概要
新基準においては、以下のいずれかを満たす場合、企業は製品保証または製品保証の一部を履行 義務として会計処理する。
-
顧客が製品保証を別個に購入するオプションを有している。-
製品保証の一部として追加的なサービスが提供される。それ以外の場合は、製品保証は引き続き、現行のガイダンスに従って会計処理する。
8.2.1 製品保証に関するガイダンスの適用
新基準の規定
IFRS 15.B29
新基準のもとでは、ステップ2の要件のもとで区別できる場合、製品保証は履行義務とみなされる(3.2.1を参照)。顧客が財またはサービスを製品保証付きで購入することも製品保証なしで購入する ことも選択できる場合、製品保証は区別できるサービスである。製品が合意された仕様に従っている というアシュアランスを超過するサービスが製品保証に含まれる場合、区別できるサービスとなる。
IFRS 15.B29-30, IAS 37 製品保証が別個に販売されない場合であっても、製品保証が、製品が合意された仕様に従っている
という保証に加えて顧客にサービスを提供している場合は、履行義務となる。製品が合意された仕 様に従っているという保証のみを提供する製品保証(「アシュアランス型製品保証」)は、IAS第37 号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理する。アシュアランス型製品保証とサービ ス型製品保証とを区別する方法に関する詳細な説明は8.2.2を参照。
IFRS 15.B29
製品保証または製品保証の一部が、履行義務とみなされる場合、企業は、収益認識モデルのステップ4の規定を適用して(3.4を参照)、取引価格の一部をサービスの履行義務に配分する。
IFRS 15.B32
企業が保証の要素とサービスの要素の両方を含む製品保証を提供し、企業がそれらを合理的に別個に会計処理できない場合は、両方の製品保証をまとめて単一の履行義務として会計処理する。
IFRS 15.B33, IAS 37
製品が損害を生じさせた場合に補償金や損害賠償を支払うことが法規制で定められている場合、当該企業の義務はIFRS第15号の履行義務ではなく、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に 従って会計処理する。
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設例54 製品保証が付された製品の販売
IFRS 15.IE223-229
製造業者Mは製品の購入に付随して以下の保証を顧客に付与する。-
M社は、製品が合意された仕様に従っており、購入日から3年間約束どおりに機能することを 保証する(以下、標準保証という)。-
顧客に20時間の研修サービスを提供することに合意する。これらの保証に加え、顧客は追加2年間の延長保証を購入することも選択できる。
この設例では、M社はこの契約に以下のとおり3つの履行義務が含まれていると結論づける。
研修サービスにより、製品が仕様に従っていることを保証することに加えて別個のサービスが提 供されるため、研修サービスは単一の履行義務である。
延長保証は別個に購入でき、ステップ2の要件に基づき区別できる(3.2を参照)ため、単一の履 行義務である。
製品が契約に記載された仕様に従っているという保証を提供する標準保証は、アシュアランス型 の製品保証であり、単一の履行義務とはならない。したがって、M社は他の関連するガイダンス に従い製品の支配が顧客に移転した時点でコストの引当てとして会計処理する。
KPMGの見解
IFRS 15.B20-27
サービスの欠陥に関する返金が製品保証ではなく変動対価である場合がある
新基準の製品保証に関するガイダンスは、財と同様にサービスにも適用されるよう意図されてい る。ただし、その概念をサービスに対しどのように適用するべきか詳細に説明されていない。
サービスの引渡しに関する契約において、企業はやり直しか返金を提示する場合がある。企業が
「やり直し」(例:顧客が満足しなかった領域について再度塗りなおす)を提示する場合、支配 の移転及び収益認識のタイミングを決定する際にこれを考慮する。
企業が提供されたサービスに満足しなかった顧客に返金を提示する場合、返品権付きの販売に関 するガイダンス(8.1を参照)を適用し、提供したサービスの取引価格を算定する際に変動対価 の見積りに関するガイダンスに従う(3.3を参照)。
履行義務
研修サービス
製品の移転 延長保証
履行義務ではない
標準保証 契約
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IFRS 15.B20-27
IFRS 15.51
賠償金と交換に行われる欠陥製品の返品
企業は欠陥製品を修理または交換するのではなく、顧客に現金またはクレジットの形態で賠償金 を提示する場合がある。欠陥財の返品や交換とは異なり、このような返金は通常、製品保証に関 するガイダンスではなく、返品権に関するガイダンス(8.1を参照)を用いて会計処理する。
損害賠償及びそれに類似する契約条項
特定の事象の発生または発生しないことに伴う損害賠償やそれに類似する賠償金を顧客に支払 う条項は、多くの契約に含まれている。新基準ではペナルティが変動対価として識別されている ことから、これらの条項は変動対価とみなされる場合がある。
ただし、一部の状況では、そのような契約条項が製品保証に類似する場合がある。例えば、企業 が販売した欠陥製品を第三者が修理し、その修理により発生したコストを企業が顧客に補填する 場合、当該契約条項は製品保証に類似している可能性がある。
製品保証に類似するとみなされる金額は、顧客に支払われる対価と製品保証(アシュアランス型 またはサービス型)のいずれかとして会計処理する。
製品保証として会計処理する契約条項を、より一般的な変動対価を生じさせる契約条項と区別す るには、判断が要求される。
現行のIFRSとの比較
IAS 18.16(a), 17. IAS 37.C4
現行のIAS第18号においては、販売契約における通常の保証条項により、売手が重要なリスクを保留することにならない場合には、製品の販売日に収益を認識する。このようなケースでは、企 業は販売日にIAS第37号に基づき、欠陥製品を修理するか、または交換するために発生するコス トの最善の見積金額で製品保証引当金を認識する。
ただし、通常でない保証義務を有する場合には、所有に伴う重要なリスク及び経済価値が買手に 移転していないことが示される可能性があり、その場合には収益を繰り延べなければならない。
現行のIFRSと異なり、新基準では、製品保証が存在することにより製品の販売に伴うすべての収 益認識が妨げられることは想定されていない。したがって、一部のケースでは現行のIFRSに従っ た会計処理と比較し、収益認識が前倒しされる可能性がある。
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8.2.2 アシュアランス型の製品保証とサービス型の製品保証の区別
新基準の規定
企業は製品保証の種類を以下のように区分する。
IFRS 15.B31
保証により顧客に追加的なサービスが提供されるか否かを判定する際に、企業は以下のような要因を検討する。
-
製品保証が法律で要求されているか否か:そのような規定は通常、欠陥製品を購入するリスクから顧客を保護するために存在するもので あるため。
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保証対象期間の長さ:対象期間が長いほど、企業が合意された仕様に従っているという保証だけではなく、サービス を提供している可能性が高い。
-
企業が履行を約束している作業の内容 いいえ約束した製品保証(または約束した製品 保証の一部分)が、製品が合意された仕様に
従っているという保証に加えて 顧客にサービスを提供しているか?
製品保証は履行義務とならない。
保証に関するコストについて
IAS
第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に従い会計処理を検討する 顧客は、製品保証を別個に購入するオプション はい
を有しているか?
保証型の製品保証 いいえ
製品保証または 製品保証の一部分を
履行義務として 会計処理する サービス型の
製品保証
はい
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設例55 永久保証
IFRS 15.B31
鞄製造会社Aは高級鞄業界の大手である。A社はすべての鞄について永久保証を提供している。鞄の破損や損害について、A社は無料でその鞄を修理または交換する。
現在、高級鞄業界における製品保証に関する法規制はない。
A社は、この永久保証がサービス型の製品保証であるか否かを以下のように評価する。
要因 理由
法規制がない この設例では、製品の永久保証をA社に要求する法律がない。したがっ て、この要因により、当該製品保証が別個の履行義務であることが示 唆される。
保証対象期間が長い この設例では、製品保証の期間は永久であり、特定期間について保証 を提供する他の製造企業に比べて長い。したがって、この要因により、
製品保証が別個の履行義務であることが示唆される。
合 意 さ れ た 仕 様 に 従っているというア シュアランスを超え た約束
この設例では、作業の内容は、約束した仕様を満たさない鞄の修理や 交換だけではなく、顧客が鞄の支配を獲得した後に発生する損害の修 理を含む。したがって、鞄の製品保証は、鞄が合意された仕様に従っ ているという約束を超越しており、製品保証が別個の履行義務である ことが示唆される。
A社は上記の評価に基づき、永久保証は、製品が合意された仕様に従っているというアシュアラ ンスに加えて提供されるサービスであると結論付けた。したがって、このサービスを別個の履行 義務として会計処理する。
KPMGの見解
IFRS 15.B31
「合理的に別個に会計処理できない」という指標は定義されていない
新基準では、サービス型の製品保証とアシュアランス型の製品保証とを合理的に別個に会計処理 できない企業は、それらをまとめて単一の履行義務として会計処理することとしている。「合理 的に別個に会計処理できない」という指標が定義されていないため、企業はこのガイダンスを適 用する際に判断を行使することが必要となる。
製品保証期間の長さは製品保証の型の指標となるが、必ずしも決定的な要因とはならない 新基準では、製品保証が顧客にサービスを提供するか否かを判定する際に考慮すべき要因として 製品保証期間の長さを挙げている。ただし、これは要因の1つに過ぎない。企業は通常、市場固 有の背景(地域や製品ラインを含む)に基づき、製品保証期間の長さを検討する。製品保証期間 の長さに加え、製品保証に伴う作業を実施する際に発生するコストの性質により、製品保証の約 束の性質について証拠が得られる場合がある。