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第 2 章 先行研究概観

2.1 日本語学における格助詞の研究

2.1.3 生成文法および格文法の影響を受けた格助詞「に」 、「で」 、「を」の分析

2.1.3.7 格助詞「で」の限定の表現について

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を伴う「移動補語」は、移動に関わる場所を示すが、その関わり方は動詞により、「経 路」、「経由点」、「起点」を示す(奥津・沼田・杉本1986, p. 282)。「を」が示す「経路」

とは狭義には「通り道」のようなもので、移動の際に通る予定の線状の場所、あるいは、

通った軌跡を典型的に指すと考えられ、経路用法は大まかに通過点、移動経路、移動領 域に下位区分でき、それらは、連続的な関係にあるという(加藤2006, pp. 163-167)。

次に、上記の先行研究では見られなかった格助詞「で」の限定の表現と、格助詞「に」

の存在表現を以下に示す。格助詞「で」の限定の表現および格助詞「に」の存在表現は 本研究の目的である日本語学習者の場所を表す「に」の発達の1つの段階を明らかにす るために重要となる研究である。

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も共に付加詞なのである。しかし、動作動詞を述語としない「藤沢でこの店が一番うま い」の「藤沢で」は動作予期を導入することに無理があるため、「京都で働く」の「京 都で」と異なるということなのであろうと思われる。

森田(1980, 1989)

森田(1980)は、2.1.3.6でも述べたが、「に」は行為や作用・状態の対象・相手・成立

点を、いつ、どこ、どれ、だれ、何と指定するときに用いる助詞であり、その対象や相 手・成立点をある特定なものにしぼり定める場合、一点に限定する場合と、ある幅を持 った範囲を漠然と指定する場合とがある(p. 372)。存在を表す「に」は、その場所に定 位する、もしくは存在するという状態性の表現で、「で」のような行為の場所の限定意 識がないとしている。「で」は数量、時間、行為や作用の時、場所、人や事物などにお いて、「それ以外・それ以上ではない、それを対象範囲の限度とする」(p. 318)意を表す としている。「そのベース内において」(p. 318)つまり、「限界点」(p. 318)であり、限界 の範囲が何であるかによって「で」の意味が分かれる。

限定という語は「に」では「一点に限定する場合」(森田1980, p. 372)、「で」では「限 界の範囲が何であるかによって『で』の意味が分かれる」(森田1980, p. 318)と用いら れており、限定の概念が「で」の中心概念であるが、語の定義は明確でない。森田(1980, 1989)のいう「で」の限定とは2.1.3.7でも述べたが、以下に示す仁田(1997)と同様の概 念であると思われる。

仁田(1997)

仁田(1997)は、「デ」の意味として、動きや状態の成立場所、道具、材料、原因、そ

して様子といった様々なものが挙がっているが、デ格の意味の異なりの起因は、名詞 (句)のタイプの異なりに外ならないと述べている。「デ」は文を構成する動詞にとって 非共演成分であり、名詞が場所名詞であることによって、「男ヲ学校デ殴ル」の「学校 デ」は動きの成立場所を実現し、物名詞であることによって、「男ヲ金ノ延ベ棒ノコト デ殴ル」の「金ノ延べ棒デ」は道具を表し、「~ノコト」を伴い事名詞化することによ って、「男ヲ金ノ延べ棒ノコトデ殴ル」の「金ノ延べ棒ノコトデ」は原因を実現するこ とになると述べられている。つまり、「で」は「付加詞」(長谷川1999, p. 40)なのであ る。すなわち、森田(1980)の「限界の範囲が何であるかによって『で』の意味が分かれ る」(p. 318)とはこのことであり、森山(1980, 1989)のいう「で」の限定とは「で」が「付 加詞」(長谷川1999, p. 40)であることを指している。

以上のことから、「で」は文を構成する動詞にとって「で」は付加詞であるが(森田1980, 1989、仁田 1997、田中・松本 1997)、田中・松本(1997)で見たように、動作動詞を伴 わない「藤沢でこの店が一番うまい」の「藤沢で」は動作予期を導入することに無理が あるため、「京都で働く」の「京都で」と異なる。寺村(1982)においても、動作動詞を

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伴わない「藤沢でこの店が一番うまい」のような「で」が動作場所を表す「で」と区別 しなければならないと述べられている。

寺村(1982)

寺村(1982)は、2.1.3.3で述べたが、「で」を伴う名詞句は述語にとって必須ではなく、

副次的であると述べている(p. 179)。つまり、動作場所を表す「駅で新聞を買う」の「駅 で」、道具や手段を表す「電車で行く」の「電車で」などである。田中・松本(1997)の

「藤沢でこの店が一番うまい」と同じ用法は、「コノ店ハコノ町デ一番ウマイ」、「高見 山ガ幕内デ最モ重イ」であり、この「で」は「判断の及ぶ範囲:『[空間の拡がり、また はある集合]』デ」(p. 182)の用例として挙げられている。この「で」は比較、特に「最 もどうこうだ」という言い方の述語の文に現れるとし、動的事象の場所的限定の「(場 所)デ」と区別しなければならないとしている(寺村1982, p. 182)。

間淵(2000)

間淵(2000)は、「日本でいちばんよいまちだ」の「日本で」は、「よいまちだ」と判断・

決定する上での範囲・基準を定める限定の表現であり、「デ格」が動作や出来事を述べ る動詞文に現れるのではないという点で、他の「デ格」の用法と大きく異なっていると 述べている。もちろん、「デ格」の限定用法は間淵(2000)によると、「空間」を媒介とし た場所格との類似性による拡張の結果、出来事の場を規定する役割から、話題の場を規 定する役割へと変換したものである。つまり、「日本でいちばんよいまちだ」のような

「で」の限定表現は、動作場所を表す「で」から拡張したということであるが、動作場 所を表す「で」と大きく異なっているのである。

まとめ

格助詞「で」は動詞にとって付加詞であり(長谷川1999, p. 40)、動作場所を表す「で」

も限定の表現に用いられる「で」も共に付加詞である。そして、どちらの「で」も場所 を表す名詞に後接する。2.1.3.7 で述べたように、動作場所を表す「で」を伴う名詞句 は、動作や出来事の動詞すべてと広く浅く結びついており(寺村1982, pp. 103-104)、「で」

に導かれる動詞はふつう動作動詞である(森田1989, p. 323)。2.2.3で後述するが、日本 語学習者が共に用いる動詞の動作性に着目し「で」を多用する(鈴木1978)のは、動作場 所を表す「で」が動作や出来事の動詞すべてと結びついており(寺村1982)、ふつう動作 動詞と共に用いられる(森田1989)ことを理解しているからであろうと思われる。

それに対し、「藤沢でこの店が一番うまい」(田中・松本1997)、「コノ店ハコノ町デ一 番ウマイ」、「高見山ガ幕内デ最モ重イ」(寺村1982)、そして「日本でいちばんよいまち

だ」(間淵2000)のような「で」は限定の表現であり、動作場所を表す「で」と大きく異

なっており、動作動詞を伴わない。すなわち、動作行為が行われる場所を示すのが動作

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場所を表す「で」であり、限定の表現に用いられる「で」は「日本でいちばんよいまち だ」の「いちばんよいまち」という属性を有するのが「日本」の範囲内であることを示 しているのである。このことから本研究でも、両者の「で」を区別し、1.4で述べたよ うに、「日本でいちばんよいまちだ」(間淵2000)のような「で」を範囲限定を表す「で」

と定義しているのである。

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