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IAS 2, IAS 36

5.1 契約変更の識別

新基準の規定

IFRS 15.18

契約変更とは、契約の範囲または価格(あるいはその両方)の変更である。実務においては、注文

変更、仕様変更あるいは修正と呼ばれる場合がある。契約変更が承認されると、契約の当事者の強 制可能な権利及び義務が新たに創出されるかまたは変更される。収益認識モデルのステップ1にお ける契約が存在するか否かの判定と同様に、この承認は書面、口頭での合意で行われる場合もあれ ば、事業慣行によって含意される場合もあり、また法的に強制可能でなければならない。

契約の当事者が契約変更を承認していない場合は、企業は契約変更が承認されるまで、新基準の規 定を既存の契約に引き続き適用する。

IFRS 15.19

契約の当事者が契約の範囲の変更については承認したが、それに対応する価格の変更についてはま

だ決定していない場合(すなわち、価格が未決定の注文変更)は、企業は、変動対価の見積り及び 取引価格の制限に関するガイダンスを適用することにより、取引価格の変更を見積る(3.3.1を参照)。

設例37 契約変更が承認されているか否かの評価

造船会社Sは実績のある造船業者である。その主要な得意先の1つがクルーズ会社Cであり、S社 はC社のためにこれまで11隻のクルーズ船を建造してきた。S社はC社のために12隻目のクルー ズ船を建造することに合意し、X1年1月1日に作業を開始した。

X3年1月1日においてC社は、新しい船の仕様を変更して客室を50部屋増やしたいとS社に通知し た。S社はこのリクエストに応えるため、3階層分のデッキについて設計し直し、追加の資材を調 達する必要があると判定した。S社とC社はこれらの変更について議論し、契約を変更する準備 を開始した。

契約変更について会計処理するか否かを決定するために、S社は、契約のもとで新たな強制可能 な権利及び義務が創出されるか、または既存の強制可能な権利及び義務が変更されるかを評価する。

この評価の際に、S社に以下の事実を考慮する。

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S社とC社は、リクエストされた設計変更及び建造のために必要な追加の資材、設計サービス または労働に関して契約変更または正式な変更注文を行っていないが、このような変更は通

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常発生するものである。

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設計変更による変更が過去のプロジェクトで発生したときには、追加コストが合理的である ことをS社が示せる場合は、C社はS社に増分コストにマージンを加えて補償していた。

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契約の範囲や価格の変更に関して正式な書面での合意がないにもかかわらず、S社は顧問弁 護士と相談した結果、同じ法域において類似の取決めに強制可能性が認められた判例がある と分かった。

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S社は過去11隻の造船契約を通じてC社との重大な実績を積み重ねていることから、C社がS 社に追加のコストを合理的なマージンとともに支払うという結論が裏付けられる。

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C社がこのケースにおいて増分について支払うことに合意し、また支払う能力があるとS社は 十分に予測している。

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関連する事実及び状況をすべて考慮し、強制可能な権利及び義務が確立しているとの結論を 裏付けるのに必要な文書をS社は有する。

したがって、S社はこの契約変更が承認されていると結論付ける。

反対に、事実及び状況が異なる場合、以下のような要因により契約変更が承認されていないとい う結論が導かれる可能性がある。

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同様の口頭による合意について、同じ法域における判例がないか、または価格が示されてい ない変更注文に強制可能性があるか否かについてS社の顧問弁護士が判定できない。

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これがS社にとってC社との初めてのプロジェクトであり、C社がS社に追加のコストを合理 的なマージンとともに支払うとの合意がこの当事者間にあるとの結論を裏付けるような、実 績やビジネス慣行がC社との間にない。

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正式な承認は通常、徹底的な交渉の後にのみ行われ、正式な承認前の契約範囲の変更につい て、増分コストや関連するマージンをC社が支払うのに前向きではない、または支払いを拒 否した過去の実績がある。

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契約変更時において、契約範囲の変更から生じる増分についてC社が支払う能力がある可能 性が高くない。

KPMGの見解

IAS 11.13-14

顧客との契約から生じるすべての収益に適用される

現行のIFRSにもU.S. GAAPにも、工事契約及び製造請負型契約が締結される業種のための契約変 更に関するガイダンスが含まれている。ただし、いずれの収益認識フレームワークにも、契約変 更の会計処理に関する一般的なガイダンスはない。

新基準においては、契約変更に関するガイダンスは顧客と締結されるすべての契約に適用される ため、工事契約や製造請負型契約以外の契約を締結している業種の企業にとって、また、工事契 約や製造請負型契約を締結している業種であっても変更の種類によっては、実務が変更される結 果となり得る。

一部の企業では、新たなガイダンスに従い契約変更を継続的に識別し、会計処理するために、新 たなプロセスを開発し、それらのプロセスに対する適切な内部統制を整備する必要がある。

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IFRS 15.13

IFRS 15.IE14-17

強制可能性に焦点を当てて判定する

契約変更が存在するか否かを判定する際には、契約変更に伴い新たに創出されるかまたは変更さ れる権利及び義務が強制可能か否かに焦点を当てる。この判定を行う際に、企業は契約条項や関 連する法規制を含む関連性のあるすべての事実及び状況を考慮する。法域によっては、また一部 の契約変更においては、特に、契約の当事者間で契約の範囲または価格に関して争いがある場合 に、判定に際して重要な判断が要求される場合がある。強制可能性に重大な不確実性がある場合 には、契約の当事者が契約変更を承認していることを結論付けるために、書面による承認や法律 の専門家による見解が必要な場合がある。

評価するための追加的な要件(回収可能性を含む)

契約変更に関する新基準のガイダンスでは、契約変更が承認されているか否かを企業が判定する 際に、対価の回収可能性の評価が必要かについて明確にされていない。ただし、契約変更に関す るガイダンスの目的、及び当該ガイダンスが契約変更により強制可能な権利及び義務が創出され るか否かに焦点を当てていることは、収益認識モデルのステップ1における契約の識別に関する ガイダンスと整合している(3.1を参照)。

多くのケースで、契約の変更が「事実及び状況の重大な変化」に該当し、そのため企業は、契約 が存在することについてのステップ1の要件を満たすか否かを再評価することが要求されること になる。契約の識別に関するガイダンスにおいては、契約が存在するか否かを判定する際に以下 の要件が用いられている。これらの要件は契約変更が存在するか否かの判定にも役立つ。

当事者が各自の義務を履行することを確約しているか否か、及び各自の契約上の権利を強制する 意図を有するか否か、を判定する際には、以下の事項を考慮する。

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顧客が契約変更に従って行動するかに関する不確実性に相応した契約条項及び条件が付され ているか

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過去に、類似する状況において行われた類似する契約変更において、顧客(または顧客層)

が義務を履行しなかった経験があるか

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過去に、類似する状況において、企業が類似する契約変更における自社の権利を顧客(また は顧客層)に対して強制しないことを選択したことがあるか

契約上のクレームの会計処理に関するガイダンスは含まれていない

現行のU.S. GAAP及びIFRSには、工事契約におけるクレームに関する収益認識についてのガイダ ンスが含まれている。クレームとは、施工者が顧客またはその他の当事者から回収することを要 求する、合意された契約価格を超過する金額(または当初の契約価格に含まれていない金額)を

財またはサービスに対する権利及び 支払い条件を識別できる 対価の回収可能性が高い(

probable

*

承認されており、

当事者が自身の義務を確約している 経済的実質がある

契約が存在する、

とは

*probable」という文言の意味がIFRSU.S. GAAPで異なるため、両者における閾値は異なることになる。