第 9 章 主要投資インセンティブ(奨励ゾー
6. 社会保険(健康保険、失業保険等) 122
図表 19‑13 時間外労働と休日労働に対する手当ての基準
1 時間当たり賃金の1.5倍以上
2 休日労働 休日が有給の場合 時間当たり賃金の1倍以上
3 休日が無給の場合 時間当たり賃金の2倍以上
4 休日に通常労働時間を越えた場合 時間当たり賃金の3倍以上 労働日の時間外労働
(出所)BOI資料より作成
(6) 管理職
労働保護法は、管理職を「雇用、賞与の支給または解雇について使用者を代理して行う 権限のある者」と定義している。従って、役職名にかかわらず、管理職の該当性には留意 する必要がある。管理職には時間外手当および休日時間外労働の手当を支給する必要はな い。
(7) 管轄当局との関係
従前、労働局による労働条件や雇用状況を対象とした立入検査を受けるのみであったが、
2008年改正により、毎年1月に所定の様式による報告と、変更がある場合にその内容を翌 月に報告する義務が使用者に課されることとなった。
図表 19‑14 タイの社会保険制度と保険料
本 人 使用者 政 府 健康保険 傷病、障害、出産、死亡 1.5 1.5 1.5 子女扶養、老齢年金 子女扶養、老齢年金 3.0 3.0 1.0
失業保険 失業保険 0.5 0.5 0.25
合計 5.0 5.0 2.75
保険の種類 給付内容 保険料負担率(賃金に対する%)
(注)労働省布告B.E.2555(2012/1/1から有効)により、本人、使用者の社会保険料負担率は、2012年 1月1日〜6月30日までの期間は、給与額(最初の1.5万バーツまで)の5%から3%へ、2012年7 月1日〜12月末までの期間は4%へ引き下げられた。
(出所)BOI資料より作成
(3) 社会保険給付の資格と給付内容
7種類の社会保険給付の受給要件と給付の内容の概要は図表 19‑15の通りである。
図表 19‑15 社会保険給付の資格と給付内容
給付の種類 給付の資格要件 給付内容
1 傷病給付 医療を受ける日の15ヶ月前の期間内に
3ヶ月以上保険料を納入
医療費と休業期間の賃金補償金(法定平均賃金 の50%の90日分支給)。ただし1年を180日超え ない期間(慢性の場合は365日分)
2 障害給付 医療を受ける日の15ヶ月前の期間内に
3ヶ月以上保険料を納入
医療費(上限月2,000バーツ)と働けなくなった 補償金(法定計算法による本人の平均賃金額の 50%)を一生涯支給
3 出産給付 医療を受ける日の15ヶ月前の期間内に
7ヶ月以上保険料を納入していれば2回 まで資格あり
出産費(1万2,000バーツ)と休業期間の賃金補 償金(法定平均賃金の50%)を90日分支給
4 死亡給付 死亡する前の6ヶ月の期間内に1ヶ月以
上保険料を納入
葬式代(4万バーツ)のほか、3年以上10年未満 保険料を納入していた場合賃金の50%に3を乗 じた額、10年以上保険料を納入していた場合 賃金の50%に10を乗じた額を遺族へ弔慰金とし て支給
5 子女扶養給付 36ヶ月の期間内に12ヶ月以上保険料を 納入、又は親が障害者になったり死亡 したとき
6歳未満の子供2人までに対し、1人月当たり 400バーツ支給
6 老齢年金給付 事 前 に 180 ヶ月 以上 (連 続で なく てよ い)保険料を納入、満55歳になった月 の翌月から
法定計算法による本人の月額年金額を一生涯 支給
7 失業保険給付 失業前15ヶ月以内に6ヶ月以上保険料を 納入
解雇された場合:賃金の50%分を180日分支給 自主退職の場合:賃金の30%分を90日分支給 健康保険
その他の社会保険
(出所)社会保険法の各規定等より作成
(4) 労働者災害補償基金制度
労働者の業務上の負傷、疾病、死亡に対しては、使用者がその補償義務を負う。この支 払いの確保を目的として、1973年に労働者災害補償基金が設立された。現在は 1994年に 改正された労働者災害補償法に基づき、労働省社会保障事務局がこの基金を運営している。
保険料は、使用者側が負担しているが、料率は労災事件の発生率に応じて業種ごとに法定
養後のリハビリ費用、④死亡補償の 4 つに分類される。①の補償金は通常当該労働者の月 給の60%(ただし、1ヵ月当たり2,000〜9,000バーツ)が目安とされる。②の療養費用は、
通常35,000バーツ未満であるが、その程度が重度の場合には50,000 バーツとされる。③
の療養後のリハビリ費用は20,000バーツ未満で、④の死亡補償は法定の料率に基づき、日 給の 100 倍相当額を上限とする。負担金の具体的な額は、業種毎の災害率の統計データと その時点における基金の負担・基金残高により計算される。
7.労使関係
1972 年労働法では、労働者保護、労働者災害補償、最低賃金などが規定されていたが、
1975年には労働組合や労使紛争解決ルールを規定した労働関係法が制定された。しかしな がら、これら労働法制の整備にもかかわらず、タイの労働運動は、政治情勢および金融危 機の影響もあって紆余曲折を経ている。
労働関係法の成立に伴い、1976 年に、国内の労働組合を結集してタイ労働組合協議会
(LCT)が結成されたが、その年に起こった軍部によるクーデター(血の水曜日事件)に 伴う戒厳令の発令で、これらの労働法制の効力が停止され、ストライキも禁止されてしま った。1981年には、この禁止措置が解除され、また、1990年には労働者の傷病や失業に対 する保障措置を規定した社会保険法が成立したが、その直後の1991年には、国営企業労働 者の組合結成権およびストライキ権が剥奪された。その後、1994年に、労働者災害補償法 が、そして1998年には、労働時間短縮や解雇金の引き上げ等労働者保護を大幅に強化した 労働者保護法が制定され、2008年には派遣労働者の権利、福祉を派遣先の使用者は公正、
公平に扱う旨の義務規定等の改正が行われた。
図表 19‑16 労働条件協定の内容 労働関係法により、20人以上の労働者がいる使用
者は労働条件協定を書面により作成しなければなら ない。既に就業規定を作成済みの場合にはそれが労 働条件協定事項とみなされる。同協定は使用者と労 働者が合意した時点から3年間有効であるが、期間 を明示しない場合には当該合意がなされた日または
雇用を開始した日から1年間有効となる。 (出所)BOI資料より作成
(1) 労働組合等
労働組合を結成するには、1975年制定の労働関係法の規定に基づき、10人以上の労働者 の発起人を必要とし、労働局に労働組合規約案を登録し、その許可を得ることが必要であ る。組合の規約が、法律の目的に合致し、国家安全保障および経済に悪影響を及ぼさない ことが確認されると、許可され、労働関係法上の労働組合として活動できるようになる。
これにより、労働組合の組合員は、使用者または使用者協会に対して要求を提出し、交渉 1 雇用、労働条件
2 労働日、労働時間 3 賃金
4 福利厚生 5 解雇
6 労働者の苦情申立
7 労働条件協定の改定または更新
をし、仲裁決定を受理し、協約を締結する権利を得ることとなる。
2010年12月時点では、労働省労働保護福祉局に登録されている民間企業労働組合の数は 1264組合であるが、組織率が数%と低いままであり、産業別の労働組合組織が弱く、組合 幹部の指導力の問題もあって未だ確固としたナショナルセンターが育っていない状況にあ る。
なお、50 人以上の従業員を雇用する事業所は、5人以上の労働者代表で構成する福利厚生 委員会を設置しなければならず、また使用者は、少なくとも3ヵ月に1度は、この福利厚生 委員会と従業員の福利厚生に関し協議しなければならないとされている。
(2) 最近の労働争議の発生状況
タイにおける労働争議は、最低賃金の引き上げ等の賃上げ要求や、組合活動に関与した従 業員の不当解雇などを争点とするケースが多く、また、当事者間での解決が難しくなって、
政府や役所の介入を求めてデモを行い、社会問題化するケースが少なくない。2005年以降、
製造業・金融仲介業を中心に労働争議(解雇の不当性を理由とするものが最も多い)が増 えている。日系企業では、2009年にトステム・タイ工場、同年暮れから2010年1月にか けてマツダ合弁工場でそれぞれ賃上げ労働争議が行われた。
図表 19‑17 労働争議の発生状況
0 40 80 120 160 200
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 年 (件)
0 2 4 6 8 10 (件)
労使紛争(左目盛) ストライキ(右目盛) ロックアウト(右目盛)
(出所)Yearbook of Labour Protection and Welfare Statisticsより作成
(3) 労働争議の解決
労働関係法は、職場で発生する労働争議等について、その解決のための一連の手続きを 規定している。
① まず、労働条件の改善に関する要求書については、労働者が提示する場合には、労働
者の15%以上の署名が必要であり、労働組合が提示する場合には、全労働者の5分の
1以上が労働組合に加入していることが求められる。労使交渉の際、労使双方は2名 以上の労働局所定の資格を有するアドバイザーを参加させることができる。
② 労使双方は、要求書受理の日から3日以内に労使交渉を開始せねばならず、3日以内に 交渉を開始できない場合、または、労使交渉開始後、理由を問わず合意に至らなかった 場合は、労働関係法上の労働争議が発生したものとみなされる。要求書を提出した側は、
合意不成立の時点から24時間以内に労働局に文書により通知しなければならない。
③ 労働局の調停官は、通知を受けた日から5日以内に調停に入る。日本と異なり、必ず 調停の手続きを踏まなければならないことに注意する必要がある。
④ 調停により合意に達した場合には、合意内容を文書(労使双方署名)にして3日以内 に30日以上公示する。
⑤ 調停によっても合意に至らなかった場合には、(a)争議仲裁人を任命することに合意す るか(仲裁は双方の合意を要件とするため実際にはこのケースはまれ)、または、(b) 使用者側からのロックアウト、もしくは労働者側からのストライキという実力行使に 入る(実力行使を始める 24 時間以前に必ず労働局並びに相手方に対し書面による通 知が必要)。ただし、要求書が相手に提示されていない場合や、労働局の調停に一方 が従った場合等には、ロックアウトやストライキは禁止される。
ひとくちメモ (17): 違法にもかかわらず、突然のストライキも
タイにおいては、事前の労使交渉もなしに、ある日突然ストライキが起こるケースが少なくないと のこと。朝、日本人従業員が出勤したら、工場の前で従業員が気勢を上げていて驚くという光景に出 くわすそうである。一度このような状態になるとタイ人同士同胞意識が強いので労働者全体に波及し 労使関係を正常に戻すのには時間がかかる。そうならないように、普段から、少なくとも労務担当者 には法律の勉強をさせ、従業員あるいは労働組合側にも労働法の理解を深めるよう促す必要がある。
そもそも、労働者側に、ストに関する理解が不足していて、労使交渉、調停という手続きを踏まない で直ちにストライキに入るのは違法であるという認識すらない場合が多い。従って、ストライキが起 こってしまった場合には、先ずは、代表者に交渉のテーブルにつくよう指導することである。しかし、
労務担当者が必ずしも従業員あるいは労働組合側に影響を及ぼすことができるかは不確かであり、そ もそも転職してしまう例もある。賃上げ等を理由にして他社の工場で発生した労働争議が波及する場 合があるので、普段から他社とのネットワークを大切にすることが望ましい。