第4章 不換銀行券制度-現代貨幣の性格と機能
第 5 節 「仮想通貨」(「ブロックチェーン通貨」)
以上の貨幣の考察は、主として不換銀行券と預金通貨を念頭においてきた。日本銀行の公表す る貨幣区分でいえば、「流通通貨」にあたるM1に相当する。日銀はさらに定期性預金(準通 貨)と譲渡性定期預金証書を広義の貨幣と定義し、さらに、金銭の信託+投資信託+金融債+銀行 発行普通社債+金融機関発行CP+国債+外債などのいわゆる「金融資産」(擬制資本としての利 子生み資本)を「広義の流動性」として追加している。しかし現代資本主義の情報通信革命と「経 済の金融化」のもとで、これ以外の「貨幣代替」手段が発達してきた。これらの「新しい貨幣」が 不換銀行券制度にどのような影響を与え、それに代わる「新しい貨幣制度」として定着するのか否 かは、現代資本主義の将来展望として大変重要な理論的課題でもある。本節でその全貌を解明する ことは不可能に近いから266、さしあたりもろもろの「貨幣代用物」を整理し、その問題点を指摘 しておこう。
第 1 項 不換銀行券以外の「貨幣」の登場
ヨーロッパ中央銀行の貨幣の分類によると、貨幣は大きくは「物的貨幣」と「デジタル貨幣」に 分類され、後者はさらに貨幣暗号化しない貨幣と暗号化されている貨幣とに分かれる。これらの貨 幣はまた、法的規制のあるものとないものに分類され、後者もさらに集中管理される貨幣と分散協 調型とに分類されている。分散協調型には実物貨幣(商品貨幣)・デジタル貨幣(暗号化されてい る貨幣とない貨幣がともに含まれる)があり、ビットコインやリプルなどの「仮想通貨」はこの種 類になる。ヨーロッパ中央銀行の分類によれば、デジタル技術で台帳管理されている預金以外のす べてのデジタル貨幣が「仮想通貨」と呼ばれる267。
「法的規制」があるということは、発行主体などによって価値が保証され強制通用力のあるもの であり、中央銀行券・補助鋳貨・国家紙幣などの物的貨幣とデジタル化された預金が対象となる。
日銀分類によるM3に相当する。国家権力による規制がない地域団体や企業が発行主体として集 中的に管理する物的貨幣は、商品券などのクーポン・地域通貨・地域振興券・証券・債券などであ る。集中管理されているデジタル貨幣は、ネットクーポン(iTunesコードやAmazonギフトコー ドなど)・電子マネー・集中管理型仮想通貨などである。これらは発行主体が、法令によって限定 的な価値を保証する連帯責任を負う。法的規制なしで分散協調される貨幣は、実物貨幣(商品貨
幣)、リップルのように暗号化されていないデジタル貨幣や、ビットコインのように暗号化されて
いる分散型暗号通貨である。これらの貨幣は、発行・価値補償も分散的・相対的であり責任主体は 存在せず、したがって、その「貨幣価値」は相対的となる268。
266 建部正義は、マルクス貨幣論の立場から、貨幣の本質・機能・範囲と「仮想通貨」の違いや
「仮想通貨」普及の背景と限界、そして現行不換銀行券制度との共存可能性を展望している。マル クス経済学から本格的に「仮想通貨」論を批判した数少ない貴重な論稿なのでぜひ読まれたい。建 部正義「Q&A ビットコインとは何か」『経済』2018年7月号、同「ビットコインの虚像と実 像」『前衛』2018年3月、同「キャッシュレス社会の推進は誰のためのものか」『前衛』2019 年9月号。
267 http://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/virtualcurrencyschemes201210en.pdf(2018年2月 4日)
268 主として、
https://www.wikipedia.org/wiki/%E%BB%AE%83%B3%E9%80%9A%E8%B2%...(2019年8月 18日)、による。
商品券などのクーポン・地域通貨・地域振興券・証券・債券は、貨幣である中央銀行券・補助鋳 貨・預金通貨などの法的規制のある「流通通貨」を支払って、購買してくる。電子マネーも、企業 が提供する「情報通信技術を活用した支払手段」を、発行主体から法的規制のある「流通通貨」
(「法定通貨」)で利用者が購買してくる。仮想通貨を手に入れる際にも、一般的には取引所に口 座を開設して「法定通貨」で購買してくる(「法定通貨」と仮想通貨との交換)。したがって、
「法定通貨」以外の貨幣は、すべて「法定通貨」でしか購買できない。これらの「貨幣代替物」
は、商品の購買を促進はするが、流通手段としての「流通必要貨幣」量を増加させているのではな く、流通速度を高めるように作用していることになる
。
また「法定通貨」と同じく、紛失・盗 難・不正使用(横領や詐欺)される危険性があり、さまざまな経済的損失が生じる。第 2 項 電子マネーと「仮想通貨」の問題点
ヨーロッパ中央銀行によれば電子マネーも「仮想通貨」に分類されているが、電子マネーもその 他の「仮想通貨」もともにデジタル貨幣あり、国家による強制通用力はない。しかし、前者は発行 主体を対象にしか使用できない支払い手段であるが、後者は不特定多数の人々の間で決済手段とし て用いられ(流通性が高い)、特定の商品・サービスとの交換に限定されない交換可能性(汎用 性)を持つ。電子マネーは発行主体のみと取引できるだけであり流通性と汎用性が低いが、汎用性 の高い電子マネーを発行するためには、小売店まで行き届いたインフラ投資が必要となり、この決 済システムの普及には高いハードルがある。さらに、大規模な停電や通信障害が発生した場合に は、電子マネーや「仮想通貨」は機能しなくなる。
NHKの報道番組「クローズアップ現代」は、仮想通貨一般に対して以下のようなさまざまに問 題点を指摘した269。
(1)<利用者に対して価値が保証されていないから、価値が変動しやすく投機の対象となりやす
い。そのために2018年には国際会議において「仮想通貨」を「暗号資産」と呼ぶ決定がされた。
>。本来貨幣とは、金本位制のもとでの金貨・兌換銀行券、不換銀行券制のもとでの法貨・預金貨 幣である。ビットコインなどの「仮想通貨」が通貨といわれる貨幣的性格は、①経済的価値は既存 の貨幣的価値の媒介なしには確定できないのに、②売り手の買い手が合意すれば決済手段となるこ とができるからである270。価格が急騰するのは、①ビットコインの供給に制限がある(発行量が4 年ごとに半減する)、②上位1%が9割を保有、マイニングも上位13社が8割のシェア、③需給 関係によってしか価格は決まらない、からである271。
(2)<停電や電波障害が発生したら使用できなくなる。>
(3)<電磁パルズ攻撃(地球の高層大気において核爆発させ、放出される電磁波によって電子機
器に過剰な電流を流し、半導体や電子装置に損傷を与える)されたら、データがすべて消滅する可 能性がある。> (2)と(3)のような事故は、現代の情報通信技術全体に大打撃を与える危険 性がある。
(4)<51%攻撃(ビットコインのように分散型管理においては多数決方式が採用されているか
ら、仮に間違った取引でも51%が賛成すれば正しい取引になってしまう)によって、取引記録が 改竄される恐れがある。> こうした決定方式は参加者(採掘人)によって意図的に操作される危 険性があり、さらにインターネット管理であるからハッカー攻撃を受けやすいし、仮想通貨「ネ ム」の大量流出事件などが発生している。
(5)<闇市場を生みやすく、課税逃れに利用され、資金浄財に利用されやすい。> 仮想通貨に
はさまざまな利便があるが、その利用者の多くは騰貴業者であり、世界の富豪の資産隠しや課税頭 皮に利用されているのが現状であることを示している。
(6)<「セミナー商法」(セミナーでの「必ず儲かる」と誘導して仮想通貨を買わせる商法)に
よる投資詐欺の危険性272。>
第 3 項 「仮想通貨」の限界と法定通貨との共存可能性
(1)「仮想通貨」の限界 現在、ビットコインの時価総額は約2,800億ドルで仮想通貨の全体の
6割強と推定されるが、そもそも「仮想通貨」は、①強制通用力を持つ法定通貨ではなく、②発行 主体が存在しせず、③物理的な素材はない。貨幣としての機能を果たせるかと考えると、①仮想
269 http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3455_all.html(2015年5月29日)
270 建部正義「ビットコインの虚像と実像」134~6頁、
271 建部正義「Q&A ビットコインとは何か」57頁。
272 http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20170330_1.html(2013年3月30日)
通貨は価値尺度機能を果たさないし(筆者も不換銀行券は価値尺度機能を持っていないと考える が)、②価値が低下すときには蓄蔵手段機能も果たせないし、③果たす機能は決済手段機能と価値 移転機能だけである。「仮想通貨」は法定通貨と交換しなければ手に入れることがないし、法定通 貨(決済用資金)は民間銀行における預金口座であり、民間銀行は中央銀行マネーを核とする信 用創造を通じて預金通貨を提供する。したがって、中央銀行の金融政策が結局は、「仮想通貨」量 を規定することになっている273。さらに、ビットコインを新規に手に入れることができる採掘人 たるマイナーになるには、数千台の規模のコンピュータ網と安価な電力が必要となるから、巨大な 資金力がる企業しかなれないことになる。
(2)法定通貨との共存可能性 建部正義は、「仮想通貨」は現金を代替することはできても信用
創造機能がないがないから、仮想通貨と銀行及び中央銀行との棲みわけが可能でありそれが普及し ても金融政策の効果が減殺はされない、と結論している274。そしてキャシュレス社会を推進しよ うとしているのは中央銀行ではなく政府である、と指摘している。すなわち、日本政府は10年後
(2027年)までにキャッシュレス比率4割を目標とするビジョン(経済産業省「キャッシュレ ス・ビジョン」、2018年4月)をだした。世界でキャッシュレス比率の高い国は、韓国89.1%・
中国60.0%・イギリス54.9%・スウェーデン48.6%・アメリカ45.0%(114頁)であり、その水 準までキャッシュレス比率を引き上げようというのである。しかしその目的とする「収税面の効率 化」・「納税の公平性」とは独占的大企業や富裕層への課税ではなく、中小事業者と消費者への課 税強化にあることに注意しなければならない275。もともと世界的なキャッシュレス社会への仕掛 人としてはFintech企業であり、「だれが、いつ、どこで、何を買ったか」というデータを入手 して市場予測に利用し、結局は長期的最大限の利潤獲得を目指している。こうしたIT企業の暗躍 に対には、個人情報と銀行業務の恐れがあり、銀行はバンクペイ(スマホ内のQRコード)によ って反撃を開始した、と警告している276。
273 建部正義「ビットコインの虚像と実像」118~9頁、128頁。建部正義「Q&A ビットコイン とは何か」53~5頁、57頁。
274 建部正義「ビットコインの虚像と実像」138~9頁、141~2頁。
275 建部正義「キャッシュレス社会の推進は誰のためのものか」113~4頁。
276 同上論文、122~3頁。