6. 考察
6.1. 小売システムのコア変数
第 5 章の議論をもとに、カルフール・ジャパンの小売システムのコア変数と、その外部 および内部の環境コア変数をまとめたものが図表 6-1 である。さらに、本国と日本の環境 コア変数のギャップと移転結果を図表の右端に整理している。このように整理すると、ギ ャップの存在いかんに関わらず、移転行動が実行されていることが見て取れる。同社の場 合、自社が統制できない要因で移転を断念せざるを得ない場合を除き、基本的には移転す る方針が採られていた。この点が、カルフール・ジャパンのケースにおいて特異的に観察 された事項ではないだろうか。
図表 6-1 カルフール・ジャパンの小売システムとその文化コアおよび環境コア変数
文化コア 1.環境コア変数(外部) 2.環境コア変数(内部) 日本市場への移転 カルフ
ール
カルフール・ジャパ
ン ①本国 ②日本 ①本国 ②日本 移転結 果
移転結果によ り生じた問題 小売システム システ 点
ム区分 カルフ
ールウ ェイ
4 つのポ リシー
組織構 造・組織 資源
・ハイパー マーケット 業態の定着
・社員・顧 客の重視
・マーケット リーダー
・豊富な叩上 げの人材
・小売業経験 者の不足
・マニュアル の不足
部分変 更
・ポリシーの運 用方法のバラ つき
マスマ ーチャ ンダイ ジング
MD の分 業
付加価 値創造 システ ム
・明確な職 務規定
・リベート 慣行
・バイヤー への MD 業務 の集中
・曖昧な職 務規定
・バイヤー経 験が豊富なス タッフ
・小売業経験 者の不足
移転→
廃止
・業務分担方法 の違いに対す る認識の欠如
・業務に適さな い人材の登用
バイイ ング特 化
付加価 値創造 システ ム
・単品ごと の価格競争
・リベート 慣行
・粗利ミッ クス志向
・圧倒的な交 渉力
・大きなセリ ングパワー
・大きな裁量 に慣れたバ イヤー
移転→
廃止
・バイヤー個人 の能力に依存
・仕事内容の変 更の必要性に 対する認識の 欠如
フィー
(リベ ート)
付加価 値創造 システ ム
・仕入原価 の競争を抑 制する法制 度
・小売業の
・小売業の 非集中化
・商品の多 様化・改廃 の多さ
・圧倒的な交 渉力
・大きなセリ ングパワー
・セリングパ
ワーの欠如 移転
・フィー獲得へ の傾倒と原価 低減努力の欠 如
・品ぞろえの劣
191
集中化 化
・メーカーの反 発
ストラ クチャ ー
付加価 値創造 システ ム
・商品改廃 が少ない
・商品選択 のし易さを 重視
・商品の多 様化・改廃 の多さ
・消費嗜好 の多様性
・需要喚起 を重視
・スキル水準 の低い店舗ス タッフ
・小売業経験 者の不足
部分変 更
・ストラクチャ ーの日本市場 への不適合
・陳列台帳の欠 如
・重要カテゴリ ー・商品の欠落
インス トアプ ロモー ション
小売業 務シス テム
・店舗主導
・リベート 制
・長期販売
・エンター テイメント 性に対する ニーズ
・本部主導
・需要喚起 の慣行
・商品の多 様化
・エンター テイメント 性に対する ニーズ
・店舗主導
・ノウハウ、
専門チームの 保持
・店舗主導
・ノウハウ、
専門チーム の保持
・大きな裁量 に慣れたバ イヤー
移転 ・バイヤーの交 渉力の低下
単品大 量陳列
小売業 務シス テム
・リベート 制
・長期販売
・メーカー の支持
・消費者の 支持
・大型店舗 ・大型店舗 移転 ・サプライヤー 視点の陳列
集権的 管理と 分権的 オペレ ーショ ン
販促立 案と実 行の分 権
付加価 値創造 システ ム
・明確な職 務規定
・カードル 制度
・店舗商談
・曖昧な職 務規定
・本部商談
・店舗への分 権
・大型店舗
・大きなセリ ングパワー
・本部集権に 慣れたバイ ヤー
移転
・バイヤーの交 渉力の低下
・バイヤー業務 の変更の必要 性
上意下 達型指 揮命令 系統
付加価 値創造 システ ム
・安価で豊 富な労働力
・明確な職 務規定
・カードル 制度
・高価な労 働力
・曖昧な職 務規定
・スキル水準 の低いパート 従業員
・賃金と意識 が高いパー ト従業員
移転→
変更
・裁量の少なさ から生じる混 乱と不満
・離職
・コストと業務 のアンバラン ス
192 ロジス
ティク ス・コ ントロ ール
直接取 引
付加価 値創造 システ ム
・数社の大 規模メーカ ーと多数の 中小メーカ ー
・専門卸の 不在
・卸マーチ ャンダイジ ング
・メーカー、
小売業の細 分化
・圧倒的な交 渉力
・卸売業務の 包摂
・セリングパ ワーの欠如
移転→
部分変 更
・メーカー・卸 の反発
・協力ベンダー の不足
店舗直 送
付加価 値創造 システ ム
・直接取引
・専門卸の 不在
・棚補充
・卸マーチ ャンダイジ ング
・単品補充
・直送向け店 舗構造
・直送向け店
舗構造 廃止
・頻回配送に不 適切な店舗構 造
物流セ ンター
付加価 値創造 システ ム
・直接取引
・専門卸の 不在
・卸マーチ ャンダイジ ング
・ロジステ ィック業者 の充実
・大きなセリ ングパワー
・十分な店舗 数
・セリングパ ワーの欠如
・店舗数の不 足
廃止
・輸送コストの 増加
・コントロール 体制の不足
IT シス テム
組織構 造・組織 資源
・グローバ ル標準基準
・独自の取 引基準
・圧倒的な資 本力
・グローバル 契約業者の 存在
部分変 更
ワンス トップ ショッ ピング
5 部門制
小売業 務シス テム、付 加価値 創造シ ステム
・競合業態
(専門量販 店等)の不 在
・競合業態
(専門量販 店等)の存 在
・薄い利幅
・大規模店舗
・運営ノウハ ウ
・人材不足
・大規模店舗 移転 ・利益バランス の悪化
モー ル・マネ ジメン ト
付加価 値創造 システ ム
・週末買物 需要
・マルシェ 文化(複合 商業施設へ のニーズ)
・週末買物 需要
・複合商業 施設へのニ ーズ
・圧倒的な資 本力
・プロパティ マネジメント ノウハウ
・集客力
・資本の制約
・日本人マネ ジャー
変更
大型店 舗
組織構 造・組織 資源
・広大&安価 な土地の存 在
・高い地価
・フリーク エントビジ ット
・圧倒的な資
本力 ・資本の制約 移転 ・投資採算性の 低さ
193 ディス
カウン ト
最低価 格保証
小売業 務シス テム
・直接取引
・店舗認知 率の高さ
・卸マーチ ャンダイジ ング
・店舗認知 率の低さ
・圧倒的な交 渉力
・規模の経済
・卸機能の包 摂
・規模の経済 の欠如
・内部連携の 欠如
移転
・低価格への認 知不足
・赤字販売とリ ベートによる 補てん
開発 PB
小売業 務シス テム
・小売業の 集中化
・協力メー カーの存在
・PB の浸透
・高いブラ ンド認知
・協力メー カーの不在
・ブランド 力の欠如
・圧倒的な交 渉力
・大きなセリ ングパワー
・セリングパ ワーの欠如
変更
(輸入 PB へ)
・日本仕様 PB の欠如
輸入 PB
小売業 務シス テム
・仏流望む 消費者ニー ズ
・より厳し い品質基準
・ブランド 力の欠如
・グローバル な店舗ネット ワーク
・プロダクツ オブワール ドカテゴリ ー
移転
・「輸入品」と しての位置づ け
・不良品率の高 さ
国際化 経験
本社派 遣者
組織構 造・組織 資源
・エリート 層の存在
・小売企業 の国際化レ ベルの低さ
・豊富な叩上 げのマネジメ ント層
・多数の海外 子会社
・小売業経験 者の不足
・マネジメン ト層の日本 市場知識の 不足
移転→
変更
・日本と他のア ジア市場との 同一視
アジア 研修
組織構 造・組織 資源
・小売業従 事者の国際 経験の不足
・多数の海外 子会社
・小売業経験
者の不足 移転
・日本と他のア ジア市場との 同一視 子会社
間コミ ュニケ ーショ ン
組織構 造・組織 資源
・小売業従 事者の国際 経験の不足
・多数の海外 子会社
・海外経験者
の不足 移転 ・人的な交流の み
出典:筆者作成
194 6.1.1. 移転された小売システム
そこで移転された小売システムの一例としてフィーを取り上げ、どのようなギャップが 存在し、その結果どのような問題を生じたのかについて見てみたい。
カルフールにとって日本はアジアの中の一市場ではなく、非常に特殊な市場であったが、
特に商売のやり方(ビジネスモデル、何を以って利益を上げるか)において、本国市場と のギャップは大きかった。カルフールも日本の小売企業もコストの圧縮努力を通じて収益 性を高めるのは同じだが、日本では原価の引き下げによる粗利の向上を目指す一方で、カ ルフールではフィーの徴収を通じて利益の向上を目指した。そのため他国のカルフールで は、リベートが利益に占める割合が 8 割にも上ることがあったという。カルフール・ジャ パンではリベートが占める割合が利益の数%であった。
商売のやり方に違いが生じる原因として、流通構造の差異が挙げられる。フランスでは 小売業の集中化が進んでいるが、各企業は購買グループを形成しており、その単位で見た 場合、集中化の度合いはさらに高まる。そのバイイングパワーを背景に、圧倒的な交渉力 を保持しているのが、フランスにおけるカルフールなのである。さらに、プロモデス
(Promodés)の買収により卸部門を傘下に収めるとともに、中小小売店に商品を供給する キャッシュ・アンド・キャリー業態も運営している。卸機能をも担うことで、サプライチ ェーン内での主導的立場を一層強化している。日本は小売業の集中化が進んでいなく、卸 売企業が重要な役割を担う卸 MD が定着した市場である。したがってサプライヤーに対する 交渉力は、歴然の差があるといえる。そのような交渉力を背景に、メーカーと直接取引を 行い、継続的な協力関係を築く。精緻化されたフィー(リベート)制度により、メーカー に対して販売・プロモーション活動の対価を徴収していく。これがカルフールのビジネス モデルとなっている。
また、サプライヤーとの関係だけでなく、競合業態との関係も重要な要因である。ハイ パーマーケット業態は、食品・非食品の幅広い品ぞろえを特徴としている。フランスでは この点が、食品を中心としたスーパーマーケット業態に対して、品ぞろえ上の大きな差別 化となっている。しかしながら日本では、スーパーマーケットの食品の売上比率が低く、
非食品部門の売上、特に衣料品の比率が高くなっている252。このようなスーパーマーケット が非食品を強化してきたという事実は、品ぞろえ面のハイパーマーケットの優位性を削ぐ 一因となっている。また、スーパーマーケットとディスカウント・ハウスの同時流入と岡 田屋の戦略的推進がもたらした総合スーパー(GMS)業態の発展も、同様の意味を持つ。ハ イパーマーケットと同様の品ぞろえを GMS が実現しているため、日本におけるハイパーマ ーケットの優位性は相対的に弱められてしまう。このことも、フランスと日本におけるカ ルフールの交渉力の差を生み出している。
次に、商品サイクルの違いも一因といえる。フランスの商品サイクルは日本より長く、
そのため、一商品に対して、長期間の契約にもとづき長期間の場所を確保し、大量に陳列 することが主流になっている。また、商品の改廃による棚の入れ替え機会が少ない分、プ