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第 9 章 主要投資インセンティブ

2. 投資にあたっての留意点

(1) 労働問題と急激な賃金上昇

インドネシアに進出する企業の直面する問題の 1 つが労働問題である。インドネシアの 労働法は、労働者の地位・権利の保護に重きが置かれている。解雇手続きが非常に複雑で 困難な上に、解雇に際しては多額の退職金および補償金を支払わなければならない。また、

労組による大規模デモで工業団地が閉鎖され、操業不能になる事態も発生している。

もう 1 つの大きな問題が、賃金の急激な上昇である。インドネシアでは毎年地方自治体 ごとに最低賃金が決定されるが、ジャカルタの最低賃金の例では 2010年から 2011年には 15%、2012年には前年比18%上昇した。ジャカルタ周辺の自治体では、産業によっては2012 年の最低賃金が前年比 3 割程度上昇した例もある。経営者側は裁判所に賃上げの無効を訴 えたものの、労組の大規模デモによって上記賃金水準での妥協を余儀なくされた。

このような状況から、労働集約型で低賃金の労働力を前提とする産業にとっては、イン ドネシア、特にジャカルタ等の大都市周辺は必ずしも適しているとは言えなくなっている。

ジャカルタ西部の工業団地では韓国系等の多くの企業が生産拠点の国外移設を検討してい るという報道もある。

図表 20-1 日系企業の主な進出先での月額最低賃金(ルピア)の近年の推移 年 ジャカルタ州 西ジャワ州

ブカシ県 バタム市 2010 1,118,009 1,168,974 1,110,000 2011 1,290,000 1,286,421 1,180,000 2012 1,529,000 1,491,000 1,310,000

(出所)インドネシア経営者協会(APINDO)資料等より作成

(2) 法務・税務処理の難しさ

インドネシアでは通貨危機以降、民主化の進展とともに税法をはじめとした各種法制度 の整備が進められてきた。しかし、日本企業にとっては、言葉の壁のほか法律自体の曖昧 さ、政府機関の動きの遅さもあり、法律の解釈や適用をめぐって生じる法務処理、あるい は税務処理に関連した当局との行き違いが非常に大きな問題となっている。

インドネシアにおける外資系企業は、投資法、労働法、各種税法およびそれらの細則と なる政令や各種の大臣令等に従って事業を行う。進出済みの日系企業関係者によると、こ の法令等の記載が曖昧であることが多く、解釈や適用方法が担当者により異なっているな ど、運用方針が不統一であるために戸惑うことが多いという。特に近年は、移転価格税制 の問題で巨額の追徴を受けた日系企業も存在し、税務裁判にまで訴える例も増えているよ うである。税務に関しては過払い税の還付や税務調査対応での困難を訴える声も多い。

企業側の対応策としては、弁護士や税理士等と相談するほか、ジャカルタ・ジャパン・

クラブ(JJC)や在インドネシア日本大使館を通じてインドネシア政府に対応を要請すると いう手段がある。

(3) インフラの不足

2000 年代以降の急速な経済成長に伴う二輪車および自動車の普及、大都市周辺への産業 の集積により、特にジャカルタ周辺では交通渋滞が大きな問題となっている。都市部を含 め、上下水道、道路、電力、港湾、通信等のインフラは経済規模に比して貧弱であり、慢 性的に物流の停滞やエネルギー不足が発生している。このため、インドネシア政府は、日 本等の諸外国から経済援助や民間資本の参入も得て、全土における道路、電力、通信、港 湾、空港等のインフラ整備に積極的に取り組もうとしている。ジャカルタの都市高速鉄道 計画(2016年完成予定)、第1次および第2次緊急電源開発計画(それぞれ2011、2014年 に完工予定だったが後ろ倒しが決定済み)、ジャカルタ東部地域への新空港および新港湾の 建設計画(時期未定)、などが代表的な例である。しかし、緊急電源開発計画のように計画 が大幅に遅れる例も多く、現状のようなインフラの逼迫状態が続けば、今後の投資動向へ の影響が危惧される。

(4) 高度人材の確保難

インドネシアでは、高度人材の確保の難しさを訴える企業が多い。2003年の労働・移住省 の調査結果では、大学卒の人材は労働力人口の3%弱にとどまっており、その獲得の難しさ が推察される。高度なエンジニアの募集では有名大学等に公募を出す企業もあるほか、人 材紹介会社の利用や、他社からの人材引き抜きが行われている。

また、幹部級の人材の場合には、一定の賃金水準ができあがっており、同等の能力であ れば企業規模に拘らず同水準の賃金を支払うこととなる。地方であれば、優秀な人材の確 保はさらに難しいことから、都市部よりも高額となる場合が多い。

インドネシア政府は、ユドヨノ政権の下で作成された中期開発計画の中で教育への注力 も一つの柱として打ち出しており、その一環として大学への進学率を 2009 年の 18%から 2014年には25%まで向上させることを目標としている。近年の所得水準の上昇に伴って国 民全般の教育熱も高まっており、長期的には大卒人材の不足は徐々に改善すると思われる ものの、高度人材不足問題への直近の有効な対策は難しいのが実情である。

(5) 言葉および宗教の問題

インドネシアの公用語はインドネシア語であり、日常で英語が使用されることは非常に 少ない。インドネシア語は、アルファベットで表記される上に発音も日本語に近い。その ため、タイ語やベトナム語など他の東南アジア諸国の言語に比較して日本人にとっては取 り組みやすい。しかし、現地語での意思疎通が難しいことは否めない。一部企業では社内 スタッフには英語と日本語を教育している例もあるが、従業員との円滑な意思疎通だけで なく現地社会への浸透のためにも、必要最低限のインドネシア語は勉強するのが良いとい う意見が多い。

インドネシア人の約 9 割を占めるのはイスラム教徒であり、従業員も大多数がイスラム 教徒になると思ってよい。インドネシアのイスラム教は、解釈が柔軟で従業員との間で宗 教が原因の摩擦が起こったという例はあまり聞かない。ただし、企業は従業員に対して礼 拝の場所と時間を与える事が法律で義務付けられているなど、宗教の違いからくる習慣や 考え方の違いには留意が必要である。

(6) 日系社会と駐在生活

2011年10月現在の在留日本人数は約1.2万人、進出企業数は2010年時点でのJETROの 統計によれば1,007社である。その多くがジャカルタ周辺に進出しており、ジャカルタの日 本人会であるジャカルタ・ジャパン・クラブには、2012年1月末時点で478社が加盟して いる。ジャカルタ以外では、シンガポール対岸のバタム島や、ジャワ東部のスラバヤ周辺 に進出する例が多い。

ジャカルタに関しては、スーパーマーケットやコンビニエンスストアも多く、食料品等 の生活必需品の入手にはほとんど問題はない。日本と同じ稲作文化圏であり、中国やイン ドの影響もあり食生活面での大きな違和感はない。日本食および日本風レストランも多数 出店しており、日本人が日常生活で特に困ることはあまり無いようである。治安に関して は、日本に比べると不安が伴うものの重犯罪は多くなく、外出時間帯やカバンの持ち方等、

一般的な海外生活の注意事項を守れば大きな問題はないとされる。

駐在員にとっては家族、特に子供の帯同の可否が関心事であるが、教育環境面で言えば ジャカルタの日本人学校には小・中学部のほか幼稚部も併設されている。このほか、スラ バヤとバンドンにも小・中学部を持つ日本人学校があり、中学校までの子弟は帯同できる。

しかし、上記以外の都市には日本人学校が存在せず、現地学校に入学させない限りは、事 実上帯同を断念せざるを得ないのが実情である。