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独占資本主義の景気循環

第 4 章。

第 2 節 独占資本主義の景気循環

18世紀後半から19世紀後半までのパックス・ブリタニカのもとでの自由競争資本主義(自由競 争段階の資本主義)から、19世紀末から20世紀初頭にかけて、独占資本主義と帝国主義列強が支 配する体制へと段階的に発展していった。本書ではこうした移行の歴史的過程を考察することは対 象外であるから、本節は、確立した独占資本主義のもとでの資本蓄積の態様とそのもとでの景気循 環運動の変質と変容を理論的に解明することを目標とする。その際の制度的枠組みは、「独占資本

(金融資本)の支配」であり、それによって「金本位制の形骸化」がはじまった。「パックス・ブ リタニカのもとでの資本主義の確立」と「列強の対立と抗争のもとでの独占資本主義と古典的帝国

504 高須賀義博『鉄と小麦の資本主義』世界書院、1991年、参照。

505 馬場宏二『世界経済 基軸と周辺』東京大学出版、1973年、参照。

主義」については、拙著『資本主義発展の段階理論』(東京経済大学学術リポジトリ)を参照され たい。また、「自由競争の独占への転化」と「金本位制の形骸化のはじまり」についても、同書に おいて簡潔に考察している。

第 1 項 蓄積様式の変化

1.資本関係と賃労働関係の分裂 産業部面内と産業部門間に参入障壁が形成されて、部門内競争

と部門間競争はともに制限され、株式会社形態をとった少数の巨大独占資本が支配するようになっ た。歴史的には集中・合併運動のような企業結合によっても独占化は進むし、原料調達・販売網・

技術独占などの副次的参入障壁によっても独占化が進展する。その結果、自由競争資本主義の生産 価格法則(「資本家的共産主義」)は独占価格・非独占価格法則(「支配・従属関係」)に転化す る。そして産業は独占資本が支配する産業と非独占資本が支配的な産業に分裂する506。独占資本 は独占的高利潤(独占利潤)を獲得し、その一部を「優秀な労働力」を確保するための高賃金とし て支出するから、労働市場は「独占的労働市場」と「非独占的労働市場」に分断されるようにな る。独占的企業には強固な労働組合が結成どされ、賃金の下方硬直性が生まれてくる。

2.独占と非独占の価格政策と投資行動の違い 自由競争資本主義のもとでは、資本は期待利潤率

が利子率より高ければ投資に踏み切ったが、価格支配力のない非独占資本は同じように投資を決定 する。しかし独占資本は、自身の投資がもたらす供給増加による価格や操業度の低下による損失を 考慮できるようになる。すなわち、新投資が獲得する新利潤から、既存の投下資本部分が価格低下 によって被る利潤減少と操業度低下による資本価値の喪失(減価償却費の増大)とを控除した「限 界利潤」、が投資決定の目安となる。そして独占資本は「価格維持=操業度調整」をするのが支配 的となるから、操業度の変動が実現利潤率を規定するようになる507。この期待限界利潤率がどの 水準以上であれば、投資に踏み切るだろうか。

独占資本は独占価格を設定する際に、投下資本全体が獲得すべき目標(要求)利潤率を決める。

すなわち、一定期間(たとえば1景気循環)にわたる「標準操業度」を推定して、そのもとでの

「標準原価」を計算し、それに一定の目標マージン率を掛けて価格を設定する(「フル・コスト原 理」)。この価格設定のもとでの目標(要求)利潤率は以下のようになる。

目標(要求)利潤率=生産量×(価格-標準原価)÷投下資本

=(標準原価×目標マージン率)×生産量÷投下資本

独占資本は、期待限界利潤率がこの目標利潤率より高くなると予想すれば、新投資に踏み切る。

このような独占資本の投資行動によって投資抑制的基調が形成されるが、それがストレートに発 現して、独占資本主義全体が停滞基調になるのではない。前節で指摘したように、投資は具体的に は技術・需要・競争・信用・期待状態などによって規制されるから、コストを大幅に低下させるよ うな画期的な技術が開発されている場合や、長期的な需要拡大が予想される場合には投資に踏み切 る。また激化した競争に生き残るために、資本破壊の損失を覚悟して新技術導入に走ることもあ る。信用状態が良くて利子率が低下していれば、独占資本は目標利潤率そのものを低く設定するこ ともできる。そもそも、グループ化した独占集団(金融資本グループ)内部から資金が提供される ような場合には、外部調達する利子率はほとんど投資決定には影響しないであろう。

その結果、一定の計画性が独占資本内部から形成されてくる。目標利潤率がある一定期間を見通 して決定されるように、投資自体が長期的見通しのもとで決定されるようになる。その結果、投資 が景気循環の不況期に集中するのではなく、景気循環全体にわたる長期間に分散される傾向がでて くる。この傾向は循環や周期に影響を与える。

3.貨幣賃金率決定方式の変化 労働市場が「独占的労働市場」と「非独占的労働市場」に分断さ

れるから、賃金決定方式も異なってくる。「非独占的労働市場」では、労使間の団体交渉力がきわ めて弱いから、自由競争資本主義と同じく貨幣賃金率が雇用率によって決定される(産業予備軍効 果)。「独占的労働市場」では、生活手段の価格(物価)を予想して、実質賃金率が維持ないし上 昇するように貨幣賃金率が決定される。置塩信雄は蓄積の一般モデルにおいて、実質賃金率を維持 すべく生活手段の価格を予想して貨幣賃金率を決定するとしたが、この賃金決定方式は「独占的労 働市場」において現実性をもってくる。

第 2 項 独占資本主義の蓄積メカニズム

506 以下の分析においては、同一産業には独占と非独占は共存していないと想定する。

507 限界利潤の規定については、拙著『独占資本主義の景気循環』第2章第2節、第4章第2節、

参照。以下の考察では独占資本は、基本的には景気循環を通して価格を固定させておくと想定す る。

独占資本主義になると独占資本の「数量調整」(「価格維持=操業度調整型」投資行動)が支 配的になるので、蓄積メカニズムは次のように変化する。非独占資本は自由競争資本主義と同じく

「価格調整」であるから、蓄積メカニズムは変化しない。

①今期期首の「計画操業度」の決定 独占資本の場合に今期末の生産量は、期首の機械設備をど れだけ操業するかを決める「計画的操業度」(「供給態度」)に依存する。前期末に実現した利潤 率が目標(要求)利潤率より高ければ、今期期首の「計画的操業度」を高めるとしよう。非独占資 本は数量調整力がなく「計画的操業度」を設定できないから、完全操業する。

②今期末の実物需要(調達したい労働手段) 独占資本は前期末に実現した利潤率をもとに、次 期の期待限界利潤率>目標利潤率(>利子率)になると予想すれば、次期に「使用したい生産手 段」(実物需要)を増加させる。非独占資本は、期待利潤率>利子率であればやはり「調達したい 労働手段」を増加させようとする。

③投資需要 独占資本(独占部門)の生産する労働手段への投資額も、非独占部門の生産する労 働手段への投資額もともに、「調達したい労働手段」にその予想価格を掛けた額になる(独占価格 は固定され維持されると仮定するから、不変で既値となる)。

④労働手段の価格と独占資本の実現率 「実物需要」>生産量(「超過需要」)となるときは、

「実物需要」は生産量に強制的に縮小し、独占価格はその分だけ一時的に上昇する。この状態は独 占資本の今期の「計画的操業度」が低かったことを意味し、価格上昇によって実現利潤率が上昇 し、来期には「計画的操業度」を引き上げる。「実物需要」<生産量のときには、未実現の生産量 は一時的に在庫となる。在庫の形成は実現利潤率を低下させ、次期の「計画的操業度」を低下させ る。非独占資本の生産する労働手段は自由競争資本主義のときと同じように、価格調整によって

「実物需要」=生産量となる。

⑤次期労働手段 次期使用する独占資本が生産する労働手段(独占的労働手段)は、「実物需 要」>生産量のときには生産量に、「実物需要」<生産量のときには「実物需要」になる。次期使 用する非独占資本が生産する労働手段(非独占的労働手段)は、自由競争資本主義のときと同じよ うにして決まる。

⑥次期労働手段と労働力 次期使用する労働手段が決まるから、次期必要とされる労働対象と労 働力が技術的に決まる。労働力については産業予備軍が存在するから、必要とされる労働力が調達 できる。

⑦労働対象投資額 労働手段の調達の場合と同じく、価格を予想して投資額を決める。

⑧労働対象の価格と実現率 期末に労働対象の供給量は決まっているが、次期に必要とされる労 働対象がそれよりも大きいときには(「超過需要」)、「実物需要」が強制的に縮小し、価格上昇と なる。「超過供給」の時には「実物需要」は満たされるが、独占資本の実現率(=「実物需要」╱生 産量)は1以下となり、実現されない労働対象は在庫となる。非独占部門の生産する労働対象の価 格は低下する。

⑨貨幣賃金率の決定 「独占的労働市場」では生活手段価格を予想して、実質賃金率を維持ない し上昇するように貨幣賃金率を決定する。「非独占的労働市場」では、自由競争の時と同じく雇用 率が貨幣賃金率を決める。

⑩生活手段の価格 貨幣賃金率と次期雇用労働力が決まり、カレツキ経済を仮定するから生活手 段への需要が決まり、生活手段の価格が決まる。独占部門が生産する生活手段価格は独占価格とし て不変で既値)。

⑪実現利潤率 労働手段・労働対象・生活手段の価格と実現率と労働力の価格(貨幣賃金率)が 決まったから、実現する利潤率が決まる。投下資本額は固定資本(労働手段)・流動不変資本(労 働対象)・可変資本(労働力)であり、利潤は売上高(独占資本の場合には実現率が影響する)か ら減価償却費と労働対象(原材料)と賃金のコストを控除した額になる。

⑫次期の生産・「計画操業度」・投資額 期末に調達できた次期使用する労働手段・労働対象・

労働力と、それらの部門間配置が決まっている。実現利潤率も決まっているから、次期の「計画操 業度」そして次期期末の生産量が決まる。モデルを完結させるために今期末の期待利潤率を前期末 の実現利潤率とすれば、今期末の実現利潤率が次期末の期待限界利潤率となるから、次期末の投資 額も決まる。かくして蓄積メカニズムは自動的に進行していく。

第 3 項 好況

独占資本主義のもとでも、前節で考察した自由競争資本主義の景気循環は形態を変化させながら 貫徹する。本節では、景気循環各局面に現れる独占資本主義のもとでの新たな特徴を中心に考察し ていこう。