第 4 章。
第 3 節 国家独占資本主義の景気循環
第2次世界戦争戦後の現代資本主義(=国家独占資本主義)は、1970年代のスタグフレーショ ンを境として、「国家独占資本主義のIMF=GATT体制」から「国家独占資本主義のグローバル 資本主義」へと世界体制が転換した。国内においても国家の政策は「ケインズ政策」から「新自由 主義政策」に転換し、蓄積様式も「大量生産・大量消費型蓄積」から「グローバル化・金融化蓄 積」に転換した。国際通貨制度は、IMF国際通貨体制から「金・ドル交換の停止」と変動相場制 に移行し、「グローバル資本主義」化したことと密接に関連している。この世界的な変化は同時に 国家の景気調整政策の作用を変化させた。本節は主として「ケインズ型国家独占資本主義」のもと
での景気循環運動の変容を考察して、「グローバル資本主義」のもとでの景気循環は次節で考察す ることにする。
第 1 項 予備的考察
1.国家独占資本主義の確立 20世紀前半に独占資本主義(帝国主義)は、二度の世界戦争と
1929年世界大恐慌と30年代大不況により体制的危機に陥り、国家の全面的な支援なしには資本 主義として存続できなくなった。第2次大戦後の現代資本主義は、独占資本主義に国家が全面的 に政策的に介入し組織化しようとする国家独占資本主義と規定するのが正確である。それは第1 次世界大戦中に戦時国家独占資本主義(レーニンの規定)として萌芽的に現れ、1930年代大不況 期に「ニューディール政策」に象徴されるような国家による政策的調整をへて、第2次世界戦争 後に確立した。国家は経済過程のみならず、社会・教育・イデオロギーという社会システム全体を
「組織化」「管理化」「調整化」しようとするが、それは金融寡頭制支配(日本での政・官・財複 合体制)が国家機関を利用することによって、独占資本主義を補強しようとするものであった。し かし国家が「階級支配」と「社会原則の実現」という二重機能を果たさなければならなかったよう に、国家独占資本主義の国家の政策全体は金融寡頭制支配を貫徹させるだけではなく、失業対策や 公教育や福祉政策・社会保障制度も充実させて市民社会の諸原則を実現し、もって労働者階級を
「体制内化」させる側面も持っている。
2.金本位制から不換銀行券制度へ 自由競争資本主義が独占資本主義に構造的に転化して、金本
位制の形骸化がはじまった。第1次世界大戦中に金本位制は一時停止され、1920年代に再建され たが、1929年世界大恐慌によって金本位制は停止された。むしろ国家は、経済をコントロールし ようとして、積極的に金本位制を停止した。管理通貨制(不換銀行券制度)をテコとした有効需要 政策によって、大量失業という社会的危機を乗り越えようとしたのである。第2次世界大戦後に 成立した国際通貨体制(=IMF体制)は、「金為替本位制」(限定的な金・ドル交換)と「ドル本位 制」との混合であったが、アメリカ合衆国は世界経済における力の相対的弱化と深刻なスタグフレ ーションから脱出するために、基軸通貨国の責任を放棄して「金・ドル交換停止」に走った。これ によって金本位制は国際的にも完全に停止され(金の廃貨)、固定相場制から変動相場制に代わっ た。これが、その後の世界的な投機的な金融活動の出発点になっていった511。
3.国家の景気調整政策 国家独占資本主義は、1929年世界大恐慌と1930年代大不況の再来を未
然に防ごうとして、景気調整政策を実施してきた。その主要な手段は、財政・金融政策である。大 恐慌を未然に防ごうとして、好況が過熱(過剰蓄積の深化)していく兆候(たとえば国際収支の悪 化・インフレの高進・利子率の高騰・賃金率の高騰など)が現れれば、早めに景気を財政・金融面 から引き締めて、人為的・なし崩し的に恐慌に引き起こす。そして、金融恐慌(パニック)をとも なった急激で・深く・かつ広い恐慌の勃発を回避しようとする。マイルドな不況が成長率の低下と してしばらくつづけば、1930年代のような長期化する大不況と大量失業を回避すべく、早めに引 き締め政策から景気刺激政策に転換する。こうした国家の景気調整政策は「成功」した時期と失敗 した時期があり、万能ではなかった。しかし資本主義の「組織化」という側面からみれば、景気循 環運動という資本主義の自立的運動そのものを調整化しようとする試みであり、それによって景気 循環による自律的な調整が弱化した。この点については第2・3項において考察しよう。
大内力は、景気循環の変容をベースにして国家独占資本主義論を展開した512。大内・国家独占 資本主義論については賛否両論が多数提起されたが、大内自身はその後「作業仮説」と位置づけ た。筆者の見解との相違点の多くは、ベースとした恐慌論の違いにある。筆者は、大内が支持する 宇野恐慌論は、一般商品の自動調節を前提して「労働力商品の不均衡累積」に限定したところに特 徴があり、それによって「労働力の商品化」の矛盾を吹きぼりにした点は優れているが、「一般商 品の不均衡累積」を無視した(「実現論なき恐慌論」)ところが、「根本的難点」であると考えて きた。景気循環論としては宇野恐慌論は、「部分理論」である。
第 2 項 好況―「大量生産=大量消費型好況」
511 「金・ドル交換停止」とその後の国際的投機的金融活動の大膨張過程については、井村喜代子
『現代日本経済論』有斐閣、200年が詳しく説明している。
512 大内力『国家独占資本主義』東京大学出版会、1970年。大内説についての筆者の見解につい ては、拙著『現代資本主義の循環と恐慌』岩波書店、1981年の4頁、8~9頁、16頁、21~2 頁、28頁、74頁、90頁、93~4頁、113~4頁、159~60頁、162~3頁、173~4頁、および拙 稿「国家独占資本主義と恐慌」『経済研究』第17巻第1号(January 1976)、を参照された い。
国家独占資本主義は独占資本主義に国家が政策的に介入する資本主義であるから、独占資本主義 の蓄積と景気循環のメカニズムそのものは貫徹する。資本相互の自由競争関係は独占と非独占の
「支配・従属」関係に転化し、前項で考察したそれぞれの価格・投資行動はつづいている。また政 府は「国家資本」として価値増殖機能を果たすのではなく、私的な民間の資本循環過程を政策的に 管理化・組織化・調整化するのであるから、景気循環そのものに景気調整政策が影響する。以下、
自由競争資本主義と独占資本主義の景気循環がどのように変化したかを中心として考察していこ う。
1.加速的蓄積 超過需要状態になれば以前と同じく、販売価格や「計画操業度」の上昇・新技 術の採用・補填投資の増大などによって、利潤率が上昇していく。利潤率上昇は補填投資を一層進 めるとともに、新投資が本格化する。安定的な独占価格は利潤率上昇を促進するし、独占資本の保 有する「意図的過剰能力」(遊休予備資本)は需給調整速度を高め、蓄積をスピード・アップさせ る。かくして、資本主義一般や独占資本主義と同じく、蓄積の増加は期待利潤率を一層上昇させ、
「利潤率上昇と蓄積加速化の好循環」が出現して、蓄積が加速的に進行していく。
2.不均等発展の弱化―均等発展・安定的好況の可能性 加速的蓄積によって生産も拡大するが、
以前と同じく労働手段の利潤率>労働対象の利潤率>生活手段の利潤率となれば、生産手段の不均 等発展になる。この傾向は独占資本主義であるから基本的には作用しているし、高度成長期の特徴 でもあった。しかし、国家の財政政策が発動されて有効需要が注入されれば、再生産過程全体に需 要を喚起する。さらに戦後の耐久消費財ブームによって、生活手段部門自体が独自に発展するよう になった。そのために全体としては、必ずしも生産手段部門の不均等発展が先行するとはいえなく なった。好況がはじまる契機となった回復がどのような要因によって形成されたかに依存している ので、両方の不均等発展を並列的に説明しておこう。
(1)「大量生産=大量消費型好況」 余剰生産手段は累増し、「生産と消費の矛盾」は潜在的に
進行していくが、自由資本主義や独占資本主義の好況と同じく、新投資が続くかぎり余剰生産手段 の過剰とはならない。さらに戦後は、1920年代にアメリカ合衆国に出現した耐久消費財ブームが 中心資本主義各国でも生じた。独占資本は、独占利潤の一部を広告・宣伝活動に支出し、大衆の消 費欲望を潜在的に喚起する。消費者ローンの発達はこの潜在的欲望を有効需要化させる。「独占的 労働市場」で実質賃金率の確保・上昇という労働組合の目標が実現すれば、大衆の購買力は増大し ていく。また国家の「完全雇用政策」が一応成功していれば、さらに賃金が上昇し購買力は増大す る。日本の場合には、戦後の農地改革による農村市場の拡大も耐久消費財の購買力を増大させた。
こうして耐久消費財ブームが生じたので、生活手段部門が生産手段部門の拡大を追っていくことに なり、生産手段の不均等発展は弱まり、「大量生産=大量消費」型の好況が出現した513(レギュ ラシオン派の「フォードディズム型」蓄積様式)。
(2)生活手段の不均等発展 生活手段部門の利潤率>生産手段部門の利潤率であれば、生活手段
部門の不均等発展になる。高度成長期が終わり低成長ないし停滞基調となると、住宅・自動車・電 化製品を中心とした耐久消費財や、国家の財政出動が、景気の回復を先導するようになる。このよ うにして好況がはじまれば、生活手段の不均等発展となる。生産拡大のために必要な余剰生産手段 は独占資本が保有する「意図的過剰能力」によって供給されるし、「意図せざる過剰能力」が存在 するときには、独占資本の操業度が標準操業度に回復するまで投資を控えるから生産手段への需要 は大きくないので、生活手段の不均等発展が持続する。さらに耐久消費財が「一巡」しいわゆる
「多品種=少量生産」に転換すれば、「大量生産=大量消費型資本蓄積」のような設備投資誘発効 果は発揮しない。ともかく、余剰生産手段は累増化しないので潜在的成長力は低くなり、弱々しい 好況となる。
(3)「景気過熱」兆候と早めの引き締め政策 両部門どちらかの不均等発展が進行する過程で、
国際収支の悪化・インフレの高進・利子率の高騰・賃金騰貴の加速化などの「景気の過熱化」(過 剰蓄積の兆候)が観察され、国家が「景気過熱」状態と判断した場合には、財政・金融政策による 景気引き締めが発動される。それによって激烈な恐慌をもたらさず、人為的なし崩し的に恐慌が引 き起こされ、結果的に不均等発展が弱められる。
3.独占価格の動向と好況 独占資本主義において、好況期の独占価格の安定化は資本蓄積を促進
した。逆に不況期に独占価格が低下しないことは蓄積を阻害した。戦後日本の高成長期には、独占 価格の比重が高い卸売物価(企業物価)は安定していて、資本蓄積が促進された。そしてスタグフ レーション期には独占価格が吊り上げられたために、蓄積を阻害した。
4.信用による膨張 販売が順調なので商業信用も銀行信用も安定的に拡大し、利子率は低水準に
留まり、加速的蓄積を促進させる。不況期における金融緩和政策が好況期になってもしばらくつづ
513 『現代資本主義の循環と恐慌』第2章2、第4章2、参照。