2. 小売技術の国際移転に関連する既存研究
2.6. 小売技術の国際移転研究
2.6.2. 研究類型
小売技術の移転研究は、「観察の水準」と「観察の視点」によって 4 つの象限に分けるこ とができる58。「観察の水準」は、小売技術の移転を企業レベルで見るのか、あるいは国家・
地域レベルで見るのかという問題であり、「観察の視点」は、移転の受入側の視点で考察す るのか、あるいは移転側の視点で考察するのかという区分である(図表 2-23)。
図表 2-23 知識の国際移転の研究領域
60 企業・組織
集計水準 国家・地域
提供側 受入側
視点
① ②
③ ④
出典:青木(2008)、11 ページ
またゴールドマン(1981)は、小売技術移転の研究フレームワークとして、「採用-コミ ュニケーションパースペクティブ」「技術革新の拡散パースペクティブ」「経済史パースペ クティブ」「地理的拡散パースペクティブ」の 4 つを挙げている。
「採用-コミュニケーションパースペクティブ」は、消費者が新たな技術を受け入れる際 の行動に焦点をあてるものであり、消費者特性、コミュニケーション行動、社会相互作用、
個人の影響力などを扱う研究である59。このパースペクティブは、技術革新は優れたもので あり、すべての人が採用すべきものだという前提に立っている。そして拡散を成功させる ために、適切なコミュニケーションにより消費者の新たな技術への抵抗を減少させること が重視される。
「技術革新の拡散パースペクティブ」は、経済利益性の観点から、採用プロセスにおけ るコスト-ベネフィット計算を行うものである。そのため、採用側の構造的環境的要因や技 術の特性に焦点があてられる。
「経済史パースペクティブ」は、歴史的な観点から、経済成長・発展に関わる技術革新 の拡散に焦点をあてる。技術革新は常に優れたものではなく、特定環境にのみ効果的であ るとし、技術革新が効果的に作用するために必要な社会的・経済的・制度的遺産、インフ ラ、外部要因を検討する。したがって、新たな技術の採用は一時的な現象ではなく、古い 技術にそれが取って代わるための、継続的動的なプロセスとして捉えられ、新たな技術が もたらす変化や改良点、消費者やサプライヤーの学習や適用プロセスなどを分析対象とす る。以上の 3 つのフレームワークは、図表 2-23 の④に分類できるだろう。
最後の「地理的拡散パースペクティブ」は、イノベーションを潜在的採用者にとって採 用可能な状態にする技術提供側のプロセスに焦点をあてる。当該アプローチは、供給サイ ドのステージとして、拡散エージェンシーの確立段階(エージェンシーや販路の確立プロ セスに焦点をあてる段階)およびイノベーションの確立段階(エージェンシーの採用促進 戦略に焦点をあてる段階)を挙げる。これは図表 2-23 の③に分類できる。
61 図表 2-24 小売技術の分類
集計水準 一般的
(General)
特殊的
(Specific)
経営的
(Managerial)
技術的
(Technical)
次元
①’
③’
②’
④’
出典:筆者作成
また先に述べたとおり、小売が利用する技術には、経営的次元と技術的次元という 2 つ の次元がある。さらに技術側にも、一般的なレベルと企業特殊的なレベルという集計水準 が存在する(図表 2-24)。
したがって小売技術の国際移転に関する研究は、「知識国際移転の研究領域」と「小売技 術の分類」の各象限の組み合わせすべてを対象とすることができる(図表 2-25)。
以下、それぞれに該当する研究動向を概観してみたい。
図表 2-25 小売技術の国際移転研究領域
研究視点・集計水準
① ② ③ ④
小売技術
①'
a. 一般的経 営管理技 術の移転 戦略
b. 一般的経 営管理技 術の受入 戦略
c. 一般的経 営管理技 術の移転 政策・過
程
d. 一般的経 営管理技 術の受入 政策・過
程
②'
e. 一般的小 売実務技 術の移転 戦略
f. 一般的小 売実務技 術の受入 戦略
g. 一般的小 売実務技 術の移転 政策・過
程
h. 一般的小 売実務技 術の受入 政策・過
程
③'
i. 特殊的経 営管理技 術の移転 戦略
j. 特殊的経 営管理技 術の受入 戦略
k. 特殊的経 営管理技 術の移転 政策・過
l. 特殊的経 営管理技 術の受入 政策・過
62
程 程
④'
m. 特殊的小 売実務技 術の移転 戦略
n. 特殊的小 売実務技 術の受入 戦略
o. 特殊的小 売実務技 術の移転 政策・過
程
p. 特殊的小 売実務技 術の受入 政策・過
程 出典:筆者作成