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金の価値尺度機能に替わる相対価格調整機構

第4章 不換銀行券制度-現代貨幣の性格と機能

第 2 節 金の価値尺度機能に替わる相対価格調整機構

このような現実を直視するならば、現代は「金の価値尺度」機能は消滅していると考えなけれ ばならない。商品の価格が、金の媒介なしに、直接に不換銀行券と対峙しているのである。したが って、マルクスが『資本論』第1巻第3章で規定した貨幣論をそのままでは適用できないが、マ ルクスの論じている金の価値尺度論を検討し、貨幣用金生産が金の価値尺度機能を保証すること

(第1項)、不換銀行券が専一的に流通する現代資本主義において「貨幣の価値尺度」は不在と なり、独占・非独占価格の体系としての「相対価格調整機構」によって偏奇しながら価値法則が貫 徹していることを主張したい(第2項)。

マルクス『資本論』第1巻第1章第3節での価値尺度論は、価値通りの交換を前提にして商品 の価値がどのように表現されるのかについて、価値形態論として説明している。しかしそこでの

「金の価値尺度」は価値の表現(価値の表示)にとどまっていて、どのようにして「価値通りの交 換」が実現するのか、いいかえれば、需給の変動による価値からの価格の乖離運動を通じて価値水 準が確定する機構について展開していない252。さらに資本が商品経済を包摂することによって、

250 久留間健は、不換銀行券は信用貨幣と国家紙幣との両面をもっており、長年の論争は意味がな かったと総括している。経済状況(条件)が「健全」であれば基本的に信用貨幣であるが、「異 常」事態においては国家紙幣に転化することになる(同『貨幣・信用論と現代』大月書店、1999 年、第2章)。

251 価値尺度不在論の明快な展開として、高須賀義博『現代価格体系論序説』(岩波書店、1965 年)や富塚文太郎「貨幣は価値尺度か」『東京経大学会誌』第253号(2007年3月)がある。

252 マルクスは、「価格と価値の大きさとの量的不一致の可能性、または価値の大きさから価格が 背離する可能性は、価格形態そのもののうちにある。このことは、価格形態の欠陥ではなく、むし ろ逆に、価格形態を、一つの生産様式に―規律が、盲目的に作用する無規律性の平均法則としての み自己を貫徹しうる一つの生産様式に―適切な形態にするのである。」と指摘はしていた(『資本 論』第1巻第3章、新日本出版社版、第1分冊、174頁)。

商品は生産価格によって交換されるようになる。一般商品の価値も貨幣商品である金の価値も生産 価格に転化し、共に生産価格で交換される。生産価格の世界においては、一般商品の相対価格が生 産価格によって調整されることによって、生産価格の体系としての価格体系が形成される。金商品 を含めた相対価格の調整機構を説明しなければ、「金の価値尺度」機構をしたがって価値法則の貫 徹様式の説明は完結しない253。金本位制が放棄され「金が廃貨」されている現代の不換銀行券制 度のもとで、この相対価格調整機構がどのように働いているのか、あるいは作用が停止してしまっ たのかについつては、本格的には第13章で考察する。本節の第2項ではその結論的部分に焦点を 縛ることにする。

第 1 項 金本位制下の価値尺度機能

1.金本位制度下の価値表現254―マルクスの説明 一般商品の価値は、一般的等価物たる金の一定

量によって表現されていた。一般商品と貨幣金との等値関係は、

A式

1戸建て住宅の価値 =5kgの金の価値(=¥20,000,000)

10台の車の価値 100着の背広の価値 1000足の靴の価値

10000枚のワイシャツの価値 ・

・ ・

と表現される。価値を表現しようとする一般商品(相対的価値形態にある商品)の世界は、一般的 等価物として金を共同で選定し、その一定量によって自らの価値を相対的に表現した。国家が法律 によって価格単位(円)の基準(度量標準)を制定することによって、商品の価格が決定される

(上の例では4,000分の1グラム―0.25ミリグラム―の金を1円としている)255。かくして、1 戸建て住宅などが¥20,000,000と価格表示される。

2.金本位制下の「価値尺度」論の拡大の試み―高須賀価値尺度論

マルクスは『資本論』第1巻の商品・貨幣論において「価値尺度」機能と流通に必要な貨幣量

(流通必要金量)を規定しているが、高須賀義博はマルクスの説明を定式化しながら、金供給との 関連を拡大再生産次元に上向して「価値尺度」論を展開した。拡大され高須賀価値尺度論のエッセ ンスを紹介しておこう。

(1)金供給と価値尺度機能 価値通りの交換の世界での「流通必要金量」は、商品価値総額╱貨

幣商品1単位の価値によって与えられ、価値(労働時間)を価格表示した価値価格の総額は「流 通必要金量」×貨幣1単位の法定価格(度量標準の逆数)、となる(単純化のために流通速度は1 と仮定)。この「流通必要金量」が流通に必要は貨幣量になる(金本位制下の貨幣流通法則)。

「流通必要金量」は価値の「内在的尺度」として機能しており、マルクが定義した価値表示として の金貨幣の機能を果たしている。しかし「価値の外在的尺度」としての「価値尺度」の問題として は貨幣商品の価値にあるとして、高須賀は「価値尺度」論を金生産と関連づけて展開する256

ストック金の価値は新産金の価値に規定されるが、貨幣の支配商品価値(購買力)と新産金の価 値とはどのような関係にあるだろうか。商品所有者が自己の商品の価格をつけるときには価値は未 知であるから、社会的に通用する価値を予想しなければならない。その際に、貨幣商品の価値も予 想しなければならない。したがって「流通必要金量」も予想値であり、予想価格は「予想流通必要 金量」(予想商品価値╱予想貨幣商品価値)×貨幣1単位の金量の法定価格、となるから、予想貨

253 相対価格の調整機構として「価値尺度」論を現代資本主義にまで展開しようとしたのは、高須 賀義博の『現代価格体系論序説』(岩波書店、1965年)と『現代資本主義とインフレーション』

(現代資本主義分析7、岩波書店、1981年)である。

254 マルクスは価値形態論において、商品の価値は確定していると前提して、その価値が一般的等 価形態としての金貨幣に表現されることを「金の価値尺度」機能としている。しかし筆者は、価格 運動によって価値水準が確定されるメカニズムを含めて「価値尺度」機能を理解する。

255 日本では明治4年の新貨条例によって、金0.4匁(約1.5グラム)を1円と定めた。

256 高須賀は、労働時間によって価値が尺度されることを「価値の内在的価値尺度」、商品価値が 貨幣金の一定量で表現されることを「価値の外材的価値尺度」と規定している(高須賀義博『現代 価格体系論序説』102-105頁)。

幣商品価値=(予想商品価値╱予想価格)×貨幣1単位の金量の法定価格、となる。この予想貨幣 商品価値が貨幣の支配商品価値である。予想貨幣商品価値したがって貨幣の支配商品価値は需給関 係によって変動するから、ストック金の価値とは一致しない。しかしその乖離は長期的に調整され て、貨幣の支配商品価値がストック金そして新産金の価値に収斂する、というのが高須賀・価値尺 度論のエッセンスである。

金の法定価格は、貨幣用金生産者にとっての供給価格(鋳造価格)であり固定しているのに対し て、一般商品の価格は循環的に変動する。したがって、金と一般商品の利潤率は循環的に逆相関の 運動をする。循環を通して金生産者が一般的利潤率を獲得できれば、金供給は確保され金本位制は 維持される。したがって高須賀は、金が調達(確保)できるか否かが貨幣制度の中核にある、とい う。

(2)拡大再生産版の貨幣流通法則 さきの「貨幣流通法則」は単純流通の世界で規定されたが、

マルクスは貨幣の蓄蔵プールや単純再生産論における貨幣材料についてかなり詳しく考察してい た。拡大再生産において貨幣の流通速度を明示して、「貨幣流通法則」を定式化すればつぎのよう になる。

流通必要金量×貨幣1単位の法定価格=価格総額╱流通速度=商品量×価格╱流通速度 貨幣1単位の法定価格は一定であるから、流通速度を一定として、変化量で表現すれば、

流通必要金量の変化率=商品量の変化率+価格の変化率

一般商品の生産条件に変化がなければ、その価値は変化しないから、価格は変化しない(価値通り の販売の前提)。したがって、

流通必要金量の変化率=商品量の変化率 となる。流通必要金量の増分は新産金で供給されなければならないから、

新産金(流通必要金量の増分)=商品量の変化率(成長率)×流通必要金量 したがって、

流通必要金量=新産金╱成長率 この式を貨幣流通法則の式に代入すれば、

(新産金╱成長率)×貨幣1単位の法定価格=商品量×価格╱流通速度 したがって、

新産金×貨幣1単位の法定価格=商品量×成長率×価格╱流通速度 したがって、

新産金×貨幣1単位の法定価格=商品生産量の増加×価格╱流通速度 となる。高須賀はこの式を「貨幣流通法則の拡大再生産版」とした。

金も一般商品も供給量は期首の生産手段によって決まるから、上式は

金産業の産出係数×金産業の生産手段×貨幣1単位の法定価格=一般産業の産出係数×一般産業 の生産手段の増加×価格╱流通速度

したがって、

一般産業の生産手段の増加╱金産業の生産手段=(金産業の産出係数╱一般産業の産出係数)×貨 幣1単位の法定価格╱(価格╱流通速度)

段が右式の基準値より小さければ貨幣用金の過剰供給となり、大きければ過少供給となる。貨幣用 金の過剰供給の場合には、一般商品の価格が上昇し金生産の費用価格が上昇して、利潤率が低下す る。過少供給の場合には、一般商品の価格が低下し金生産の費用価格も低下して、利潤率が上昇す る。かくして、「一般商品と金生産との間で、流通必要金量を単一基準でもって供給する機構があ るとき価値尺度機能は正常に遂行される」、ことになる257

第 2 項 不換銀行券制度のもとでの「価値尺度」機能の変化

1.不換銀行券の表現しているもの 金兌換が停止されているから、一般的等価物としての金が不

在であり、価格の単位に金量がなっているのではない。一般商品の価格を不換銀行券は表現してい る。A式の例で示せば、

B式

1戸建て住宅の価格 =¥20,000,000

257 同上書、153~4頁。