第5章 株式会社―現代の資本機能
第 2 節 株式会社論
現代は「企業体制」とか「企業社会」と呼ばれるが、その企業形態の圧倒的部分は株式会社で ある。現代資本主義の支配的資本は産業・商業・銀行独占が結合している金融資本であるが、それ ぞれの分野での独占資本(独占的大企業)の株式は証券市場に上場され、独占資本は国内で独占価 格・独占利潤を獲得しているばかりか、グローバル化した資本主義のもとでその多くは多国籍企業 化している。その株券は現実資本から離れた独自の擬制資本として流通するが、グローバル資本主 義のもとでの金融のグローバル化とともに、擬制資本の投機的な金融的取引が実体経済(現実資本 の世界)をリードし、かつ攪乱させるまでになっている。前節で説明した「自己増殖する運動体」
としての資本機能を、現代ではこの株式会社が果たしている。
マルクスが『資本論』を執筆した当時は個人所有の企業が圧倒的に多かったが、それでもマルク スは早くから株式会社に注目しており、その経済学批判プラン中のⅠ資本の項目に入れていた
(1.資本、α資本一般、β競争、γ信用、δ株式会社)。本節では、マルクスとそれを発展させ
たヒルファーディングの株式会社論を紹介し、第3・4節で現代の株式会社は誰が所有し決定し支 配しているのかを検討して、株式会社が資本機能を果たしており、金融資本が経済全体を支配して いることを確認したい278。
第 1 項 マルクスの基本規定
マルクス経済学において株式会社論を体系的に展開したのは、ヒルファデイング『金融資本論』
の第7章である。ヒルファディングは、先駆者マルクスの株式会社規定を天才的スケッチとして 全部引用している。マルクスは、『資本論』第3巻第27章「資本主義的生産における信用の役
278 本章の第2節以下は、拙著『現代マルクス経済学』の「第12章株式会社」を書き改めたもの である。
割」Ⅲで、株式会社についての基本規定を与えている279。株式会社の形成によって、①個別資本 には調達不可能な資本を集めて、生産の規模が巨大化することを可能とした。②その資本(株式資 本)は、私的資本に対立する直接に結合した諸個人の資本としての社会資本であり、株式会社は私 的諸企業に対立する社会的企業である。これは、「資本主義的生産様式そのものの限界内での、私 的所有としての資本の止揚」を意味する。③株式会社では所有と機能が分離している。機能資本家 は管理人・支配人に転化し、その所得(給料)は監督賃金として現象し、資本所有者は単なる貨幣 資本家に転化し、その利潤は資本所有の報償としての利子として現象してくる。ここでは機能と労 働が、資本所有と剰余労働の所有からまったく分離されている。この最高の発展は、私的所有から 結合した(アソシエイトされた)生産者たちの直接の社会的所有に転化するための経過点である。
第 2 項 ヒルファディングの展開
『資本論』を編集したエンゲルスは、マルクスの死後に株式会社は2・3乗の発展をしたと補注 をした。ヒルファディングはさらに、「最新の資本主義」(金融資本主義)の特徴の一つとして株 式会社論を本格的に分析した。
1.擬制資本の流通280 マルクスが規定したように、株式会社では所有と機能が分離している。株
式会社に投資された貨幣は、株式会社の現実資本の循環運動と、所有権である擬制資本(株式)の 流通とに二重化する。株主としての貨幣資本家は利子(配当)の獲得で満足するが、投下された貨 幣は機能資本家が運用する。利子(配当)は危険プレミアムをともない不確定であり、その予想値 は株式会社の利潤に規定される。株式が売却できるようになるには証券取引所が成立しなければな らないが、証券市場も発達すれば株主は貨幣資本家となり、配当は利子化する。
2.創業利得の発生281 株価は配当(利子)を支配的利子率で割ったものであるが、その取引は資
本取引ではなく収益権の売買である。しかし、現実に存在する利潤は機能資本(産業資本・商業資 本・農業資本)の獲得する利潤であり、株式としての資本は純粋に擬制的である。支配的利子率で 配当を資本還元した株価総額は、最初に「株式資本」に転化した貨幣資本から必然的に乖離する。
その差額が株式会社の創業利得となる。実際には管理費・役員配当があるから、これらを控除した 利潤が配当として分配されれば、これを支配的利子率に危険プレミアムを追加して割ったものが株 価となるが、株式会社のもとでの現実に必要とされる資本額は産業利潤を平均利潤率で割った額で ある。この差額が創業利得であり、以下のように規定される。
創業利得=(平均利潤―管理費・役員配当)╱(支配的利子率+危険プレミアム)
-産業利潤╱平均利潤率
3.株価の操作282 株価は配当と利子率に左右された。機能する資本額と株式資本額は乖離する傾
向にあったが、後者(相場)は株の発行部数によって左右される。また競争の結果、利回り(配当
╱株価)は平均的利子率に接近するが、配当は均等化しないから、株価の操作がはじまる。
発行株数が多すぎて、発行の際の株価が額面以下となることがありうる(株の水増し発行)。こ の水増しは創業利得とは無関係であるが、創業者はさまざまな金融技術的手段を行使して株価を操 作するようになる。たとえば、優先株と普通株が同時に発行され普通株が水増しである場合には、
普通株の大半を創業者が確保し、それを投機的に利用すれば、創業利得以上の利得を創業者にもた らす。あるいは意図的に配当を低くして内部留保を増やし、累積した内部留保を突如配当して、株 価を吊り上げ巨富を得たりする。
4.大株主の支配と結合283 株主は所有株数に応じて議決権を持つから、株式会社に対する完全な
支配力は過半数の株を所有することによって達成される。証券市場での取引需要は、この支配力の 獲得が最大の目標になる。支配力を握った大株主は、その自己資本が大きいからほかの株主多数の 資本を支配するとともに、その企業の総資本力は貸付資本を引き寄せる引力となり、大株主は二重 の権力を獲得するようになる。株式会社の系列化が成立していれば、親会社企業が系列会社の株を 所有することによって、異常に大きな他人資本を支配することが可能となる。そして、大株主は人 的に結合して、共通の所有利害関係が形成される。
5.銀行と株式会社の融合・癒着284 個別資本が銀行に集合され、集積されるようになると、貨幣
市場への株式発行は銀行が媒介するようになる。株式会社の本質は株式の譲渡可能性と売買可能性
279 マルクス『資本論』第3巻第27章、第10分冊、756~8頁。
280 ヒルファディング『金融資本論』上、173~8頁。
281 同上書、178~186頁。
282 同上書、189~200頁。
283 同上書、200~4頁。
284 同上書、205~9頁。
にあるから、これが銀行に株式会社を支配することを可能とする。株式会社が銀行借り入れを株や 社債によって返済できれば、銀行には創業利得をもたらす。銀行は、個人企業よりも株式会社のほ うが安全性が高いから、より大きな信用を供与する。銀行は信用の適切な使用を報奨し、有利な金 融取引を安全にする必要があるから、株式会社を永続的に監督するようになる。その手段が役員派 遣であり、それは産業界でも行われるようになるから、少数の大株主による役員地位が累増する。
6.資本の動員285 株式会社は個人的人格から独立した法人組織であるが、知識のない無力な株主
が命令し管理しているのではなく、内部では「産業官僚」が管理し、その頂点では役員配当を獲得 し株式を所有している大資本家が支配している(寡頭制)。株式会社の強みは、広汎な社会層から 少額の貨幣を総結集するところにある(資本動員)。こうした機能(資本動員)は銀行もおこなう が、銀行に集められた貨幣は貨幣資本形態をとっており、信用によって生産に用立てられる。株式 会社では、分散している貨幣資本が擬制資本形態で合一されているから、大資本家の貨幣である場 合が多い。小資本家の貨幣資本は銀行によって合一されることが多い。株式会社はこうした資本調 達上の有利さに加えて、蓄積されている富の大きさから独立して、増資による蓄積上の有利さがあ る。したがって株式会社は、技術的・経済的妥当性にしたがって、新技術の採用・同系列の収容・
特許を利用する。そして景気は、より巧みに、より徹底的に、より迅速に利用されるようになる。
7.株式会社の優越性286 株式化会社は、資本調達と蓄積の有利さによって大量生産と新技術採用
を容易にするが、資本調達の面でも優位になった。銀行は、役員派遣によって株式会社を容易に監 督できるし、個人企業には通常は流動資本用に貸し付ける。固定資本用に貸し付けるためには、銀 行は事業に精通していなければならないが、株式会社は増資によって固定資本用の借り入れを返済 することができる。
株式会社のこうした資本調達上の有利性は、個人企業との競争戦での有利性となる。株式会社は 新技術の採用という技術的優越性があり、価格競争でも優越し、収益を高める。しかし高められた 収益は必ずしも配当に回されずに、準備金に回される。この準備金が株式会社に強い恐慌対応力を もたらすし、安定的な配当政策を可能として、株価を上昇させる。恐慌期に低下した価格で販売し ても、この安定的配当政策のもとでの利子(配当)を超えた収益が獲得することができるだろう。
配当よりも収益が低くなれば、配当は低められて株価は低下するが、新たな買い手が登場してく る。株式会社は損失しながらも、準備金を取り崩せば存続できる。この不況のさなかに資本調達は 容易であるから、株式会社は継続と整理に必要な金額を集めることができる。このように株式会社 は、個人企業に比して、恐慌抵抗力を強化した。
8.産業の集積・集中と所有の集積・集中の分離287 株式会社は短期的利潤より長期的利潤を追求
し、所有運動から産業的集積運動を分離する。マルクスが洞察したように産業的集積・集中運動は 資本の分散傾向をともなうが、しかし全体としては、産業の集積・集中は所有の集積・集中より急 速に進む。すなわち、「かようにして株式会社制度の拡大とともに経済的発展は所有運動の個人的 諸偶発事から解放され、この所有運動は、株式会社の運命ではなく、株式の運命に現れる。したが って、諸企業の集積は所有の集中よりも急速に行われる。両運動はそれらの固有の諸法則をもつ。
しかし集積傾向はそのいずれにもある。所有運動にあっては集積傾向は、ただ、より偶然的に且つ より少なく強制的に現れ、実際にもしばしば偶発事によって妨げられる。この外見が、往々にし て、株式による所有の民主化を語らせるのである。産業的集積運動の所有運動からの分離が重要で あるのは、これによって前者は、個人的所有による制限から独立に、ただ技術的経済的諸法則に従 いさえすればよくなるからである。同時に所有集積でもあるのではないこの集積は、所有運動によ って生じ且つ所有運動と同時に生ずる集積および集中からは区別されねばならない。」288。所有 の集中は多数株の所有者が少数株の所有者に対する無制限的支配力を与え、少数の大株主による会 社支配へと向かっていく。
9.銀行の発行活動289 銀行は信用を利用して株式を引き受ける。いいかえれば銀行は生産的資本
家に資本を貸すのではなく、貨幣資本を産業資本および擬制資本に転化することを自ら行うように なる。しかし一定の流通期間があり、銀行はすぐには擬制資本を貨幣化できないから、増大する自 己資本が必要となる。創立後一定期間は株取引を禁止するような法律的干渉があれば、創業活動が 巨大銀行に集中するようになる。創業利得をめぐって巨大銀行と巨大産業企業との間で分配闘争が
285 同上書、209~14頁。
286 同上書、214~9頁。
287 同上書、219~21頁。
288 同上書、220~1頁。
289 同上書、222~5頁。