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返金不能のアップフロントフィー

IAS 39, IFRS 9

8.6 返金不能のアップフロントフィー

概要

契約によっては、契約開始時またはその直後に、返金不能のアップフロントフィーが支払われる ことがある(例:スポーツクラブの入会手数料、電気通信契約の加入手数料、供給契約の当初手 数料)。IFRS第15号には、これらのアップフロントフィーの認識時期の決定に関するガイダンス が含まれている。

新基準の規定

IFRS 15.B40, B48-51

企業は返金不能のアップフロントフィーが、約束した財またはサービスの顧客への移転に関連して

いるか否かを判定する。

多くの場合、返金不能のアップフロントフィーは、企業が契約の履行のために行わなければならな い活動に関連するものであるが、その活動は約束した財またはサービスを顧客に移転するものでは なく、管理作業である。履行義務の識別に関する詳細な説明については、3.2を参照。

その活動により約束した財またはサービスが顧客に移転しない場合、アップフロントフィーは将来 充足される履行義務についての前払いであり、それらの財またはサービスが将来提供された時点で 収益として認識する。

アップフロントフィーにより将来の財またはサービスに関する重要な権利が生じる場合、企業は移 転する財またはサービス(前払いに伴う重要な権利を含む)にアップフロントフィーのすべてを帰 属させる。

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© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

設例65 返金不能のアップフロントフィー-年次契約

ケーブルテレビ企業Cは、ケーブルテレビ放送を1年間提供する契約を顧客Aと締結した。C社は月額 10千円のサービス手数料に加え、1回限りのアップフロントフィー5千円の支払いを顧客に課す。C社 は、据付けサービスが、約束した財またはサービスをAに移転しない管理作業であると判定する。

1年経過時にAは、同日における月額料金で契約を月次ベースで更新するか、または同日における 年額料金でさらに1年の契約を締結することができる。いずれのケースでも、Aは更新時に他の手 数料は請求されない。類似の契約を顧客が継続する平均的な期間は3年である。

C社は、アップフロントフィーにより、Aがアップフロントフィーを回避するために所定の契約 期間を超えて契約を更新するインセンティブがもたらされているか否かを判定する際に、定性的 な要因と定量的な要因の両方を考慮する。契約を締結するか否かをAが決定する際にこのインセ ンティブが重要である場合、重要な権利が生じていると判定される。

まず、C社はアップフロントフィー5千円を取引価格の総額125千円(アップフロントフィー5千 円とサービス手数料120千円(10千円×12ヶ月))と比較する。C社は、返金不能のアップフロン トフィーが定量的に重要でないと結論付ける。

次に、C社はAが更新する定性的な理由を検討する。これには、提供されるサービスの全体的な品 質、競合他社が提供するサービスと関連する価格、サービス・プロバイダーを変更することによ りAが被る不利益(例:C社への機器の返還、新たなプロバイダーによる機器の設置のスケジュー リング)などがある。

C社は、更新時にアップフロントフィーを回避できることをAは考慮するが、それのみでは当該 サービスを更新するか否かのAの決定に影響を与えないと結論付ける。この結論は、C社の顧客

手数料は顧客に移転した 特定の財またはサービスに

関連するか?

約束した財またはサービス として会計処理する

将来移転する財またはサービス についての前払いとして

会計処理する

約束した財またはサービスが 移転された時点で配分した対価を

収益として認識する

財またはサービスの支配が将来移転 した時点(将来の契約期間が含まれる 場合がある)で収益として認識する

はい いいえ

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満足に関する調査から、顧客の契約期間の平均が3年である主な要因は、提供するサービスの品 質と競合他社の価格であるとのデータが示されていることに基づく。

C社は、5千円のアップフロントフィーが重要な権利を顧客に与えないと結論付ける。

その結果、当該アップフロントフィーは、契約された1年間のケーブルテレビのサービスについ ての前払いとして取り扱い、1年間の契約期間にわたり収益として認識する。これにより、1年間 の契約について月次の収益は10,400円(125千円÷12ヶ月)となる。

反対に、アップフロントフィーにより、重要な権利である顧客のオプションが契約に含まれると C社が判定する場合、アップフロントフィーを含む取引価格の総額を、1年間のケーブルテレビ のサービスと、契約更新に関する重要な権利とに配分する。重要な権利に配分される対価は、当 該権利が行使されたとき、または失効した時に収益として認識する(8.4を参照)。

設例66 返金不能のアップフロントフィーの配分

顧客Cは電話会社Tと12ヶ月のサービス契約を締結する。Cは月額5,000円に返金不能の初期化手 数料4,000円をT社に支払う。T社は初期化が、約束した財またはサービスを顧客に移転しない管 理作業であると判定する。

契約により、追加の1年間について月額5,000円で契約更新する権利がCに与えられる。

T社は、同クラスの顧客に請求する価格は翌年は月額5,600円に増加し、顧客の75%が更新する と見積る。

設例65と同じ理由でT社は、アップフロントフィーはそれのみでは顧客に重要な権利を与えない と結論付ける。ただし、更新時に予測される値引きが、Cに更新させるインセンティブとして十 分であり、契約を締結するとCが決定した1つの要因である可能性が高いため、T社は更新オプ ションが重要な権利であると結論付ける。したがって、この契約には、1年目のサービスと、契 約を値引価格で更新する重要な権利の2つの履行義務が存在する。

T社は取引価格64,000円(5,000円×12ヶ月+4,000円)をこれらの履行義務に、独立販売価格の 比率に基づき配分する(3.4を参照)。

T社は、当該サービスを購入する顧客は初期化手数料を支払うことが要求されるため、1年目の サービスの独立販売価格を64,000円と算定する。

T社は、重要な権利の独立販売価格を、予測される月次の値引きに、行使される可能性の見積り を掛けて見積る。したがって、独立販売価格は5,400円((5,600円-5,000円)×12)×75%)と 見積られる。

T社は取引価格を以下のように配分する。

独立販売価格(円) 配分比率 配分額(円)

サービス 64,000 92% 58,900

重要な権利 5,400 8% 5,100

69,400 100% 64,000

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1年目にT社は毎月4,900円(58,900円÷12)の収益を認識する。2年目にCが更新するオプション を行使する場合、T社は毎月5,400円((5,100円+5,000円×12)÷12)の収益を認識する。顧客 が契約を更新しない場合、T社は重要な権利に配分された5,100円をその権利の失効時(すなわ ち、1年目の末日)に収益として認識する。

T社は、契約に重大な金融要素が含まれていないかも検討する(3.3.2を参照)。

この設例では、契約に重大な金融要素が含まれていないとT社が判定したと仮定している。

KPMGの見解

アップフロントフィーを評価する際には定量的な指標と定性的な指標を考慮する

返金不能のアップフロントフィーは、企業の製品またはサービスの購入を継続するオプションを 行使するか否かに関する顧客の決定に影響を与える可能性が高いため、返金不能のアップフロン トフィーにより顧客に重要な権利が与えられるか否かを評価する際に、企業は定量的な要因と定 性的な要因を両方とも考慮する。これは、約束した財またはサービスを識別する際に顧客の妥当 な期待を考慮する概念と整合している。したがって、顧客の観点から「重要な権利」に何が含ま れるのかを検討する際には、定量的な要因と同様に定性的な要因も考慮する。

返金不能のアップフロントフィーが約束した財またはサービスの移転と関連するか否かの判定 多くのケースで、契約を履行するために契約開始時またはその前後に実施することが企業に要求 される活動に、返金不能のアップフロントフィーが関連するが、その活動により、約束した財ま たはサービスが顧客に移転しないことがある。

アップフロントフィーが約束した財またはサービスの移転に関連するか否かを判定する際に、企 業は以下を含む、関連する事実及び状況をすべて考慮する。

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アップフロントフィーと交換に財またはサービスが顧客に移転し、顧客は受け取った財また はサービスから便益を享受することができる。顧客が財またはサービスを受け取らない場合、

または企業から他の財またはサービスを取得しなければ、受け取った財またはサービスが顧 客にとってほとんどまたはまったく価値がない場合は、アップフロントフィーが将来の財ま たはサービスの前払いである可能性が高い。

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企業が前払いによりカバーされる初期の権利または活動について別個に価格を付け販売しな い場合、当該前払いは約束した財またはサービスの移転に関連しない可能性がある。

アップフロントフィーを配分することが必要となる場合がある

返金不能のアップフロントフィーが約束した財またはサービスと関連する場合であっても、その アップフロントフィーの金額は、約束した財またはサービスの相対的な独立販売価格と等しくな い可能性があるため、返金不能のアップフロントフィーの一部を他の履行義務に配分することが 必要となるケースがある。配分に関する詳細な説明については、3.4.2を参照。

返金不能のアップフロントフィーの繰延期間は、そのフィーが重要な権利を与えるか否かに依存する 返金不能のアップフロントフィーが、製品またはサービスを再注文するか否かの顧客の決定(例:

会員権やサービス契約の更新、追加の製品の注文)に影響を与える可能性が高いほど重要である 場合には、当該返金不能のアップフロントフィーは顧客に重要な権利を与えている可能性がある。