4. ヨーロッパの小売業
4.1. 小売業態の発展プロセス
4.1.4. 消費組合
18 世紀の終わりからいくつかの組合活動が発生しており、1832 年の段階では約 300 もの 組合が存在していた。国によって発展経緯はさまざまで、イギリス、フランス、ドイツ、
スウェーデンでは、消費組合は都市の労働階級エリアで発展したが、ノルウェー、オラン ダ、フィンランド、デンマークなどでは、いなかのエリアの方が活発であった。発展経緯 はさまざまであるが、各国における消費組合成功のベースにある共通の要因は、オペレー ションにおける規模の経済と社会政治的訴求(民衆による民衆のための組織)であった。
そして現在の無数の生活協同組合の基礎となったのが、1844 年 12 月 21 日に誕生したロ ッチデール組合(Rochdale Pioneers)の精神やモデルであった。19 世紀前半のイギリスで は、激しい政治活動、労働組合運動の成長、製品の品質についての公的統制の欠如、都市 の急速な成長という諸環境が、一群のカリスマ的な社会改革者たちの制度的活動と結びつ き、消費組合という革新的な組織構造が作り上げられたのである70。その後イギリスでは、
1863 年に協同卸売組合(Wholesale Society)、1869 年に協同組合(Co-operative Union)
が設立され、1914 年には組合数は 1385、会員数は 305 万人(人口比 26.4%)に達した71。 フランスでは、19 世紀前半に社会主義者によって競争活動が絶え間なく批判されたため、
そのアンチテーゼとなる協同活動は、大いに受け入れられる考え方であった。しかしなが ら同国では、協同活動がまず製造サイドで発達したために、流通サイドの活動は、やや遅 れてスタートした。1835 年の誠実な取引と社会奉仕の店(Commerce Véridique et Social)、
1848 年のカストー協会(Société des Castors)の設立を経て、1867 年~1883 年の間には、
製造協同組合や信用協同組合に対する注目が高かったにも関わらず、おおよそ 100 の購買 協同組合が設立された。1867 年のパリには、5~6 の購買協同組合しかなかった(製造協同 組合は 50 以上、信用協同組合は 100 以上存在した)ことを考えると、大変な進歩である。
さらに 1885 年には協同組合(Co-operative Union)が設立された。しかしながら 1895 年 に、協同組合のブルジョア気質かつ小さい議会に存在する偏狭性に反対し、社会主義者に よ る 社 会 主 義 消 費 交 換 協 同 組 合 ( Co-operative Exchange of Socialist Consumers' Societies)が設立され、2 つのグループの対立が協同組合の発展を少なからず阻害した72。 その後消費組合は、1930 年代からはペースを落とすものの、第二次世界大戦後までヨー
90
ロッパ全土でシェアを拡大し続けた。しかしながらその頃には、設立後 100 年以上を経過 しており、競争力を維持するための改革を必要としていた。その結果、1955 年にイギリス で、改革活動を報告するための独立委員会(Independent Commission)が設立され、以降 10 年にわたりその結果はイギリスおよびヨーロッパ全土に広がっていった。1960 年の時点 で西ヨーロッパには約 9 万店の消費組合店があり、50 万人以上を雇用していた。この数値 は全ヨーロッパの小売取引のうち 6.2%を占めていた(図表 4-4)。
図表 4-4 業態別小売シェア(1960 年)※1 単位:%
国 消費組合 チェーンス トア
バラエティ ストア
百貨店 その他
イギリス 11.0 20.8 4.8 5.0 58.4 ドイツ※2 2.8 6.0 1.7 5.5 84.0 フランス 2.7 6.2 3.3 3.5 84.3 西 ヨ ー ロ ッ
パ
6.2 8.2 2.6 3.6 79.4
※1 チェーンストア、バラエティストア、百貨店のシェアは民間取引に関するもののみ。
すべての協同組合取引は、百貨店等の中で行われていても、消費者共同組合の売り上げに含 まれる。
その他の小売業の売上は差額によって算出され、すべて通信販売を含む。
消費者共同組合は、国際協同組合同盟(International Cooperative Alliance)に所属する ものだけでなく、すべての組織を含む。
※2 Saar と西ベルリンを含む。
出典:Jefferys and Knee(1962)、p.65
なお、フランスにおける売上シェアは、1960 年で 2.7%、1977 年で 2.5%73とほぼ横ばい であった。この間、店舗数は約 9000 店舗弱から約 7500 店舗に減ったが、変化の中心は、
伝統的店舗および小規模セルフ店舗(120 ㎡)の減少(約 4000 店舗減少)と小規模スーパ ーマーケット(120‐400 ㎡)の増加(約 2500 店舗増加)による(図表 4-5)ものであり、
店舗規模の拡大によりシェアを維持したかたちといえる。
図表 4-5 フランスにおける店舗数の変化
店舗タイプ 1963 年 1966 年 1969 年 1972 年 伝統的店舗および小
規模セルフ店舗(120
㎡)
8843 7500 6249 4840
91 小規模スーパーマー
ケット(120‐400 ㎡) 63 791 1800 2511 スーパーマーケット
(401-2,500 ㎡) 8 17 93 211 ハイパーマーケット
(2,500 ㎡) 0 0 0 16
合計 8914 8308 8142 7578
出典:Dawson(1982)、p.103
消費組合の特質は以下の点にある74。すなわち、
①所有権が消費者に帰属し、利用高に応じて剰余金を受け取ることができる新たな組織形 態であること
②集権的統制の下で管理されるいくつもの店舗を展開することができたこと
③店舗網を通じ、卸売業者・生産者との協同関係を発展させ、低価格販売を実現するため の垂直的チャネルの調整が行われたこと
などであった。
ブリザード(1976)に倣い、消費組合の文化コアと環境コア変数を整理したものが図表 4-6 である。消費組合は、都市化や大衆市場の形成といった経済面の変化に加え、政治活動 の激化や労働組合運動の成長といった政治面の変化によって発生した。そのため産業化が 進んだ国では、都市の労働階級エリアで発展した。消費者に所有され消費者のために組織 された業態であり、信頼のある商品を低価格で販売し、余剰金は組合員に配当するという、
社会政治的訴求を持つものであった。さらにいくつもの店舗を展開することで仕入におけ る規模の経済を実現したこと、卸・生産者との協同関係を推進し、垂直チャネルを調整し たことで、低価格販売を実現した。
図表 4-6 消費組合のコア要素
文化コア 環境コア変数
外部 内部
立地
・都市の労働階級エリア(産 業化の進んだ諸国)
・いなか(その他の諸国)
・都市化の進展
・労働組合運動の伸長
・社会政治的訴求(消費者に よる所有)
商品
・主として食品、農産物→非 食品にも拡大
・信頼のある商品
・大衆市場の形成 ・社会政治的訴求(消費者に よる所有)
92 価格
・低価格
・剰余金の配当
・激しい政治活動
・労働組合運動の成長
・社会政治的訴求(消費者に よる所有)
・卸・生産者との協同→垂直 チャネルの調整
・共同仕入
・多店舗展開
売上
・大規模 ・中小零細小売業の優勢(~
1950 年代)
・多店舗展開
・オペレーションの規模の経 済
品ぞろえ
・食品中心→総合化 ・中小零細小売業の優勢(~
1950 年代)
・消費財のマスプロダクショ ンの進展
広告・販促
サービス ・セルフサービス(一部)
サプライチ ェーン
・卸・生産者との協同→垂直
チャネルの調整
役割
・民衆による民衆のための組 織
・品質保証
・激しい政治活動
・労働組合運動の成長
・品質に関する公的統制の欠 如
・社会政治的訴求(消費者に よる所有)
出典:筆者作成