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独立販売価格の見積りへの残余アプローチの適用 新基準の規定

概要

IAS 18.IE11, IFRIC 13.AG3

3.4.1.2 独立販売価格の見積りへの残余アプローチの適用 新基準の規定

IFRS 15.79(c)

残余アプローチは、1つまたは複数の財またはサービスについて独立販売価格の変動性が高いかま

たは不確実であり、その契約で約束した他の財またはサービスについて観察可能な独立販売価格を 見積ることができる場合にのみ、適切となる。

販売価格 条件

変動性が高い 企業が同一の財またはサービスを異なる顧客に同時にま

たはほぼ同時に広い範囲の金額で販売している。

不確実である 企業が財またはサービスについての価格をまだ設定して

おらず、その財またはサービスがこれまで別個に販売され たことがない。

残余アプローチのもとでは、企業は財またはサービスの独立販売価格を、取引価格の総額と、同一 の契約に含まれる他の財またはサービスの観察可能な独立販売価格との差額に基づいて見積る。

IFRS 15.80

同一の契約に含まれる複数の財またはサービスの独立販売価格の変動性が高いかまたは不確実で

ある場合、企業は契約に含まれる履行義務の独立販売価格を見積る際に、例えば、以下のように、

複数の方法を組み合わせて用いることが必要となることがある。

-

独立販売価格の変動性が高いかまたは不確実である約束した財またはサービスの総額の見積り に、残余アプローチを用いる。

-

残余アプローチで算定した独立販売価格の総額の見積りに対して、別の方法を利用して個々の 財またはサービスの独立販売価格を見積る。

設例23 残余アプローチ

ソフトウェアの売手Mは、ライセンスSとライセンスTを3年間使用する権利と、これらのライセ ンスの両方に関するPCSを提供する契約を締結した。

PCSは、それぞれのライセンスについての電話による技術サポートで構成される。M社はこの契約に は、ライセンスS、ライセンスSの技術サポート、ライセンスT、ライセンスTの技術サポートの4つの 履行義務が含まれていると判定した。個々のライセンスに関する技術サポートの独立販売価格は、別 個に販売されている更新価格から入手可能であり、12,500千円となる。しかし、M社がライセンスS 及びライセンスTに類似したライセンスを販売した時の価格は幅が広い(すなわち、これらのライセ ンスの販売価格の変動性が非常に高く、直接観察可能ではない)。また、複数のライセンスをセット にして販売した場合の値引きのレベルは、個々の顧客との交渉に基づくため様々である。

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© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

M社は、この契約に含まれる各履行義務の独立販売価格を以下のように見積った。

(単位:千円)

製品 独立販売価格 アプローチ

ライセンスS及びライセンスT 75,000 残 余 ア プ ロ ー チ ( 100,000 - 12,500 - 12,500)

ライセンスSの技術サポート 12,500 直接観察可能な価格 ライセンスTの技術サポート 12,500 直接観察可能な価格

合計 100,000

M社はまず、販売価格の変動性が高い製品の束(ライセンスS及びライセンスT)の独立販売価格 を、残余アプローチを用いて見積る。これらの束に含まれるライセンスSとライセンスTは、それ ぞれ別の時点で顧客に移転するため、M社は次に、個々のライセンスの独立販売価格を見積る。

M社は、過年度における残余販売価格の平均に基づいて75,000千円をライセンスS及びライセンス Tに配分することにより、独立販売価格を以下のように見積る。

(単位:千円)

製品 残余販売価格の平均 比率 配分額 計算

ライセンスS 40,000 40% 30,000 (75,000×40%)

ライセンスT 60,000 60% 45,000 (75,000×60%)

合計 100,000 75,000

KPMGの見解

IFRS 15.BC271

残余アプローチは見積りの技法であり、配分方法ではない

新基準のもとでの残余アプローチは、約束した財またはサービスの独立販売価格を見積る際に用 いる。現行の収益認識に関するガイダンスでは、残余アプローチは通常、成果物への対価の配分 に用いられるので対照的である(例:引き渡された項目に配分される対価を、対価の総額から引 き渡されていない項目の公正価値を対価の総額から控除して算定する)。

知的財産やその他の無形資産に関する契約では、独立販売価格を算定するのに残余アプローチが 適切な技法となり得る

知的財産や無形資産に関する契約については、別個に販売されることは稀であり、様々な価格で セット販売されることが多い場合は、独立販売価格の決定が特に難しい。それらの財またはサー ビスは、顧客に提供する増分コストがほとんどかからず(したがって、コストにマージンを加算 するアプローチは適さない)、市場調整アプローチをとるために必要な、市場に出回る類似の製 品がないこともある。

そのような状況においては、独立販売価格の見積りに、残余アプローチが最も適切な方法となる 可能性がある。

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IFRS 15.BC273

残余アプローチを用いるのが適切であるか否かの判定は、個々の財またはサービスごとに行わな ければならない

一部の契約では、財またはサービスの価格が他の財またはサービスの価格を参照して算定される 場合がある。例えば、知的財産とPCSを含む契約で、PCSの価格が、ライセンス手数料の明示さ れた契約価格の固定比率で算定される場合がある。

そのようなケースで、知的財産の独立販売価格が不確実であるか、変動性が非常に高い場合、企 業は、契約価格の固定比率をPCSの独立販売価格とみなすのではなく、入手可能なデータ及び証 拠をすべて考慮して、PCSの独立販売価格を決定する。企業は特に、PCSの実際の更新について 請求する価格や、類似の顧客との他の契約で明示された更新料を考慮する。

配分される対価がゼロまたはゼロに近似する可能性は低い

新基準のもとで残余アプローチを適用した結果、財またはサービス(または財またはサービスの束)

に配分される対価がゼロまたは非常に少額である場合、契約の一部のみが新基準の適用範囲であり、

当該契約に他の基準書も適用される場合を除き(2.2を参照)、この結果は合理的ではない可能性がある。

収益認識モデルのステップ2を適用する際に、企業がある財またはサービスを区別できると判定 していることを前提とすると、その定義から、財またはサービスは単独で顧客にとって価値があ ることになる。このようなケースでは、企業は合理的に入手可能なすべてのデータを考慮し、財 またはサービスの独立販売価格を他の方法を用いて見積るべきか否かを検討する。

対照的に、現行の収益認識に関するガイダンスのもとでは、対価を配分するのに残余法を用いた 結果、残余の項目(すでに引き渡した項目)に配分される対価が非常に少ないか、またはゼロと なる場合がある。

現行のIFRSとの比較

残余アプローチを適用するためには複数の条件を満たさなければならないが、その適用はすでに 引き渡された項目に限定されない

現行のガイダンスと異なり、新基準では、残余アプローチを適用するために特定の条件を満たすこ とが要求されている。さらに、新基準のもとでは、残余アプローチが、配分方法ではなく財または サービスの独立販売価格を見積るための技法として用いられる。特定の産業においては、現行実務 における残余法(3.4.1「現行のIFRSとの比較」参照)を適用している企業が、新基準の残余アプ ローチを適用するための条件を満たさないと結論付け、財またはサービスの独立販売価格を別の 方法を用いて見積る必要があると結論付ける可能性がある。通常、そのようなケースでは、すでに 引き渡された財またはサービス(例:電話機)について収益の認識が前倒しされる結果となる。

新基準のもとで残余アプローチを適用することが適切な場合、まだ引き渡されていない項目を含 む、契約で約束したすべての財またはサービスの独立販売価格を、残余アプローチを用いて見積 ることが認められる。

これにより、収益の配分に逆残余法(残余法とは逆に、対価の額をすでに引き渡された構成要素 にその公正価値に基づき配分し、残余を未だ引き渡されていない構成要素に配分する方法。

KPMGの刊行物Insights into IFRS第12版4.2.60.50を参照)を適用することは適切ではないとい うKPMGのこれまでの見解は変更となる。

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