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バイブルとしてのカルフールウェイ

5. 小売システム国際移転の意思決定フレームワークとカルフール・ジャパンへ

5.12. ソフト・リソース

5.12.1. バイブルとしてのカルフールウェイ

本国フランスでは向かうところ敵なしのカルフールでは、競合企業・競合店と競い合う というよりも、「内部的な競争」が価値観として定着していたという。それは組織内のさま

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ざまな制度、行為に現れていた。例えば商品部のまったく別の商品を扱っていたグロサリ ーと家庭用品・雑貨のチームとが、マージン率を競い合っていた。また店長は、商圏内の 競合店との競争ではなく、カルフール・ジャパンの 8 人の店長との競争を意識していた。

さらに、一人ひとりの商売人意識の高さも特徴といえる。いかにして利幅が薄い中で儲 けを最大限にするかという意識の高さは、日本のサラリーマンにはないようなレベルであ った。店を自分で経営しているような気持で行えという社風を、派遣者は体現していたと いう。店長が一国一城の主として活動していたのも、このような社風に拠るものだと考え られる。

それではこの社風がどのような理念体系を持つか見てみたい。カルフールが日本へ持ち 込んだ文書の一つに、「the Policies」という小冊子がある(日本語版は「Our Policies」)。

冊子の構成は、「Mission(ミッション:使命)」、「Policies(ポリシー:政策)」、「Strategies

(ストラテジー:戦略)」からなる。カルフールの文化を反映しミッションが定められ、あ らゆる努力や活動がミッションに焦点をあてて実行されるよう、ポリシーがガイドライン 的な役割を担う。そして実行に当たっては、ストラテジーが指針となる。ミッション、ポ リシー、ストラテジーという順に、より内容が具体化されるかたちである。環境に合わせ て変更されるのはストラテジーであり、ミッションはほとんど変更されることはなく、組 織全体で標準化されている。ポリシーは、標準化と適応化の中間的な位置づけである(図 表 5-6)。

図表 5-6 Our Policies の骨子

ミッション:顧客満足のために活動する

人材:連帯感と公共の利益をモチベーションとす

リソース:流通効率の最適化を目指す

目標:グローバルな存在感と長期的な企業価値 を高める

バリュー:各国市場に適応し、ビジネス・バリュー のベンチマークとなる

ポリ

資産:ハイパーマーケットコンセプト、顧客との関 係性、リーダーとしての企業イメージ、ノウハウ、

売上と市場シェア、店舗

人的資源:組織、教育研修、昇進、報酬、マネジ メント、相互作用、コミュニケーション

マーチャンダイズ:品ぞろえ、品質、価格、陳列、

購買、商品フロー

ファイナンス:予測、投資、コスト、マネジメント、

手順

標準化 適応化

概念的 具体的

出典:「Our Policies」より作成

またポリシーは、「Assets(資産)」「Human Resources(人的資源)」「Merchandise(マー チャンダイズ)」「Finance(ファイナンス)」にわかれて示されており、カルフールウェイ あるいはカルフールの小売システムが随所に散りばめられた内容になっている(図表 5-8)。

まず資産に関しては、ハイパーマーケット・コンセプト、顧客ニーズを常に優先する姿

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勢と顧客ロイヤルティ、ディスカウント業態としてリーディングカンパニー、ノウハウな ど、無形資産に関する記載に多くの紙幅を割いている。ノウハウについては、単純なかた ちで表現され、それを伝播・利用するのは人であるとしている。さらにノウハウはプロ根 性にその基礎を置くとしており、経験や創造性で強化されるものとなっている。カルフー ルのやり方は「根性論」であるという言葉を耳にすることがあったが、その姿勢がまさに このポリシーに表現されている。人が経験と根性を通じて、ノウハウを運用し、形づくる ことが期待されているのである。一方、有形資産は、売上高および市場シェアの拡大、顧 客の快適さや利便性を追求した施設および店舗が挙げられている。店舗に関しては、顧客 にとって魅力的な店舗をつくること、調達を集権化することにより規模の経済を追求する こと、店舗を標準化することなどが記載されている。実際にこの 3 点は、あらゆるシーン で強調されることが多く、シンプルであるが故に、遵守しやすいものであるといえる。

次に人的資源に関しては、教育研修や昇進・報酬、コミュニケーションなどが記載され ている。中心となる概念は、権限委譲とコミットメントである。権限委譲を徹底し、その ための教育研修も提供する。その代わり、高いコミットメントを求め、目標に対する達成 責任も個人に与えている。そのため、自己の責務に対してコントロールが欠如したり、目 標に対してパフォーマンスが大きく食い違ったりするような場合、組織からの退出の可能 性が高まることが記載されているなど、責任の追及が徹底されている点が印象的である。

また組織内では、ツーレベルディシジョンメイキング(自身の上司と部下との間で意思決 定を行うこと)を基本とし、他部門へのコミュニケーションは部門長を通じて行われるな ど、組織階層上の意思決定プロセス、コミュニケーションフローが厳密にコントロールさ れていたが、人的構造や意思決定においてその旨が強調されている。

マーチャンダイズに関しては、提供物の価値を左右する要素である、品ぞろえ、品質、

価格、陳列が挙げられている。そこで良いものを安く(いくつかの価格ラインで)、買いや すく提供するというのが、基本となっている。例えば品ぞろえは、最低価格、プライベー トブランド、大手メーカーのナショナルブランド、特産品を基準に行われる必要があると している。各カテゴリーで、この 4 つのタイプを品ぞろえすることにより、最も効率的に、

あらゆる顧客ニーズをカバーすることができるのである。マーチャンダイズの現地適応は、

カテゴリー構成であるストラクチャーに、市場のトレンドや新商品を反映させることで実 現させる。価格競争力の維持向上は、回転率の速い商品の価格設定に注意を払い、プロモ ーションにより低価格のイメージを強化することによって実現される。また陳列に関する 意思決定においては、商品部、マーケティング部、店舗の 3 者が権限を持つとし、本部と 店舗の権限バランスが同等であることが示されている。上意下達型のチェーンオペレーシ ョンではなく、上下分業型のオペレーションによる市場適応志向が見て取れる。さらに先 の 4 つの要素(品ぞろえ、品質、価格、陳列)を成功させるためのオペレーション面での 政策は、集権的な購買とサプライヤーとのパートナーシップ、商品フローの効率化にある としている(図表 5-7)。

181 図表 5-7 マーチャンダイズにおける小売システム

小売業務システム

品ぞろ

え 品質 価格 陳列

付加価値創造システム

集権的な購買

商品 フローの効率

化 サプライヤー

とのパート ナーシップ

出典:「Our Policies」より作成

最後のファイナンスでは、投資とコストが組織のあらゆるレベルでマネジメントされる べきだとしている。マネジメントの方法は、収益性分析による目標の設定、パフォーマン ス分析および手順の監査による実行分析である。この分析においては、時系列の比較、競 合企業との比較、部門間の比較、店舗間の比較、カテゴリー間の比較、予測との比較など、

比較調査が重視される。

当該冊子は、目標設定や行動の指針として利用された。例えば本部では、通常の業務を この 4 分類で区分けしていた。プロジェクトの管理、会議の議事録、ファイリングなど、

この 4 項目で分類管理され、各自のパソコンにもこの 4 つのフォルダを作るように指示さ れた。社内の業務も、自身の業務も、この 4 つのいずれかに分類されることで、業務がシ ンプルになり、目的が明確になるというメリットがあった。またスタッフの成果評価にお いては、この 4 つの分類について項目が設定されていた。何かを意思決定したり、行動し たりする際には、バイブルのようにこの小冊子に立ち帰ったという人もいた。

図表 5-8 The Policies

資産

コンセプト:カルフールの コンセプトはハイパーマ ーケットであり、店舗によ

って具現化されるもので

ワンストップショッピング、セルフサービス、無料駐車場、低 価格が主要な特徴である

商品を部門に組み込むことで、顧客の動線を容易にし、購買の 効率を上げることができる

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ある 販売技術を、販売する商品と顧客ニーズに適応させていく必要 がある

100%満足しなかった顧客は、どの商品、どの店でも返金を受け ることができる

顧客への傾聴:企業の成長 は、顧客とその満足に注意 を払うことによって生み

出される

顧客の声に耳を傾けることによって、顧客のニーズ、期待、行 動を理解し、予想することができる

その結果、品ぞろえとサービスを改良し、ショッピングをより 便利にすることで、それに対応することができる

品質、シンプルさ、もてなし、顧客とのコミュニケーションは、

顧客のロイヤルティにつながる

イメージ:カルフールは、

ディスカウント業態にお けるリーダーとして自ら を差別化しなければなら

ない

広告は、品質、ディスカウント、近代性、ダイナミズムのイメ ージを強化することによって、売上を伸ばすことができる 広告は明確で効果的である。広告は、顧客満足に焦点をあてて 実施されるべきである

各店舗は会社の一部であり組織に統合されていると同時に、そ の現地環境に溶け込んでいなければならない

投資は、シンプルさと効率性を追求するために行われる カルフール人は、プロ根性と企業の名誉を強化するようなポジ ティブな精神を、その態度に示さなければはならない

ノウハウ:ノウハウはカル フールの重要な資産の一

つである

ノウハウはプロ根性から生みだされる。さらにわれわれは、会 社の信条を尊重する経験と創造性を通じて、これを強化するこ とができる

ノウハウは単純なかたちで表現される。皆がこの伝播、利用、

保護に参画する必要がある

売上と市場シェア:売上と 市場シェアの成長は、どの 企業にとっても必要不可

欠である

売上と市場シェアの成長は、環境はもちろん、顧客や競合の変 化を先取りすることを意味する。いかなる変化も素早く適切な 反応を必要とする

売上と市場シェアの成長は、誰もが新しいアイデアを探求しな ければならないことを意味する。ポリシーに従う限り、提案は 異常なことになりえる

売上と市場シェアの成長は、各立地の商業的な魅力の開発を必 要とする

店舗:施設や店舗は、顧客 の快適さと利便性を第一

義に考える

駐車場のアクセスと巡回のしやすさ、店舗内の広く清潔な通路、

商品の選びやすさと商品タイプに適した什器、レジやカウンタ ーでの待ち時間ゼロ、顧客サービス(返金)が主要な原則であ る