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2. 小売技術の国際移転に関連する既存研究

2.3. 国際技術移転研究

斎藤(1979)によれば、新知識や新技術の伝播が学問的、体系的に研究されるようにな ったのは 20 世紀に入ってからだという。その例として、特に国際的な知識移転に限れば、

1939 年にステレーが貿易、海外投資の自動調整メカニズムの限界を認識し、知識と生産技 術の後進国への移転をするための国際的開発計画を提案している点を挙げている。しかし ながら、技術革新の伝播研究が独立した体系的な専門分野となり始めたのは、1960 年代に なってからである。1964 年の第一回国連貿易開発会議で「技術移転」が議論され、先進国 の技術を開発国にどうやって移転するかという問題が主に検討された30

一方、経営学分野の技術移転、特に製造業を中心とした国際技術移転に関する基礎的な 研究は、主にアメリカの学者により展開されてきた。したがって、アメリカ経営原理の国 際移転性や文化的限界に関する理論化の試みが、1960 年代以降、活発になされてきた。他 方、日本的経営の国際移転に関する研究は、1970 年代以降活発化し始めた31

経営学における国際技術移転の研究は、大きく次の 3 つのタイプに分けることができる。

すなわち、①移転対象となる技術32、②移転の方法・プロセス(適用か適応か)33、③移転 の促進・阻害要因34をそれぞれ対象とした研究である(図表 2-6)。以降、それぞれの研究 について見ていきたい。

31 図表 2-6 国際技術移転研究の分類

出典:筆者作成

2.3.2. 移転される技術および移転プロセスに関する研究

移転される技術に関する研究の例として、安保・上山・公文・板垣・川村(1991)が挙 げられる。彼らは、日本的経営・生産システムの諸要素を整理し、7 グループ 24 項目に整 理し、これを移転の対象となる技術として定義している。

7 グループ 24 項目は以下のとおりである。

I. 作業組織とその管理運営(i 職務区分、ii 賃金体系、iii ジョブ・ローテーション、iv 教育訓練、v 昇進、vi 作業長)

II. 生産管理(vii 生産設備、viii 品質管理、ix メンテナンス、x 操業管理)

III. 部品調達(xi ローカル・コンテンツ、xii 部品調達先、xiii 部品調達方法)

IV. 参画意識(xiv 小集団活動、xv 情報共有、xvi 一体感)

V. 労使関係(xvii 雇用政策、xviii 雇用保障、xix 労働組合、xx 苦情処理)

VI. 親-子会社関係(xxi 日本人比率、xxii 現地会社の権限、xiii 現地経営者の地位)

VII. 地域社会との関係(xxiv 寄付・ボランティア活動)

さらに四側面評価(各要素を「ヒト・直接」「ヒト・方式」「モノ・直接」「モノ・方式」

に分類)を行うことで、これらの要素をさらに分類している。その上で、各要素の適用と 適応の度合いを 5 段階評価(5:日本のシステムがそのまま移植されたケース、1:アメリ カのシステムが利用され日本のシステムがまったく導入されないケース)し、日本的経営 のハイブリッドな移転状況を定量化し、詳細に分析している。

移転の方法・プロセスに関する研究の例としては、植木(1982)が挙げられる。植木(1982)

は、日本的経営技術のブラジル現地経営実践への移転を調査し、その過程で、現地側の制 約諸要因(外部環境、組織文化、従業員の態度)と適合し、ブラジル人および日系人社員 の受容性を獲得することが不可欠の条件であるとしている。また日本的経営技術の諸要素 は、移植により現地側に比較的円滑に受容される普遍的、適合的な要素(工場生産・品質 管理、組織的経営管理、温情的家族主義)、移植により摩擦やコンフリクトが生じるために

① 移転される技術に関する研究

② 移転の方法・プロセス(適用/適応)に関する研究

③ 移転の促進・阻害要因に関する研究

a. 送り手・受け手の関係性

b. 送り手の移転能力・受け手の吸収能力 c. 送り手・受け手の動機

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受容拒否される特殊な要素(経営理念、終身雇用制、年功序列制)、変換適応し移植するこ とが必要になる準適合的要素(集団帰属性、稟議・合意意思決定方式、大部屋式協働参加 制、マーケティング)とに分類できることを明らかにした。ここに分類される研究は、特 定の技術について、移転可能なもの(適用するもの)と移転不可能なもの(適応すべきも の)を分類し、それぞれに応じた移転方法・プロセスを提案するといった手法を取るもの が中心となっている。

また国際技術移転の既存研究のレビューを行ったレディ・ツァオ(1990)は、移転活動 そのものを取り扱った研究を、①技術移転の役割と特性(技術特性、技術の分類、技術移 転の特性、移転のタイプとフェーズ、技術の集中化)、②国際技術移転のコスト(コストと 必要資源、移転コストの決定要因)、③国際技術移転におけるコンフリクトと行動規範(多 国籍企業と現地企業との関係性、国際的な行動規範)、④技術移転方式(移転方式の選択、

移転方式の決定要因)、⑤技術移転の効果(移転効果の測定、効果的な移転に影響を与える 要因)、⑥技術の値えつけ、に分類している。移転活動自体を扱う研究においては、方法・

プロセスに限らず、またそれに関連して、コストおよび効果、当事者の相互作用なども重 要な調査対象となっている。

2.3.3. 移転の促進・阻害要因に関する研究

③移転の促進・阻害要因に関する研究については、国際技術移転研究が、「移転」という 能動的な企業行動を問題にする研究領域であるため、制約要因をより具体的に明らかにし ようとする意欲が高い。特に企業側が操作可能な要因について、より詳細な分析が進めら れている。これらの研究において、促進・阻害要因の分析は、a.送り手・受け手の関係性、

b.送り手の移転能力・受け手の吸収能力、c.送り手・受け手の動機といった観点から行 われている。

例えば先述のレディ・ツァオ(1990)は、送り手の要因として、①母国への国際技術移 転の影響、②政策、③多国籍企業の能力・動機(技術の適応能力、適応の決定要因、移転 する技術の選択、国際 R&D 投資)を挙げている。また受け手の要因として、①受入国への 国際技術移転の影響、②政策、③技術力(技術力の獲得、適切な技術の入手可能性)、④技 術の獲得と適応(技術の選択に影響を及ぼす要因、獲得される技術の特性)を挙げている。

また岡本・法政大学産業情報センター(1998)、岡本(1998)は、アジアにおける海外子会 社への日本的経営・生産システムの移転に対して、親会社の経営戦略や能力が移転の度合 いを左右することを指摘している(送り手の動機・能力)。具体的には、国際的展開への姿 勢(現地化、人事制度など)、技術移転への努力と手法(派遣従業員に対する教育訓練、マ ニュアル化の程度、日系子会社の人材育成)、機械設備の技術水準などが挙げられており、

これらは企業がコントロールできる要因とされている。さらに岡本・法政大学産業情報セ ンター(1998)は、受入国の経済的・社会的環境についても、企業がコントロールできな い要因ではあるものの、やはり技術移転を規定する要因として重視している(受け手の吸

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収能力)。具体的には、教育水準、科学技術の普及度、文化的・社会的背景(宗教、価値観、

ライフスタイル、産業文化への適応度など)、政策、インフラなどが指摘されている。

さらにグロース(1996)は、5 つのサービス業(広告、銀行、コンピュータソフトウエア、

ホテル、経営コンサルティング)における、親会社から海外子会社への国際技術移転を調 査し、技術移転の多寡に影響を及ぼす要因を次のように列挙した。

‚ 所有権(送り手の要因):子会社に占める所有権の割合が大きければ大きいほど、コン トロールが可能となり、技術移転が進む。

‚ 経験(受け手の要因):子会社の操業年数が長いほど、親会社から独立している度合い が高いため、技術移転が少ないと想定される。一方で、子会社の経験値が上がるほど、

子会社間の連携が図られるため、技術移転が促進されるともいえる。作用の方向性は 今後実証すべき課題として残されているものの、影響要因の一つであると想定される。

‚ 国際化(送り手の要因):国際化が進めば進むほど、子会社に技術移転を行う機会が増 えるため、技術移転のボリュームが大きくなる。

‚ 特殊性・連携性(送り手の要因):技術が企業特殊的かつ産業内で連携的に構築された ものであればあるほど、その技術を保護しようとする動機が働き、技術移転が増える と考えられる。

‚ 国籍(受け手の要因):より大きな国家の方が、技術移転を推進すると想定される。ま たより大きな国家の政府は、外資企業に技術移転を要求するといえる。

所有権を親会社の持ち株比率、経験を子会社の設立年、国際化を進出先国の数、連携性 をスタッフに対する役員の数または産業によるダミー変数、子会社の国籍を当該国の GDP に置き換え、これらを独立変数とし、技術移転の量(役員教育、スタッフ教育、専門家の 派遣)を従属変数とした実証分析を行った。その結果、国際化が進展していればいるほど、

受入国の経済が大きければ大きいほど、子会社の操業年数が少なければ少ないほど、親会 社の持ち株比率が小さければ小さいほど、技術移転にプラスの影響を及ぼすことがわかっ た。親会社の持ち株比率については製造業とは異なる結果を示しており、サービス業に特 異な現象である可能性が指摘できる。

以上より、国際技術移転研究が本研究に与える示唆として、以下の点が重要であろう。

z 移転される技術の内容・特性によって、移転の方法・プロセスが異なる(適切な移転 方法・プロセスが存在する)

z そのため移転される技術の特性を見極めることが重要となる