概要
3.3 ステップ3-取引価格の算定
3.3.2 重大な財務要素
新基準の規定
IFRS 15.60
契約に重大な財務要素が含まれる場合は、取引価格を見積る際に、企業は約束した対価の金額を調整する。
IFRS 15.61
この調整は、顧客が財またはサービスの支配を獲得した時点で支払うと仮定した場合に、支払われるであろう現金販売価格を反映した金額により、収益を認識することを目的とするものである。こ
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の際に適用する割引率は、契約開始時において、企業が当該顧客と別個のファイナンス取引を行っ たとした場合に適用されるであろう利率である。
財務要素が含まれるかどうか及びその財務要素が契約にとって重大であるか否かを評価する際に、
企業は、以下を含むすべての関連する事実及び状況を考慮する。
-
約束した対価の金額と約束した財またはサービスの現金販売価格との差額-
次の両時点の間がどの程度の長さとなるかにより生じる影響-
企業が約束した財またはサービスを顧客に移転する時点-
顧客がそれらの財またはサービスに対して支払いを行う時点-
関連性のある市場での実勢金利IFRS 15.62
以下の要因のいずれかが存在する場合には、契約は重大な財務要素を含まない。要因 例
企業は前払いを受け取っているが、財またはサービス の顧客への移転の時期は顧客の裁量で決まる
プリペイドのテレフォンカード、カス タマー・ロイヤルティ・ポイント 対価のうち相当な金額に変動性があり、その対価の金
額または時期に、顧客または企業の支配が及ばない
対価が販売に基づくロイヤルティであ る取引
約束した対価と約束した財またはサービスの現金販売 価格との差額が、ファイナンスの要素以外の理由から 生じている
相手先が契約上の義務を完了しないこ とに対する保障
IFRS 15.64
新基準では以下の事項が示されている。-
企業は、契約開始時においてファイナンスを受ける当事者の信用特性を反映する割引率を算定 しなければならない。-
当該割引率は通常、状況の変化に応じて見直してはならない。IFRS 15.63
契約開始時において、顧客が支払う時点と財またはサービスを移転する時点との間の期間が1年以内となると見込まれる場合には、重大な財務要素の影響について、対価の金額を調整することは要 求されない(実務上の便法)。
契約全体の期間が1年超である契約について、履行とその履行についての支払いの間の期間が1年以 内となる場合にこの便法が適用される。
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IFRS 15.65
財務要素は金利費用(顧客が前払いする場合)または金利収益(顧客が後払いする場合)として認識し、顧客との契約から生じる収益とは区別して表示する。
設例18 複数要素契約における貨幣の時間価値
製造企業Bは、150,000千円の前受金と引き換えに製品Xと製品Yを製造して引き渡す契約を顧客C と締結した。Xは2年以内に、Yは5年以内に引き渡される予定である。
B社は、契約を検討した結果、この契約には、製品がCに引き渡される時点で充足される2つの履行 義務が含まれると判定した。B社は150,000千円の前受金を、独立販売価格の比率に基づき、XとY にそれぞれ37.500千円と112,500千円で配分する。B社はこの契約に重大な財務要素が含まれてお り、契約開始時のB社の信用状況に基づき金利を6%とすることが妥当と結論付けた。B社はこの契 約を以下のように会計処理する。
契約開始時 150,000千円の前受金について契約負債を認識する。
1年目及び2年目 契約開始時から製品Xの移転までの2年間で、150,000千円を6%で1年目 と2年目について振り戻した、それぞれ9,000千円と9,540千円(a)の金利費 用を認識し、それらの累積額は18,540千円となる。
製品Xの移転について42,135千円(b)の収益を認識する。
3年目、4年目及び 5年目
3年目の開始日における契約負債126,405(c)千円について3年目、4年目及 び5年目についてそれぞれ7,584千円、8,039千円、8,522千円(d)の金利費用 を認識する。
製品Yの移転について150,550(e)千円の収益を認識する。
注:
(a) 150,000×0.06(1年目について)、159,000×0.06(2年目について)
(b) 37,500(製品Xへの当初の配分額)+4,635(契約の最初の2年間の製品Xの金利。37,500÷150,000×
18,540)
(c) 150,000(当初の契約負債)+18,540(2年間の金利)-42,135(Xの移転により認識を中止した金額)
(d) 126,405×0.06=7,584、(126,405+7,584)×0.06=8,039、(126,405+7,584+8,039)×0.06=8,522
(e)126,405(2年後の契約負債の残高)+24,145(3年間の金利)
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設例19 取決めに重大な財務要素が含まれるか否かの判定―前受金
IT企業Tは、3年間ホスティング・サービスを提供する解約不能の合意を顧客Cと締結した。Cは以 下のいずれかから支払方法を選択できる。
a. ひと月当たり140千円(合計支払額は5,040千円)
b. 契約期間の開始日に4,200千円を前払いし、その後は月次の支払いをしない この契約には、財務要素が含まれている。
選択肢aと選択肢bの価格の差から、T社に対する融資が、bの支払方法の主な目的であることが分 かる。月次の支払額140千円は月次のホスティング・サービスがCに提供された時点で期限が到来 する金額を反映するため、現金販売価格となる。aとbの2つの支払方法を比較すると、金利費用の 総額が840千円であり、黙示的な割引率が13%であることが分かる。
重要な財務要素が存在しないことを示す要件がこのケースに該当するか否かをT社は検討し、該当 しないと結論付ける。現金販売価格の総額5,040千円と融資を含む金額4,200千円の差額が840千円 であり、融資を含む金額のおよそ20%に該当するため、T社は財務要素が重要であると判定する。
したがって、顧客がbの支払方法を選択し、契約開始時に前払いする場合は、貨幣の時間価値を反 映させるための調整が必要となる。
T社は、黙示的な割引率13%が、信用格付けが自社と同等である企業の市場金利と整合しているか 否かを評価する。整合している場合、T社は、履行義務の充足に比例して契約期間にわたって5,040 千円の収益を認識し、実効金利法を用いて840千円の金利費用を認識する。各期間に認識する金利 費用の金額は、算定される契約負債の金額に基づき、サービスが提供されるに従い減少し、金利が 上昇すると増加する。
以下の表で、実効金利法のもとでの金利費用の算定方法の一例を示す。
(単位:千円)
期間 契約負債-月初
取引価格/サー ビスの引渡し
月次金利1.083%
(13%÷12)で
の金利費用 契約負債-月末
A B (A-B)×
1.083%=C
A-B+C
1 4,200 140 44 4,104 2 4,104 140 43 4,007 3 4,007 140 42 3,909 4 3,909 140 41 3,810 5 3,810 140 40 3,710
以下同様
36 140 140 0 0
上記の例で、黙示的な割引率13%が市場金利よりも高いと判定される場合、T社の信用度に基づき、
市場金利を反映するように取引価格を調整する。黙示的な割引率と市場金利との差異は、融資以外 の目的で顧客に付与された値引きを表象する。
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設例20 取決めに重大な財務要素が含まれるか否かの判定―後払い
製造企業Aは設備を2百万円で顧客Cに提供する契約を締結する。C社は新興企業で資金に余裕がな いため、A社は、2年間にわたる月々92千円の分割払いに合意した。
この契約には財務要素が含まれる。2百万円の販売価格と月次の支払額の総額2,208千円(24ヶ月
×92千)の差額により、この契約の支払条項がC社に融資を提供することを目的としていること が示される。現金販売価格は、設備がCに移転した時点で期限が到来する金額を反映する、2百万 円である。現金販売価格と受け取る予定の金額の合計を比較すると、金利費用の総額が208千円で あり、黙示的な金利が9.7%であることが分かる。
A社は重要な財務要素が存在しないことを示す要件がこのケースに該当するか否かを検討し、該当 しないと結論付ける。現金販売価格の総額2百万円と約束した対価の総額2,208千円の差額が208千 円であり、融資額のおよそ10%に該当するため、A社は財務要素が重要であると判定する。したがっ て、貨幣の時間価値を反映させるための調整が必要となる。
A社は、黙示的な金利9.7%が、信用格付けがC社と同等である企業の市場金利と整合しているか否 かを評価する。整合している場合、A社は、設備の引渡時に(すなわち、履行義務が充足されるに 従い)2百万円の収益を認識し、実効金利法を用いて金利収益を毎月認識する。各月の金利収益の 金額は、販売した設備に係る債権の残高に基づき、支払いが行われるに従って減少する。
以下の表で、実効金利法のもとでの金利費用の算定方法の一例を示す。
期間 債権-月初
月次の支払い
(月末)
月次金利0.81%
(9.7%÷12)で
の金利費用 債権-月末 A B A×0.81%=C A-B+C 1 2,000,000 92,000 16,143 1,924,143 2 1,924,143 92,000 15,531 1,847,674 3 1,847,674 92,000 14,913 1,770,587 4 1,770,587 92,000 14,291 1,692,878 5 1,692,878 92,000 13,664 1,614,542
以下同様
24
91,263 92,000
737
0 上記の例で、黙示的な金利9.7%が市場金利よりも低いと判定される場合、C社の信用度に基づき、
市場金利を反映するように取引価格を調整する。黙示的な金利と市場金利との差異は、融資以外の 目的で顧客に付与された値引きを表象する。