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概要

新基準においては、企業が返品権付きの販売を行った場合、変動対価及び収益認識累計額の制限 に関する収益認識モデルのステップ3のガイダンス(3.3を参照)を適用して、企業が権利を得る と見込んでいる金額で収益を認識する。また、企業は返金負債及び返品されると見込まれる財ま たはサービスに関する資産を認識する。

新基準の規定

IFRS 15.B20

顧客が以下のいずれかの権利を有する場合、企業は返品権付きの販売に関する会計ガイダンスを適

用する。

-

支払った対価の全額または一部の返金

-

企業に対して支払義務を負っているかまたは負う予定の金額に適用することができる値引き

-

別の製品への交換(白いセーターを赤いセーターと交換するような、同じ種類、品質、状態、及

び価格の別の製品と交換する場合を除く)

IFRS 15.B21-B22

返品を受け入れるため待機する義務は、履行義務として会計処理しない。

製品の返品に加えて、このガイダンスは返金の対象となるサービスの提供にも適用される。

IFRS 15.B26-B27

このガイダンスは、以下の取引には適用されない。

-

顧客がある製品を同じ種類、品質、状態、及び価格の別の製品と交換すること

-

欠陥のある製品を返品または交換すること(これらは製品保証に関するガイダンスに基づき評 価する)(8.2を参照)

IFRS 15.B21, B23, B25

企業が返品権付きの販売を行う場合は、以下のように当初認識する。

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© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

項目 測定

収益 取引価格の総額から、変動対価の見積り及び収益認識累計額の制限に関す るガイダンスを用いて算定した予測される返品水準について控除して測 定する

返金負債 予測される返品水準で測定する(すなわち、受け取った(または受け取る)

金額と上記により測定した収益との差額)

資産 返品されると見込まれる製品の帳簿価額から予測される回収コストを控 除して測定する

販売した財の原価 販売した製品の帳簿価額から上記により測定した資産の金額を控除して 測定する

棚卸資産の減額 顧客に移転した製品の帳簿価額で測定する

IFRS 15.B24-B25

企業は毎報告日に、返金金額についての予想の変更に基づき、返金負債及び資産の測定を見直す。

企業は調整額を以下のように認識する。

-

返金負債の調整を収益として認識

-

資産の調整を費用として認識

設例53 返品権付きの販売

小売業者Bは100個の製品を1個当たり100千円の価格で販売し、10,000千円の支払いを受け取る。

販売契約により、顧客は損傷のない製品を30日以内に返品し、現金で全額の返金を受けることが認 められている。1個当たりの製品の原価は60千円である。B社は3個の製品が返品され、その後の見 積りの変動により重大な収益の戻入れは生じないと予測している。

B社は、製品を回収するコストは重要ではなく、回収された製品は利益を上乗せして再販できると 予測している。

30日以内に、2個の製品が返品される。

B社は次のそれぞれの時点で以下の仕訳を行う。

-

3個の製品が返品されるという予測を反映させた製品の顧客への移転時

-

2個の製品の返品時

-

返品権の失効時

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(単位:千円)

借方 貸方 販売

現金 10,000

返金負債 300(a)

収益 9,700

返品されると予想される製品に関する収益を控除して販売を認識 する

資産 180(b)

売上原価 5,820

棚卸資産 6,000

売上原価及び顧客から製品を回収する権利を認識する 2個の製品の返品

返金負債 200(c)

現金 200(c)

返品に係る返金を認識する

棚卸資産 120(d)

資産 120(d)

返品された製品を棚卸資産として認識する 返品権の失効

返金負債 100

収益 100

返品権の失効時に収益を認識する

売上原価 60

資産 60

顧客から製品を回収する権利の失効時に売上原価を認識する 注:

(a) 100×3(返品されると見込まれる製品の価格)

(b) 60×3(返品されると見込まれる製品の原価)

(c) 100×2(返品された製品の価格)

(d)

60×2(返品された製品の原価)

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KPMGの見解

IAS 18.16, 17, IE2(b)

IFRS 15.55, B23-25

IFRS 15.55, B23-25

見積方法は変更されるが、最終的な結論は多くのケースで概ね類似する

現行のIFRS及びU.S. GAAPにおいては、企業は合理的に見積ることができる場合に、返品が予想 される製品について引当金を計上する。合理的に見積ることができない場合は、返品期間が終了 するか、または合理的に見積ることができるようになるまで、収益は認識されない。

予想される返品水準について収益を調整し、返金負債を認識する新基準のアプローチは、企業が 返品を合理的に見積ることができる場合は、現行のガイダンスと概ね類似している。ただし、収 益の見積りに関する詳細な方法論が相違する場合がある。新基準の方法論では、返品を見積る際 に、企業が権利を得る対価をより適切に予測できるかに基づき、期待値と最も可能性の高い結果 のいずれかを用いることが要求される。新基準では、予想される返品水準を見積った後、その見 積りを用いることにより、収益の重大な戻し入れが発生する可能性が非常に高くなるか否かの評 価、及び非常に高くなる場合は、制限すべき収益の金額を評価することが要求される。変動対価 及び収益認識累計額の制限に関する説明は3.3.1を参照。

新基準のもとでは収益がゼロにまで制限される可能性があるが、ほとんどの企業は、ゼロよりも 大きな金額で対価を認識するための十分な情報を有する可能性が高い。これは、認識した収益の 累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲で収益が認識され、認識が必ずしもゼ ロまで制限されないためである(現行のIFRSのもとでは、可能性に関係なく、合理的に見積るこ とができない場合には認識額がゼロまで制限される)。その結果、返品を合理的に見積ることが できない企業は、新基準のもとでは一部の収益の認識が前倒しされる可能性がある。

純額表示が認められなくなる

新基準においては、返金負債は、返金負債と回収する権利に係る資産との総額で表示する。した がって、現在、返品に係る引当金を純額で表示している企業では、実務が変更されることになる。

部分的な返金

返金負債の測定には、顧客に返金されると見込まれる金額を反映させる。したがって、返品権に より、顧客が製品の返品と引き換えに部分的な返金(例:販売価格の95%)を受け取ることが認 められる場合、返金負債(及び対応する取引価格の変更)を、取引価格のうち返金すると見込ま れる部分に基づき測定する。例えば、この金額は、返品されると見込まれる製品の数に、販売価 格の95%を掛けて算定する。

在庫補充手数料及び在庫補充コスト

企業は製品が返品される際に、顧客に在庫補充手数料を請求する場合がある。在庫補充手数料は 通常、返品に関連するコスト(例:輸送コストや再梱包コスト)や、企業が当該製品を別の顧客 に販売する際に企業が受け取る販売価格の減額を企業に補填することを目的とする。

在庫補充手数料が付された返品権は、部分的な返金での返品権と類似する。したがって、在庫補 充手数料は、支配が移転する時点で取引価格の見積額の一部に含まれる(すなわち、返金負債は 取引価格から在庫補充手数料を控除した金額に基づく)。

同様に、在庫補充に関連して企業に発生するコストの見積りは、製品の支配が移転した時点で返 品資産の測定に反映させる。これは、返品された製品を回収するコストの見積額を、それらの製 品を回収する権利について計上した資産の帳簿価額から減額することにより含めなければなら

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IFRS 15.55, B23, B70-75

ないとした新基準のガイダンスと整合する。

例えば、企業が20個の小型装置を1個当たり30千円で顧客に販売し、1個当たりの原価は15千円 とする。顧客は小型装置を返品する権利を有しているが、在庫補充手数料が10%請求される。企 業は返品された小型装置1個当たり2千円の在庫補充コストが発生すると見込んでいる。企業は 返品率を5%と見込んでいる。

小型装置の支配が顧客に移転する際に、企業は以下を認識する。

(単位:千円)

勘定科目 内容 金額 計算

収益 返品されない小型装置と在 庫補充手数料

573 (19(a)×30)+(1×3(b)

返金負債 返品されると見込まれる小 型装置から在庫補充手数料 を控除

27 (1×30)-3(b)

返品資産 返品されると見込まれる小 型装置の原価から在庫補充 コストを控除

13 (1×15)-2

注:

a. 返品されると見込まれない小型装置は、販売した小型装置20個から返品されると見込まれる1個

(20×5%)を控除して算定する。

b. 在庫補充手数料は30×10%で算定する。

条件付きの返品権

新基準では、条件付きの返品権と無条件の返品権とが区別されておらず、どちらも同様に会計処 理する。ただし、条件付きの返品権については、返品水準を見積る際に、返品の条件を満たす可 能性を考慮する。例えば、食品製造会社が、販売期限が過ぎた場合にのみ自社の製品の返品を受 け付けるとする。この食品製造会社は過去の経験に基づき、製品が販売期限を過ぎる可能性を評 価し、返品率を見積る。

返品の見積りの際に過去の経験から証拠が得られる場合がある

返品権が付された販売契約から受け取ることが見込まれる対価の金額を見積る際に、企業は見積 り及び判断を行う際に、類似の契約に関する過去の経験を考慮する場合がある。証拠を得るため に類似の取引のグループを用いることは、それのみではポートフォリオ・アプローチ(2.3及び 3.3.1.1を参照)の適用に該当しない。

企業が取引価格を期待値法を用いて見積ることを選択し、個々の契約の期待値を算定するのに データのポートフォリオを用いる場合、取引価格の見積金額は、個々の契約の可能性の高い結果 とならない場合がある(3.3.1.1を参照)。販売に返品権が付されていることは変動対価が含まれ ていることを示すため、企業は変動対価の見積りの制限も適用しなければならない。