• 検索結果がありません。

IAS 39, IFRS 9

IAS 11.36, IAS 37.5(g), 66-69

不利な契約についての単一のアプローチ

現行のIFRSは、不利な契約について、以下の2つの基準書で取り扱っている。

-

IAS第37号には、不利な契約に係る引当金の認識及び測定に関する一般的なガイダンスが含 まれている。企業は、契約における義務を履行するための不可避的なコストが、受け取ると 見込まれる経済的便益を上回る場合に、引当金を認識する。ただし、IAS第37号では、将来の 営業損失について引当金を認識することは禁止されている。

-

IAS第11号では、工事契約について予想される損失を即時に認識することが要求されている。

新基準によりIAS第11号は差替えとなった。そのため、不利な契約については、単一の会計基準

(すなわち、IAS第37号)に従い会計処理する。

工事契約以外の契約については、不利な契約の会計処理について概ね変更はない。ただし、新基準 は契約損失に関するIAS第11号のガイダンスを取り下げたことによる帰結について触れていない。

損失が発生する工事契約の測定に変更が生じることをIASBが想定しているか否かは不明である。

以下の領域で、解釈上の論点が発生する可能性がある。

会計単位

IAS第37号では、将来の営業損失に関する引当金の認識が明確に禁止されてい る。IAS第37号を適用する際の共通の論点は、以下の2つを区分することである。

-

不利な義務、これについては引当金の認識が要求される。

-

将来の営業損失、これについては引当金の認識が禁じられる。

引当金の認識が禁止されることにより、予想される契約損失を即時に認識すると したIAS第11号による現行実務がどのように影響を受けるのかは、不明確である。

コスト

IAS第11号では、予想される契約損失は、予想される契約コストを参照して識 別する。これは通常、契約を履行するためのコストの全額とされる(例:帰属 可能な間接費を含む)。IAS第37号においては、不利な契約の識別及び要求さ れる引当金の測定に際して、義務を履行するための「不可避的なコスト」を検 討する。IAS第37号では「不可避的なコスト」という文言の意味について、「契 約から解放されるための最小の正味コスト」(すなわち、契約履行のコストと 契約不履行により発生する補償または違約金のいずれか低い方)を反映する とした以外の説明はない。義務を履行するための不可避的なコストが、IAS第 11号における契約コストと同義であるとIASBが考えているかは、不明確である。

176

© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

9. 表示

概要

このセクションでは、財政状態計算書に関する表示規定について取り扱う。

新基準の規定

IFRS 15.105

契約のいずれかの当事者がその義務を履行する場合には、企業は契約資産または契約負債を財政状

態計算書上に表示する。企業は顧客に財またはサービスを移転することにより、顧客は対価を企業 に支払うことにより、それぞれ義務を履行する。

IFRS 15.105-107

「契約負債」とは、財またはサービスを顧客に移転する義務のうち企業が顧客から対価を受け取っ

ている、または対価の金額の支払期限が到来しているもの(キャンセル不能な場合)である。

「契約資産」とは、企業が顧客に移転した財またはサービスと交換に受け取る対価に対する企業の 権利のうち、時の経過以外の条件が付されているものである。

IFRS 15.105,108, IFRS 9

「債権」とは、対価に対する無条件の権利である。対価に対する権利が無条件であるとは、支払い

の期限が到来する前に時の経過のみが要求される場合である。債権は契約資産と区分して表示し、

契約負債と相殺して純額で表示することはできない。

企業は測定及び開示を含め、債権を金融商品に関するガイダンスを用いて会計処理する。債権の当 初認識時に、金融商品に関するガイダンス(例:信用リスクに伴う減損)を用いた債権の測定値と、

それに対応する認識した収益の金額との間に差異があれば、費用として表示する。債権のその後の 減損についても、費用として会計処理する。

IFRS 15.109

企業は財政状態計算書上で、契約資産及び契約負債について他の名称を用いることができる。ただ

し、契約資産を債権から区別するために十分な情報を提供しなければならない。

設例67 解約可能な契約に係る契約負債及び債権

IFRS 15.IE198

製造業者Dは、製品を顧客Eに2019年3月31日に移転する解約可能の契約を2019年1月1日に締

結した。この契約により、Eは2019年1月31日に対価1,000千円を前払いすることが要求される。

Eは2019年3月1日(すなわち、支払期限到来後)に当該対価を支払う。D社は製品を2019年3月 31日に移転する。D社は次の会計処理について以下の仕訳を行う。

契約資産(純額)

権利>義務の場合

契約負債(純額)

権利<義務の場合 権利と義務

177

© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

-

2019年3月1日に受け取った現金及び関連する契約負債

-

2019年3月31日における製品の移転に係る収益

この設例では、D社は2019年1月31日の対価に対する無条件の権利を有していないため、債権 を有していない。

借方 貸方 2019年3月1日

受け取った現金1,000を計上(現金を履行の前に受け取る)

現金 1,000

契約負債 1,000

2019年3月31日

D社による履行義務の充足による収益を計

契約負債 1,000

収益 1,000

設例68 解約不能な契約に係る契約負債及び債権

IFRS 15.IE199-200

本冊子の設例67を変更し、D社の契約が解約不能であるとする。D社は2019年1月1日の対価に対

する無条件の権利を有するため、当該対価について債権を認識する。D社は次の会計処理につい て以下の仕訳を行う。

-

2019年1月31日に発生する債権及び関連する契約負債

-

2019年3月1日に受け取った現金

-

2019年3月31日における製品の移転に係る収益

借方 貸方 2019年1月31日

支払期限が到来した対価の金額を計上する

債権 1,000

契約負債 1,000

2019年3月1日

D社による現金の受領を計上

現金 1,000

債権 1,000

178

© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

D社が2019年1月31日(すなわち、支払期限)よりも前に請求書を発行する場合であっても、対価 に対する無条件の権利をまだ有していないため、2019年1月31日よりも前に債権を計上しない。

借方 貸方 2019年3月31日

D社による履行義務の充足による収益を計上

契約負債 1,000

収益 1,000

KPMGの見解

IFRS 15.IE199-200

IFRS 15.IE201-204

IFRS 15.BC326

IFRS 15.108, IE200

IFRS 15.BC317

契約資産及び契約負債-履行に基づく認識

新基準では、少なくとも当事者の一方が履行した後に、契約資産または契約負債を表示する。た だし、新基準の設例38では、契約が解約不能の場合は、債権の支払期限が到来した時点で企業は 対価に対する無条件の権利を有するため、企業はその時点で債権を認識することが示されている。

債権-対価に対する無条件の権利に基づく認識

新基準には、契約資産と債権の違いに関する設例39が含まれている。この設例は、引き渡した製 品の対価に対する権利が次の製品の引渡しを条件とするケース(すなわち、両方の製品を移転し た後にのみ、対価に対する無条件の権利を有するケース)を例示している。この契約のもとで対 価に対する権利は無条件ではないため、企業は債権ではなく契約資産を認識する。

両ボードは、将来において対価を顧客に返金する潜在的な企業の義務は、対価の総額に対する企 業の現在の権利に影響を与えないと考えている。例えば、返品権が存在する場合、企業は債権と、

予測される返金額についての独立した返金負債とを認識する(8.1を参照)。

新基準では、企業が履行していない場合、対価に対する権利は条件付きである(すなわち、履行 と時の経過の両方に依拠する)ため、対価の支払いの期限が到来するまで債権を認識しない。

対価の支払いの期限が到来する前に、企業が顧客に請求する可能性がある。そのようなケースで は、企業がまだ履行していないならば、請求書が発行されていたとしても債権を認識しない。

複数の履行義務が含まれる契約について単一の契約資産または契約負債を純額で表示する 契約のいずれの当事者もすでに履行している場合、企業は財政状態計算書上、単一の契約資産ま たは単一の契約負債を表示する。契約に複数の履行義務が含まれている場合、ある特定の一時点 で、履行義務の一部が契約資産を生じさせる状態となり、別の履行義務が契約負債を生じさせる 状態となる可能性がある。そのようなケースでは、企業は、契約全体を相殺し、単一の契約資産 または単一の契約負債を純額で表示する。企業は同一の契約について契約資産と契約負債の両方 を表示することはない。例えば、複数の履行義務について複数のシステムが用いられる場合な ど、状況によっては、純額の残高を算定するのが困難な場合がある。

さらに、契約の結合に関するガイダンス(3.1.4を参照)のもとで企業が複数の契約を結合し、そ