綻に陥り、営業停止中の FC58 社の経営再建計 画の策定等の施策を講じた。その結果、12 月にそのうちの 2 社のみに営業再開を認め、残りの FC56 社の 閉鎖とその優良債権を引継ぐラタナシン銀行(商業銀行)の新設を決定した。 

その後 1998 年 8 月には、自己資本比率規制の強化、不良債権の定義の厳格化に加え、貸倒引当金の計上 基準の設定と 2000 年末までの達成の義務付け等の自助努力を促すとともに、3,000 億バーツの国債発行に よる公的資金注入を中核とする金融機関への資本増強支援、民間の資産管理会社(AMC)の設立と不良債権 の AMC への移管、等を含む包括的金融支援策を策定して、政府は本格的な金融システム再建に乗り出した。 

この再建策を機に、金融機関の大幅な再編が進んだ。