• 検索結果がありません。

EC(デジタルコンテンツ)

2.4 事業者動向

2.4.2 EC(デジタルコンテンツ)

米国では、「Online Video」と称される映像コンテンツの利用が人気であるが、

2009 年は、景気悪化で外出を控える消費者が増加したため、さらに利用が拡大し た。ここでいう映像コンテンツとは、YouTubeのようにユーザーが作成した映像で はなく、NBC などのプロダクションが制作するテレビドラマなどのプレミアムコ ンテンツを指す。

情報通信総合研究所によると、米国における映像コンテンツの提供形態としては、

メディアビジネスとコンテンツビジネスの2種類があるという。メディアビジネス は、地上波TVのようにコンテンツそのものは無料で提供し広告主から収益を得る 仕組みである。コンテンツビジネスは、コンテンツそのものを消費者に対して直接 課金して販売する仕組みである。

米国の主なメディアビジネス事業者としては、Hulu、ZillionTVなどが存在する。

Huluは、メディアビジネス事業者として最も注目されている企業である。2007 年に、NBC UniversalとNews Corporationが共同で設立し、2008年3月にサー ビス提供が開始された。Hulu では、設立企業により提供されているテレビ番組な どのコンテンツを、インターネットブラウザーで無料視聴することができる。

Hulu の映像コンテンツサービスは、米国のインターネットユーザーから広く支 持されており、米国の調査会社comScoreによると、2009年10月時点でのHulu の視聴者数(UV数)は4,200万人を超えている。本調査で実施したヒアリングに よると、Hulu が支持される理由としては、提供される映像コンテンツの内容、画 質ともに優れていること、そして、Hulu で放映される広告の時間が一般的なもの

の 25%に留まることであるという。また、これらの魅力が、広告のクリック率増

加へも寄与しており、広告主からの評価も高いという。

本調査で実施したヒアリングによると、Hulu では、現在の収益は広告収入から 得ており、2010年1月現在、Hulu は広告主300 社と契約を結んでいる。また、

Forbes 誌によると、2009 年 10 月には、米国の最大手広告代理店 Starcom

MediaVest Groupとの間で、Huluの視聴者に向けた属性ターゲティング広告を流

す内容の契約を行った。2009年は、米国国内の映像コンテンツサービスに10億ド ルの広告費が費やされたと言われているが、TV広告予算が、インターネットにお ける映像コンテンツサービスへと大きくシフトする流れを加速させるとも言われ

139 ている。

ZillionTV は、2007 年にシリコンバレーで設立された新興企業であり、Forbes

誌などでも取り上げられるなど、今米国で注目されている事業者である。Disney

やFox、Warner Broothersなどのハリウッドのスタジオ6社から出資を受けてい

る。消費者は、インターネットに接続されたSTB(Set Top Box)を自宅にあるテ レビに接続し、映画、テレビ番組などの映像コンテンツや音楽コンテンツを無料で 利用することができる。

ZillionTV が注目される理由としては、好きな番組のジャンル、関心があるコマ

ーシャルのジャンルをあらかじめ登録することで、利用者が見たい番組を探しやす い仕組みになっていると同時に、利用者1人1人の関心の内容に合わせた広告表示 が可能な点にある。また、CMを視聴するごとにポイントが蓄積され、そのポイン トを使って買い物をすることができる。例えば、米国のスポーツ用品メーカーNike のCMを視聴して貯めたポイントは、クーポンへ交換後、NikeのECサイトで使 うことが可能になっている。

ZillionTV が注目されるもう一つの大きな理由としては、広告収入を、コンテン

ツプロバイダーだけではなくISP(Internet Service Provider)へも分配する点に ある。現在の米国のISPの大半は、競合であるケーブルテレビ事業者であり、また、

映像コンテンツはインターネットのトラフィックを占有するため ISP にとって大 きな負担になるが利益はない。このため、ZillionTV では、ISP にも収益を分配す ることで味方として取り込み、安定した経営基盤を築く戦略をとっている。

米国のコンテンツビジネス事業者としては、主に、Verizon などの通信事業者、

NetflixなどのレンタルDVD事業者、Boxeeなどの独立系事業者が存在する。

Verizonは、米国を代表する通信事業者であり、Verizon FiOS TVと呼ばれる映

像コンテンツサービスをIPTVの形態で提供している。映像コンテンツだけでなく、

様々なコミュニケーションサービスも連携して提供している点で、Verizon FiOS TVは米国で最も進んでいるサービスの一つである。

従前から映像コンテンツサービス提供を見据えてきた Verizon では、Verizon FiOSと呼ばれる光ファイバー回線を積極的に整備してきた。現在では、ニューヨ ーク州やペンシルバニア州などの大都市を中心に利用が可能となっている。2009 年12月現在、Verizon FiOS TVは国内286万世帯から利用されており、前年比で 48.9%の伸びとなった。

提供されている映像コンテンツは、多チャンネルサービスによる多様な放送番組 や、映画やドラマなどの映像がオンデマンドで配信される VOD、音楽、ゲームが 含まれる。こうしたコンテンツの多彩さやオンデマンドによる自由な使い勝手が、

140

利用者から支持されている。月額64.99ドルからプランがあり、プランにより利用 できる映像コンテンツの範囲が異なる。

DVR(Digital Video Recorder)と呼ばれる付属のデバイスをHDTVに接続して 映像コンテンツを提供している点は、Verizon FiOS TVの大きな特徴である。これ により、高画質な映像コンテンツをリアルタイムで視聴できるだけでなく、視聴で きなかった画像を録画する機能も有している。放送番組やVODコンテンツの録画、

早送り、巻き戻し、一時停止などの一連の操作が可能となっている。

また、Verizon FiOS TVでは、映像コンテンツを視聴しながら、同じ画面で別の

情報サービスを使うことの出来る、ウィジェットと呼ばれるツールも提供している。

2009年12月現在、Verizon FiOS TVで最も人気のウィジェットを紹介する。一位

はNFL RedZoneは、NFL(National Football League)の生中継時に、試合の得 点や選手情報などがリアルタイムで取得できるウィジェットである。また、二位が

Facebook、三位がTwitterとなっており、いずれもPCと同じアカウントでSNS

機能を利用できる。Twitterのウィジェットでは、「放映中の番組」というメニュー を選択すると、画面左側に放映中の番組が表示され、画面右側にはTwitterでその 番組の感想を寄せる人のコメントをリアルタイムでみることができる。

Netflixは、米国を代表するEC専業のレンタルDVD事業者であり、郵送レンタ

ルサービスと同時に、オンラインストリーミングサービスを提供している。本調査 で実施したヒアリングによると、2009年12月現在、1,230万人がNetflixの利用 登録をしている。登録者の半数以上がオンラインストリーミングサービスを利用し ており、その数は年々増加しているという。月額が 8.99 ドルで DVD のレンタル とオンラインストリーミングサービスの両方が利用出来る。

ストリーミングサービスについては、PC のブラウザー上で視聴する方法と、

Netflix対応のDVDプレーヤーやPS3やWiiなどのゲーム機をHDTVに接続して

視聴する方法があり、利用者は自宅の環境に応じて好きな方法を選ぶことが出来る。

Boxeeは、NexflixやYoutubeなどの他社から提供されている映像コンテンツを、

同一プラットフォームで視聴することの出来るアグリゲーションサイトである。

Boxeeは、2008 年に事業を開始した新興企業であり、米国内で注目されている企

業である。本調査で実施したヒアリングによると、設立当初は5,000人の利用者獲 得を目標としていたが、予想を大幅に超え、2010年1月現在、80万人の利用者が 登録しているという。

Boxee の大きな特徴は、ブラウザー上の個人用画面にて、Netflix などの他メデ

ィアから提供されているサービスが利用できるだけではなく、SNS 機能を提供す ることで、友人がどのコンテンツを利用しているかを把握することができる。また、

141

友人からのお勧めコンテンツが個人画面に表示されるようにもなっている。Boxee のサービスは、ブラウザーだけでなく、専用のSTBを介してHDTVでも視聴する ことが可能である。その際、専用のリモコンや、リモコン機能を持つiPhoneアプ リを使ってコンテンツ選択などの操作をする。

現在はまだアルファ版提供の段階であり、課金は行っていないため収益は上がっ ていない。しかし、本調査で実施したヒアリングによると、2010年中には、ペイ・

パー・ビュー方式での課金を検討しているという。その際、コンテンツ提供者へも 一定の割合で配分することを検討しているという。

米国において、デジタル音楽は広く普及しており、2009 年には、全米の音楽売 上高のうち、デジタル音楽は40%を占めるまで至った。

提供される音楽の形態は、通常の楽曲版、着メロ、またはライブビデオなど、多 様化している。また、提供端末も、PCから携帯電話、MP3まで幅広くなっている と同時に、課金モデルも、楽曲やアルバムごとに課金されるモデル、月額課金モデ ル、広告モデルなど、様々な課金モデルのタイプが浸透しつつある。

国際的な音楽業界団体 IFPI(International Federation of the Phonographic Industry)の「Digital Music Report 2010」によると、最も売上規模の大きい課金 モデルは、楽曲やアルバム単位によるダウンロード課金モデルであるという。この 場合、消費者は、iTunesやNapster、Amazon MP3の専用ソフトウェアを通じて、

楽曲をダウンロード購入する。DRMフリーとなっているため、楽曲を一度購入す ると、PCやMP3端末など、複数の端末でも利用できるようになっている。

月額課金は、月額定額料金を支払えば楽曲が聴き放題になるモデルであり、

VerizonやAT&Tなどの ISP や携帯キャリアで採用されている。音楽コンテンツ

が単体で販売されていることはなく、インターネットサービスや携帯電話の通話と セットで音楽コンテンツが利用できるようになっている。

広告モデルのデジタル音楽サービスとは、Last.fm、Pandora、Musicoveryなど、

無料で音楽が聴ける代わりに、画面に広告を表示するものである。ただし、利用で きる楽曲数や、再生回数、楽曲が自分で選べないなど、サービスに制限がある。例 えば、Musicovery では、画面左に表示されているリモコンのようなオブジェクト 上で、楽曲のジャンルやムードを選択すると、右側に関連する曲がランダムに選択 され、それぞれが連鎖して表示、再生される(図表 2.4-2)。完全にすべての楽曲 を自由に利用するためには、プレミアム会員になるなどして、別途料金を支払う必 要がある。また、再生される楽曲には、iTunesやAmazonなどへのリンクがつい ており、そのまま楽曲を購入できる仕組みになっている。