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第 4 章 仮説「存在場所『に』と範囲限定『で』の混同による『に』→『で』の誤用」の

4.2 日本語学習環境の異なる中国語話者を対象とした調査(JFL と JSL)

4.2.3 JFL 環境の「中位レベル」の中国語話者を対象とした調査

調査は、JFL環境にある中国の大連外国語学院日本語学科に在籍している日本語学習 者179人に協力を得て2011年6月に実施した。日本語学習者の日本語能力は日本語能 力試験の N4 以上に合格するレベルである。調査は、当該大学の日本語授業の開始前、

日本語授業の開始後、日本語授業の終了後のいずれかに筆者が一斉に行った。

調査開始前には、当該日本語授業の担当教員が同席する教室で、筆者が以下のように 日本語で調査に関する説明を行った。調査は、当該日本語授業の日本語のテストではな く成績にも影響しないこと、留学生が使う助詞を知りたいので教えてほしいこと、辞書 を使ったり人に答えを聞いたりせずに回答してほしいこと、必ず全て記入してほしいこ と、調査票はA4 用紙 1枚で裏表であること、10分程で回答できるが時間制限はない こと、この調査で得た個人情報は漏らさないこと、学術調査のために使うこと、そして、

この調査に基づく研究内容が知りたければ筆者にそのことを言ってほしいことを述べ て実施した。調査に要した時間は10分前後であった。

表 4-5は、「単純存在ニ」、「動作デ」、「範囲デ」、「条件付存在ニ」の正答率を示した ものである。それぞれの問を正しく回答した場合の正答率(各問題文の正答の合計÷(調 査対象者数×問題文))である。問題数42問を各1点とし、合計得点は42点である。3

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通りの調査票の合計得点には差が見られなかったので調査票のすべての回答を分析対 象として用いた。

表 4-5. JFL の「単純存在ニ」「動作デ」「範囲デ」「条件付存在ニ」の正答率 単純存在ニ 動作デ 範囲デ 条件付存在ニ

正答率 68.5% 89.5% 79.6% 61.0%

n=179.

日本語学習者は、日本語能力試験のN4以上に合格するレベルである。日本語学習を 担当した教員によると、最も低い日本語レベルの日本語学習者はN3の合格レベルを目 指して日本語学習を行うクラスに所属する。但し、N3に合格するか否かは受験してみ なければ分からないということであった。そうだとすれば、日本語学習者は日本語レベ ルがN4に合格するか、あるいはN5に合格するレベルの者もいるかもしれない。つま り、日本語学習者の日本語レベルは、N5に合格するレベルかN4に合格するレベル、

N3 に合格するレベル、N2 に合格するレベルなど幅広い。そこで「中位レベル」を設 定することにした。

レベルについては、正答数の平均から標準偏差を引いた得点以下を下位レベル、正答 数の平均に標準偏差を加えた得点以上を上位レベルとした。そして、「中位レベル」は、

日本語能力試験のN1に合格しておらず、下位レベルの得点以上であり上位レベルの得 点未満のレベルとした。

被調査者ごとの正答数の平均は31.11、標準偏差は6.048であった。調査票の合計点 の平均から標準偏差を引いた得点の 25 点以下が下位レベル(31.11-6.048=25.062)、合 計点の平均に標準偏差を加えた得点の 38 点以上が上位レベル(31.11+6.048=37.158) である。したがって、「中位レベル」は日本語能力試験の N1 に合格しておらず、合計 得点が26点以上37点以下で合計人数は104人である。

表4-6に「中位レベル」の「単純存在ニ」、「動作デ」、「範囲デ」、「条件付存在ニ」の 正答率を示す。被調査者ごとの正答数の平均は31.78、標準偏差は3.26であった。

表 4-6. JFL の「中位レベル」の「単純存在ニ」「動作デ」「範囲デ」「条件付存在ニ」

の正答率

単純存在ニ 動作デ 範囲デ 条件付存在ニ

正答率 72.4% 91.0% 80.2% 62.5%

n=104.

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存在場所を表す「に」と動作場所を表す「で」および、範囲限定を表す「で」との関 係を見るために、「条件付存在ニ」の「に」に誤って「で」を選んだ誤答率(以下、「条 件付存在ニ→デ誤答率」)を目的変数として、「動作デ」の正答率および「範囲デ」の正 答率を説明変数に投入し、回帰分析を行う。

表4-7は、JFLの重回帰分析の結果で目的変数「条件付存在ニ→デ誤答率」と説明変 数「動作デ」「範囲デ」正答率との関係を表したものである。

表 4-7. JFL の目的変数「条件付存在ニ→デ誤答率」と説明変数「動作デ」正答率およ び「範囲デ」正答率の重回帰分析の結果

JFL

決定係数 説明変数 β p

R2=.193 動作デ -0.04 0.657

範囲デ 0.435 0.000**

n104. 注: * p<.05. ** p<.01.

「条件付存在ニ→デ誤答率」を目的変数にした回帰式の係数は、「動作デ」が有意で はないのに対し、「範囲デ」が0.435で p値は0.000 であり1%の有意水準で有意であ る。すなわち、「条件付存在ニ→デ誤答率」と「範囲デ」の正答率との間にそれぞれ正 の相関が見られる。このことは、「範囲デ」の正答率が上がると、「条件付存在ニ→デ誤 答率」も上がることを意味している。一見、奇妙に見えるこの現象は、4.1で詳しく分 析し、「範囲デ」にかかる係数の符号が、日本語能力が「初級」、「中級の下」「中級の中」、

「中級の上」「上級」レベルにおいて、それぞれ、負、正、負に変化することから、こ の現象は、日本語能力が中級レベルの中でも「中級の下」、「中級の中」の日本語学習者 が、存在場所を表す「に」と範囲限定を表す「で」とを混同することに起因していると 指摘した。検定統計量が有意であり、帰無仮説が棄却されていれば、決定係数が小さく とも弱い「関連」があることを意味している(林田2013)。したがって、「中位レベル」

は4.1.4の「中級の下」、「中級の下」レベルと同様であると解釈する。

ところで、このような混同は無条件に起こっているわけではない。興味深いことに、

この混同は表 4-7に見られるように、「条件付存在ニ」の場合だけである。これを確認 するために、「単純存在ニ」、すなわち、「数量詞」「集合体」などを伴わないという意味 で単純な存在場所を表す「に」を「で」とする誤答率(以下、「単純存在ニ→デ誤答率」) と「動作デ」「範囲デ」の正答率との関係を見てみよう。表4-8にその結果を掲げる。

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表 4-8. JFL の目的変数「単純存在ニ→デ誤答率」と説明変数「動作デ」正答率および

「範囲デ」正答率の重回帰分析の結果

JFL

決定係数 説明変数 β p

R2=.080 動作デ -0.144 0.136

範囲デ -0.256 0.009**

n104. 注: * p<.05. ** p<.01.

「単純存在ニ→デ誤答率」を目的変数にした回帰式の係数は、「動作デ」が-0.144で p値は0.136、「範囲デ」が-0.256でp値は0.009であり、1%の有意水準で有意である。

すなわち、「単純存在ニ→デ誤答率」と「動作デ」正答率、「範囲デ」正答率との間にそ れぞれ負の相関が見られる。このことは、「動作デ」と「範囲デ」の正答率が上がると、

「単純存在ニ→デ誤答率」が下がることを意味している。「動作デ」「範囲デ」を正しく 用いるようになると「単純存在ニ」に「で」を用いる誤用が減るのは、「中位レベル」

としては、当然の結果であろう。これに対して、表4-7 の「条件付存在ニ→デ誤答率」

は「動作デ」とは無関係であり、「範囲デ」正答率上昇とともに増大している。これら は対照的な結果である。

以上のことから、中国語を母語とするJFLの「中位レベル」は、「動作デ」との混同 ではなく、「範囲デ」との混同により「条件付存在ニ」の「に」に誤って「で」を用い ることが強く示唆される。次に国内(JSL)の中国語を母語とする日本語学習者に協力を 得て調査を行う。

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