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第 9 章 主要投資インセンティブ

3. FTA の進捗状況と産業へのインパクト

図表 21-14は、インドネシアの各国とのFTAの交渉および発効の進捗状況をまとめたも のである。2012年2月時点で、インドネシアは既に日本や中国等、主要国の多くとのFTA またはEPAが発効済みである。同国の批准が遅れていた豪州・ニュージーランドとのFTA が2012年1月に発効したほか、パキスタンとFTAの前身段階となるPTA(Preferential Trade Agreement)への署名が2012年2月初頭に完了した。ASEANとEUとのFTA交渉は2009 年以来暗礁に乗り上げたままだが、これに代わってインドネシアはEUと個別での FTA 交 渉を2011年に開始している。

ASEAN自由貿易協定(AFTA)を引き継いで発効したASEAN物品貿易協定(ATIGA)で は、2010年1月より一部の例外品目を除くほぼ全ての関税が撤廃されている。2010年、イ ンドネシアのASEANへの輸出は同国の輸出全体の21.1%、輸入は同28.7%である。構成比 では、2009 年(輸出の対 ASEAN割合:21.1%、同輸入:28.6%)からほぼ横這いであり、

2010年におけるASEAN域内の関税の完全撤廃効果を数字から判断することは難しい。2010 年以前に既に大部分の関税は撤廃もしくは削減済みであったことで、2010 年の関税撤廃に よる効果・影響は限定的であったと考えられる。

図表 21-14 インドネシアのFTA の進捗・発効状況

対象国・地域 協定・合意の名称 発効状況 2012年時点での

交渉進捗及び関税撤廃状況 ASEAN ASEAN Trade In Goods Agreements

(ATIGA) 米、砂糖などを除くほぼすべての物品に関して、ASEAN域内からの輸入関税

を撤廃済み

中国 ASEAN-China FTA (ACFTA) 中国からの通常品目(全輸入品目の約9割)の輸入関税が撤廃済み

韓国 ASEAN-Korea FTA (AKFTA) 韓国からの通常品目(全品目の9割以上)の輸入関税が撤廃済み

インド ASEAN-India FTA (AIFTA) 第1段階として、インドからの通常輸入品目(輸入品目の約4割)に対する輸

入関税を2013年末までに撤廃することを目指して段階的に関税を削減・撤廃

ニュージーランド豪州・ ASEAN-Australia-NewZealand FTA

(AANZFTA) 2012年1月10日発効

両国からの輸入品目の73%の輸入関税が撤廃済み

日本 ASEAN-Japan CEP (AJCEP) インドネシア側の批准が遅れ、2012年2月1日時点でまだ未発効

EU ASEAN-EU FTA 2007年に交渉開始したものの、2009年以来交渉を凍結中

日本 Indonesia-Japan EPA (IJEPA) 自動車関連製品及び部品、鉄鋼製品、電気・電子機器類などの多くで関税撤

廃済み

パキスタン Indonesia-Pakistan PTA 2012年2月に署名を完了、両国での批准が完了した30日後に発効予定 パキスタンからの216品目の輸入に対する関税を削減

EU Indonesia-EU FTA 2012年2月、交渉開始

ASEANベース

二国間ベース

(出所)ASEAN事務局資料および経済産業省資料等より作成

AFTA およびその後継のATIGAの影響としては、関税の削減・撤廃によるASEAN地域 内の拠点の統廃合と国別の相互補完体制の進展が挙げられる。

日本とのEPAの影響も主に自動車関連産業で見られる。日本とのEPAでは自動車や自動 車用鋼板、自動車用部品の関税撤廃が含まれており、発効した 2008 年には鉄鋼、自動車、

原動機、機械類の日本からのインドネシア向け輸出が前年比で3~5割増加した。足下は日 系自動車関連メーカーのインドネシア進出や生産拡大が進んでいるが、自動車市場が拡大 するインドネシアにおいては今後もEPAの活用余地は非常に大きいと考えられる。

中国との貿易額は FTA の発効以前から中国の発展に伴って伸びており、ASEAN・中国自 由貿易協定(ACFTA)による影響を統計上で見極めることは難しい。また、ACFTAについ ては、①自動車や二輪車、テレビ、鉄鋼など多くの工業品が例外品目やセンシティブ品目 に指定されていること、②主要貿易品目の一つであるIT関連製品はFTAに関係なくWTO の協定によって関税が撤廃済みであることなどから、実際の利用度はあまり高くないとの 指摘もある。しかし、通常品目に対する関税の撤廃が完了した2010年の対中国貿易額は前 年比で4割増加しており、2009年における金融危機の反動だけではなく、関税撤廃の効果 も貿易の増大に寄与したと推測される。今後のACFTAの影響については、センシティブ品 目に対する関税の削減・撤廃が進む2012年以降の貿易と産業動向を注視する必要があろう。

図表 21-15 インドネシアのFTA進捗状況

<ASEANとしての協定>

中国

FTA枠組み協定 一部品目除き2010年 関税撤廃済み

インド

日本

韓国

オーストラリア

ニュージーランド

2012年1月FTA発効

BIMSTEC

EU

2006年枠組協定署名 2018年1月1日より 関税撤廃予定 インドネシア以外の 9ヶ国とAJCEP発効

(2010年6月)

2004年枠組協定締結 FTA交渉継続中

FTA交渉中断中 2010年1月にAIFTA発効

タイ

インドネシア

マレーシア

フィリピン

シンガポール ブルネイ

2010年1月1日付けで関税撤廃 AFTAに代わる協定

2015年までに関税撤廃予定

カンボジア ラオス ミャンマー ベトナム

<ATIGA(ASEAN物品貿易協定)>

インド

2005年 CECAのための 共同研究会 設立に関する 覚書署名

日本

2008年EPA発効

2012年 特恵貿易協定締結

<インドネシアとしての協定>

パキスタン イスラム 開発協力 会議(D8)

2006年 特恵貿易協定署名

EU

2012年2月 交渉開始

(出所)JETRO資料より作成

第22章 最近のトピックス

この章では、最近のトピックスとして、①賃上げ要求の大規模デモ、②日本企業の進出 ラッシュ、③法人税一時免除制度の制定、を採り上げる。

1.賃上げをめぐる大規模デモの発生

(1) 背景

インドネシア、特にジャカルタ周辺地域の最低賃金水準は近年急速に上昇しており、日 系企業だけではなくインドネシアの経営者協会(APINDO)も労組側の過大な賃上げ要求に 不満を示している。ジャカルタの東隣、日系工業団地も多く立地するブカシ(Bekasi)県で は、2012 年の最低賃金決定に際し、地方政府、APINDO、労組の三者協議が難航した。労 組側は2012年1月27日、周辺地域で数万人を動員した大規模デモを決行。その様子は日 本でも大きく報道されている。

図表 22-1 大規模デモの発生地域と周辺の工業団地分布

ジャカルタ スカルノ・ハッタ空港

ブカシ

カラワン 工業団地集積地域

チカンペック高速道路 チカラン 10 km

(出所)測量地図庁資料より作成

(2) 経過と結果

2012年1月27日のデモでは、バイクの隊列が各工業団地を回り、高速道路を封鎖するな どしたため、団地内の企業の多くは同日の操業を取りやめた。

この事態を受け、ハッタ・ラジャサ経済担当調整相が労使の仲介に乗り出し、同日夕方 にジャカルタの同調整相執務室に労使関係者を集めて協議を行い、経営者側が労組側の要 求をほぼ呑むことになった。協議で合意された内容は、①ブカシ県の最低賃金を149.1万ル ピアとする(デモ前の決定では149万1,866ルピア)②繊維などのセクターでは171.5万ル ピアとする(同171万5,646ルピア)③電機、自動車等のセクターでは184.9万ルピアとす る(同184万9,914ルピア)、である。

これらの2012年最低賃金の引き上げ率は、2011年のインフレ率3.8%を大幅に上回る、

前年比 16~31%の水準となっている。この合意を受けて大規模デモは終息し、ほとんどの 企業は翌営業日から正常な操業を再開した。

(3) 賃上げと労働問題による現地企業および周辺地域への影響

今回の賃上げについて、現地の日系企業関係者は、労務費の大幅な上昇で収益が圧迫さ れることを懸念している。これは一方で、インドネシア市場での他社との競争が厳しくな っており、労務費の上昇を製品への価格に転嫁できないことを示唆している。

今回大規模デモの標的となった工業団地の集積地帯を除けば、同じブカシ県内でもデモ は比較的小規模に留まり、深刻な混乱はなかった模様である。隣県のカラワン県の工業団 地でも、特にデモの発生は報告されていない。労組は地域によってその過激さにも差があ り、ブカシ県は比較的労働問題が多いとされている。