第 4 章。
第 2 節 現代資本主義の過剰蓄積傾向
現代資本主義は、独占資本主義体制に国家が全面的に介入し、独占資本主義を支援し維持しよ うとする国家独占資本主義である。前節で考察した資本蓄積の過剰蓄積傾向も、独占資本主義のも とで変容を蒙ったし、国家独占資本主義のもとでさらに変容している。
第 1 項 独占資本主義の過剰蓄積
1.独占資本の価格・投資政策 独占資本主義になると、資本は独占資本と非独占(中小零細)資
本とに、労働市場も「独占的労働市場」と「非独占的労働市場」とに分裂する。非独占資本の価 格・投資行動は自由競争資本主義のときと同じであるが、独占資本は価格支配力によって独占的価 格は高めに維持しながら、市場(需要)の変動に対しては生産数量を調整して対応する。「独占的 労働市場」での貨幣賃金率は、自由競争資本主義のときと同じく、労働者の雇用率(=1-失業 率)によって決定される。「独占的労働市場」では、大労働組合が組織され実質賃金率を確保する ことが賃金闘争の目標となる。
独占資本は、恐慌・不況期において独占価格が崩壊して起こる価格競争によって「共倒れ」する 危険性を回避しようとする。そして非価格競争は依然として激烈に戦わされるが、価格競争を避け るために、好況期に需要が拡大しても価格は吊り上げずに生産数量を拡大して(稼働率・操業度の 上昇)対応するようになる。そして、種々の目的のために意図的に過剰能力を保有するようになる
(「遊休生産資本」・planned exsess capacity)。独占価格が拡大期に安定的であることは社会全 体の蓄積を促進するし、「意図的な過剰能力」の保有はその分だけ蓄積が一層進むことになる。他 方で独占資本は、新投資による供給増大がもたらす価格低下なり操業度低下によって、既存投下資 本が受ける利潤減少を新投資による新利潤から控除した「限界利潤」を考慮して投資決定する。そ の結果独占は投資決定に慎重になる。このように、独占資本は蓄積を促進させる面と抑制する面と を同時に持っているのであり、経済が停滞化するのではない。独占資本主義のもとでの資本蓄積は 過剰蓄積に転化する傾向が依然として存在する。
2.独占資本主義の過剰蓄積傾向 独占資本間でも技術の開発・導入競争は激烈に戦わされる。企
業内に研究所を作って増大する独占利潤の一部を研究開発のために支出することによって、新技術 の開発(プロダクション・イノベーション)競争が依然として作用するし、独占資本主義固有の製 品差別化競争によってプロダクト・イノベーションが激しくなる。したがって、独占資本主義のも とでも加速的な蓄積過程が進展していく。
前節で考察した自由競争資本主義のもとでの不均衡の累積化=過剰蓄積傾向は、独占資本主義に なるとどのように変容しただろうか。それぞれの過剰蓄積傾向を検討してみよう。
(1)労働力供給に対する過剰蓄積 独占資本主義になっても依然として加速的蓄積は進展するか
ら、この過剰蓄積傾向は依然として作用する。
(2)生産手段と労働力の生活手段に対する過剰蓄積(生産手段の不均等発展) この過程は実質
賃金率が低下することであったが、「独占的労働市場」での大労働組合が実質賃金率を確保するこ とに成功すれば、実質賃金率は低下しにくくなる。むしろ生活手段不足が起こり、非独占的生活手 段の市場価格なり独占的生活手段の操業度がより一層上昇することになり、生活手段部門の不均等 発展に転化するだろう。したがって、実質賃金率が上昇する次に考察する(3)の過剰蓄積傾向を 強めることになる。
(3)生活手段の労働力に対する過剰蓄積(生活手段の不均等発展) 実質賃金率が自由競争資本
主義よりも上昇しやすくなっているだけ、この過剰蓄積傾向は強まるだろう。
(4)需要(市場)に対する過剰蓄積 自由競争資本主義の場合と同じく、需給の均衡を維持すべ
き実質賃金率が(1)∼(3)のように調整的に変動しなければ、需給の均衡は破壊され、過剰生産 が爆発するか、生活手段が不足し生活手段の市場価格がさらに上昇し、生活手段部門の不均等発展 が一層深まっていく。
このように独占資本主義においても、自由競争資本主義の過剰蓄積傾向はあるものは弱まりある ものは強まりながら、貫徹している。
第 2 項 IMF=GATT 体制下の国家独占資本主義の過剰蓄積
国家独占資本主義も独占資本主義の戦後形態であるから、独占資本主義の資本蓄積と過剰蓄積傾 向は作用している。しかし、第2次世界大戦後の構造的な変化によって、蓄積機構と過剰蓄積化 傾向も影響を受ける。本稿と次項で戦後の国家独占資本主義の与えた影響に焦点を縛るが、国家独
占資本主義の世界体制は1970年代を境として変質しているので、両時期を区別して考察すること にする。
1.大量生産=大量消費型蓄積(加速的蓄積) 第2次大戦中に軍事目的で開発された原子力・エ
レクトロニクス(電子)・エアーノロジクス(航空宇宇宙技術)・オートメーション・合成物質な どの新技術は、最新鋭の重化学工業を生みだすとともに、従来から重化学工業を革新していった。
これらの革新的新技術(イノベーション)は科学=技術革命として研究開発され産業に導入されて いったが、戦後の高度経済成長をバックにしてスケール・メリット(規模の経済)を求めて大量生 産されていった。また生産量を急増することによって、個々の独占資本はマーケット・シェア(市 場占拠率)競争に走った。
こうした新技術を採用した設備投資ブームによる大量生産は、独占資本主義においても作用して いる資本蓄積の加速化を促進していった。しかし、設備投資ブームによる大量生産は生産手段(第 1部門)の急激な不均等発展として進展したのではなく、累増する生産能力を吸収する需要も急速 に拡大していった。いわゆるレギュラシオン学派が規定する「フォーディズム」型蓄積レジームな り、SSA学派の「労使協調路線」の社会的蓄積構造が形成された。すでに独占資本主義になった 時から、アメリカではいち早く1920年代に耐久消費財ブームが起こっていた。これは独占資本が 自らが過剰蓄積傾向に対抗しての販売努力であり、独占資本の製品差別化競争と広告宣伝活動によ って実現されていった。戦後は、耐久消費財ブームが日欧にも伝播していった。戦後の冷戦体制の 影響もあって、国家は福祉政策・完全雇用政策を展開し、「労使合意」路線のもとで労働組合の賃 上げ闘争が成功し、実質賃金率が上昇しつづけ、労働者階級の購買慮が増大していった。さらに金 融の側面からは、消費者ローンが急速に発展し、労働者階級の消費欲求がローンによって促進され た。かくして、重化学工業の大量生産を追いかける形での大量消費経済が出現した(大衆消費社会 の出現)。
このようにして、国家独占資本主義の高成長期においても過剰蓄積傾向は働いた。さらに、独占 資本の投資計画は進み、国家の景気調整政策によって恐慌が軽微化したことによって、ますます独 占資本は恐慌による過剰資本破壊を免れるようになり、投資が景気循環の全期間にわたる長期的な 視点から決定されるようになった。すなわち、景気循環全体にわたる長期の需要を予想し、その長 期需要予測に基づいて標準操業度と標準原価が計算され、それに独占資本の目標利潤を満たすよう な一定のマージンを掛けて独占価格を設定する。その結果、投資決定は計画的に分散化され、恐 慌・不況期においても将来の長期的需要拡大が期待されれば、投資を実行するようになった。この 独占資本の投資の分散化・計画化は加速的に蓄積を促進する。
他方では、国家独占資本主義のもとでの恐慌・景気循環の形態変化によって、蓄積が阻害される 傾向も生じている。恐慌・不況が深刻化しないように国家は早めに景気刺激政策に転換するから、
恐慌が軽微化した454。その結果、操業度なり市場価格が累積的に低下しないから、過剰資本を強 制的に廃棄(破壊)させる作用が著しく弱化してしまった。独占資本は国家の景気政策によって資 本価値を温存できるから歓迎するだろうが、社会全体でみれば過剰資本破壊の作用が著しく弱化し たことになる。自由競争資本主義のときのように、恐慌・不況期における過剰資本の強制的破壊と 不況末期における補填投資の集中化は起こりにくくなり、国家の景気政策や大衆消費の拡大などに よって景気が回復していくようになる。生産資本形態の過剰資本(「意図せざる過剰能力」)が好 況に持越されるようになる。こうした「意図せざる過剰能力」が廃棄されずに持続化することは、
蓄積自体を阻害する。
2.大量生産=大量消費型蓄積の過剰蓄積化 第12章で考察するが、国家独占資本主義のもとで
景気循環はさらに変容した。国家は1929年大恐慌や1930年代大不況を回避することを至上命題 として、財政・金融政策を中心とした景気政策を展開してきた。景気が過熱した兆候を国家が認識 すれば、過剰蓄積がさらに進展することを回避すべく早めに景気を引き締め、人為的・なし崩し的 に恐慌が発生した。しかしこうした国家の「人為的景気引き締め」政策は、国家独占資本主義の過 剰蓄積傾向を否定するものではなく、「景気過熱の兆候」そのものが過剰蓄積の兆候にほかならな い。国家の「人為的景気引き締め政策」は、過剰蓄積が大きくなり恐慌が深く・広く・長期になる ことを未然に防ごうとしているのであり、過剰蓄積が進行していること自体を否定するものでは全 くない。
国家の有効需要政策や耐久消費財ブームによる大量生産=大量消費型好況の出現は、第1部門
(生産手段部門)の不均等発展が弱化することにほかならない。均等的な発展として加速的蓄積が 進展すれば、産業予備軍が減少していくことによって資本が労働力に対して過剰である蓄積が進行
454 拙著『資本主義発展の段階理論』(東京経済大学学術リポジトリ)133頁、参照。