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第 4 章 仮説「存在場所『に』と範囲限定『で』の混同による『に』→『で』の誤用」の

4.1 国内の日本語学習者(多国籍)を対象とした調査

この調査は研究課題 1 を明らかにするために立てた仮説の項目Ⅰを検証するための ものである。研究課題1を再び示しておく。

研究課題1.

中級レベルには存在場所を表す「に」と範囲限定を表す「で」との混同による「に」→

「で」の誤用が現れる発達段階があるか。

4.1.1 仮説の検証

中級レベルの日本語学習者には以下の(1)のような誤用が見られる。(1)の「に」→「で」

の誤用が範囲限定を表す「で」と混同されて起こったものなのかを調査し、得られた回 答を分析する。

日本語学習者(母語:中国語) (1)*クラスで2人韓国人がいる。

(2)ホームヘルパーとは老人の家で世話をする人だ。

(3)ホームヘルパーはいえにいたら、子供たちもとても安心だ。

仮説と仮説を検証するための項目を再び示しておく。

仮説:「*クラスで2人韓国人がいる」の「に」→「で」の誤用は、存在場所を表す

「に」と範囲限定を表す「で」との混同によるものである。

仮説検証項目Ⅰ:数量詞、「中」などと共に用いられた場所名詞が集合体を表す ような文に、存在場所「に」を用いるべきところに「で」を用いる誤用が見られる。

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以下、(1)のように「2人」、「韓国人」などを伴い「クラス」が集合体を表す文を「条 件付存在文」あるいは、「存在場所+条件付」と呼ぶことにする。本節では、議論の第 一段階として、上記の仮説検証項目Ⅰが成立するかどうか、すなわち条件付存在文にお ける存在場所「に」と範囲限定「で」との間に何らかの関係が見られるかどうかに焦点 を当てて考察する。

4.1.2 調査票作成の留意点

仮説を検証し、存在場所を表す「に」の習得の様子を探るために、本節では、国内の 日本語学習者を対象に、「に、で、を、から」の四択穴埋めテスト形式の調査を行う。

「を」と「から」を加えたのは、「に」と「で」の二者択一による偶然に起こる正答の 確率をできるだけ排除するためである。

本調査では、動詞「いる(ある)」が存在を表すものについてだけを問題にしているの で、物の存在を表すものではなく「会議」のような出来事の生起を表す「会議がある」

については対象としない。また、動作や行為を表す動詞には初級日本語学習用教材の早 い段階で学習される「食べる」を使う。場所を表す名詞も1つに限定するべきだったが 自然な問題文を作るために「中国、韓国、日本、食堂、寮、大学、東京、あそこ」を使 う。なお位置を表す名詞については、「中、前、外」を使って問題文を作ることにする。

調査票は以下のような6種類の文からなり、統計処理上、全体で42問の穴埋め問題 とする。1つの種類につき問題文を3~7 問とするのは偶然による正しい回答が得られ る確率を避けるためである。以下に示す問題文の番号は調査票の番号の順とは一致しな い。つまり、問題文の順が回答に影響を与えないように実際の調査票には以下の問題文 を順不同に並べる。問題文の並べ方は1通りである。なお、調査票に用いる語は日本語 学習者が既に学習済み、あるいは既に知っている語であることを確認している。問題文 には仮名を振っている。実際の調査票は付録に載せることとして、以下、問題文の一部 を示す。

(a)「存在場所」文の「に」、「動作場所」文の「で」:存在場所を表す「に」と動作場 所を表す「で」を正答とする問題文で6問である。

存在場所を表す「に」と動作場所を表す「で」を選ぶ問題である。「に」と共に用い る存在動詞「いる(ある)」文3問、動作動詞の「食べる」を含んだ文3問である。後者 には補助動詞「いる」を用いた文も含めた。これは、「いる」という形式に引かれて「に」

が誤って選ばれるということがあるので補助動詞「いる」を伴う文を避け「で」の正答 率を上げようとするものではないことを示すため加えている。「存在場所」文は、文中 に「2人」や「中」という名詞を伴って「集合体」における人や物の存在を表すように も解釈され得る文ではないという点で後に示す(c)と異なる。本問の問題文数が他の問題

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文数に比べて少ないのは、1.1で述べたように、中級レベルの日本語学習者が「食堂(に) 彼がいる」のような存在場所を表す「に」と「食堂(で)ご飯を食べる」のような動作場 所を表す「で」については一応習得していると考られたからである。実際の調査票は付 録につけることとして、以下、問題文の一部を示す。

(4) 食堂( )彼がいます。

(5) 中国( )おば(さん)がいません。

(6) 食堂( )ご飯を食べます。

(7) 食堂( )ご飯を食べています。

(b)「範囲限定」文の「で」:範囲限定を表す「で」を正答とする問題文で7問である。

本問は日本語学習者が条件付存在文との混同が起り易いと考えられる文であり、仮説 を検証するための問題文である。以下に問題文の一部を示す。

(8) 韓国( )有名な人は誰ですか。

(9) 中国( )有名なところはどこですか。

(10) 大学の中( )だれが一番テニスが上手ですか。

(11) あの店の中( )何がほしいですか。

(c)「存在場所+条件付」文の「に」:存在場所を表す「に」を正答とする問題文で8問 である。本問は日本語学習者が範囲限定を表す文との混同が起り易いと考えられる文で

ある。2.1.4で示したが、中級レベルの日本語学習者には「*クラスで2人韓国人がいる」、

「*私のクラスの中で○というひとがいる」、「*寮で何人いますか」の「に」→「で」の 誤用が現れていた。これらを参考にして作成した問題文である。すなわち、文中に「2 人」、「韓国人」、「中」などの名詞を伴い、「クラス」が「集合体」を表すとも解釈され る文である。この点で(a)と異なる。また、(b)との違いは本問が人や物の存在を表す文 であることである。また、「集合体」が表されていれば、「人の集合体」だけでなく「物 の集合体」であっても「に」→「で」の誤用が現れる可能性もあるため「物の集合体」

を表すとも解釈される文も問題文としている。例えば以下の(12)は「寮」が「寮に存在 するもの」の集合体を表し、(14)は「寮」が「寮に住んでいる留学生」の集合体を表す。

本問のような文を「食堂に田中さんがいる」という単純な存在文と区別するため、「条 件付存在文」あるいは「存在場所+条件付」文と呼んでいる。以下、問題文の一部を示 す。

(12) この寮( )入口が三つありますか。

(13) きのう、みんなは日本料理を食べました。私もその中( )いました。

121 (14) 寮( )5人メキシコの人がいます。

(15) 中国の人は大学( )何人いますか。

(d)ダミー文:「存在場所+場所対比」文の「に」。存在場所を表す「に」を正答とす る問題文で7問である。本問には場所の対比が含まれており、その点に(a)との違いが ある。2つの存在文が人または物が存在する2つの場所を対比させる形で用いられてい る問題文である。本問は6.3の研究課題3で分析の対象となる問題文である。以下に問 題文の一部を示す。

(16) 寮の中( )みんないます。寮の外( )リーさんがいます。

(17) 韓国( )父がいます。日本( )母と兄と妹がいます。

(18) 日本( )ボーリング場があります。中国( )ボーリング場はあまりありません。

(19) 食堂の前( )イさんがいます。食堂の中( )誰もいません。

(e)ダミー文の「を」:場所を表す「を」を正答とする問題文で7問である。以下、問 題文の一部を示す。

(20) 小さな橋( )渡りました。

(21) あした朝早く、家( )出なければなりません。

(22) 電車( )降りてから、歩いて行きました。

(23) 帰るとき、公園( )通りました。

(f)ダミー文の「から」:場所を表す「から」を正答とする問題文で7問である。以下、

問題文の一部を示す。

(24) 大学( )図書館まで自転車で行きます。

(25) ベッド( )落ちたので、体が痛いです。

(26) 家( )歩いて10分かかります。

(27) どろぼうが家の2階( )入りました。

4.1.3 調査協力者

調査の協力者の詳細は以下の通りである。九州女子大学旧別科日本語研修課程で 2004年度か2005年度に日本語を学習した61人である。日本語レベルは以下のような 4つのレベルに分けた。4つのレベルに分けたのは、中級レベルの中でもどの程度の日 本語レベルに条件を伴う存在を表す文と範囲限定を表す文との間に混同が見られるか を特定するためである。中級レベルとは3.3.1で述べたようにかなり幅広く、旧日本語

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能力試験の3級以上の試験には合格しているが1級には合格していない日本語レベルで ある。両年度の調査協力者に対しては、レベル別に同じ日本語学習用の教材および副教 材を用い、同じ時間数の日本語学習を行っており、同じテストを実施している。また彼 らの学習背景、日本滞在日数などの属性も似ている。これらのことから 2004 年度と 2005年度の調査協力者の調査結果を合わせて用いることに問題はないと判断した。

・ 中級の下(17人) 旧日本語能力試験3級に合格している日本語学習者と、九州女子 大学旧別科日本語研修課程の2004年度と2005年度に筆者の担当する日本語の授業 で旧日本語能力試験3級の過去問題をした結果、旧日本語能力試験3級に合格する とみなされた日本語学習者である。

・ 中級の中(17人) 旧日本語能力試験2級受験準備中の日本語学習者である。それは、

九州女子大学旧別科日本語研修課程の2004年度と2005年度に筆者の担当する日本 語の授業で旧日本語能力試験 2、3 級の過去問題をした結果、旧日本語能力試験 3 級には合格するが、旧日本語能力試験2級には2割前後点数不足で不合格となった 日本語学習者である。

・ 中級の上(20人) 旧日本語能力試験2級に合格している日本語学習者と、九州女子 大学旧別科日本語研修課程の2004年度と2005年度に筆者の担当する日本語の授業 で旧日本語能力試験2級の過去問題をした結果、旧日本語能力試験2級に合格する とみなされた日本語学習者である。

・ 上級(7 人) 旧日本語能力試験 1 級に合格している日本語学習者と、九州女子大学 旧別科日本語研修課程の2004年度と2005年度に筆者の担当する日本語の授業で旧 日本語能力試験1級の過去問題をした結果、旧日本語能力試験1級に合格するとみ なされた日本語学習者である。

日本語レベルが「中級の下」の日本語学習者は初級日本語学習用教材(『みんなの日 本語初級Ⅰ・Ⅱ本冊』スリーエーネットワーク)の学習を終えており、日本語レベルが

「中級の下・中・上」「上級」の日本語学習者は初級日本語学習用教材を用いた授業を 終えた後、中級日本語学習用教材を使って学習している。

調査は筆者が担当する日本語授業の終了後一斉に行った。本調査は当該日本語授業と しての試験ではなく成績には影響しないこと、留学生が使う助詞を知りたいので教えて ほしいこと、辞書を使ったり人に答えを聞いたりせずに回答してほしいこと、調査票は A4用紙1枚で裏表であること、10分程で回答できるが時間制限はないこと、必ず全て 記入してほしいこと、この調査で得た個人情報は漏らさないこと、学術調査のために使

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