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第 9 章 主要投資インセンティブ

3. 資本市場

インドネシアの資本市場の設立は古く、1912年に同国最初の証券取引所(The Batavia Stock Exchange)がThe Dutch East Indiesによって設立された。第一次世界大戦の影響で閉鎖され、

同戦争終了後に一時再開されるが、第二次世界大戦によって再び閉鎖された。

第二次世界大戦後、1952 年に再び証券取引所が復活するが、当時はインドネシア国債の みの売買に留まっていた。一方で株式の売買は活性化せず、1988年時点でも上場企業は24 社に留まっていた。

1988 年に、銀行部門や資本市場の規制緩和が進み、外国人投資家を引きつけることで上 場企業数も1989年末には56社、翌90年末には122社へと増加に転じた。上場企業数が増 加する中、国内の証券取引所の統合が進み、1995年にはIndonesia Parael Bourseがスラバヤ 証券取引所に合併され、そのスラバヤ証券取引所も2007年にはジャカルタ証券取引所に合 併され、合併後の取引所名はインドネシア証券取引所に改められた。

(1) 株式市場

インドネシア証券取引所には株式、債券、株価指数先物、オプションなどが上場取引さ れている。上場会社に民営化した国営企業が多いことや、時価総額や取引において上位銘 柄への集中度が高い点が市場の特徴となっている。

従来、インドネシアでは少数のファミリーによる上場企業株式の所有の集中度が高いた め、ガバナンス面での透明性が低く、ディスクロージャーや少数株主保護が不十分である との指摘が海外投資家等からあった。このため、監督官庁BAPEPAM-LK(インドネシア資 本市場および金融機関監督庁)やインドネシア証券取引所は、これらを最優先の課題とし て取り組んでいる。

2012 年 1 月末日時点、インドネシア証券取引所に上場している 442 銘柄の時価総額は

3,459兆ルピア。この内で最大の時価総額となっているのが自動車小売業のアストラ・イン

ターナショナル社である。時価総額は319兆ルピアと、市場全体の1割弱を占めている。

同社を除けば、上場企業の時価総額上位は銀行業、建設業、エネルギー業の企業が多い。

国営銀行の上位 3 行が時価総額の上位10 社に含まれている(バンク・マンディリ:時価総 額4位、バンク・ラヤット・インドネシア:同3位、バンク・ネガラ・インドネシア:同10位)。

また、建設投資が盛んなことから、セメン・グレシック(同11位)、インドセメント・ト ゥンガル・ブラカルサ(同 12 位)の建設企業が、石炭・ガスの埋蔵量が多いこともあり、

石炭企業5社、ガス企業1社が上位20社に入っている。

図表 16-7 時価総額ランキング

時価総額

(兆ルピア) (累積)

1 アストラ・インターナショナル 自動車小売 319 9.2% 9.2%

2 バンク・セントラル・アジア 銀行 197 5.7% 14.9%

3 バンク・ラヤット・インドネシア 銀行 169 4.9% 19.8%

4 バンク・マンディリ 銀行 156 4.5% 24.3%

5 ユニリーバ・インドネシア 家庭用品 150 4.3% 28.7%

6 テレコムニカシ・インドネシア 通信 138 4.0% 32.7%

7 グダン・ガラム タバコ 110 3.2% 35.8%

8 ユナイテッド・トラクターズ 機械 106 3.1% 38.9%

9 ペルサハーン・ガス・ネガラ ガス 82 2.4% 41.3%

10 バンク・ネガラ・インドネシア(ペルセロ) 銀行 68 2.0% 43.2%

11 セメン・グレシック (ペルセロ) 建設 67 1.9% 45.1%

12 インドセメント・トゥンガル・ブラカルサ 建設 62 1.8% 47.0%

13 バヤン・リソース・グループ 石炭 59 1.7% 48.7%

14 アダロ・エナジー 石炭 59 1.7% 50.4%

15 ブミ・リソーシズ 石炭 53 1.5% 51.9%

16 タンバン・バツバラ・ブキット・アサム 石炭 46 1.3% 53.2%

17 バンク・ダナモン 銀行 43 1.3% 54.5%

18 インドフード・サクセス・マクムール 食品 42 1.2% 55.7%

19 インド・タムバンガラヤ・メガウ 石炭 41 1.2% 56.9%

20 チャルーン・ポーカパン・インドネシア 家畜飼料 41 1.2% 58.1%

合計(442銘柄) 3,459 100.0% 100.0%

産業分類 構成比

会社名

(注1 2012131日時点

(注2 産業分類はBloomberg分類を参考に作成

(出所)Bloomberg資料より作成

株式市場の値動きを表す指標として、ジャカルタ総合指数とジャカルタLQ-45種がある。

前者はジャカルタ証券取引所に上場する全銘柄から構成される時価総額加重平均指数で、

1982年8月10日を基準日とし、その日の時価総額を100として算出される。後者は同取引 所で最も活発に取引される 45銘柄から成る時価総額加重平均指数である。1994年7月13 日を基準日とし、その日の時価総額を 100 として算出されている。株式市場全体の値動き をみるには、ジャカルタ総合指数の方が適している。

ジャカルタ指数の1990年以降の推移をみると、2003年までは500ポイントを挟んだ推移 に留まっていたが、2003年からは世界的な株高を反映して指数も上昇に転じた。2008年1 月には一時2,838.48ポイントと、2003年1月の終値(388.44ポイント)に比べて5年間で 指数は約7倍となった。

その後、リーマン・ショックの影響を受けてジャカルタ総合指数も大幅に下落。2008 年 10月には一時1,089.34ポイントまで低下した。

しかし、①他のASEAN諸国に比べてリーマン・ショックの影響が限定的だったこと、②

内需主導の安定成長の期待が高いこと、③格付け会社による「投資適格」への格上げで資 金流入を促していること等から、株価指数は上昇を続けている。2011年12月末の株価指数

は3,821.99ポイントと、既にリーマン・ショック前の高値を35%上回っている。

図表 16-8 株価指数(ジャカルタ総合指数)の推移

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

(暦年)

(ポイント)

(注) 1982810日を基準日とし、その日の時価総額を 100 として算出

(出所)Bloomberg資料より作成

(2) 債券市場

インドネシアの債券市場は、2005 年を境に年々拡大している。債券の発行残高は、2005 年末の463兆ルピアから2011年には866兆ルピアと、年率11%のペースで伸びている。

債券の多くを占めるのがインドネシア国債である。インドネシア政府は、2002 年の国債法 制定後、国債を定期的に発行している。2006年からは個人向け国債を、2008年にはシャリ ア(イスラム法)国債を発行した。2011年末の国債発行残高724兆ルピアの内、国債(短 期政府証券を除く)が 655兆ルピア、政府短期証券が30兆ルピア、シャリア国債が39兆 ルピアをそれぞれ占めている。

社債の2011年末の発行残高は142兆ルピア。ルピア建て国債の約20%の規模だが、2001 年末には5%前後だったことを考えると、社債規模の拡大ペースは早い。

図表 16-9 債券残高の推移

435 419 403 402 400 419 478 526 582 641

724

46 63 63 68

85 73

88

115 142

21 21

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

(年末)

(兆ルピア)

ルピア建て国債 社債

(出所)Bank IndonesiaCapital Market SupervisoryCMS)資料より作成

(3) イスラム金融

①イスラム金融とは

イスラム教の教義(イスラム法=シャリーア)にのっとった金融取引は、総称してイス ラム金融と呼ばれる。イスラム金融は、中東産油諸国を中心とした①原油高による石油収 入の増大、②石油精製設備やインフラ建設などの新規プロジェクトへの投資資金需要の拡 大、③9.11米国同時多発テロ事件以降の産油諸国本国への投資資金還流、④イスラム諸国に おけるイスラム金融の制度確立・普及、⑤イスラム金融の国際的な金融サービス基準との 整合性向上などを背景に近年急速に拡大している。

イスラム金融の特徴としては、①金融取引に当たって利子の受取・支払が含まれないこ と、②取引相手などの当事者がイスラム教の教義に反する事業(賭博、武器、アルコール、

豚肉など)に関わっていないことなど、取引がイスラム教の教義にかなったものとなって いることが挙げられる。イスラム教の教義にかなうか否かについては、イスラム金融サー ビスを提供する各金融機関に設置されているイスラム学者委員会(シャリーア・ボード)

から事前に認定を受けることとなっている。

イスラム金融機関が提供する金融商品は、一般の預金、保険、ローン、リース、貿易・

プロジェクト金融、債券、投資ファンドに相当するものなど多岐にわたっている。利子の 受取・支払に代わるものとして、出資金の運用利益が預金者や投資家などの出資者に配当 として還元されたり、物品調達の対価として手数料などが金融機関に支払われたりする。

<コンベンショナル金融とイスラム金融の主な違い>

コンベンショナル金融(注) イスラム金融

・ 利息が支払われる

・ 取引対象は金銭や証書

・ 予め約定された元本と利息が支払金

・ 金融機関は商取引には直接関与しな い

・ 利益または賃料が支払われる

・ 取引対象は実物資産

・ 資金や実物資産から実際に発生 した利益が支払金

・ 金融機関は商取引に直接参加す る

(注) イスラム金融と対比した、一般的な金融の呼び方

(出所)イスラム金融検討会編著『イスラム金融』(日本経済新聞社、2008年)

②イスラム金融の仕組み

イスラム金融の代表的な取引形態として、(a)ムラーバハ、(b)ムラーバハ・スクーク、

(c)ムダーラバ、(d)ムシャーラカについて、以下で説明する。

(a)ムラーバハ

ムラーバハとは、資金提供者(イスラム金融機関)が財需要者(顧客)の代理で商品を 購入し、マージンを上乗せして転売する購買代行契約を指す。

単純なムラーバハの場合、買手が購入したい商品・設備などの財を、イスラム金融機関 がその売手からいったん購入して所有権を得た後、コストを上乗せして、買手に転売する。

買手は支払猶予期間や分割払いなどの支払条件に基づき、銀行が売手から財を購入した価 格に上乗せして全代金を支払う。特定の財を対象とした資金調達方法として、幅広く一般 的に用いられる取引概念である。

図表 16-10 ムラーバハの仕組み

商品の売手

①仕入代金支払 商品 商品

②支払(仕入代金+α)

商品の買手 イスラム金融機関

(出所)経済産業省「通商白書2007

(b)ムラーバハ・スクーク

ムラーバハ方式を証券化した資金調達スキームとして、ムラーバハ・スクークがある。

スクークとはイスラミック・ボンド(イスラム債)と訳されることが多く、イスラム金融 資本市場における代表的な商品である。

スクークには、投資や財の取引を伴い、そこからの収益が一般の債券のクーポンに相当 するものとして当てられる。スクークは売買契約に伴う支払手段や投資事業の資金調達の 手段として使用されている。スクーク保有者は、単なる担保資産の保有者ではなく、原契 約の当事者としての権利を有する。銀行による購入代金と銀行から最終購入者への売却代 金の差額が、スクークの配当原資となる。配当は毎期行われ、満期時には額面相当額が償 還金として返還される。

図表 16-11 ムラーバハ・スクークの仕組み

住宅供給公社 イスラム金融機関

③住宅購入代金

スクーク保有者

住宅購入者

①スクーク発行 ②スクーク購入

④所有権 ⑧配当

⑥所有権 ⑤ムラーバハ契約 ⑦代金割賦支払

(出所)経済産業省「通商白書2007