第 5 章 仮説「移動先『に』と動作場所『で』の混同による『で』→『に』の誤用」の検
5.2 動詞が表す「移動」の分かり易さと移動先を表す「に」の正答率との関係
5.2.5 分析の結果と考察
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t.以下い かの文ぶんには、m-①人の動作ど う さや物ものの動うごきと、m-②人ひとや物ものの移動い ど うのどちらが強くつ よ く感かんじられ ますか。強くつ よ く感じか ん じられるほうに〇を書かいてください。他ほかに感かんじられることがあればm-③そ の他たに書かいてください。但ただし、動作ど う さや動うごきも移動い ど うもないと感かんじられるものは、④に〇を書かい てください。
1. 教室に入る。
(m-①動作ど う さや動きう ご き、m-②移動い ど う、m-③その他た 、m-④動作ど う さや動きう ご き・移動い ど うなし) 2. 寮に着く。
(m-①動作ど う さや動きう ご き、m-②移動い ど う、m-③その他た 、m-④動作ど う さや動きう ご き・移動い ど うなし)
n.1~22の文ぶんの中なかで、人ひとや物ものの「移動い ど う」が分わかりやすい文ぶんはどれですか。「移動い ど う」が分わか りやすいすべての文ぶんの番号ばんごう(1~22)を〇で囲かこんでください。
図 5-7. 格助詞選択式テストの「に」を正答とする o の問題文に対し「移動」が感じ られるかどうかを調べるためのアンケート調査用紙
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「に」正答率を比較するために1要因被験者内分散分析を行った結果、F (2, 164) =
15.44, p < .01となり、移動を表す動詞類の主効果が認められた。ボンフェローニ法に
よる多重比較の結果、「入る」類の正答率は「泊まる」類の正答率に対し有意に高く (p
< .01)、「泊まる」類の正答率は「集まる」類の正答率に対し有意に高い (p < .01) こと が認められた。つまり、「入る」類、「泊まる」類、「集まる」類の順に正答率が高いこ とが分かった。このことから、先の仮説は、「入る」類の正答率が最も高いという点の み支持されるという結果となった。では、「集まる」類の正答率が「泊まる」類の正答 率より、低いのはなぜなのだろうか。「集まる」類は、日本語学習者にとって動詞が表 す移動の概念が分かりにくい動詞なのか。
表5-8と表5-9にアンケート調査の結果をまとめた。表5-8も表5-9も「その他」が 選択された回答は殆どなかった。表5-8に「入る」類、「集まる」類、「泊まる」類のそ れぞれに①「『動作や動き』が最も強く感じられる」、②「『移動』が最も強く感じられ る」、④「『移動も動作や動きもない』と感じられる」という日本語学習者の回答の割合 を示す。
表 5-8. 「入る」類「集まる」類「泊まる」類に「移動」が感じられる回答の割合 「入る」類 「集まる」類 「泊まる」類 「いる」類
① 「動作や動き」が最も強く感
じられる 32% 24% 45% 8%
② 「移動」が最も強く感じられ
る 62% 55% 19% 7%
④ 「移動も動作や動きもない」
と感じられる 4% 17% 29% 77%
複数回答あり n = 56.
「集まる」類の正答率が「泊まる」類の正答率より低いのはなぜか、何か要因がある のかに焦点を当て、アンケート調査の結果を見ていく。表5-18 によると、②の「移動 が最も強く感じられる」という回答の割合は、「入る」類が62%、「集まる」類が55%、
「泊まる」類が19%である。すなわち、「集まる」類は「入る」類と比べて、②の「移 動が最も強く感じられる」という回答の割合が低いわけでもないことが分かる。しかも、
①の「動作や動きが最も強く感じられる」という回答の割合は、「入る」類が32%であ り「集まる」類が 24%と低い。つまり、「入る」類の方が「集まる」類よりも、「動作 や動きが最も強く感じられる」日本語学習者が多い。「入る」類と「集まる」類の最も 異なる点は、④の「移動も動作や動きもないと感じられる」という回答が「入る」類で
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はわずか4%であるのに対し「集まる」類では高く17%であるという点である。
次に「入る」類、「集まる」類の問題文1問1問のどの文が、日本語学習者にとって人 や物の移動が分かり易いかを見てみよう。表5-9に「人や物の移動が分かり易い」とい う文を日本語学習者が多く選んだ順に示す。
表 5-9. 日本語学習者が「人や物の移動が分かり易い」と思う文の順位 順位 人数 「人や物の移動が分かり易い」と思う文 動詞類 1 32人 ・2 階の部屋に上がる。 「入る」類 2 26人 ・教室に入る。 「入る」類 3 26人 ・体育館に集まる。 「集まる」類 4 21人 ・海に近づく。 「集まる」類 5 18人 ・家に荷物が届く。 「入る」類 6 15人 ・イスに座る。 「泊まる」類 7 13人 ・新幹線に乗る。 「入る」類 8 12人 ・海に沈む。 「集まる」類 9 10人 ・パン屋に並ぶ。 「泊まる」類 10 7人 ・京都に泊まる。 「泊まる」類 11 6人 ・ニュースが全国に広がる。 「集まる」類 12 5人 ・いつもの場所に立つ。 「泊まる」類 13 3人 ・東京に住む。 「泊まる」類 14 2人 ・寮に着く。 「入る」類 15 2人 ・道に雪が残っている。 「泊まる」類 複数回答あり n=56.
表5-9によると、「人や物の移動が分かり易いと思う文」の上位5位は、「入る」類の
「2階の部屋に上がる」、「教室に入る」、「家に荷物が届く」、「集まる」類の「体育館に 集まる」、「海に近づく」である。上位5に「入る」類と「集まる」類の問題文が入って いることからも、「集まる」類は日本語学習者にとって人や物の移動が分かり易いとい うことが分かる。
表 5-8および表5-9から、日本語学習者にとって、「集まる」類が移動の概念が分か りにくい動詞ではないことが分かった。「集まる」類の移動の概念が分かり易いにもか かわらず、表1の「に」正答率が上がらなかったのはなぜだろうか。中国語の介詞「在」
との関係を見てみよう。
表 5-9 の上位であった、「入る」類の「2 階の部屋に上がる」、「教室に入る」、「家に 荷物が届く」の文に対応する中国語の文には、介詞「在」を伴わない。それに対し、「集
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まる」類の「体育館に集まる」、「ニュースが全国に広がる」に対応する中国語の文には、
介詞「在」を伴う。すなわち、「集まる」類は、中国語の介詞「在」の影響を受け、「に」
の正答率が上がらなかった可能性がある。
ところが、対応する中国語の文に介詞の「在」を伴うにもかかわらず、「泊まる」類 は、「に」正答率が「集まる」類よりも高い。しかも、対応する中国語の文に介詞の「在」
を伴う問題文の数は、「泊まる」類の方が「集まる」類よりも多い。「集まる」類が5問 中 3問であるのに対し、「泊まる」類が 6問中 5問である。「に」の正答率を下げた原 因が、介詞「在」の影響によるものであるならば、「集まる」類よりも「泊まる」類の 方が、「に」正答率が低くなったはずであろう。「泊まる」類の、「に」正答率が高くな ったのはなぜか。
表 5-8 によると、④の「『移動も動作や動きもない』と感じられる」という回答は、
「入る」類が4%、「集まる」類が17%、「泊まる」類が29%であり、「泊まる」類が最 も高い。また、存在を表す「いる」類は77%である。つまり、「泊まる」類は日本語学 習者にとって「移動が感じられる」動詞であるというよりは、「『移動も動作や動きもな い』と感じられる」動詞に近いもので、存在を表す表現に近いと感じているのかもしれ ない。そもそも、「泊まる」類の動詞は、移動の動きが意識されず、その到達したとき の様子を描くもの (寺村 1982) であり、益岡・田窪(1987)など研究者によっては、「泊 まる」類を述語とする文を、存在を表す文として分類されている。
これらのことから、日本語学習者は、「集まる」類に対し、動詞が表わす移動の概念 が分かりにくい動詞であるとは感じていないことが分かった。また、対応する中国語の 文に伴う介詞「在」の影響を受け、「に」正答率が下がったとも思われなかった。
最後に、3つの動詞類に特徴的な「助詞選択のパターン」があるかどうか、あるとす れば、それはどのようなものかを調べる。日本語学習者が「泊まる」類について、存在 を表す表現に近いと感じているならば、「泊まる」類の助詞選択のパターンは、「いる」
類と似たような助詞選択のパターンになることが推測される。図5-8に、「入る」類 (①
~⑤)、「集まる」類 (⑥~⑨)、「泊まる」類 (⑩~⑮) のそれぞれの問題文に選択され た「に」、「で」、「を」、「から」の割合 (助詞選択のパターン) を示す。
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・「に正答」=正しく回答された「に」の割合、「ニ→で誤答」=誤って回答された「で」
の割合、「ニ→を誤答」=誤って回答された「を」の割合、「ニ→から誤答」=誤って回答 された「から」の割合
図 5-8. 「入る」類「集まる」類「泊まる」類「いる」類「動作デ」の問題文における 助詞選択のパターン
「に」を正しく選択した割合を「に正答」、「に」を選択すべきところに誤って「で」
を選択した割合を「ニ→で誤答」、同様に、誤って「を」を選択した割合を「ニ→を誤
0% 20% 40% 60% 80% 100%
①入る
②着く
③届く
④乗る
⑤上がる
⑥沈む
⑦近づく
⑧広がる
⑨集まる
⑩座る
⑪住む
⑫残る
⑬並ぶ
⑭泊まる
⑮立つ
⑯いる類
⑰「動作デ」
に正答(但し⑰「動作デ」
は「デ→に誤答」)
ニ→で誤答(但し⑰「動作 デ」は「で正答」)
ニ→を誤答(但し⑰「動作 デ」は「デ→を誤答」)
ニ→から誤答(但し⑰「動 作デ」は「デ→から誤 答」)
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答」、誤って「から」を選択した割合を「ニ→から誤答」と表記している。なお、比較 のため、⑯に「いる」類、⑰に調査票(2)-1「動作デ」 (動作や行為を表す文) を示した。
「入る」類は、①が「入る」、②が「着く」、③が「届く」、④が「乗る」、⑤が「上が る」をそれぞれ述語とした問題文、「集まる」類は、⑥が「沈む」、⑦が「近づく」、⑧ が「広がる」、⑨が「集まる」をそれぞれ述語とした問題文、「泊まる」類は、⑩が「座 る」、⑪が「住む」、⑫が「残る」、⑬が「並ぶ」、⑭が「泊まる」、⑮が「立つ」をそれ ぞれ述語とした問題文である。
まず、3つの動詞類のそれぞれに、特徴的な助詞選択のパターンがあるかどうかを見 た。特徴的な助詞選択のパターンが見られたのは、「泊まる」類である。図2より、⑩
~⑮の「泊まる」類の助詞選択のパターンは、⑬ (「並ぶ」) を除き、似ていることが 分かる。すなわち、「に正答」が全体の半分以上を占め、「ニ→で誤答」の割合が約1/4、 残り2つは、「ニ→を誤答」の方が「ニ→から誤答」より高い、という助詞選択のパタ ーンである。また、先に推測した通り、「泊まる」類は、⑬ (「並ぶ」) を除き、「いる」
類の助詞選択のパターンに似ている。
「入る」類と「集まる」類には、特徴的な助詞選択のパターンは見られなかった。「入 る」類は、① (「入る」) と② (「着く」) の「に正答」が高いが、次いで高いのは、
① (「入る」) が「ニ→を誤答」であり、② (「着く」) が「ニ→で誤答」であるので、
パターンが異なる。③ (「届く」) は、「に正答」に次いで「ニ→から誤答」が高く、
④ (「乗る」) は、「に正答」に次いで「ニ→を誤答」が高いので、異なるパターンで ある。⑤ (「上がる」) は、「に正答」と「ニ→を誤答」がほぼ同じである。このよう に、「入る」類は、「泊まる」類に比べると、①~⑤に共通する特徴的な助詞選択のパタ ーンがあるとは言いがたい。
「集まる」類も、⑥ (「沈む」) は「に正答」に次いで「ニ→を誤答」、⑦ (「近づく」) は「に正答」に次いで「ニ→から誤答」が高く、⑧ (「広がる」) と⑨ (「集まる」) は
「ニ→で誤答」が「に正答」よりも高い。したがって、「集まる」類も、⑥~⑧に共通 する特徴的な助詞選択のパターンがあるとは言えない。
次に、表6-9で日本語学習者が「移動の概念が分かり易い」と感じた上位5位の文を 見た。つまり、「入る」類の① (「入る」) 、③ (「届く」) 、⑤ (「上がる」)、「集ま る」類の⑧ (「広がる」)、⑨ (「集まる」) である。だが、これらにも、共通する助詞 選択のパターンが見られない。そこで、①~⑰の1つ1つの助詞選択のパターンを比較 することにした。
① (「入る」) の助詞選択のパターンは、② (「着く」) と似ているように見えるが、
① (「入る」) の「ニ→を誤答」が、「ニ→で誤答」および「ニ→から誤答」よりも高 い点からすると、「集まる」類の⑥ (「沈む」) の助詞選択パターンと似ている。同様 に、助詞選択のパターンを比較すると、② (「着く」) は、どちらかと言えば、「泊ま る」類の⑪ (「住む」) と似ている。