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1.4 事業者動向

1.4.1 EC(物販)

以降では、物販を中心としたBtoC-ECを展開している事業者について、2009年 の取り組みを紹介する。

BtoC-EC の大手事業者は、近年、取扱商品、サービスの幅を更に拡大するとと

もに、地方などネット販売の拡大余地が大きい市場への浸透策を継続的に実施して いる。

楽天が運営する楽天市場の2009年度売上高は約397億円に達しており、対前年

比29%増となった。また、楽天市場・楽天ブックスを合わせた流通総額は、8,002

億8,000万円となり、対前年比20.6%増と、項調に拡大している21。前年と比較し

て、1回当たりの購入金額は減尐しているが、ユニーク購入者数(当該四半期間に 楽天市場で商品を購入したユーザーをメールアドレスで名寄せした人数)の拡大が それを補う形となった。

同社は積極的に扱う商品、サービスの幅を広げており、出前や宅配の注文サービ ス「楽天デリバリー」で、日の丸リムジンと提携し、タクシーの配車依頼が可能な サービス(東京23 区中心)の提供を開始した。日の丸リムジンとのシステム連携 などより、配車前に混雑状況に応じた待ち時間を把握する機能や、送迎依頼時間を 細かく指定することも可能となる。

21 楽天株式会社 2009年度決算資料

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また、地方経済の活性化を狙い、今年も引き続き、「まち楽」サイトにて、47都 道府県の「まち」単位に、各エリアの魅力や、楽天市場取扱いの特産品を紹介して いる。「ニッポンを元気にしよう」という「まち楽」のコンセプトに賛同する自治 体とタイアップし、共同の出店相談会や、地域密着型プロモーションを展開してい る。協力する自治体は、着実に増加しており、2009 年11 月時点で、44 道府県 8 市1町計53自治体となっている。

更に、2009年11月、同社は電子マネーの草分け的な存在であるビットワレット と資本提携基本合意書を締結したことをプレスリリースした。今後は、楽天グルー プの顧客基盤、各種ノウハウを利用して、マーケティングにおけるノウハウを活用 し、楽天サービスとの連携を深めることで、Edyユーザーを拡大していくと考えら れる。

従来、既存販路(店舗など)との住み分けの問題もあり、ネット販売に対して様 子見の状態であった、アパレルメーカーや、GMS、スーパーなども、ネット販売 に積極的な動きをみせている。店舗とネットの相乗効果を狙う、マルチチャネル展 開の一貫として展開する事業者も多く見受けられる。

子供服製造・販売のナルミヤは、2007 年よりネット販売強化に乗り出した。同 社の主力チャネルは百貨店であるが、これに並ぶ新たな主力チャネルの一つとして、

ネット販売を位置付けている。

ネット上で販売されている商品点数は、ドレスなどの一部商品を除いて、同社が 百貨店などの店舗で販売している商品とほぼ同じである。このことからもネット販 売が店舗と同列のチャネルと位置付けられていることが伺える。

同社のネット販売における販売額は、2009年1月期で2億200万円であったが、

その後、2010年1月期は6億2千万円(全体販売額の約4%程度)と前年通年の 販売額を超えており、急激に拡大しつつある。当面は、ネット販売額の総販売額に 占める割合を、10%程度にまで高めることが目標であるという。

急激なネット販売額拡大の1つの要因として、もともと同社の商品である子供服 がネットでの販売に適した商品である点があげられる。子供服は、子供の成長に伴 い、1年程度で着られなくなることもあり、サイズ、見た目が気に入れば実物を確 認することなく購入する利用者が多いという。

同社の EC サイトには、自社サイトのナルミヤオンラインに加え、楽天市場、

Yahoo!ショッピングへの出店サイトがある。いずれも、PC、モバイル双方で利用 可能である。また、モバイルについては、au ショッピングモールへも出店してい る。このように様々なモールにも出店している同社であるが、売上からみても、同 社のネット販売の中心は、ナルミヤオンラインのPCサイトであるという。

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同社のECサイト利用者層は、店舗の利用者層と同じく、主として子供を持つ主 婦である。ただ、近年、インターネットの高齢者層への浸透に伴い、高齢者の利用 も拡大している。これにはサイト上で提供している、孫から祖父母に「おねだりメ ール」を送信可能な機能も一役買っていると想定される。

総じて、現在、アパレル業界ではECは必須の販売チャネルとなりつつある。ユ ーザーフレンドリーなサイト構成や、商品をリアルに見せる仕組み、配送リードタ イムが必須の競争要因となっている。配送リードタイムについては、配送業者との キャンペーン情報などの電子データ交換や、配送効率改善に向けた物流業者との共 同検討会の定期的な開催などで、改善に注力しているという。

アパレルメーカー大手オンワード樫山は、主力販路である百貨店との相乗効果の ある新しい販路を開拓すべく、直営ECサイト「オンワードクローゼット」を2009 年12 月に開設した。同社は本サイトを「バーチャルフラッグシップショップ」と して位置づけており、2010年度10億円、3年後には30億円の販売額を目標とし ている。

サイト上での販売商品は、「23 区」「組曲」「ICB」「自由区」の 4 大ブランドに 加え、若年層をターゲットとした「フェアステ」「エニィスィス」「フェルウ」「ロ ーズブリット」など、多岐に渡る。また、今後は将来的には、メンズウェアや子供 服、スポーツウェアなどの販売も予定している。

EC サイトの開設・運営には、EC モール「ZOZOTOWN」などを運営するスタ ートトゥデイが提供する「ECサイト構築支援サービス」を活用した。このため、

ECサイトの企画からリリースまでを短期間で実現することができ、サービス開始 後も、同社は本来の強みであるマーチャンダイジングに注力することが可能となっ たという。

従来の百貨店チャネルとの相乗効果を得るべく、同社はECサイトが電子的な「商 品カタログ」としても活用されるよう、使いやすい検索などの基本機能を確実に提 供することに加え、サイト上でのコーディネート提案や、モデルとタイアップした 企画の展開などを実施している。

サミットネットスーパーは、スーパーマーケットのサミットと提携し、首都圏に おけるネットスーパーサービスを提供する事業者で、2009年5 月に設立された。

同社は住友商事の子会社、住商ネットスーパー(ネットスーパー事業のインフラ提 供・運営支援を主たる業務とする)の100%子会社である。

競合の多くが、実店舗の補完的な位置付けとして、店舗型のネットスーパーを展 開しているのに対し、サミットは、専用センターにて生鮮食品を加工し、商品在庫

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を保有し、配送する、センター型のネットスーパーを展開している点が特徴的であ る。

以前は、同社も店舗型のネットスーパーを試行していた。2007年から 2年間試 行したが、店舗型の場合、そのままネットスーパーに対応可能な店舗フォーマット を持つ店舗は尐なく、物理的な制約から配達可能な受注量に限界があることが、試 行を通して明確となった。また、店舗型は注文を受けてから店頭の商品をピックア ップするため欠品も多く、販売可能な商品が店舗在庫に限定されるなど、サービス 面での制約も大きかった。従い、事業規模を拡大し、サービスレベルも向上させる ためには、センター型ネットスーパーへの移行が必要との判断がなされたという。

センター型のネットスーパーを展開するにあたり、同社は在庫リスクを低減する ため、保有するノウハウをつぎ込み、需給管理システムを開発した。店舗型ネット スーパーでは、サイト上の商品情報は、実際の(店頭の)在庫と連動していないケ ースが多いといわれるが、同社のシステムでは、実在庫と連動した情報がサイト上 に表示される。

また、同社のネットスーパーで取り扱う商品は、実店舗に出ている商品と同一の 設備、人材を活用して揃えており、実店舗と同様、もしくはそれ以上の品質の商品 が提供されている。また、実店舗では販売されていない独自商品も提供されている。

現在、注文は PC、モバイル端末(携帯電話)の双方から可能である。電話で購 入が可能な電話会員制度も設けているが、この場合、利用者はカタログ代を負担す る必要がある。また、住友商事傘下にケーブルテレビ事業者J:COMも存在するた め、将来的には本格的なケーブルテレビ連動も視野に入れているという。

ケーブルテレビ連動については既に2年前に実証実験を行ったが、現在のセット トップボックスの技術仕様では、リモコンで購入する際の操作性が十分でないなど の課題があり、次世代セットトップボックスの普及までは本格展開は見合わせてい る。

決済手段としては、クレジットカード、口座引き落とし、代引き、コンビニ支払 などを用意しているが、最も多く用いられているのはクレジットカードである。消 費者保護の観点からみると、誤配送などのトラブルへの対応が重要である。現状は、

迅速な対応が可能な体制を整備しているため、大きな問題はないという。今後は、

留置きサービスのセキュリティについて、強化する方針であるという。

ネットとリアルな店舗との相乗効果を狙うマルチチャネルの流れは、これまでネ ット販売を中心に事業を展開してきた事業者の店舗展開拡大という形でも現れて いる。ネット上で得られた情報(クチコミなど)を上手く活用し、店舗販売に活か す事業者が見受けられる。