第 4 章。
第 4 節 現代の過剰人口
国際労働機構(ILO)の年次報告によると(2013年)、世界の失業者は2億人を超えている。
2008年の世界金融危機後に失業者が急増し、2012年からは2008年を超えて増加してきた。また 失業者は長期化しており、中心国や欧州諸国では求職者が1年以上失業している率は28.5%と高 く、とくに日本では39.4%に達している。失業の脅威は若者(15~24歳)に集中しており、2012 年において世界で7,380万人(失業率12.6%)にもなっている。新古典派経済学では有効需要不 足による「非自発的失業」の存在は否定され、現実に失業している人々を「自発的に良い職を求め て」求職活動をしていると見なして、「自然失業率」と規定している。現実の失業の重圧を認めな い非現実的・弁護論的・イデオロギー的な経済学といわざるをえない。セー法則を批判して、「非 自発的失業」が資本主義経済に内在していることを主張したのは、マルクスとケインズだった。
1.日本における完全失業率の高まり 日本における完全失業率の平均値は、高度成長期(1958
~72年)1.4%・スタグフレーション期(1972~82年)1.9%、バブル期(1983~2000年)3.0%
であり、その後1998~2000年にかけて4%台に上昇し、2001~2003年にかけては5%台になっ たが、それ以降は低下し2015年には3.37%であった410。中心諸国の失業率(2015年)は、イタ リア11.9%、フランス9.9%、ロシア5.6%、イギリス5.4%、アメリカ5.3%、ドイツ4.6%で、
日本の失業率3.4%(2015年)は中心国では最も低い。しかし、完全失業率は求職者数や失業状 態の数字が全く不完全であって、日本に失業問題がないというのではない。
2.マルクスの相対的過剰人口論 完全失業率だけで雇用状況全体を判断することはできない。日
本での完全失業者とはサンプル調査する月の1週間前に、就業を希望し求職活動をしたが、1時間 未満しか就業できなかったか全く就業できなかった求職者しか含まれない。1時間以上就業した人 はすべて就業人口に含められていることになる。また就業を希望していても悲観して就職活動をし なかった人は失業者とはみなされない。いわゆる潜在的失業者や不安定就業者は統計からは排除さ れてしまっている、全く不完全な失業統計であることに注意しておこう。
産業予備軍は労働人口から就業者(現役労働者軍)を引いた失業者であるが、景気循環に規定さ れた循環的に変動する。労働者の吸引(雇用)は資本蓄積したがって生産手段の増加に、反発(失 業)は「資本の技術的構成の高度化」に、労働人口は労働人口の自然成長率に規定されるから、現 実の失業者は、
409 James O’Connor,Accumulation Crisis,pp.13-21
410 拙著『現代マルクス経済学』225頁、最近のデータはecodb.net/country/JP/imf_persons.html
生産手段の増加率>「技術的構成の高度化率」+労働人口の成長率→失業者現象 生産手段の増加率=「技術的構成の高度化率」+労働人口の成長率→不変 生産手段の増加率<「技術的構成の高度化率」+労働人口の成長率→失業者増加 となる。
現代的にいえば、相対体的過剰人口は失業者と不完全就業者からなるが、マルクスは相対的過 剰人口を分析し、流動的・潜在的・停滞的形態に区分した411。「流動的過剰人口」とは、近代的 産業の中心部において、生産規模の変動(景気循環)に規制されて労働者が大量に吸収され(雇用 増加)反発される(失業の増大)する部分である。この過剰人口は壮年期の男子労働者に多くみら れ、労働力の消耗が激しく、急速な労働者の世代交代が進行した。「潜在的過剰人口」とは、農業 の資本主義化によって反発されたまま吸引されない農村労働者である。こうした農村に形成される
「潜在的過剰人口」は都市での賃労働として雇用される機会を待ち構えているから、農村労働者の 賃金は最低限に押し込まれ、片足をつねに受救貧民に入れている。「停滞的過剰人口」は、現役労 働者軍の一部であるがその就業状態はまったく不規則な労働者たちであり、その典型は家内労働で ある。「停滞的過剰人口」の労働時間は最大であるのに賃金は最低であり、出生数・死亡数・家族 の絶対的大きさが賃金の高さに反比例している。それらは、①労働能力を持ち景気循環によって増 減する部分、②孤児や受救貧民であり産業予備軍の候補者となる部分、③零落者・ルンペン・労働 無能力者・転換能力がない没落者・標準年齢以上の高齢労働者・産業の犠牲者たる身体障碍者・病 弱者・寡婦、からなる。浮浪者・犯罪者・売春婦も含まれ、「受救貧民」は相対的過剰人口の最低 の沈殿場所となる。
3.現代日本の不安定就業者 19世紀後半のイギリス資本主義の実態を分析したマルクスの相対的
過剰人口論は、現代日本においても存在している。マルクスの「停滞的過剰人口」に大雑把に対応 させれば、①には下請け企業労働者の最下層にあたる「日雇い労働者」、②には「育て親のいない 少年・少女を受け入れている福祉団体や施設にいる子供たち」や「自治体の生活援助を受けている 母子家庭」、③にはホームレス、認知症やケアを受ける高齢者、職業病による身体障害労働者(産 業公害の被害者や元原発労働者)、さまざまな病気による身体障碍者を受け入れて介護している施 設入所者、失業している母子家庭やシングル・マザーなど、が属している。こうした人々は現代日 本の最下層の社会的弱者であり、懸命に生きている人々である。新自由主義は、これらの人びとは 競争から脱落した人々であり、「自己責任」であると主張するが、どれも現代日本社会が生みだし た「社会問題」にほかならない。新自由主義の宣伝する個人主義イデオロギーは、すべて個人の責 任に還元し、社会システムの在り方はまったく問題にしないが、こうした「社会的弱者」にこそ国 家の社会福祉政策は真っ先にむけられなければならない。
4.不安定就業(広義の失業)の増大 マルクスの相対的過剰人口論は、完全失業率概念が排除し
てしまっている「不完全雇用者」(不安定就業者)の分析にきわめて有効である。アメリカのラデ ィカル派マルクス経済学者のハワード・シャーマンは、1970年代のアメリカ合衆国を対象として 失業の正確な範囲を測定した。完全失業率(政府発表の公式失業率)は8.8%であったが、労働人 口9,257.5万人には無業者5,853.9万人は入っていない。無業者のうちの518.6万人は、休業を希 望するが失望して、直前4週間は就職活動をしなかった人々である。シャーマンは、求職活動を 断念したこれらの人びと全体を失業者に入れた場合の「最大限の修正」と、「就業できないと考え た」を理由にあげた115.3万人のみを失業者に入れた「最小限の修正」とに分けている。さらに 非自発パートタイマーは半分しか就業していないとみなして、「最小限修正失業率」は12.0%、
「最大限修正失業率」は15.7%となる。また、熟練技術や高度の研究能力が生かされていない副 次的雇用(過少雇用)や、季節的失業や、摩擦的失業も考慮すべきだと指摘している。
高度成長末期からスタグフレーションにかけての日本の不安定就業(広義の失業)については、
加藤佑治の研究があるが、結論だけを紹介すると次のようになる412。①無業者中の「収入があれ ば家計に入れたい」と答えた人々を「潜在的失業」とみなし、②「不安定雇用形態」の臨時雇用・
日雇い・内職者を「半失業状態」とみなし、③「短時間就業者」を部分失業とし、④現在就業して いるが、「雇用が不安定なので転職や追記就業を希望している人々」を不安定就業者に入れて計算 すると、①~④までの不安定就業者の比率は、1968年21.4%(男性8.5%、女性41.0%)、1971 年23.3%(男性8.9%女性46.1%)、1974年26.2%(男性10.1%女性52.8%)、1977年29.2%
(男性12.3%、女性56.2%)と上昇していた。高度成長期の日本の不安定就業者の実態を研究し
た中野元は、次のように要約している。「高度経済成長期は、大独占資本を中心として新生産設備
411 マルクス『資本論』第1巻第23章第4節。
412 加藤佑治『現代日本における不安定就業労働者』(増補改訂版)御茶の水書房、1991年。総 括表と計算手続きについては、拙著『現代マルクス経済学』227~30頁で紹介してある。
の増設による生産の集積を大規模に推し進め、不熟練労働力市場を拡大することによって労働力人 口を再生産し、強蓄積を達成した。そして、この過程での低コスト労働力利用の特色は、①新規学 卒・若年労働力の大独占資本による集中的確保、②中高年齢者の底からの反発と臨時・日雇等の不 安定就業層への流入、③労働力の価値分割の進展と資本の規模的格差を中心とした低賃金構造のも とづく、従来の非労働力人口部分(家庭婦人等)の労働者化の急速な増大、④農民・商工自営業者 からの兼業、出稼ぎ等の増大、等々にあった。特に、③④の部分は主に日雇い・臨時・パート労働 者等々として不安定就業層を形成していく。」413。
さらに加藤は、マルクスの相対的過剰人口規定にしたがって検出を試みている(1977年)。そ の算出手続き以下のようになる。①無業者中の経済的理由(収入の大部分を家計に入れたい)で就 業を希望する者のみを「流動的・停滞的過剰人口」に入れ、②農林業自営下層の農民(中農と恒常 的職員・賃労働兼農林業者の半数をのぞいた農林業自営)と農林業自営下層家族従業者を「潜在 的・停滞的過剰人口」とみなし、③年間200日以上・週35時間未満の短時間雇用者を「停滞的過 剰人口」とし、④年間200日未満の短時間雇用者から、民間役員や経済外的理由によるパート雇 用を除いた人々を「停滞的過剰人口」とし、⑤年間200日以上働く臨時工・日雇や内職者を「停 滞的過剰人口」、⑥零細企業労働者(10人未満企業)からここで働くと思われる臨時・日雇いを 控除して人々を、「停滞的過剰人口」、⑦非農林自営下層中の年間所得が生活保護基準以下のもの を「停滞的過剰人口」、⑧非農林業家族従業者中の「年間200日以上・週49時間以上」働く人々 を、「停滞的過剰人口」に入れる。
受救貧民は、①生活保護受給者から15歳未満と家族構成員が働きに出ているものを控除、②各 種福祉施設入所者・精神薄弱救護施設入所者・非人保護施設入所から推定生活者保護受給者を控除 した人々、③老人ホーム入所者から軽費入所者と推定生活保護受給者を控除した人々、④精神病入 所者から満15歳未満・推定生活保護受給者・推定非労働者階級を控除した人々、⑤養護施設入所 児童、⑥受刑者、⑦住所不定者、としている。その結果、1977年の相対的過剰人口総数は2,196 万人となり、有業者と無業者中の就業希望者の合計6,435万人中の相対的過剰人口率は34.1%に のぼっていた。
413 中野元「現代における相対的過剰人口について」『経済論究』(九州大学)56号(1983年1 月31日)、76頁。