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第 4 節 日本の軍事産業

第 1 項 平和憲法と日米安保体制

戦前の絶対天皇制のもとで日本帝国主義はアジアに軍事的に侵略し、植民地支配によってアジア の人民に多大の人的・物的な被害をもたらした。「大東亜共栄圏」構想のもとでの海外侵略に日本 人民も総動員され、基本的人権と思想・信条の自由は極端に圧迫され、その生活は悲惨であった。

本土防衛の犠牲となった「沖縄決戦」による沖縄人民の多大な犠牲、東京を中心とした都市の無差 別絨毯爆撃による大空襲、広島・長崎への原爆投下を経て、日本は敗戦を迎えた。こうした戦前の 軍国主義体制に支配され、人権・生存権を剥奪されていた日本国民は、戦争を深く反省し、再び戦 争を繰り返してはならないとの決意のもとに平和憲法を獲得した。そして「戦争の放棄、戦力及び 交戦権の否認」を謳い、「①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権 の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に これを放棄する。②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の 交戦権は、これを認めない。」、と宣言した。

1.自衛隊の創設 アメリカを主力とする連合国総司令部(GHQ)は、軍国主義の土台を破壊す

る目的で財閥解体・労働改革・農地改革の三大改革を指導し、日本社会の民主化政策を推進した。

ところが東西冷戦の開始と、中国大陸での中華人民共和国の成立によって、占領軍の対日政策は

「反共の砦としての日本資本主義の復活」に180度転換した。1950に朝鮮戦争が勃発し、西側陣 営との単独講和条約と日米安全保障条約が締結され、警察予備隊や海上保安庁が作られ、1954年 には陸海空軍からなる自衛隊が創設された。

自衛のために戦力を持ち、核兵器さえ保有できるというのが日本政府の公式見解となったが、し かし平和と民主主義を守ろうとする護憲勢力は「憲法改正」を阻止してきたし、平和憲法の存在は その後の軍事費を国民所得の1%以内に抑え込んできた。現在の安倍政権は、こうした戦後日本社 会の歩んできた苦難の道を、戦前の日本社会へ逆戻りさせようとする「反動政策」を虎視眈々と進 めはじめた。復活した日本資本主義は、戦後復興をへて近代的な国家独占資本主義体制を整えて、

1950年代の後半から1960年代にかけて、アメリカの生産力水準に追いつき・追い越して経済大 国化した153。この過程で、日本の経済的繁栄は日米安保体制に起因するとか、追いつかれ経済的 に日本の脅威に直面したアメリカ側から、「安保ただ乗り論」がで出てきた。戦争一般の経済学的 考察は第6節ですることにして、「安保繁栄論」は筆者の立場とは正反対であるので、若干批判 しておきたい。

そもそも軍事活動は経済的合理性には立脚していない。戦争は国土と生命を大量に破壊し、軍事 力増強は国民経済の潜在的成長力を破壊し、民主主義という政治的原則と相容れない。軍事費の増 大は、軍需産業という私企業に利益をもたらすが、国民経済の利益にはならない。国家権力が軍隊 を持つのはそれぞれの国の体制を維持するためであるが、国民生活に全般的影響をおよぼす。幸い なことに日本には、アメリカやロシアにおけるような強固な産軍複合体はまだ成立はしていないと 判断するが、安倍政権のもとで軍事に依存する経済化は進められており、軍事大国化への道を阻止 し、平和経済は維持していかなければならない。

2.軍事産業の再確立 日米安保体制と自衛隊の着々とした戦力増強によって、日本の軍事産業も

確立してきた。日米安保体制のもとでは自衛隊はアメリカ軍事戦略の補完部隊であるが、軍事産業 は自衛隊装備品の供給によって軍事生産の基盤を復活し、やがてアメリカに依存しながら先端軍事 技術(ジェット・エンジン、電子機器、軍用機、ミサイル用合金類)の生産に乗り出した。1960 年代の軍事生産の比率は、工業生産の0.4%~0.6%、機械工業生産の1.62~2・01%であった154。 さらに、経済大国化しつつあった日本資本主義は、1965年に日韓条約を締結して本格的に韓国に 経済進出をしたが、「日韓協力」は安全保障面にまで進み、アメリカ軍指揮下での軍事中心の「日

152 同上書、159頁、163頁、176~7頁、186頁。

153 敗戦から1990年代までの日本資本主義の発展と、そのもたらしたさまざまな矛盾について は、拙著『戦後の日本資本主義』、参照。

154 木原正雄『日本の軍需産業』新日本出版、1994年、107頁。

韓運命共同体化」へと進んでいった。そのもとで、日本の韓国への兵器輸出額も急増し、1973年 の128万円から1980年の1,164万円と上昇していった155

3.日米ガイドライン 経済大国化した日本資本主義は、世界的なスタグフレーションの打撃から

省エネやME革命の導入によっていち早く抜け出し、「日本の一人勝ち」時代を迎えた。経済的 に後退したアメリカは、「ソ連脅威論」を振りかざし日本の安保体制の負担分担を要求し、「日米 防衛協力のための指針」(1978年11月27日)(ガイドライン)によって、兵器生産における日 米協力が打ち出された。この「ガイドライン」によって安保体制は質的に転換し、「日米同盟関 係」が深化したが、アメリカの世界軍事戦略の中に日本が位置づけられている本質はまったく変わ っていなかった156

第 2 項 日本の軍事大国化

1.核軍拡競争とロケット・ミサイル兵器の生産 米ソ間の核軍拡競争によって、核兵器と核運搬

手段(ミサイル・爆撃機・原子力潜水艦)の改善・開発競争が激化したのに対応して、日本でもロ ケット・ミサイルの研究開発が進められていった。核運搬手段の開発は、宇宙開発が軍事的に利用 される危険性を持っていた。宇宙研究開発企業は1991年には177社もあり、川崎重工業・富士重 工業・三菱重工業・新明和工業・石川島播磨重工業・東芝・島津製作所・日産自動車・日本航空電 子工業・日本電気・日立製作所・三菱電機などが代表的であった157。ロケット・ミサイル兵器の 研究・開発では誘導が重視されるようになったが、失敗を積み重ねながら財界は積極的に対応し た。そして、日本最初の国産ミサイルのナイキ・ホークの生産体制が、出来上がっていった。

2.戦略防衛構想(SDI)と日米軍事協力 はてしない核軍拡競争の莫大なコストを認識しはじめ

た米ソの指導者たちの間で、核兵器の保有数を制限しようとする交渉がはじまった。SALT(戦略 攻撃兵器の制限)暫定協定が1972年5月に、SALTⅡ条約が1979年6月に、INF(中距離核戦 力)全廃条約が1987年に成立し、米ソが保有する核爆弾が5万発状態に歯止めになった。

保有核兵器の数は抑制されたが、核兵器を運搬するため高度情報通信システムと核兵器体系の神 経中枢であるC3I(3階層のネット・ワーク)の開発が重視された。米軍は陸・海・空ともに巡航 ミサイルを生産しはじめた(ALCM・SJCM・GLCM)。こうして軍事用に開発された高度情報 技術が1990年代のクリントン政権のもとで民間に導入され、世界のグローバリゼーション化に拍 車がかかっていった。それとともにアメリカは、日本の民間企業で開発された汎用技術に着目し て、そのアメリカへの輸出を求めてきた。日本側は対米軍事技術の供与を決定し、かつ軍事費1%

枠を突破しようとする要求予算額をもくろんだ。SDI構想は防衛構想ではなく攻撃的なものであ り、「ハイテク・ウォーズ」とか「スター・ウォーズ」と略称されたように、先端的な情報通信技 術を駆使しようとしたものである。レーガン政権のもとでは「失敗」したが、21世紀に入ってか らの「宇宙戦争」への道を開くものだった。

日本独占資本とくに軍需独占資本は、自らの利益にもなるとアメリカ側の要求を歓迎して受け 入れ。日米が協力した兵器開発と兵器の共通化が進み、FS-X(次期戦闘機)の共同開発もはじま った。日米安保条約はそもそも日本国憲法を無視したものであるが、日本政府の「武器輸出三原 則」は形骸化していった。安倍政権のもとで日米軍事共同開発はさらに進められてきたが、そのも とで軍学共同が進められ、日本では2015年から防衛省が軍事研究資金を大量に提供するようにな った。しかし米軍と日本の研究者との軍学共同は、もっと早くから進行してきた。2010年度から 2015年度の6年間に、米軍が直接日本の研究者に提供した研究費は128人に総額約7.5億円であ り、米国出張費は総額5,000万円が支給されていた。そのうちの京都大学と大阪大学の9人の研 究者には、アジア宇宙航空研究開発事務所から一人当たり約150~4,500万円の研究費が配布され ていた。研究の内容は無人兵器につながる人工知能(AI)やレーザー兵器の開発であり、アメリ カの「宇宙軍事技術」開発への直接的な協力であった158。『朝日新聞』の調査では、2008~16年 間の米軍からの研究費総額は8.8億円になる。その内訳は、大学本体が104件・約6億8,400万 円、大学と関連の深いNPO法人が13件・1億1,200万円、国の研究機関が7,600万円、学会が 1,000万円、大学発ベンチャーが560万円、である159

3.安倍政権の安全保障戦略 第2次安倍政権は軍事力を強化し、アメリカ軍支援を目的として自

衛隊の海外派兵を可能にするために、「集団的自衛権」は憲法違反ではないと乱暴にも解釈し、

155 同上書、第7章および264~5頁。

156 同上書、96頁および第7章。

157 同上書、116頁。

158 「ヤフーニュース」2017年2月8日07:00配信。

159 『朝日新聞』2017年2月9日朝刊。