第 4 章 危機解消と KEDO
第 3 節 枠組み合意とKEDO
2. 多国間枠組みとKEDO:コストの分散
朝(米マ基本マ 合意) 非公開了解覚書(抜粋)
1. 軽水炉事業は(中略)…第2号原子炉の完成は、第1号原子炉完成後の約1年または2 年以内に行われることを了解する
2. 米国企業が核心部品を供給する場合(中略)…双務協定を締結する 3. 北韓(ママ)の黒鉛減速炉と関連設備の凍結措置には次の事項が含まれる
― 5メガワット級原子炉の燃料再装填と稼動禁止
― 50メガワット級と200メガワット級原子炉の建設中止
― 放射化学実験室の封印と稼動中止
― (核)燃料の加工工場の稼動中止
4. 北韓(ママ)はこれ以上北韓(ママ)の黒鉛減速炉と関連設備を一切建設しない
5. 枠組み合意後の重油供給の日程:3ヵ月以内5万トン、3ヵ月以後1年以内追加として 10万トン、その後毎年50万トン342
この覚書の内容から分かるように、米朝間の関係進展は、軽水炉提供事業にかかわって いた。歴史的な「米朝間の枠組み合意」は、軽水炉提供を重要課題として位置づけ、核凍 結や米朝の正常化と連動することになった。さらに、軽水炉提供事業は、北朝鮮の非核化 ひいては朝鮮半島の非核化と連動することになる。
一方、枠組み合意は、その名称どおり条約(treaty)ではなく合意(agreement)であり、
広い意味では国家間の条約と何ら変わりはなかった343。しかし、国内の批准の手続きを経 ていないことから、今後アメリカの政治状況の変動によっては合意事項の移行に支障が出 てくる可能性も高かった。無論、一度合意した国家間の約束を白紙に戻すことには、それ なりの名分とリスクを甘受する必要があった。言い換えれば、国家間の約束である枠組み 合意を履行することは当然のことであった。したがって、10 月合意を履行するための米朝 間の緊密な連携は、以後の重要な課題となってきたのである。
表明していた国も多かった344。そこに北朝鮮が、NPT条約からの脱退や使用済み燃料棒の 取り出し、IAEAの監視活動の拒否といった公然としか思えない核拡散の動きをとっていた ところ、アメリカの判断が一歩間違えれば、核拡散の危機をさらに拡大させかねない状況 となった。もしアメリカの「若干の譲歩」によって、北朝鮮がNPT条約に復帰するのであ れば、少ない費用でNPT-IAEA体制の維持と強化にもつながる。北朝鮮に譲歩したという 非難があるにしても、アメリカのNPT-IAEA体制の維持と強化のための平和的努力は、NPT 条約の無期限延長を反対する国々に影響を与える可能性が高かった。アメリカは、「若干 の譲歩」で実利と面目を同時に勝ち取ることができたのである。
結果的にいえば、アメリカは国際関係上の諸事情を考慮し、合理的な選択を行ったこと になる。もしクリントン政権の判断がコストの面を考慮して外交的解消の手段を選択した とすれば、さらに単独より多国間の協力が比較的安いコストだとすれば、次の図4-1のよう な等式が成立する。
図 4-1 核拡散への対応におけるコスト比較 単独
(高)
Ⅲ Ⅰ
Ⅳ Ⅱ
対話(低)
(低)
多国間
(高)制裁 コストの大きさ
Ⅳ<Ⅲ<Ⅱ<Ⅰ
出典:筆者作成
つまり、対話による危機解消は、コストの面からして選択優位となる。北朝鮮からすれ ば、米朝の対話による対応が最も望ましいことであり、クリントン政権も初期の対応とし ては、北朝鮮との2国間協議(Ⅲ)を中心として対応した。
しかし、アメリカ単独による対応よりも、多国間の対応によってアメリカの負担が軽減 できるため、コストの面からして多国間の対応(Ⅳ)による解決が最も安価な選択肢であ った。実際、枠組み合意以降のアメリカの対応は、徐々に多国間対応(Ⅳ)のほうに政策
344 李宗宣、前掲書、14頁。
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的中心を移動してきた。そして、アメリカの多国間協力の立場は、以後のKEDO事業や対 北朝鮮政策の基本として定着されていく。
アメリカの試みる多国間協力を通じた軽水炉提供には「コスト」軽減という目論見があ った。その背景には、第 6 章で議論するように、米朝関係改善を進めるには政権内部と国 内政治状況における貧弱な基盤が障壁になったといえる。
ところが、このクリントン政権の 2 国間から多国間協力への方針転換は、北朝鮮の核問 題が米朝関係を基本としながらも、KEDO 事業の枠組みのなかで議論されていくことを意 味した。言い換えれば、核問題は、米朝 2 国間の関係進展と多国間の駆け引きのなかで揺 れ動くことが予測できる。したがって、KEDO 事業が順調に進めば、北朝鮮の核凍結や核 無能力化をはじめとする朝鮮半島の非核化、ひいては地域の非核化地帯も実現可能性が高 まる。それが可能性と期待にとどまるか、それとも実現可能なものとして達成できるかは、
第5章と第 6章で論ずるように、その後の米朝関係を中心とする多国間協力関係にゆだね られることになった。
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