概要
3.2.3 一連の区別できる財またはサービス
新基準の規定
IFRS 15.22(b)
契約に、実質的に同一である一連の区別できる財またはサービスを引き渡す約束が含まれる場合がある。契約の開始時に、企業は契約に含まれる約束した財またはサービスを評価し、一連の財また はサービスが単一の履行義務であるか否かを判定する。単一の履行義務となるのは、一連の財また はサービスが以下の要件を両方とも満たす場合である。
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© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
IFRS 15.23
設例13 一連の区別できる財またはサービスを単一の履行義務として取り扱う場合
請負製造業者Xは、顧客Aの製品に含まれる顧客A仕様の小型装置を1,000個製造することで合意 した。X社は以下の理由から、この小型装置は一定の期間にわたり顧客Aに移転すると結論付けた。
-
X社はこの小型装置を他に転用できない。-
A社が自社都合で契約を解約する場合、A社は、小型装置の製品または仕掛品について、合理 的なマージンを含めてX社に支払う契約上の義務を負う。X社は、すでに当該小型装置の製造プロセスを整備しており、顧客Aから設計を提示されているた め、コストが学習曲線に沿って著しく逓減したり、設計及び開発のコストが生じたりすることは 予想していない。X社は、製造契約の完全な充足に向けての進捗度を測定するにあたり、A社が支 配する仕掛品及び完成品を考慮する方法を用いている。
X社は以下の理由から、1,000個の小型装置が個々に区別できると結論付けた。
-
A社は個々の小型装置を単独で使用できる。-
個々の小型装置は、互いに著しい影響を与えたり、大幅な修正やカスタマイズをしたりしな いため、別個に識別可能である。個々の小型装置は区別できるものであるが、X社は以下の理由から、当該小型装置は1,000個で単 一の履行義務となると結論付けた。
-
個々の小型装置は顧客に一定の期間にわたって移転する。-
X社は、A社に個々の小型装置を移転する義務の完全な充足に向けての進捗度の測定に、同一 の方法を用いている。財またはサービスがほぼ同一である
一連の個々に区別できる財またはサービスは、一定の期間にわたり充足される 履行義務である(
3.5.2
を参照)一連の個々に区別できる財またはサービスの充足に向けての進捗度の測定に、
同一の方法が用いられる(
3.5.3
を参照)単一の履行義務
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その結果、1,000個の小型装置すべての取引価格を、適切な進捗度に基づき一定の期間にわたっ て認識する。この会計結果は、個々の小型装置がそれぞれ独立した履行義務であり、それらに固 定価格を配分した場合の会計結果と相違する可能性がある。
設例14 長期のサービス契約においてサービス期間が区別できるケース
ケーブルテレビ企業Rは、顧客Mに月額10千円の固定料金で2年間にわたってケーブルテレビ・
サービスを提供する契約を締結した。サービスがMに提供されるにしたがって、Mはサービスを 消費し便益を享受するため(例:顧客は通常、R社のサービスにアクセスする日ごとに便益を享 受する)、R社はケーブルテレビ・サービスが一定の期間にわたって充足されると結論付けた。
Mはケーブルテレビ・サービスそれ単独で便益を享受し、サービスの個々の増分はその前後の サービスから区別して識別できるため(すなわち、1つのサービス期間は、別のサービス期間に 著しい影響を与えたり、大幅な修正やカスタマイズをしたりするものではない)、R社は個々の増 分(例:日数、月数)が区別できるものであると判定する。しかし、個々のサービスの増分が一 定の期間にわたり充足されること、また、ケーブルテレビ・サービスに係る収益認識においては、
契約期間を通じて進捗度を同一の方法で測定することから、R社は、Mとの契約は2年間のケーブ ルテレビ・サービスを提供する単一の履行義務であると結論付ける。
KPMGの見解
IFRS 15.BC113-114
一連の財またはサービスに関するガイダンスの免除規定は設けられていない
財またはサービスが、一連の財またはサービスに関するガイダンスの適用要件を満たす場合、そ の一連の財またはサービスを単一の履行義務として取り扱う(すなわち、一連の財またはサービ スに関するガイダンスの適用は任意ではない)。
一連の財またはサービスに関する会計処理により、収益認識モデルが簡略化される
両ボードは、一連の区別できる財またはサービスが実質的に同一である場合、特定の要件を満た せば、単一の履行義務として会計処理するとした。両ボードは、この規定により、一般的に収益 認識モデルの適用が簡略化され、反復的なサービスを提供する契約における履行義務が一貫して 識別できるようになると考えている。一連の財またはサービスに関するガイダンスがなければ、
例えば、企業は清掃サービス契約においてサービスを提供した時間または日数それぞれに対価を 配分することが必要となる。
両ボードは一連の財またはサービスの例として、トランザクション処理及び送電を挙げている。
ただし、一部のケースでは、一連の財またはサービスに関するガイダンスを適用することによ り、収益認識モデルの適用が複雑になる可能性がある。例えば、特定の業種(例:航空宇宙及び 防衛産業)で一般的な取引や一連の財またはサービスに関するガイダンスを適用する要件を満た す比較的少数の製品の製造を伴う取引の一部が、これに該当する。そのため、一部の利害関係者 は、一連の財またはサービスに関するガイダンスの適用を任意とするよう新基準を改訂するよう 要請した。両ボードはそれを却下し、このガイダンスが任意ではないことを引き続き示した。
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IFRS 15.BC115
ただし、このような契約が変更された場合には、企業は履行義務ではなく個々の財またはサービスについて検討する。これにより、契約変更の会計処理が簡略化される(セクション5を参照)。
一連の財またはサービスに関するガイダンスを適用する際にまず、企業の顧客への約束の性質を 判定する
一連の財またはサービスに関するガイダンスを適用するか否かを判定する際にまず、企業の約束 の性質を判定する。例えば、約束の本質が特定の量の財またはサービスを引き渡すことであれ ば、個々の財またはサービスが区別できるものであり、ほぼ同一であるか否かを検討して判定し なければならない。
対照的に、企業の約束の本質が、一定の期間にわたって単一のサービスを提供する、または提供 できるよう待機させることである(すなわち、引き渡される財またはサービスの量が特定されて いない)ならば、サービスのもととなる活動ではなく追加された個々の期間が区別できるもので あり、ほぼ同一であるかに焦点を当てて判定することになる可能性が高い。
区別できる財またはサービスを一連のものとして識別することにより、変動対価の配分に影響が 及ぶ可能性がある
1単位当たりの価格が固定であっても、一連の財またはサービスの量が特定されていない場合は、
変動対価が生じることになる(3.3を参照)。ただし、企業は変動対価を、独立販売価格に基づき、
一連の財またはサービスに含まれる個々の財またはサービス全体に配分することは要求されな い。かわりに、新基準の一般規定に従い、変動対価のすべてを単一の履行義務または単一の履行 義務を構成する区別できる財またはサービスに配分する(3.4を参照)。例えば、一連の財または サービスに含まれる財またはサービスと、契約に含まれる他のすべての履行義務が市場の相場に 基づいて価格付けされている場合は、これに該当する可能性がある。
財またはサービスが連続的に提供される必要はない
一連の財またはサービスに関するガイダンスを適用するのに、財の引渡しまたはサービスの実施 が契約期間にわたって連続的に行われる必要はない。引渡しや実施に間隔や重複があっても、一 連の財またはサービスに関するガイダンスを適用するか否かの判定に影響を及ぼさない。
両ボードは連続的に引渡しが行われる契約(例:反復的にサービスを提供する取決め)について 主に検討したが、連続的に提供されることを当該ガイダンスの適用要件としないこととした。