第 4 章 危機解消と KEDO
第 3 節 枠組み合意とKEDO
1. 米朝間の枠組み合意
1994年6月20日付『ニューヨーク・タイムズ』によれば、クリントン大統領は、北朝 鮮の米朝高位級会談の要求に対して、「北朝鮮が核開発計画の凍結と米朝会談を願ってい
332 南賛淳『北米核協商と東北亜秩序:1990年代の教訓』(2007)ナナム出版、107-122頁(原題:남찬형
『북미핵협상과 동북아질서: 1990년대의 교훈』(2007)나남출판)。
333 朴治正「北韓生存外交の展開過程に関する研究(1970-1995)」建国大学校中国問題研究所『中国問題』
(1996)第15巻、244-247頁(原題:박치정「북한생존외교의 전개과정에 관한 연구(1970-1995)」건 국대학교 중국문제연구소『중국문제』(1996)제15권)。
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るのであれば、そのコメントの期間において再処理を中断すべきである」334と述べ、米朝 協議の再開の可能性を示唆した335。実際、その後の米朝関係は、第 3 ラウンド協議を中心 に急進展していく。7月8日からスイスのジュネーブにて米朝間の高位級レベルの協議、つ まり第3ラウンド協議が開催された。しかし、開催日である7月8日に金日成主席が死亡 したことによって、第3ラウンド協議は暫く延期となった。
ところが、金日成の死亡により米朝協議そのものには影響はなかったものの、南北関係 は悪化する一方であった。その直接的原因は、北朝鮮政府が韓国の弔問団を歓迎すると表 明したものの、金泳三政権がこれを拒否したことにあった。このことを契機に南北間の直 接対話も、また計画されていた南北首脳会談も実行されなくなった。南北間の軋轢は、米 朝間の第3ラウンド協議後においても暫く継続し、後のKEDO事業開始後にも続いた。
結局、第3ラウンド協議は8月5日から同月12日まで、第1次会合をジュネーブで行っ た。この第1次会合の後、米朝は共同宣言を出したが、その内容のほとんどは、後の10月 の合意事項の礎となった336。その後9月10日-14日には米朝間の専門家協議が、また第3 ラウンド協議の第2次会合は9月23日から開かれた。そして、翌月の10月21日に歴史的 な「米朝間の枠組み合意」(枠組み合意)337が出された。同枠組み合意の主な内容は、次 のとおりである。
334 New York Times, June 20, 1994.
335 次の記事を参照されたい。Micheal R. Gordon, “Clinton Offers North Korea A Chance to Resume Talks”, New York Times, July 22, 1994, Douglas Jehl, “Clinton Says the North Koreans Really May Be Ready for Talks”, New York Times, July 23, 1994.
336 声明には、米朝間の関係改善のほかにも、朝鮮半島の非核化やNPT残留に関連する内容が含まれた。
参照、New York Times, August 13, 1994.
337 「米朝間の枠組み合意」は、正式な英文表記を「Agreed Framework between the United States o f America and the Democratic People’s Republic of Korea」とし、朝鮮語では「조선민주주의인민공 화국과 미합중국사이의 기본합의문」(朝鮮民主主義人民共和国と米合衆国との基
(
本
マ
合
マ
意
)
文)と表記す る。それぞれ略して、「Agreed Framework」、「조미기본합의」(朝(米
マ
基本
マ
合意
)
)と表記する。本稿で は、日本で通称されている「米朝間の枠組み合意」、または略して「枠組み合意」か「10月(の)合意」
として表記することにした。
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米国と朝鮮民主主義人民共和国間の合意枠組み(抜粋)
I. 両国政府は、北朝鮮の黒鉛減速炉および関連施設を軽水炉施設(LWR)に転換する ことに協力する
1. 1994年10月20日の米国大統領からの書簡に従い、米国は、目標年である2003
年までに約2000メガワットの発電総量を持つ軽水炉計画を北朝鮮に提供する準 備を行う
□ 米国は、北朝鮮に提供する軽水炉計画を資金的に支え、計画を供与する国 際事業体(an international consortium)を米国主導で組織する。米国は、
国際事業体を代表して、軽水炉計画における北朝鮮との接触の中心を担う
□ 米国は、国際事業体を代表して、本文書日付から 6 ヵ月以内に、軽水炉計 画供与契約の締結に最善の努力を行う。契約締結のための協議は、本文書 日付後、可能な限り早急に開始する。
□ 必要な場合、米朝両国は、核エネルギーの平和的利用に関する協力のため の2国間協定を締結する。
2. 1994年10月20日の米国大統領からの書簡に従い、米国は、国際事業体を代表し、
軽水炉一号機が完成するまで、北朝鮮黒鉛減速炉およびその関連施設凍結によ って生産不能になるエネルギーを補填する準備を行う。
3. 北朝鮮は、軽水炉の提供と暫定的な代替エネルギーに対する米国側の約束を受け 入れる際、黒鉛減速炉とその関連施設の建設を凍結し、最終的にはこれらを解 体する。
II. 両国は、政治的、経済的関係の完全な正常化に向けて行動する
1. 本文書日付3ヵ月以内に、両国は、通信サービスや金融取引の制限を含め、貿易、
投資に対する障壁を軽減する。
2. 専門家レベルの協議で、領事その他の技術的問題が解決された後、それぞれの首 都に連絡事務所を開設する。
3. 両国の関心事項において進展が見られた場合、米国・北朝鮮は、両国間関係を大 使級の関係に進展させる。
III. 両国は、核のない朝鮮半島に基づいた平和と安全のために協同する
IV. 両国は、国際的核不拡散体制の強化に向けて協同する338
枠組み合意は、二つの重要な目標が盛り込まれていることを特徴としてあげられる。ま ず一つ目は、北朝鮮の核凍結とそれに対する補償としての軽水炉提供、また軽水炉提供ま
338 枠組み合意についてのハングル原文は朝鮮通信, http://www.kcna.co.jp/index-k.htm(2007年6月)よ り、英文はKEDO, http://www.kedo.org/pdfs/AgreedFramework.pdf(2008年6月)より参照できる。な お、本稿で用いる日本語文(抜粋)は、原水禁, http://www.gensuikin.org/e_asia/us-dprk_frmwk.htm(2 008年8月)より引用したものである。なお、附録2の同合意文書の全文を参照されたい。以下特記しな い限り、枠組み合意内容の引用は原水禁の資料を用いる。
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での代替エネルギーとしての重油提供があげられる。軽水炉提供については、7月合意の内 容でもあったが、より具体化された目標と実施方法についても明示されていることが特徴 であった。
最も画期的な合意内容としては、米朝間の「完全な正常化」が明記されたことがあげら れる。これもまた 7 月合意内容を継承しているが、米朝間の正式な合意事項として「完全 な正常化」が明記されたのは、朝鮮戦争後の初めてのことであった。米朝が停戦条約を締 結して以来の最も重要な合意事項ともいえる。
一方、関係国にとっては、同合意における北朝鮮の核凍結に大きな意味を付与した。例 えば、外務省が刊行する『外交青書』では同合意について、「この合意は(中略)…北朝 鮮の現行の核開発を凍結し、核兵器開発を防止するとともに、IAEAによる査察を通じて北 朝鮮の過去、現在及び未来の核開発の透明性を確保するという意味で大きな意義を有する」
339と評価した。また韓国政府が発行する『統一白書』によれば、「基本合意の最も大きな 意義は、何より北朝鮮の核問題の根源的解決のための土台を作ったことである。黒鉛減速 炉など核開発の凍結と今後の解体措置は、北朝鮮の核開発の可能性自体を源泉的に封鎖し、
現在と未来の核透明性を確保できる」340と評価し、先述の日本政府の立場と一致した見解 を示した。
なお、同『統一白書』には、「対外的に公開された基本合意文(agreed framework)と基 本合意文の内容をより具体化した、また北朝鮮が公開を躊躇う内容が含まれた非公開合意 文(confidential minute)の二つとなっていた」341としたが、同白書には非公開合意文につ いては掲載されていなかった。この非公開合意文は、後に『連合ニュース』の報道やジョ ン・ヨンホらの『北韓のミサイル戦略』(2006)において公開されたが、その主な内容は 次のとおりである。
339 外務省『外交青書』(1995)1995年、20-21頁。
340 韓国統一部『統一白書』(1998)1997年、110-112頁。
341 同上。
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朝(米マ基本マ 合意) 非公開了解覚書(抜粋)
1. 軽水炉事業は(中略)…第2号原子炉の完成は、第1号原子炉完成後の約1年または2 年以内に行われることを了解する
2. 米国企業が核心部品を供給する場合(中略)…双務協定を締結する 3. 北韓(ママ)の黒鉛減速炉と関連設備の凍結措置には次の事項が含まれる
― 5メガワット級原子炉の燃料再装填と稼動禁止
― 50メガワット級と200メガワット級原子炉の建設中止
― 放射化学実験室の封印と稼動中止
― (核)燃料の加工工場の稼動中止
4. 北韓(ママ)はこれ以上北韓(ママ)の黒鉛減速炉と関連設備を一切建設しない
5. 枠組み合意後の重油供給の日程:3ヵ月以内5万トン、3ヵ月以後1年以内追加として 10万トン、その後毎年50万トン342
この覚書の内容から分かるように、米朝間の関係進展は、軽水炉提供事業にかかわって いた。歴史的な「米朝間の枠組み合意」は、軽水炉提供を重要課題として位置づけ、核凍 結や米朝の正常化と連動することになった。さらに、軽水炉提供事業は、北朝鮮の非核化 ひいては朝鮮半島の非核化と連動することになる。
一方、枠組み合意は、その名称どおり条約(treaty)ではなく合意(agreement)であり、
広い意味では国家間の条約と何ら変わりはなかった343。しかし、国内の批准の手続きを経 ていないことから、今後アメリカの政治状況の変動によっては合意事項の移行に支障が出 てくる可能性も高かった。無論、一度合意した国家間の約束を白紙に戻すことには、それ なりの名分とリスクを甘受する必要があった。言い換えれば、国家間の約束である枠組み 合意を履行することは当然のことであった。したがって、10 月合意を履行するための米朝 間の緊密な連携は、以後の重要な課題となってきたのである。