• 検索結果がありません。

グローバルスタンダードの 5 部門制

5. 小売システム国際移転の意思決定フレームワークとカルフール・ジャパンへ

5.6. マーチャンダイジング

5.6.1. グローバルスタンダードの 5 部門制

カルフールでは、ワンストップショッピングの実現のために 5 部門、すなわち「グロサ リー:加工食品」(Grocery)、「フレッシュ:生鮮食品」(Fresh)、「アプライアンス:家電」

(Appliance)、「バザー:家庭用品•雑貨」(Bazaar)、「テキスタイル:衣料品」(Textile)

に商品を括ることがグローバルスタンダードとされていた。世界のどのハイパーマーケッ トでも 5 部門制を取っており、韓国、台湾、家電の量販店が強い中国も例外ではなかった。

日本も同様で、ダイエーとの提携を検討した際も、イズミヤの関東の店舗購入を検討した 際も、5 部門の維持を前提としそれが障害になったこともあった。

日本での 5 部門制の堅持は、収益構造に大きな悪影響を与えた。5 部門できちんと利益の バランスを取ることができなかったのである。例えば、カテゴリーキラーが強い家電につ いては、良い仕入れ条件を得ることができず、利益が出ない値段で販売するか、型落ちの 商品を売るという選択肢しかなく、競争力を持つことができなかった。また、家庭雑貨は 品ぞろえが悪く、引越しのシーズンや新生活のシーズンなどのプロモーションも不十分で あった。フランスでは、家庭雑貨が一番強かったため、本社派遣者は悪い品ぞろえしかで きないことを善しとせず、思うような立て直しを図ることができなかった。

生鮮食品の売上も振るわなかった。それは、品ぞろえの問題、販売手法の問題等が影響 していた。品ぞろえの問題の一因として、生鮮食品特有の理由が挙げられる。すなわち、

荷受けの際に品質チェックを行うことができる人材の不足である。生鮮食品については、

品質が悪いものがどうしても一定数入ってしまうため、それを納品時にしっかりと確認し、

ダメな場合には、取消伝票を切らないとならない。このような品質管理によって、卸をコ ントロールすることが、品質を維持向上するための重要な要因である。しかしながら、店 舗の人材は安い給料で雇っており、目利きのできる水準の人材が不足しており、その必要 性も理解されなかったため、品質チェックやそのための教育をシステム化することができ なかった。また鮮魚については、商社や卸が良い商品を回してくれるだけの取引量がない という点もネックであった。さらに、氷の上で魚を丸ごとあるいは半身で販売するスタイ ルを取ったため、魚をパックするプロセスセンターの整備や、魚をおろすバックヤードと 人材の整備なども行われなかった。

そのような中で利益を出せたのが衣料品であったが、売上構成比が低かった(イオン等 GMS では 3 割程度、カルフール・ジャパンでは 10%程度であった)ため、さほど利益貢献 ができなかった。さらに売上を伸ばすような品ぞろえにも苦戦した。安く仕入れられた商 品を中途半端に並べ、売れ筋となる基本の商品をそろえることができなかったのである192。 仕入力に欠けた原因は、交渉の材料がなかったこと、それにも関わらず、本社派遣者の低 価格に対する方針が変わらなかったことが挙げられる。

最も大きな売上高を占めていた(オープン時は 33~35%、最終的には約 45%まで拡大し た)グロサリーも、利益を出すことができていた。しかしながら、利幅は非常に薄かった。

149

ただしグロサリーでも、上位のナショナルブランドが品ぞろえされていない、あるいは控 え目に陳列されている、下位のブランドが大量に陳列されている、などの問題点が指摘さ れることもあった。

以上のように、利益を出すべき非食品の分野で思うような利益を出すことができず、利 幅の薄いグロサリーが売上の多くを占めるというバランスの悪い収益構造であった。仕入 能力を上げるか、あるいは 5 部門制を見直すことによって早急に改善されるべき課題であ ったが、前者は出店の停滞により、後者は方針の堅持により、実行に移されることはなか った。もちろん各部門で、半年後、1 年後にはここまでのかたちにするというようなアクシ ョンプランが立てられ、利益を出す方向性が模索されていた。例えば、部門内で売上の取 れないカテゴリーを圧縮し、利益の取れるカテゴリー(アプライアンスでは SD カードなど の消耗品や、オーディオなどの趣味のための商品)に集中するといった方法が検討されて いたが、収益バランスを改善するには至らなかった。

5.6.2. 3 チームによる分業

小売業において中核的な営業業務を行う部門である商品部は、バイヤー、BDD(Business Development Department)、SDD(Sales Development Department)の 3 チームから構成さ れていた。マーチャンダイジングおよびバイイングは、日本同様、商品部で集権化されて いるが、SDD、BDD、バイヤー間で細かく業務分担がなされている点が、日本とは異なって いた。

まず BDD とは、オペレーション・サポートを行う、システム管理担当である。特売の設 定など POS のメンテナンスや、マスターの登録・変更といったメンテナンス、商品の売上 分析レポートの定期・不定期193の作成などを行った。一方 SDD はセールスプラン立案を担当 し、そのための市場調査や商談を行うといった、いわゆるマーチャンダイザーのような業 務を担った。日本ではこの業務をバイヤーが担うことが多く、規模の大きな企業では、マ ーチャンダイザーとバイヤーとが分かれていることもあるが、セールスプランの立案がバ イヤーから切り離されることは少ない。例えば大丸では 2004 年頃から実施した MD 改革に おいて、マーチャンダイザーは自身が担当する商品グループの全社的な戦略を立案、予算 編成と進捗管理、取引先とのパートナーシップの構築を行うとし、マーチャンダイザーの 下に設置されるバイヤーは、仕入れ・販売計画、取引先との交渉と在庫管理など、仕入れ 活動の最前線の責任者としての役割を果たすとしている194

SDD はバイイングを行わず、商談をしても、商品の情報収集や提案の受付などバイイング 以外の業務を行った。ベンダーの営業担当者から商品を紹介してもらい、その商品が今の 市場に適しているのかどうか、将来的に伸びる要素を持っているかどうかなどを把握する。

このような市場調査にもとづいて、商品を採用すべきか採用すべきでないかを決定し、採 用すべき商品を販促計画に落とし込んでいく。これに対してバイヤーは、SDD が決定した商 品について取引条件を交渉する役割を担う。日本の場合と異なり、バイヤーは販促計画を

150

立てる業務を行わないため、SDD から「この商品は市場性があるので、採用すれば絶対に利 益になる。だからこの商品をいくらで交渉するように」という指示を受け、交渉業務のみ に徹する。SDD が採用を決定した商品について、SDD が設定したターゲット金額になるよう にバイヤーはバイイング業務に特化するという、より細分化した業務分担が行われていた。

立ち上げ当初の体制をグロサリーの例で見てみると、BDD、SDD はともに 8 人程度であっ たが、バイヤーは大変少なかった。調味料、飲料、乾物、嗜好品などすべて含めた加工食 品のカテゴリーで、バイヤーはたった 2 名であった。さらに、立ち上げ時の業務を円滑に 回すために、フランス人のコントローラーが 1 名配置されていた。

しかしながらおおよそ 1 年ほど経ったところで、商品の選定とセールスプランの作成の 権限を、バイヤーに与えるようになった。SDD に残った業務は市場調査のみであり、レコー ダーを持って競合店へ行って、売価を調査し、価格調査表を作成するというものであった。

さらに 2 年強経過した段階で、BDD と SDD が廃止された。正確には、BDD は、その業務のう ち支援的な業務を行う部分だけを残して、その後も引き続き存在した。まず食品事業部の グロサリー部門から廃止し、そこの売上が良かったので、他の部署に適用していった。そ して廃止された BDD と SDD の代わりに、バイヤーが増員されていったのである。

それでは、なぜ BDD、SDD の体制が廃止されてしまったのだろうか。まず一般的な日本の 小売企業とは、業務分担の方法が異なるという点が挙げられる。日本のバイヤーの業務の うち重要な部分は、カルフールにおいては BDD、SDD が担っていた。それにも関わらず、小 売業経験のある日本人スタッフは、名前が同じであるカルフールのバイヤーを日本でいう バイヤーとして見ていた。また採用についても、バイヤー経験者をバイヤーとして採用す る一方で、当初は語学重視の採用方針であったこともあり、バイヤー未経験者を BDD、SDD に採用するというようなことも行われていた。未経験者を採用することで、既成概念がな いため、本来の意味での BDD、SDD の業務を遂行することができるというメリットがある一 方で、バイヤーと BDD、SDD との力関係が逆転してしまうというデメリットも生じた。

例えば、日本人バイヤーにとっては、“商品選定の意思決定”と“購買活動”が分かれ ているというこのような状態は、非常に煩雑に感じられた。というのも、バイヤー単独で は、交渉時の柔軟性に欠けてしまうためである。「今回この値段を出すので、来月のセール スプランには、この企画も入れてくれないか」というようなベンダーからの条件提示に対 して、カルフールのバイヤーはセールスプランを立てているわけではなかったため、その 申し出に対して全体的なバランスを取って柔軟に対応することができなかった。そのため には、SDD とバイヤーとの緊密な連携が必要とされるが、日本ではそのような関係を保つこ とが非常に難しかった。それは次のような理由による。

日本のバイヤーは、自分でセールスプランを立てて、「ここでこのような販促を打てば、

これだけの粗利が見込める」というようなストーリーを描き、その上で交渉に臨むことが できる。日本企業で培ったそのような経験が障害になり、SDD の存在を受け入れることがで きない、というのが一つ目の理由である。さらに、SDD の担当者のバックグランドも、この