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第 2 章 先行研究概観

2.1 日本語学における格助詞の研究

2.1.3 生成文法および格文法の影響を受けた格助詞「に」 、「で」 、「を」の分析

2.1.3.6 場所を表す「を」の研究

44 田1981)。

定延(2004)

定延(2004, pp. 181-182)は、松村(1957)の「に」が存在・状態などの場所を表すのに 対して「で」が動作の行われる場所を表すことや、山田(1981)の「で」が「こととの接 触」を示し、「に」は「ものとの接触」を示すということなどを受け、その上で、「に」

は「モノの存在場所」を表すが(例「家の前に車を停めた」、「体育館に机がある」)、「で」

は「デキゴトの存在場所」を表す(例「家の前で車を停めた」、「体育館で入学式がある」) と考えられるとしている。定延(2004, pp. 181-182)は、「に」が「モノの存在場所」を 表し、「で」が「デキゴトの存在場所」を表すという表現は、松村(1957)や山田(1981) などの表現とは異なるが、「に」と「で」の概念は共通していると述べている。

まとめ

以上のことから、場所を表す「で」は以下のようにまとめられる。場所を表す「で」

が「に」と最も異なる点が示された。生成文法および格文法を取り入れる前の格助詞の 研究では、「で」は、動作・作用の道具立て、背景を整え、その表現を支える助詞群で あり、「に」が行為・動作・作用の道具立てを整えるものであるのと同じであったし(田

中1977, p. 370)、「で」も「に」と同じく補格であり、場所・時間・手段・方法・材料

などを用言に先行して示し、その用言を補助的に修飾しているものであることを見た (西田1977, pp. 205-206)。それに対し、「文」(p. 40)という概念を述語の意味の完結体 として捉えた場合、「場所」の「に」は文中の要素には文に不可欠な「項」(p. 40)であ るのに対し、「場所」の「で」は不可欠ではないが余剰的に文に情報を足すことのでき る「付加詞」(長谷川1999, p. 40)である。つまり、述語(主に動詞)が要求するのが「場 所」の「に」であり、要求はしないが存在を許すのが「場所」の「で」である(長谷川

1999, p. 40)。場所を表す「で」を伴う名詞句は、動作や出来事の動詞すべてと広く浅

く結びついている(寺村1982, pp. 103-104)。場所を表す「で」を伴う名詞句は文頭に置 かれ、後ろに続く空間の出来事を包み込むより広い空間を表す(寺村1982)。但し、寺村

(1982)はすべての文に当てはまるのではない。「花子がベランダで星を眺めていた」の

ような文は確実に場所の「デ格」に包含される要素は主格成分に限られる(菅井1997, pp.

5-6)。後続する動詞は、「で」によって限られた場面での行為や作用で、「に」のように 他の場所からの移動や、単なる存在には使えない(森田1980, p. 322)。「で」に導かれる 動詞はふつう動作動詞である(森田1980, p. 323)。「に」はモノの存在場所を表すが「で」

はデキゴトの存在場所を表す(定延2004)。

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(1982)を中心に仁田(1993、1997)、森田(1980)、益岡(2000)などを示す。

寺村(1982)

寺村(1982, pp. 83-84)は、文を構成する動詞にとって「を」を伴う名詞句である対象

を表す「を」は、例えば「人を殺す」や「物を壊す」の「殺す」、「壊す」のような動詞 と共に用いる「人を」、「物を」が必須補語であると述べている。「(場所)ヲ」は、動詞 にとって必須補語である場合と準必須補語である場合とがあるとしている(寺村 1982,

pp. 108-110)。「(場所)ヲ」が必須補語である場合と準必須補語である場合とは、「道を

通る」の「道を」のようなものが「通る」にとって「通り道」であるため必須補語であ って、「道を歩く」の「道を」のようなものは「歩く」にとって「通り道」とも言い難 いため、準必須補語であるという(寺村1982, pp. 108-110)。寺村(1982)は、格助詞「に」

のところでも示したが、「(場所)ヲ」(通り道)と共に用いられる動詞の「出ル」類、「通 ル」類を示している。寺村(1982)は、「出ル」動きの述語には「出ル、卒業スル、出発 スル、離レル、オリル、(トビ、這イ、逃ゲ、抜ケ、・・・)出ス, 去ル」(p. 119)を挙げ、

補語は「仕手(X)→Xガ」(p. 119)と「出どころ(Y)→Yヲ/Yカラ」(p. 119)である。寺

村(1982)は、「通ル」動きの述語を2つに分けている。「A」は「通ル、経過スル、過ギ

ル、経ル、渡ル、越ス」(p. 120)、「B」は「歩ク、走ル、駆ケル、這ウ、進ム、トブ」

(p. 120)が挙げられ、補語は、「仕手(X)→Xガ」(p. 120)、「通りみち(Y)→Vヲ(A類に とっては必須補語、B類にとっては準必須補語)」(p. 120)、「出どころ(V)→Vカラ(副 次補語)」(p. 120)、「到達点(あるいは目的地)(W)→Wへ/Wニ(副次補語)」(p. 120)である。

また、寺村(1982, p. 117)は「行ク、来ル、帰ル、戻ル」は、「歩ク」などと同じように 通過の動作と似通った意味で使われるとき「街道ヲ往ク」のように現れることがあると 述べている。

仁田(1993)

仁田(1993)も寺村(1982)と同じ立場を取っている。仁田(1993, p. 12)によると、「子供 達が吊り橋を渡った」の「吊り橋を」は主要共演成分であり、「子供達が運動場を走っ ている」の「運動場を」は副次的共演成分である。

久野(1973)

久野(1973, p. 58)は、運動を表す動詞と共に用いられる場所を表す「を」について、

「に」および「で」との違いを示している。久野(1973, pp. 58-59)によると、「道ヲ歩 ク」、「空ヲ飛ブ」、「廊下ヲ走ル」、「山ヲノボル」、「山ヲオリル」のように「名詞+ヲ」

は、「動詞によって表される運動が、名詞によって表される距離又は空間の前範囲(或い はかなりの部分)にわたって続けて一方向に向かって行われることを示す」(p. 58)もの であり、「道ニ歩ク(例えば、家の庭から道にむかって歩く)」、「空ニ飛ブ(空にむかって

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飛ぶ)」など「名詞+ニ」は「名詞によって表される場所が、運動の目的地であること

を示す」(p. 59)ものであり、そして、「道デ歩ク(路上で例えば、行ったり来たり、渡っ

たりして歩く)」、「空デ飛ブ(空の極く限られた空間で飛ぶ)」など「名詞+デ」は「動詞 によって表される運動が、名詞によって表される距離、又は、空間の極く一部分で、必 ずしも連続的、一方向的ではなく行われることを示す」(p. 59)ものである。

奥津・沼田・杉本(1986)

奥津・沼田・杉本(1986, p. 282)においては、「を」を伴う「移動補語」は、移動に関 わる場所を示すが、その関わり方は動詞により様々であると述べている。「太郎は遊歩 道を歩いた」では移動の「経路」を示しているのに対し、「バスは駅前の交差点を過ぎ た」では移動の「経由点」、「人口衛星は軌道を離れた」では移動の「起点」を示す。

加藤(2006)

「を」が示す「経路」について、加藤(2006, pp. 163-167)は、「経路」とは狭義には

「通り道」のようなもので、移動の際に通る予定の線状の場所、あるいは、通った軌跡 を典型的に指すと考えられると述べている。経路用法は大まかに通過点、移動経路、移 動領域に下位区分でき、それらは、連続的な関係にあるという(加藤2006)。通過点は、

「有境界性」を持ち、点として存在するので他の用法に比べて客体化しやすいと考えら れると述べられており、「筑波山上空を飛んだ」は、通過域とも移動領域とも解釈可能 であり、「空を飛ぶ」は移動領域の解釈であると述べられている(加藤2006)。

まとめ

以上のことから、「を」は以下のようにまとめられる。「を」を伴う名詞句は文におい て不可欠な項である(長谷川1999, p. 40)。寺村(1982)および仁田(1993)では、「子供達 が吊り橋を渡った」の「吊り橋を」は項(長谷川1999, p. 40)であり、「子供達が運動場 を走っている」の「運動場を」は項(長谷川1999, p. 40)より必要度の落ちる名詞句であ るとされた。

場所を表す「を」と共に用いられる動詞は以下のようにまとめられる。「通ル」動き の動詞類はAの「通ル, 経過スル, 過ギル, 経ル, 渡ル, 越ス」(p. 120)、Bの「歩ク, 走 ル, 駆ケル, 這ウ, 進ム, トブ」(p. 120)であり、Aの動詞類と共に「場所(ヲ)(通り道) が必須的に用いられる。Bの動詞類と共には「場所(ヲ)(通り道)が準必須的に用いられ る(寺村 1982)。また、「行ク, 来ル, 帰ル, 戻ル」は、「歩ク」などと同じように通過の 動作と似通った意味で使われる動詞もある。「ノボル」、「オリル」、「飛ブ」、「歩ク」、「泳 グ」、「走ル」、「渡ル」など運動を表す動詞と共に用いられる「名詞+ヲ」は、「動詞に よって表される運動が、名詞によって表される距離又は空間の前範囲(或いはかなりの 部分)にわたって続けて一方向に向かって行われることを示す」(久野1973, p. 58)。「を」

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を伴う「移動補語」は、移動に関わる場所を示すが、その関わり方は動詞により、「経 路」、「経由点」、「起点」を示す(奥津・沼田・杉本1986, p. 282)。「を」が示す「経路」

とは狭義には「通り道」のようなもので、移動の際に通る予定の線状の場所、あるいは、

通った軌跡を典型的に指すと考えられ、経路用法は大まかに通過点、移動経路、移動領 域に下位区分でき、それらは、連続的な関係にあるという(加藤2006, pp. 163-167)。

次に、上記の先行研究では見られなかった格助詞「で」の限定の表現と、格助詞「に」

の存在表現を以下に示す。格助詞「で」の限定の表現および格助詞「に」の存在表現は 本研究の目的である日本語学習者の場所を表す「に」の発達の1つの段階を明らかにす るために重要となる研究である。

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