第 2 章 先行研究概観
2.2 日本語教育における場所を表す「に」の習得に関する研究
2.2.4 日本語能力が上級レベルの学習者を対象とした習得に関する研究
(1997)、杉山(2002)、坂本(2002)の順に示す。
生田・久保田(1997)
生田・久保田(1997)は、格助詞の誤用を把握し分析することを目的として調査を行っ ている。研修生の国籍は17カ国で職業は日本語教師である。調査の対象は国際交流基 金日本語国際センターの研修生で上級レベルの50人である。上級レベルとは旧日本語 能力試験の1級合格者もしくは研修中のテスト結果や同センターの専任講師3名以上の
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判断によって旧日本語能力試験1級合格または旧日本語能力試験1級合格と同程度以上 と判断された研修生である。
調査は、問題文合計160から成る「を」、「に」、「で」、「へ」、「と」、「から」、「より」、
「まで」の中から最も適当な1つを選んで( )に書き入れるという穴埋め式テストであ る。問題文の内訳は、「に」を正答とするものが 69 問、「で」を正答とするものが 23 問、「を」を正答とするものが31問、「から」を正答とするものが16問、「へ」を正答 とするものが1問、「と」を正答とするものが10問、「より」を正答とするものが4問、
「まで」を正答とするものが6問である。但し、このテストでは、「に」の到達点を表 す機能、「へ」の方向、到達点を表す機能に関して両助詞が共起するという理由から、
「到達点を表す機能」を問う問題文が除かれている。
分析の結果、正答率は「で」の「動作の場所」が99.1%、「状況の場所」が95%、「に」
の「所在位置」が 91.2%、「を」の「対象」が 99.3%、「移動の経路・動作の場所」は 92.7%であったのに対し、「動作の起点」は 86%であったという。「を」の「動作の起 点」の正答率が低かったのは「から」の誤選択によると述べられている。「に」→「で」
の誤用は「できることなら、日本( )住みたい」と「ビジネスホテル( )泊まったんで すが、ずいぶん高かったですね」という問題文がそれぞれ50人中6人であった。「で」
→「に」の誤答は「日本( )は握手はあまり一般的ではありません」が59 人中3 人で あり、「すみませんが、ここ( )たばこを吸わないでください」、「大阪( )は『ありがと う』のことを『おおきに』といいます」という問題文がそれぞれ50人中1人であった。
存在場所を表す「に」については、「あそこの木( )赤い実がなっていますよ」「どこで すか」という談話形式になった問題文の回答に当たるもので「ほら、あの建物の隣( ) ある木」という問題文が存在場所を表す「に」を正答とするが、「に」→「で」の誤用 はなかった。
杉山(2002)
杉山(2002)は、日本語学習者の誤用の傾向を示すことを目的として調査を実施した。
調査は、格助詞「が」、「を」「に」、「で」を記入するという文章完成テスト、および、
会話完成テストである。調査協力者は多国籍の日本語学習者 41 名(内、中国籍 32 名) であり、日本語学習時間800 時間以上の旧日本語能力試験の 1 級に合格しているか、
もしくはそれに相当する日本語レベルである。日本語レベルの判定は調査者と各日本語 教育機関の日本語教員が判断したという。
その結果、日本語母語話者と日本語学習者が共に 80%以上が同一の回答をしたもの の中に「高原は長野県にある」の場所を表す「に」が示されている。「着点」を表す「に」
の正答率は低く「に」を選ぶべきところに「で」「を」が選ばれており、場所を表す「を」、
「に」、「で」の使い分けは上級レベルの日本語学習者にとっても困難なようであると述 べられているがその詳細は示されていない。
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場所を表す「を」については、内山(1996)、生田・久保田(1997)とは反対に、離れる 場所を表す「を」の正答率の方が通過場所を表す「を」の正答率よりも高いことが報告 されている。それは、問題文の難易度が関係しているように見える。「起点」を表す「を」
を正答とする問題文例は「長男は今年大学( )卒業して・・」のように初級レベルで学 習する「大学を卒業する」の「を」が正答とされているのに対し、「通過場所」を表す
「を」を正答とする問題文例は「坂道( )転げ落ちるように妻の病状は悪化した」のよ うに「坂道を転げ落ちる」は上級レベルの表現だからである。
坂本(2002)
坂本(2002)は、場所を表す「に」と「で」の間において「に」の過剰使用が見られる
か、迫田(2001)のユニット形成ストラテジーの多用による誤用が見られるかなどを目的
として、インタビューによる調査を行った。対象となったのは、大学または大学院に通 っている旧日本語能力試験の1級に合格している中国語を母語とする4人の日本語学習 者である。インタビューは30分程度であり、インタビューの実施者が 1年 10カ月の 間に合計9回行ったという。インタビューの内容については記述がない。インタビュー 後には、インタビュー実施者がインタビューの内容を1~2週間の間に文字化し、それ を日本語学習者に見せ、「手がかりなしでその場で」日本語学習者が間違いだと気が付 いた箇所を修正させたという。そして、日本語学習者が正しく修正できなかったものや 見逃したものを誤用として分析したという。その結果、「に」の過剰使用は「あまり観 察できなかった」が、「中+に」というユニット形成の多用による「で」→「に」の誤 用が「多少見られた」という。「に」の過剰使用が「あまり観察できなかった」こと、
ユニット形成の多用による「で」→「に」の誤用が「多少見られた」ことなど表現があ いまいである。
上級レベルの日本語学習者を対象とした習得に関する研究まとめ
以上の先行研究から、杉山(2002)では「高原は長野県にある」の存在場所を表す「に」
の回答が 80%以上であったことから、上級レベルであっても存在場所を表す「に」を 100%正しく用いることができないことが分かる。生田・久保田(1997)では、場所を表 す「に」の正答率が 90%であり、存在場所を表す「に」→「で」の誤用はないという ことが分かる。だが、存在場所を表す「に」の問題文が1問だけであったことから、正 しい回答が偶然選ばれたことも否定できない。
場所を表す「で」は正答率が90%であり、「を」は「移動の経路・動作の場所」の正 答率は92.7%であったのに対し、「動作の起点」は「から」との誤選択により正答率は 86%であり「移動の経路・動作の場所」の正答率に比べて低かったということである(生 田・久保田1997)。つまり、通過場所を表す「を」は日本語能力が中級レベルのときに 習得が進んだことが考えられる。但し、問題文によっては、通過場所を表す「を」の正
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答率と離れる場所を表す「を」の正答率が逆転すること(杉山2002)が分かる。